書籍カテゴリー:分子医学

神経変性疾患のサイエンス
立ち読み

在庫状況:在庫あり

The Frontiers in Medical Sciencesシリーズ
神経変性疾患のサイエンス

1版

  • 京都大学大学院医学研究科 教授 高橋 良輔 編

定価:5,832円(本体5,400円+税8%)

  • B5判 251頁
  • 2007年12月 発行
  • ISBN978-4-525-13091-6

概要

神経変性疾患の発症の分子機構が多面的に明らかにされ,神経細胞で病因となる構造異常タンパク質の蓄積により神経変性・細胞死が生じるというとらえ方が共通認識となってきた.これらの現象を鍵として,分子標的治療を視野に入れた臨床応用の飛躍へつながることが期待されている.基礎ならびに臨床研究者が,近年新たな広がりをみせてきた本分野の各研究領域の最新の知見とこれまでの研究の流れの背景をわかりやすく解説.

序文

 神経変性疾患という言葉にはかつて近寄りがたい難病というイメージがあった.私が医学部を卒業した4半世紀前の神経内科の教科書に登場するアルツハイマー病,筋萎縮性側索硬化症(ALS),脊髄小脳変性症(SCD)といった変性疾患の説明には臨床症状,病理所見の詳細な記載はあっても,発症メカニズム,治療に関してはエビデンスに基づく知見はほとんど述べられていなかったといってよい.また神経病理学者を除いて神経変性疾患を研究対象にしようとする人もごく少数であった.疾患の重要性は十分に認識していても,病因解明の手がかりすらない疾患をどう研究してよいのか,というのが大勢の率直な感じ方であったと思われる.しかし先駆的研究者による脳アミロイドの生化学的解析や遺伝性変性疾患のポジショナルクローニングが初期の成功を収めるなど,1980年代前半のその当時から,変性疾患解明の胎動はすでに始まっていた.
 時は流れ,いまや変性疾患は神経内科の領域のみならず,ライフサイエンスのフィールドの中でもメジャーなテーマになった.その理由として主要な遺伝性神経変性疾患の病因遺伝子が同定され,その遺伝子の機能解析によって疾患メカニズムの解明が進んだことがまず挙げられる.また,この間ニューロサイエンスが急速に発展し,分子,細胞,システムのさまざまなレベルで,あるいは分子生物学から機能イメージングにいたるさまざまな研究手法で変性疾患の病態・病因に迫ることができるようになったことも大きい.“異常タンパク質が蓄積すること”が多くの神経変性疾患に共通する病態であることはほぼコンセンサスが得られている.しかし,そもそもなぜ蓄積が起こるのか,起こった結果どうなるのかについて定説はなく,神経変性疾患を特徴づける“病変部位選択性”の謎にはまだ答えが得られていない.ましてや治療に関してはごく一部の疾患で実験的試みが始まったばかりである.このような時機にわれわれの到達した地点を確認し,進むべき方向を提示することは,意義のあることと考え,本書を企画した.
 本書の内容から,神経変性疾患のサイエンスがいかに豊かで多彩な広がりを持って発展しつつあるかおわかりいただけるであろう.一方,多くの重要な問題が未解決で残されていることも理解されるものと思う.なかでも人口の21%以上が65歳以上の“超高齢社会”を迎えるわが国で,増加の一途をたどる変性疾患の治療法を開発することは強い社会的要請である.その意味で本書は神経変性疾患の臨床や研究を将来の専門にしたいと考えている若い方々にぜひお読みいただきたい.またアカデミア・バイオ関連企業の研究者はもちろんのこと,この分野に関心をもつ学生の皆さん,臨床医の先生方にもお役に立つものと確信している.執筆をお願いしたのはいずれもそれぞれの分野でわが国を代表する研究者として活躍されている先生方ばかりである.ご多忙の中,最先端の知見を初学者にもわかりやすくかみ砕いた原稿を寄せていただいたことに心より感謝申し上げたい.最後に本書の成立に尽力された南山堂編集部スタッフに深謝する.


