書籍カテゴリー:医学教育学

The 臨床推論 研修医よ,診断のプロをめざそう!
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The 臨床推論 研修医よ,診断のプロをめざそう!

1版

  • 東京大学医学教育国際協力研究センター講師 大西弘高 編

定価:3,240円(本体3,000円+税8%)

  • A5判 244頁
  • 2012年8月 発行
  • ISBN978-4-525-04021-5

概要

“できる”医師になるためには臨床推論(鑑別診断,治療法の選択,予後予測)を的確かつ迅速に行うことが重要である.本書では,達人と呼ばれる指導医の臨床推論の事例を紹介しながら,専門領域による臨床推論の特徴にも触れ,効率的な臨床推論の進め方や学習方法を解説している.具体的な臨床推論のプロセスを学びたい医学生,研修医の必読書.

序文

 私が,臨床推論の領域に関心を持ったのは,自分自身の育った環境の影響でしょう.学生時代,出身地に近い奈良県南部のいわゆる無医村などで働くことを夢見ていました.1980年代後半に,家庭医というキャリアについて,厚生省(当時)がさまざまなアナウンスをしていたことも影響したと思います.総合病棟などの斬新なシステムを用い,領域を限定しない形で学べる天理よろづ相談所病院で,初期および内科領域の研修を受け,診断推論に関して厳しい指導を受けました.また,佐賀医科大学附属病院総合診療部(当時)に移ったときは,総合診療がEBM(evidence-based medicine)の急激な広まりなどによって注目された時期でした.この頃から,私は徐々に地域医療や家庭医療,そして医学教育に関心を移し,当時広がりつつあったPBL(problem-based learning)とも関連した診断推論が,今後の医学教育の改善に不可欠だと思いはじめました.一定の割合の医師が総合医として地域で働くための研修制度が必要で,「最低限の検査機器しかないような現場で,最大限患者の問題を正しく判断する」ことについて考え続けてきました.同時に,大病院の総合診療医,さらに各科の専門医との関係をどう構築し,医学教育に活かしていくかという点も気にかけてきました.
 医師として8年目の1999年春,佐賀医科大学の大学院に移り,臨床推論教育を研究テーマに選んだ時点で,小泉俊三 教授からイリノイ大学のArthur Elstein教授を紹介されました.臨床推論に関して1970年頃から研究してきた第一人者だから会って話を聞いてくるといいと.直接話してみて驚いたのは,Elstein教授が医師ではないということでした.認知心理学者としてずっと研究に関わってこられたのです.よって,「同じ患者を診ても,ある医師は膠原病っぽいと判断し,別の医師は判断できない.なぜ,そういう違いが出るのか」という質問をしても,「その質問は,医師にしか答えられないから,自分で研究してみろ」という素っ気ない答えでした.しかし,逆に研究者として明快な答えをくれたElstein教授のことが好きになり,結局留学することになったのでした.
 2年間大学院で学びましたが,結局広い領域の研究を概観することも十分にならないまま,卒業研究を仕上げ,帰国の途につきました.そして改めて理解したのは,研究者と臨床家との溝の深さでした.日本では,臨床推論を認知心理学の方面から研究した人は私の他にいません.しかし,海外の研究者は認知心理学的な細かな議論を続けています.また,海外の臨床家も日本と同様,研究者たちの知見を上手く現場に活かすことが難しいと言っていました.歴史的にみると,1970年代は臨床推論黎明期,1980年代はプロセス研究(仮説演繹法かパターン認識か),1990年代は記憶構造(プロトタイプ,スクリプト,事例など),そして2000年以降,ようやく現場と関連づけるトランスレーショナルリサーチが華を咲かせたというような感じでしょうか.
 本書は,臨床推論に関して,さまざまな書籍,論文などで論じてきた国内の専門家たちを巻き込み,これまでの研究知見と臨床現場での経験知とを融合させて,体系化しようという唯一の書籍です.それゆえ,類書のような取っつきやすさ,マニュアルのような見栄えはありませんが,どのようにすれば,臨床推論を伸ばすことができるのかというヒントに満ちあふれている書籍になったと自負しています.
 特に第2章では,それぞれの診療現場において,どのように臨床推論の枠組みが異なるのかについて概括してもらいました.たとえば,総合医が働く現場を想定したとしても,大病院総合外来,救急外来,総合内科病棟,一般診療所のそれぞれで考え方はかなり違ってきます.そのような側面に踏み込むことで,医学生や研修医の学習法,指導法についても,より深く考えていただけるのではないかと思います.そして,本書が医学教育の改善,総合医の育成に少しでも役立つことを願っています.
 最後になりましたが,南山堂の渋田百日紅様,秋山孝子様には,構想段階からさまざまな形でのサポートをいただき,ようやくこの書籍を世に出せるに至りました.改めてここに深謝いたします.

