書籍カテゴリー:分子医学

癌と血管新生の分子生物学
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The Frontiers in Medical Sciencesシリーズ
癌と血管新生の分子生物学

1版

  • 東京大学医科学研究所 教授 澁谷 正史 編

定価:6,264円(本体5,800円+税8%)

  • B5判 190頁
  • 2006年10月 発行
  • ISBN978-4-525-13081-7
  • ISBN4-525-13081-4

概要

癌と血管新生は国内で癌研究の領域で進展が予想されるテーマの一つである.抗血管内皮増殖因子抗体であるベバシズマブ(アバスチン)が2004年春に海外で承認され,国内でも承認の方向で現在検討中である.癌の病態のなかでも浸潤と転移に大きくかかわる血管新生の分子メカニズムから臨床応用についてわかりやすく解説する.

序文

癌における多数の遺伝子変化から,“癌は遺伝子の病気”であることはほぼ確立したといえる.しかし,癌を取り巻く宿主側の環境(間質)とその癌の進展における役割は,まだ十分解明されていないのが現状である.間質の中でも非常に重要なものは,血管とリンパ管の新生と考えられるが,この約10年の間にそれらを制御する分子に関する研究が著しく進展してきた.
血管系の新生・維持,およびその退縮にはさまざまな因子が関与する.なかでも血管新生因子VEGFは,胎生早期から血管系の発生に必須であり,また癌の増殖・転移・腹水貯留にかかわる病的血管新生でも中心的役割を果たすことが明らかとなった.また,VEGFファミリーのVEGF-C, VEGF-Dとその受容体は癌のリンパ節転移にきわめて重要であることも示された.VEGFに加えて,アンジオポエチン,血小板由来増殖因子PDGF,エフリン系なども,血管平滑筋細胞の増殖分化や内皮細胞の動・静脈分化に重要な役割を果たし,ダイナミックで複雑な血管系の構築を制御している.一方,体内には内因性血管抑制因子も存在する.
これらの世界的な血管研究を背景にして開発された抗VEGF中和抗体は,米国での臨床試験で非常に有用であることが示され,進行大腸癌の新しい治療薬として臨床に登場するに至っている.さらに低分子量のVEGF受容体阻害剤も腎臓癌の治療薬として認められた.これらのことは,進行癌に対して,癌細胞自身を標的とする放射線治療,化学物質による制癌剤治療の二つに加えて,全く新しい治療分野である“血管標的療法”が登場したことを意味しており,まさに癌治療の新しい時代が開かれつつあるといっても過言でない.
この新しい治療法は,“血管・リンパ管標的療法”として発展させることは非常に重要であるが,その感受性の範囲や,癌細胞側の抵抗性獲得の機構とその対策,また,これらの背景にある血管制御の複雑な分子機構解明など,多くの研究課題が残されている.
そこで,本書では,諸問題について理解を深めるために,各領域で先端的研究を進めておられる先生方に血管やリンパ管,間質細胞研究の現状と,将来の展望について,ご執筆をお願いした.幸い,研究と臨床にご多忙中にもかかわらずご快諾いただき,本書を完成させることができたことを,深く感謝申し上げたい.わが国において,今後,血管・リンパ管領域の基礎研究・臨床研究を担っていく第一線研究者に,本書が何らかの参考になれば,大きな幸せである.


2006年8月


東京大学医科学研究所 腫瘍抑制分野

渋谷正史


目次

第I部 概論

第1章
癌と血管の密接な関わり ―― 癌の血管新生阻害療法へ向けて ――    渋谷正史
1-1 はじめに
1-2 胎生期における血管系・リンパ管の形成
1-3 癌における病的血管“腫瘍血管”の特徴
1-4 血管新生の促進因子
1-5 血管新生の抑制因子
1-6 インテグリン系とシェアストレス: 細胞骨格系を介する重要な血管制御系
1-7 おわりに

第II部 血管新生の分子機構
第2章 血管とリンパ管の発生    山下 潤
2-1 はじめに
2-2 血管の発生過程
2-3 血管内皮細胞の起源と分化
2-4 血管内皮の多様化−−動静脈リンパ管分化
2-5 壁細胞(血管平滑筋細胞・ペリサイト)の起源
2-6 血管と周囲組織との相互連関
2-7 おわりに

第3章 VEGFとその受容体による血管新生・透過性亢進の機構    渋谷正史
3-1 はじめに
3-2 VEGFファミリーの構造と性質
3-3 VEGF受容体(Fltチロシンキナーゼ群)
3-4 VEGF系による血管透過性の分子機構
3-5 VEGFとVEGF受容体に関する最近の話題
3-6 VEGF-VEGFRシステムに対する低分子阻害剤の開発
3-7 おわりに

第4章 アンジオポエチン- Tie2システムによる血管新生の制御    高倉伸幸
4-1 はじめに
4-2 血管新生
4-3 アンジオポエチンとTie2受容体
4-4 おわりに