2007年11月
京都大学大学院医学研究科臨床神経学
高橋 良輔



目次

第I部  総論
第1章
 神経系の機能と変性のサイエンス…高橋良輔
  1-1 はじめに −神経変性疾患とは何か−
  1-2 神経変性疾患の病因分子解明への道のり
  1-3 コンフォメーション病
  1-4 モデル動物を使ったミスフォールドタンパク質の毒性メカニズム解明
  1-5 システム病としての神経変性疾患
  1-6 今後の展望


第II部  神経変性の分子細胞生物学
第2章
 神経変性疾患における分子シャペロン治療…和座雅浩 足立弘明 勝野雅央 南山 誠 徳井啓介 田中章景 道勇 学 祖父江元
  2-1 はじめに
  2-2 球脊髄性筋萎縮症(SBMA)と分子シャペロン
  2-3 球脊髄性筋萎縮症(SBMA)に対するシャペロン治療
  2-4 Hsp90阻害剤,17-AAGによるSBMA治療
  2-5 おわりに

第3章
 小胞体ストレスとタンパク質品質管理…上原 孝
  3-1 はじめに
  3-2 小胞体関連分解(ERAD)
  3-3 小胞体ストレス
  3-4 小胞体ストレス応答シグナル
  3-5 細胞死
  3-6 生体内ストレス本体と疾患

第4章
 ユビキチン・プロテアソーム系…畠山鎮次
  4-1 はじめに
  4-2 ユビキチン・プロテアソーム系によるタンパク質分解機構
  4-3 ユビキチンリガーゼの多様性
  4-4 細胞内タンパク質の品質管理に関与するユビキチン化と分子シャペロンのクロストーク
  4-5 神経変性疾患とユビキチン・プロテアソーム

第5章
 神経変性疾患におけるオートファジーの役割…原 太一  水島 昇
  5-1 はじめに
  5-2 哺乳類オートファゴソーム形成の分子機構
  5-3 神経系におけるオートファジーの生理的役割
  5-4 神経変性疾患におけるオートファジー
  5-5 おわりに

第6章
 神経変性疾患とミトコンドリア傷害…清水重臣
  6-1 はじめに
  6-2 ミトコンドリアの構造とその機能
  6-3 神経細胞死と神経変性疾患
  6-4 ミトコンドリアの直接的機能異常と神経変性
  6-5 アルツハイマー病におけるミトコンドリア異常
  6-6 筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるミトコンドリア異常
  6-7 ポリグルタミン病におけるミトコンドリア異常
  6-8 パーキンソン病におけるミトコンドリア異常
  6-9 おわりに

第7章
 カスパーゼと神経変性…三浦正幸
  7-1 アポトーシス実行プロテアーゼの発見
  7-2 カスパーゼ活性化機構
  7-3 カスパーゼノックアウトマウス
  7-4 カスパーゼと神経変性疾患
  7-5 おわりに

第8章
 神経変性疾患とASK1のシグナル伝達…村上史織 野口拓也 一條秀憲
  8-1 ストレス応答性MAPKKK“ASK1”
  8-2 ポリグルタミン病
  8-3 アルツハイマー病
  8-4 パーキンソン病
  8-5 筋萎縮性側索硬化症
  8-6 おわりに

第9章
 神経細胞死とグルタミン酸受容体…山下雄也 郭 伸
  9-1 はじめに
  9-2 グルタミン酸受容体の構造と機能
  9-3 Ca2+透過性AMPAチャネルの制御
  9-4 Ca2+透過性AMPAチャネル活性とニューロン傷害
  9-5 神経変性と疾患
  9-6 神経変性疾患と治療

第10章
 アルツハイマー病発症における膜タンパク質限定分解(RIP)の機能…高杉展正 岩坪 威
  10-1 アルツハイマー病とRIP
  10-2 β‐セクレターゼ(BACE1)
  10-3 γ‐セクレターゼ

第11章
 軸索変性メカニズムと神経変性…荒木敏之
  11-1 軸索変性の多様性
  11-2 wlds変異マウス
  11-3 NAD・Sir2依存性軸索保護機構による神経疾患治療の可能性
  11-4 おわりに

第12章
 神経変性疾患と転写障害…辻 省次
  12-1 はじめに
  12-2 時間依存性,部位特異性という観点から見たポリグルタミン病の病態機序
  12-3 神経細胞変性の本質は神経細胞死ではなく神経細胞の機能障害である
  12-4 ポリグルタミン病の病態機序としての転写障害
  12-5 おわりに

