創薬研究のための
薬事と知財の連結戦略ガイド
1版
公益財団法人 がん研究会 知財戦略担当部長 内海 潤 著
定価
3,520円(本体 3,200円 +税10%)
- A5判 188頁
- 2015年11月 発行
- ISBN 978-4-525-03011-7
特許取得&薬事承認を目指す,研究マネジメントの道しるべ
創薬(特許取得・薬事承認)を目指す基礎研究者ならびに臨床研究者が,実験段階から特許申請・薬事申請までにやるべきことがわかる! 研究計画・データ解析法の策定や,論文・学会発表など,さまざまな場面の研究マネジメント法を,研究者目線で解説.産学連携の担当者にもおすすめの一冊.
- 序文
- 目次
序文
創薬は本当に難しい.現在,新薬の研究開発が成功する確率は,化合物ベースで3万分の1ともいわれる.この宝くじに当たるに等しいような仕事を,少しでも成功に近づけるための効率的な手法はないものだろうか?
もちろん,そのための努力は続けられてきており,次世代シークエンサーで疾患関連遺伝子を解析すること,治療標的分子を同定してスーパーコンピューターで構造化学的アプローチをすること,ロボットを使ったハイスループット・スクリーニングで活性化合物を探索すること,などのさまざまな最新創薬技術が駆使されている.それでも成功率が格段に上がったという話は聞かず,一方で,創薬のプロフェッショナルであるはずの大手製薬会社が開発最終段階の第Ⅲ相試験で開発を中止するケースも後を絶たない.
今後,治療薬が必要とされる疾患には,加齢や多様な要因が絡む難治性の疾患が多く,創薬の難易度は上がる一方である.そのため,今まで以上に臨床に直結した病態生物学の研究を深める必要があることから,自前主義を排したオープンイノベーションの動きが世界中で盛んになってきた.当然,携わる研究開発者個人にもそれに応じた対応が求められてきており,たとえば,臨床医が直接開発に乗り出す医師主導治験はその代表例で,アカデミアの研究者や医師が創薬の実務を担う時代になったといえる.
ところで,手続き面を改めて考えてみると,医薬品が世に出るためには国家による薬事承認が必須で,同時に事業展開のうえでは特許の取得も必須である.それゆえ,研究開発の実務としては,薬事と知財の知識と,それらの有機的な活用が成功の大きな鍵となっている.
ところが薬事と知財は,行政面でも,企業の組織でも,大学の講座や担当部署も別々であり,しかも,これまで実務者間の交流はほとんどなかったといってよい.しかし,薬事と特許の申請に用いるデータは共通する創薬研究開発の試験研究から生まれるため,研究開発の担当者または管理者が,薬事と知財の両方の視点と知識から,共通して使える研究開発データを取得すれば,効率のよい開発に寄与するはずであり,ひいては創薬の成功率を上げることも期待できる.
筆者は医薬品の研究開発者として,企業と大学で30年以上にわたって薬事と知財にかかわった経験をもつことから,この考えかたを「薬事戦略と知財戦略の連結的理解」と称して2012年ごろから大学院講義や公開セミナーで解説してきた.そうしたところ,複数の受講者から「その考えかたの解説本があったら読みたい」という要望をいただくこととなった.それが本書の誕生した契機である.たしかに,個別には薬事(もしくはレギュラトリーサイエンス)にも知財にも優れた解説書が多いものの,両者を連結的に解説した書物はなかったように思う.
本書では,創薬プロセスにおける薬事と知財(特許と同義で用いている)の連結を進める戦略的方法論を解説し,とくに創薬研究ではアカデミアの貢献が大きいことから,産学連携で活用できることを意識してまとめた.
執筆にあたっては,寺西豊氏(京都大学大学院医学研究科 特任教授),山本博一氏(元 京都大学産官学連携センター 特任教授),飯田香緒里氏(東京医科歯科大学 教授),永井純正氏(東京大学医科学研究所 講師),谷川英次郎氏(谷川国際特許事務所 所長)に大変貴重なご助言をいただいた.この場を借りて,厚くお礼を申し上げたい.
本書が,日夜多大な苦労をされている創薬研究に携わる研究者の方々と日本の創薬イノベーションに,少しでも貢献できれば,望外の喜びである.
2015年9月
公益財団法人 がん研究会 知財戦略担当部長
内海 潤
もちろん,そのための努力は続けられてきており,次世代シークエンサーで疾患関連遺伝子を解析すること,治療標的分子を同定してスーパーコンピューターで構造化学的アプローチをすること,ロボットを使ったハイスループット・スクリーニングで活性化合物を探索すること,などのさまざまな最新創薬技術が駆使されている.それでも成功率が格段に上がったという話は聞かず,一方で,創薬のプロフェッショナルであるはずの大手製薬会社が開発最終段階の第Ⅲ相試験で開発を中止するケースも後を絶たない.
