書籍カテゴリー:分子生物学

人類遺伝学ノート
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人類遺伝学ノート
ゲノム医学・疾患遺伝子探索研究の基礎

1版

  • 東京大学大学院医学系研究科 教授 徳永勝士 編

定価:3,888円(本体3,600円+税8%)

  • B5判 115頁
  • 2007年3月 発行
  • ISBN978-4-525-05041-2

概要

ゲノム塩基配列決定後,さまざまな疾患などの形質にかかわる遺伝子の探索研究が続けられているが,それらの研究の基礎となる原理や手法,代表的な研究成果などを取上げわかりやすく解説した新しい人類遺伝学のコンパクトな専門テキスト.古典的な遺伝学や人類遺伝学の重要な概念から,統計遺伝学,ゲノム情報学などの研究者が得たデータを活用するための各理論,さらに倫理指針までを要点をとらえてわかりやすく解説.

序文

2003年4月,生命科学の研究史上画期的な巨大国際共同研究プロジェクトであったヒトゲノム塩基配列の解読完了が宣言された.それでは,この成果が医療や人々の健康に直ちに役立ったのであろうか.
その答えは2007年現在においても,まだ否である.決定されたゲノム塩基配列はいわば標準配列のみであり,ヒトゲノム中にどのくらい個人差や多様性が存在し,そのうちのどれが何の疾患に関わるのかは教えてくれない.しかし,このような情報がなければ日常の診療における検査の対象とはならないし,新しい治療法や予防法の発展にもつながらない.それらを知るための研究が,ポストゲノム研究の一つとして活発に行われている.
そのようななか,さまざまな疾患などの形質に関わる遺伝子の探索研究の成果を記述する総説集は多く刊行されているが,研究の基礎となる原理や手法,そして観察事実などを詳しく解説する教科書は数少ない.本書はそのような状況を少しでも補いたいという願いを込めて執筆したものである.「遺伝学」や「人類遺伝学」を学ぶ学生をはじめ,疾患遺伝子研究の基礎に関心をもつ多くの生命科学研究者にも読んでいただければ幸いである.
近年の分子生物学,ゲノム科学の発展には目をみはるものがあるが,それらがしばしば遺伝子研究を伴うために,ともすると「遺伝学」や「人類遺伝学」を包括するかのように誤解される傾向を危惧するのは筆者だけであろうか.
「人類遺伝学」は生命現象の根幹である「遺伝」への理解を土台とし,さまざまな分野の成果やノウハウを取り入れてヒトの特性を把握し,疾患などの形質に関わる遺伝子とその機能を解明することによって,人々の健康や幸福に貢献しようとする学問領域である.本書を通して「人類遺伝学」を理解していくことの重要性が読者に伝われば望外の喜びである.
本書の執筆に協力いただいた多くの方々への感謝の意を表したい.特に,筆者の同僚である人類遺伝学教室助手の大橋順博士には第3章「統計遺伝学」について,産業技術総合研究所生命情報解析研究センター統合データベース解析チームチームリーダー今西規博士には第5章「ゲノム情報学」について,多大な執筆協力をいただいた.人類遺伝学教室大学院博士課程3年生の小見和也君には原稿を一読してもらい,さまざまな疑問点やコメントをいただいた.原稿の執筆予定が大幅に遅れるなか,南山堂編集部のスタッフの忍耐強い御配慮がなければ本書は世に現れなかった.最後に,年々つのる忙しさに耐えかね執筆を断念しかかった私を,暖かく支援してくれた妻のひかりに深く感謝する.