第13章
 酵母プリオン[PSI+]の系を用いたプリオン感染・伝播機構の解明…田中元雅
  13-1 はじめに
  13-2 プリオン仮説の問題点
  13-3 酵母プリオンSup35による[PSI+]の系
  13-4 酵母プリオンを用いた高効率なプリオン感染法の開発
  13-5 酵母プリオン感染実験による[PSI+]プリオン株の出現
  13-6 Sup35アミロイド構造の差異による[PSI+]プリオン株表現型の決定
  13-7 異なる表現型をもつ[PSI+]プリオン株出現の分子機構
  13-8 おわりに


第III部  システムニューロサイエンス−神経機能と変性への新たなアプローチ−
第14章
 神経組織学の新しい手法…木下彩栄
  14-1 はじめに
  14-2 個体における組織化学
  14-3 SDS-digested freeze fracture replica labelingによる超微細構造の免疫染色法
  14-4 レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法(LMD法)
  14-5 おわりに

第15章
 分子イメージング…高屋成利 福山秀直
  15-1 はじめに
  15-2 分子イメージングの概要
  15-3 アルツハイマー病における分子イメージングの試み
  15-4 アルツハイマー病における治療の試みと分子イメージング

第16章
 大脳基底核の神経回路から大脳基底核疾患の病態を理解する…南部 篤
  16-1 はじめに
  16-2 大脳基底核の構成
  16-3 大脳基底核の神経回路
  16-4 大脳基底核の機能
  16-5 大脳基底核疾患の病態
  16-6 定位脳手術の作用機序
  16-7 今後の展望

第17章
 コリン作動性ニューロンと認知障害:新たな創薬ターゲットとしての高親和性コリントランスポーター…三澤日出巳
  17-1 はじめに
  17-2 高親和性コリントランスポーター(CHT)のクローニング
  17-3 高親和性コリントランスポーター(CHT)の構造
  17-4 高親和性コリントランスポーター(CHT)の脳内分布
  17-5 免疫電子顕微鏡によるCHTの局在の解析
  17-6 クラスリン依存性メカニズムによるCHTのインターナリゼーション
  17-7 CHT結合タンパク質
  17-8 大脳皮質へ投射するコリン作動性ニューロンと高次脳機能
  17-9 おわりに


第IV部  神経変性疾患への臨床応用
第18章
 神経変性疾患治療戦略としての低分子によるタンパク質凝集阻害…永井義隆
  18-1 はじめに
  18-2 神経変性疾患とタンパク質ミスフォールディング・凝集
  18-3 ポリグルタミン病
  18-4 ポリグルタミンタンパク質の構造異常・凝集と細胞毒性
  18-5 低分子によるポリグルタミンタンパク質凝集阻害
  18-6 ポリグルタミン病の他の治療標的に対する低分子による治療
  18-7 他の神経変性疾患での低分子による治療(タンパク質凝集阻害を中心に)
  18-8 おわりに


第19章   RNAiの神経変性疾患への応用…横田隆徳
  19-1 はじめに
  19-2 RNA干渉とは
  19-3 siRNAの特異性
  19-4 遺伝性神経変性疾患への応用
  19-5 孤発性神経変性疾患への応用
  19-6 siRNAのin vivoへのデリバリー
  19-7 おわりに


第20章   遺伝子治療…望月秀樹
  20-1 はじめに
  20-2 アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
  20-3 パーキンソン病の遺伝子治療
  20-4 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の遺伝子治療
  20-5 アルツハイマー病の遺伝子治療
  20-6 まとめ


第21章
 神経栄養因子の多様な機能と神経変性疾患への臨床適用の可能性…船越 洋 金井将昭 中村敏一
  21-1 はじめに
  21-2 神経栄養因子,その受容体と基本生物活性
  21-3 神経栄養因子のin vitroおよびin vivo基本活性
  21-4 最近明らかにされた神経栄養因子の新たな生物活性:神経新生促進活性
  21-5 神経栄養因子の神経変性疾患への臨床適用の実例
  21-6 グリア細胞の神経変性疾患進行における意義
  21-7 神経栄養因子・神経再生因子としてのHGFの神経変性疾患への適用の可能性
  21-8 おわりに

第22章
 幹細胞…高橋 淳
  22-1 はじめに
  22-2 幹細胞とは
  22-3 神経幹細胞による治療戦略
  22-4 骨髄幹細胞移植
  22-5 おわりに

和文索引
欧文索引