今後,治療薬が必要とされる疾患には,加齢や多様な要因が絡む難治性の疾患が多く,創薬の難易度は上がる一方である.そのため,今まで以上に臨床に直結した病態生物学の研究を深める必要があることから,自前主義を排したオープンイノベーションの動きが世界中で盛んになってきた.当然,携わる研究開発者個人にもそれに応じた対応が求められてきており,たとえば,臨床医が直接開発に乗り出す医師主導治験はその代表例で,アカデミアの研究者や医師が創薬の実務を担う時代になったといえる.
ところで,手続き面を改めて考えてみると,医薬品が世に出るためには国家による薬事承認が必須で,同時に事業展開のうえでは特許の取得も必須である.それゆえ,研究開発の実務としては,薬事と知財の知識と,それらの有機的な活用が成功の大きな鍵となっている.
ところが薬事と知財は,行政面でも,企業の組織でも,大学の講座や担当部署も別々であり,しかも,これまで実務者間の交流はほとんどなかったといってよい.しかし,薬事と特許の申請に用いるデータは共通する創薬研究開発の試験研究から生まれるため,研究開発の担当者または管理者が,薬事と知財の両方の視点と知識から,共通して使える研究開発データを取得すれば,効率のよい開発に寄与するはずであり,ひいては創薬の成功率を上げることも期待できる.
筆者は医薬品の研究開発者として,企業と大学で30年以上にわたって薬事と知財にかかわった経験をもつことから,この考えかたを「薬事戦略と知財戦略の連結的理解」と称して2012年ごろから大学院講義や公開セミナーで解説してきた.そうしたところ,複数の受講者から「その考えかたの解説本があったら読みたい」という要望をいただくこととなった.それが本書の誕生した契機である.たしかに,個別には薬事(もしくはレギュラトリーサイエンス)にも知財にも優れた解説書が多いものの,両者を連結的に解説した書物はなかったように思う.
本書では,創薬プロセスにおける薬事と知財(特許と同義で用いている)の連結を進める戦略的方法論を解説し,とくに創薬研究ではアカデミアの貢献が大きいことから,産学連携で活用できることを意識してまとめた.
執筆にあたっては,寺西豊氏(京都大学大学院医学研究科 特任教授),山本博一氏(元 京都大学産官学連携センター 特任教授),飯田香緒里氏(東京医科歯科大学 教授),永井純正氏(東京大学医科学研究所 講師),谷川英次郎氏(谷川国際特許事務所 所長)に大変貴重なご助言をいただいた.この場を借りて,厚くお礼を申し上げたい.
本書が,日夜多大な苦労をされている創薬研究に携わる研究者の方々と日本の創薬イノベーションに,少しでも貢献できれば,望外の喜びである.
2015年9月
公益財団法人 がん研究会 知財戦略担当部長
内海 潤
目次
第1章 医薬品開発における薬事と知財
1-1 日本の医薬品産業の概況
医薬品市場の動向
医薬品開発の動向
1-2 日本の医薬品産業の事業モデル
医薬品開発のアウトライン
医薬品開発に必要な条件
医薬品産業の特徴
1-3 医薬品開発の経済的合理性
医薬品の研究開発にかかる費用は?
開発コストと事業戦略
制度上の開発支援
医薬品開発コストと寿命延伸効果
1-4 なぜ薬事戦略が必要なのか?
研究開発のプロセスと薬事データの取得
医薬品開発とレギュラトリーサイエンス
薬事承認を受けるために
1-5 なぜ知財戦略が必要なのか?
医薬品事業と特許の緊密な関係
医薬品の特許は高価?
1-6 国際競争下の医薬品開発
特許からみた日本の医薬品事業の国際競争力は?
特許は医薬品事業の守りの要
臨床ニーズから生む創薬特許
第2章 薬事戦略と知財戦略の連結的理解
2-1 薬事戦略と知財戦略の連結マネジメント
薬事戦略と知財戦略の関係
アカデミア創薬に必須の6本の柱
薬事戦略と知財戦略の支援機関
2-2 薬事戦略と知財戦略の連結による研究開発の基本戦略
医薬品研究開発の各ステージで行うべきことを整理する
「医薬品=物質+情報」
医薬品の添付文書からみる開発プロセス
2-3 薬事データと知財データの連結的関係
申請書類からみる薬事と特許
薬事審査と特許審査
2-4 世界の動向からみた薬事戦略と知財戦略の連結性
日本の薬事法改正
日本医療研究開発機構(AMED)の発足
欧米における研究開発推進
第3章 薬事戦略と知財戦略の連結的対応
3-1 知財戦略マネジメントの実務
基礎研究段階の知財戦略
開発段階の知財戦略
特許保護の対象となるものは?