2012年6月吉日
紫陽花が満開となったキャンパスにて
大西 弘高

目次

第1章 臨床推論-学び方編

1. 臨床推論とは
  用語や概念の整理
  臨床推論の実例
  臨床推論のプロセスと関連概念
2. 診断仮説から絞り込むための考え方
  直感的診断
  推論による診断(狭義の診断推論)
  診断仮説から絞り込むための考え方,情報の集め方
  ベテラン臨床医が実際に臨床現場でやっている診断推論
  〜病歴と身体所見でどこまで絞れるか〜
3. 症例プレゼンテーションの新しい型
  Diagnostic presentation
  Time course illness script analysis
4. 外来での臨床推論の学び方
  問題の所在
  佐賀大学医学部の臨床実習前カリキュラムと臨床推論
  佐賀大学医学部附属病院「総合診療部実習」
  診療所,地域基幹病院での「地域医療実習」
5. 病棟での臨床推論の学び方
  名古屋大学医学部附属病院総合診療科の病棟診療体制
  総合プロブレム方式とは
  それぞれの診療過程における研修医の学び
6. NEJMの教材を用いた臨床推論の勉強会
  診断における客観主義
  NEJMのClinical Problem-Solving (CPS)
  NEJMのInteractive Medical Case (IMC)
7. PBLにおける臨床推論の学習
  PBLの概要
  PBL症例シナリオの提示方法
  症例シナリオの一例
  テューターの役割
8. TBLにおける臨床推論の学習
  TBLはどういう学習法略か
  PBLにおける推論の特徴
  TBLにおける推論の訓練

第2章 臨床推論-診療現場編

1. 大病院総合外来:どう方向づけているか
2. 総合救急科:診断と治療の優先順位
3. 総合内科病棟:診断が難しい場合の対応
4. 一般診療所:common disease/common problemとそれ以外の対応
5. 小児科外来:子どもは小さな大人じゃない
6. 神経内科外来:病歴によるアタリのつけ方
7. 整形外科外来:よくある主訴への対応
8. 皮膚科外来:どこをポイントに病変を診るか
9. 精神科外来:マネジメントを見越した臨床推論

第3章 臨床推論-理論編

1. 臨床推論能力の理論基盤
  臨床推論と短期記憶
  臨床推論能力と領域特異性
  臨床推論能力と長期記憶構造
  問題の捉え方
  臨床推論能力と情報収集プロセス
  診断過誤と推論プロセスの再考
2. EBMと臨床推論の関係
  仮説演繹法とは
  仮説演繹法を数学的に考えると…
  心理的近道(ヒューリスティックス)の利点と落とし穴
  事前確率の無視,ないし軽視による誤り
  事後確率は何%が必要か?
3. 臨床現場における臨床推論指導のポイント
  教育回診・カンファレンスにおける症例プレゼンテーション
  臨床推論とEBM
  検査の適応
4. 偉大なる内科医の実践
  臨床推論の能力獲得に必要な要素
  臨床推論の基本
  他者を尊重する
  パール (clinical pearl) について
  よくある質問
5. 臨床推論の教育
  臨床推論のモデル
  評価方法の歴史から学ぶ,臨床推論の学習
  学習方法のあり方
6. 1分間指導法:5つのマイクロスキル
  1分間指導法のねらいと臨床教育のシフトチェンジ
  フィードバック実施の困難性とその対策
  フィードバックの一般的原則
  1分間指導法:5つのマイクロスキルの実際
7. 症例プレゼンテーションと臨床推論
  プレゼンの目的
  プレゼンの例
  プレゼンを用いた指導におけるポイント

■ 索 引