2007年1月  東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学分野 徳永 勝士

目次

序 章  新しい人類遺伝学を理解するために    徳永勝士

第1章  人類遺伝学入門    徳永勝士
 1−1  ヒトのゲノム
 1−2  遺伝学の基礎
 1−3  さまざまな遺伝性疾患
   1.単一遺伝子疾患(遺伝病)
   2.常染色体性優性遺伝病
   3.常染色体性劣性遺伝病
   4.伴性遺伝病
   5.X連鎖劣性遺伝病
   6.X連鎖優性遺伝病
   7.Y連鎖遺伝病
   8.遺伝と環境の相互作用により発症する疾患(多因子疾患)
   9.染色体異常
   10.ミトコンドリア遺伝病
   11.体細胞遺伝子疾患
   12.後成的疾患


第2章  ゲノム変異・多型とその解析法    徳永勝士
 2−1  変異と多型
   1.遺伝子・ゲノムにみられる変異と多型
   2.染色体異常と染色体構造多型
   3.ゲノム領域の変異・多型
   4.塩基配列にみられる変異・多型

 2−2  さまざまな遺伝標識
   1.マイクロサテライト多型の特徴と有用性
   2.SNPの特徴と有用性

 2−3  変異・多型の解析技術
   1.大規模ゲノム領域の解析技術
   2.マイクロサテライト多型の解析技術
   3.SNP解析技術
   4.全ゲノム増幅技術


第3章  統計遺伝学    大橋 順 徳永勝士
 3−1  遺伝子探索の統計遺伝学的方法
   1.単一遺伝子疾患(形質)と多因子疾患(形質)
   2.単一遺伝子疾患(形質)の統計遺伝学的分析
   3.多因子疾患(形質)の統計遺伝学的分析
   4.感受性遺伝子の特定手段

 3−2  連鎖分析法
   1.連鎖
   2.交差と遺伝的組換え
   3.連鎖分析
    i)パラメトリック連鎖分析
    ii)ノンパラメトリック連鎖分析(罹患同胞対法)

 3−3 関連分析法
   1.多因子疾患と関連分析
   2.候補遺伝子アプローチ
   3.関連分析
    i)ケースーコントロール関連分析
    ii)伝達不平衡検定(TDT法)
    iii)同胞対伝達不平衡検定(S-TDT法)
    iv)連鎖不平衡検定
    v)関連分析の問題点

 3−4 相互作用の分析法
   1.遺伝子間相互作用
   2.遺伝子間相互作用モデル
   3.相互作用の解析方法
   4.ケースーコントロール関連分析における検出力


第4章  疾患遺伝子と集団遺伝学    徳永勝士
 4−1 集団遺伝学の基礎
   1.ハーディー・ワインベルク平衡
   2.遺伝子頻度を変化させる要因

 4−2 連鎖不平衡,ハプロタイプと疾患遺伝子の探索
   1.ハプロタイプと連鎖不平衡
   2.連鎖不平衡の要因
   3.連鎖不平衡と疾患関連分析法

 4−3 人類集団の遺伝的近縁性
   1.遺伝的近縁性の分析法
   2.対立遺伝子頻度に基づく遺伝的近縁性の分析
   3.ハプロタイプ分布から推定する先祖集団の移住ルート
   4.日本人の起源と形成モデル

 4−4 疾患遺伝子の歴史


第5章  ゲノム情報学    今西 規 徳永勝士
 5−1 さまざまなデータベース     82
   1.ヒトゲノム情報のデータベース:EnsEMBL, UCSC Genome Browser
    i)EnsEMBL
    ii)UCSC Genome Browser
   2.ヒト遺伝子カタログ:H-Invitational Database
   3.多型マーカー情報のデータベース:dbSNP, HapMapなど
    i)dbSNP
    ii)HapMap
    iii)マイクロサテライト多型
    iv)より大規模なヒトゲノムの構造多型
   4.データベースのデータベース

 5−2 疾患遺伝子探索への活用
   1.ヒト疾患データベース:OMIM
   2.文献データベース:PubMed, MeSH
   3.疾患研究に向けての統合的アプローチ


第6章  ゲノム医学の進展    徳永勝士
 6−1 ポストシークエンス時代の到来
 6−2 個の医療の実現に向けて
 6−3 新しい予防医学
 6−4 バイオメディカルインフォマティクスの課題


付 録  遺伝子解析研究の倫理


コラム一覧
   1.創始者効果
   2.なぜパラメトリック連鎖分析では,Lodスコア3以上を連鎖の証拠とみなすのか?
   3.罹患同胞対法の理論
   4.仮説検定とは?
   5.割合の差の検定
   6.分子進化
   7.配列レベルからみるABO式血液型遺伝子の多型


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