特許出願の前に十分な調査と実施例を!
知財戦略を加味した研究計画
製品化のための製剤特許
解析技術の進展による知財戦略の留意点
3-2 新医薬品の保護期間と関連技術
保護期間の延長
個別化医療と知財戦略
3-3 薬事戦略マネジメントの実務
創薬標的分子の選定
製造・品質規格の検討
非臨床試験
臨床試験(治験)
薬事承認申請
製造承認・販売
3-4 医薬品の薬事承認要件
薬事承認されるためには
個別化医療と薬事戦略
3-5 薬事戦略と知財戦略の連結による研究開発の留意点
第4章 アカデミアにおける創薬研究と産学連携
4-1 アカデミアの創薬への貢献
医療分野の特許と学術研究
米国におけるアカデミア創薬の成功
4-2 産学連携によるアカデミア創薬への期待
創薬における産学連携の意義
製薬企業がアカデミアに求める役割
産学連携における世界の動き
産学連携でアカデミアが目指すべきもの
ドラッグ・リポジショニング
4-3 アカデミアにおける薬事戦略の留意点
アカデミア創薬でまず考えるべきこと
アカデミア創薬に求められる薬事戦略
4-4 アカデミアにおける知財戦略の留意点
使われる“かもしれない”特許
特許の作成プロセス
使える特許にするための条件
研究の初期から始める知財戦略
「研究を守る」ための特許か「研究を活かす」ための特許か
特許出願時に気をつけるべきこと
4-5 アカデミア創薬と産学連携マネジメント
産学連携マネジメントの理想形を求めて
日本の産学官連携の取り組み
第5章 創薬成功事例に学ぶ薬事戦略と知財戦略
5-1 薬事戦略と知財戦略の連結性の解析法
薬事戦略情報の調査法
知財戦略情報の調査法
薬事戦略と知財戦略の連結性解析
創薬成功事例の解析
5-2 ナルフラフィンの創薬事例
開発の背景
候補化合物の同定と最適化
臨床試験の経過と開発方針の転換
開発目標の再設定
適応症変更後の臨床試験
ナルフラフィンの開発から読み取る知財戦略と薬事戦略
5-3 フィンゴリモドの創薬事例
開発の背景
候補化合物の探索と最適化
フィンゴリモドによる新規免疫制御機序の発見
評価系の工夫がもたらしたセレンディピティ
臨床試験の経過と開発方針の転換
適応症の変更と臨床試験
フィンゴリモドの開発から読み取る知財戦略と薬事戦略
5-4 創薬の成功事例からの考察
薬事申請を見すえた対象疾患と評価系の選定を行う
医薬品化を目指すならば製剤開発にも注力を
成功事例が伝える現場主義と科学への貢献
日本語索引
外国語索引
コラム
・3万分の1と4.1%
・依りどころは科学的エビデンス
・創薬によって世界へ貢献する国
・「科学と技術」,「発見と発明」,「実用化と事業化」
・「薬になればよい」と「承認をとる」
・PMDAの特色
・JPO,USPTO,EPO,WIPO
・「面白い研究」と「薬にしたい研究」
・創薬・製薬・育薬
・「研究所-知財部-薬事部」の関係
・特許は活用されてこそ面白い
・産学連携における大学院生の貢献
・バーチ・バイ議員とロバート・ドール議員
・大学知財部が大学発明をダメにする?
・目利き,腕利き,口利き
・「教える能力」と「教わる能力」
・薬事に関する大学研究者の3つのFAQ
・知財に関する大学研究者の3つのFAQ
・創薬に向けたマインドセット
・研究達成よりも難しいこと
・「深は新」,「真は進」
・イノベーションを生む人
1-1 日本の医薬品産業の概況
医薬品市場の動向
医薬品開発の動向
1-2 日本の医薬品産業の事業モデル
医薬品開発のアウトライン
医薬品開発に必要な条件
医薬品産業の特徴
1-3 医薬品開発の経済的合理性
医薬品の研究開発にかかる費用は?
開発コストと事業戦略
制度上の開発支援
医薬品開発コストと寿命延伸効果
1-4 なぜ薬事戦略が必要なのか?
研究開発のプロセスと薬事データの取得
医薬品開発とレギュラトリーサイエンス
薬事承認を受けるために
1-5 なぜ知財戦略が必要なのか?
医薬品事業と特許の緊密な関係
医薬品の特許は高価?
1-6 国際競争下の医薬品開発
特許からみた日本の医薬品事業の国際競争力は?