第5章 アンジオポエチン様因子と病態    羽藤 泰 森定 徹 尾池雄一
5-1 はじめに
5-2 Angptl1/ARP1/Angioarrestin
5-3 Angptl2/ARP2
5-4 Angptl3
5-5 Angptl4/PGAR/FIAF/HFARP
5-6 Angptl6/ARP5/AGF
5-7 まとめ

第III部 癌組織と血管,イメージング
第6章 血管新生におけるマクロファージ系細胞の関与    小野眞弓
6-1 はじめに―炎症と癌進展
6-2 マクロファージ系細胞と血管新生
6-3 まとめと展望

第7章 腫瘍間質の炎症性メディエーターシグナル伝達と血管新生    馬嶋正隆
7-1 腫瘍微小環境を形成するストローマ(間質)組織
7-2 腫瘍ストローマ組織をミミックするスポンジ皮下移植モデルにおける炎症性シグナル伝達の血管新生増強作用
7-3 ストローマ組織における炎症性シグナル伝達の腫瘍血管新生増強作用
7-4 知覚神経を介する血管新生増強作用の解析
7-5 ストローマ構成細胞の集族を制御する因子と治療標的としての意義
7-6 おわりに

第8章. 生体顕微鏡イメージングによる腫瘍血管,リンパ管動態の検討
福村 大 泉 陽太郎 Rakesh K. Jain
8-1 はじめに
8-2 生体顕微鏡イメージングとは
8-3 腫瘍血管,リンパ管の特徴
8-4 宿主-腫瘍相互反応による腫瘍血管新生コントロール
8-5 生体顕微鏡イメージングによる治療効果,メカニズムの解明
8-6 今後の展開

第IV部 浸潤と転移
第9章 MMPの活性化機構と血管新生・転移    梁 幾勇,清木元治
9-1 MMPとは
9-2 MMPの活性化
9-3 血管新生系に生理学的活性をもつECM断片とMMPの関連性
9-4 血管新生におけるMT1-MMP,MMP-2,MMP-9の重要性
9-5 MT-MMP制御に向けたプロエンザイム変換酵素(PC)阻害の試み
9-6 おわりに

第10章 リンパ管新生とリンパ節転移    門川佳央 久保 肇
10-1 はじめに
10-2 リンパ管新生の分子機構
10-3 リンパ管新生と癌リンパ節転移
10-4 抗リンパ管新生療法
10-5 ケモカインと癌リンパ節転移
10-6 今後の展望

第11章 VEGF受容体1を介する癌転移の促進    平塚佐千枝 丸 義朗 渋谷正史
11-1 はじめに   11-2 VEGFR-1の構造
11-3 VEGFR-1の役割   11-4 おわりに

第12章 癌転移モデル動物による検討    平川聡史 Kant M. Matsuda Michael Detmar
12-1 はじめに
12-2 転移プロセス
12-3 マウスを用いた腫瘍転移モデル
12-4 転移初期プロセスへのアプローチ
12-5 GFPを用いた観察法
12-6 血行性転移からリンパ行性転移のモデルへ
12-7 リンパ節転移とその抑制効果を評価するモデル
12-8 VEGF-Aによるリンパ管新生とリンパ節転移の可能性
12-9 今後の展望

第V部 治療――抗血管新生物質および抗血管療法
第13章 抗VEGF中和抗体と固形癌の治療    有賀智之 戸井雅和   13-1 血管新生とVEGFの歴史
13-2 ベバシズマブ(アバスチンAvastin TM)について
13-3 ベバシズマブの臨床応用
13-4 毒性について
13-5 わが国の動向
13-6 今後の課題

第14章 新規内因性血管制御因子 Vasohibin    佐藤靖史
14-1 はじめに
14-2 血管新生の抑制因子
14-3 血管新生のネガティブフィードバック調節因子Vasohibin
14-4 抗血管新生療法と血管新生のバイオマーカー
14-5 おわりに

第15章 低分子血管新生阻害剤開発の現状    中村一英
15-1 はじめに −VEGF中和抗体の成功と次世代医薬品の開発−
15-2 VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤の血管新生阻害作用 ―作用機序と抗腫瘍効果―
15-3 VEGF受容体に選択的な阻害剤 vs. 複数キナーゼを標的とする阻害剤
15-4 開発中のVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤
15-5 今後の展望

第16章 肺癌における血管新生と抗血管療法の現状    矢野聖二 曽根三郎
16-1 はじめに
16-2 肺癌の予後因子としての血管新生
16-3 肺癌の転移と血管新生
16-4 癌性胸水と血管新生因子
16-5 血管新生阻害療法とその特徴
16-6 おわりに

第17章 腫瘍血管免疫療法の試み     角田卓也 田原秀晃
17-1 腫瘍血管免疫療法の背景
17-2 ペプチドを用いた癌ワクチン療法の問題点
17-3 腫瘍新生血管を標的とした新規癌ワクチン療法
17-4 基盤展開研究(トランスレーショナルリサーチ)
17-5 おわりに

和文索引
欧文索引