特許は医薬品事業の守りの要
臨床ニーズから生む創薬特許
第2章 薬事戦略と知財戦略の連結的理解
2-1 薬事戦略と知財戦略の連結マネジメント
薬事戦略と知財戦略の関係
アカデミア創薬に必須の6本の柱
薬事戦略と知財戦略の支援機関
2-2 薬事戦略と知財戦略の連結による研究開発の基本戦略
医薬品研究開発の各ステージで行うべきことを整理する
「医薬品=物質+情報」
医薬品の添付文書からみる開発プロセス
2-3 薬事データと知財データの連結的関係
申請書類からみる薬事と特許
薬事審査と特許審査
2-4 世界の動向からみた薬事戦略と知財戦略の連結性
日本の薬事法改正
日本医療研究開発機構(AMED)の発足
欧米における研究開発推進
第3章 薬事戦略と知財戦略の連結的対応
3-1 知財戦略マネジメントの実務
基礎研究段階の知財戦略
開発段階の知財戦略
特許保護の対象となるものは?
特許出願の前に十分な調査と実施例を!
知財戦略を加味した研究計画
製品化のための製剤特許
解析技術の進展による知財戦略の留意点
3-2 新医薬品の保護期間と関連技術
保護期間の延長
個別化医療と知財戦略
3-3 薬事戦略マネジメントの実務
創薬標的分子の選定
製造・品質規格の検討
非臨床試験
臨床試験(治験)
薬事承認申請
製造承認・販売
3-4 医薬品の薬事承認要件
薬事承認されるためには
個別化医療と薬事戦略
3-5 薬事戦略と知財戦略の連結による研究開発の留意点
第4章 アカデミアにおける創薬研究と産学連携
4-1 アカデミアの創薬への貢献
医療分野の特許と学術研究
米国におけるアカデミア創薬の成功
4-2 産学連携によるアカデミア創薬への期待
創薬における産学連携の意義
製薬企業がアカデミアに求める役割
産学連携における世界の動き
産学連携でアカデミアが目指すべきもの
ドラッグ・リポジショニング
4-3 アカデミアにおける薬事戦略の留意点
アカデミア創薬でまず考えるべきこと
アカデミア創薬に求められる薬事戦略
4-4 アカデミアにおける知財戦略の留意点
使われる“かもしれない”特許
特許の作成プロセス
使える特許にするための条件
研究の初期から始める知財戦略
「研究を守る」ための特許か「研究を活かす」ための特許か
特許出願時に気をつけるべきこと
4-5 アカデミア創薬と産学連携マネジメント
産学連携マネジメントの理想形を求めて
日本の産学官連携の取り組み
第5章 創薬成功事例に学ぶ薬事戦略と知財戦略
5-1 薬事戦略と知財戦略の連結性の解析法
薬事戦略情報の調査法
知財戦略情報の調査法
薬事戦略と知財戦略の連結性解析
創薬成功事例の解析
5-2 ナルフラフィンの創薬事例
開発の背景
候補化合物の同定と最適化
臨床試験の経過と開発方針の転換
開発目標の再設定
適応症変更後の臨床試験
ナルフラフィンの開発から読み取る知財戦略と薬事戦略
5-3 フィンゴリモドの創薬事例
開発の背景
候補化合物の探索と最適化
フィンゴリモドによる新規免疫制御機序の発見
評価系の工夫がもたらしたセレンディピティ
臨床試験の経過と開発方針の転換
適応症の変更と臨床試験
フィンゴリモドの開発から読み取る知財戦略と薬事戦略
5-4 創薬の成功事例からの考察
薬事申請を見すえた対象疾患と評価系の選定を行う
医薬品化を目指すならば製剤開発にも注力を
成功事例が伝える現場主義と科学への貢献
日本語索引
外国語索引
コラム
・3万分の1と4.1%
・依りどころは科学的エビデンス
・創薬によって世界へ貢献する国
・「科学と技術」,「発見と発明」,「実用化と事業化」
・「薬になればよい」と「承認をとる」
・PMDAの特色
・JPO,USPTO,EPO,WIPO
・「面白い研究」と「薬にしたい研究」
・創薬・製薬・育薬
・「研究所-知財部-薬事部」の関係
・特許は活用されてこそ面白い
・産学連携における大学院生の貢献
・バーチ・バイ議員とロバート・ドール議員
・大学知財部が大学発明をダメにする?
・目利き,腕利き,口利き
・「教える能力」と「教わる能力」
・薬事に関する大学研究者の3つのFAQ
・知財に関する大学研究者の3つのFAQ
・創薬に向けたマインドセット
・研究達成よりも難しいこと
・「深は新」,「真は進」
・イノベーションを生む人