書籍カテゴリー:医学・医療一般|分子生物学

脳と心はどこまで科学でわかるか
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東大社会人科学講座 生命科学編
脳と心はどこまで科学でわかるか

1版

  • 東京大学科学技術インタープリター養成プログラム 監修
  • 東京大学生命科学構造化センター 監修
  • 東京大学大学院教授 石浦章一 編集
  • 東京大学大学院教授 黒田玲子 編集

定価:1,944円(本体1,800円+税8%)

  • 四六判 230頁
  • 2009年4月 発行
  • ISBN978-4-525-13421-1

概要

科学情報を「先生から教わる知識」から「自ら理解し活用するもの」としていくために科学コミュニケーションに興味をもつ社会人に向けた人気講義録.読者に語りかける形で,脳と意識のなぞ,生物学教育の国際比較,遺伝子組換え食品の課題,先端医学の活用とコミュニケーション,医学医療でのこころの問題など厳選7テーマをわかりやすく解説.

序文

科学技術について語り,考えること.それは大学の中や研究者だけで行われるべきことでしょうか.私たちの社会は科学技術の恩恵の上に成り立っていると言っても過言ではありませんし,日々の暮らしの中にも科学技術の産物があふれています.これらは私たちの生活を便利にしてくれていますが,その一方で,医療技術や生命倫理,食の安全,環境・エネルギー問題など,不安を感じたり選択を迫られたり,真偽の定かでない情報に惑わされることも増えてきました.多くの人にとって「先生から一方的に教わる知識」であった科学技術は,今や「自ら理解し活用すべきもの」となりつつあります.つまり,科学技術について考えることは,専門家に任せておくことではなくなっているのです.
興味や好奇心で接する面と,好き嫌い,あるいは支持・不支持を選択する面,さらには無意識のうちに受け入れている面などを併せ持つことを考えると,現代社会における科学技術も,芸術やスポーツ,また生活様式や習慣などと同じように,私たちの「文化」として位置づけることができるでしょう.文化のあり方に,誰もが目指すべきただ一つの姿というものはなく,国や地域,民族,環境,時代などによってさまざまに変化します.科学技術をいろいろな方向から語り合うことは,私たちの文化を見つめ,よりよい社会について考えることに他なりません.
単に知識として知っているだけではなく,社会とのつながりの中で,科学技術を巡ってどのような問題があるのか,またどのような意見や立場があるのかを多面的に理解し,主体的に考え,それを社会に発信し,ともに考えることのできる人材養成を目指して,2005年に東京大学科学技術インタープリター養成プログラムが始まりました.このプログラムは東京大学の大学院生を対象にしたものですが,その理念を,実社会で科学コミュニケーション活動に携わる方々とも広く共有したいと考え,2007年より半年毎のペースで社会人講座を開催しています.
この講座ではさまざまな科学技術の話題を取り上げていますが,2008年春期は,東京大学生命科学構造化センターの賛同も得て,生命科学をテーマに7回の講義からなる講座を行い,52名の方に受講していただきました.このときの講義をもとに本書はつくられています.生命の営みの解明はいつの時代でも探求の的であり,しばしば科学コミュニケーションの題材になります.たとえば,脳の機能については近年いろいろなことがわかり,人々の興味を惹いています.しかし同じ脳の働きでも,心の機微を科学で説明することには抵抗を感じる人は少なくないと思います.このような葛藤や対立は必ずしも科学的知識の不足や誤解によるものではありません.生命科学のそういった側面を理解することにより,科学コミュニケーションの深みがさらに増すでしょう.
本書を通して,学問としての生命科学の奥深さに触れ楽しんでいただくことはもちろん,それが社会や私たちの生活に与える影響や課題へも是非思いをはせてください.そのことが,生命科学,ひいては科学技術と社会や文化のあり方を考えるきっかけとなることを心から願っています.

平成21年3月
東京大学科学技術インタープリター養成プログラム代表
黒田玲子

目次

2008年度春期 東京大学科学技術インタープリター養成プログラム社会人講座
1.意識を分子で語る─生命科学の観点から …1
石浦 章一(東京大学大学院総合文化研究科教授)
ヒトの脳…2/大脳皮質とは…3/物事を認知するとは何か…5/神経回路をどうやって調べるか…7/脳を見る…8/特定の脳部位に特殊な機能が宿る…11/失語症からわかったこと…14/角回のなぞ…14/ゲージの骨…16/分子と意識…20/ヒトの気質と遺伝子…23/新しもの好きか、保守的か…24/性格や気質と遺伝子…27/ドーパミンと行動…28/ADHDとドーパミントランスポーター…30/マウスを使って遺伝子と行動の関係を明らかにする…31/アルコール依存症と遺伝子について調べてみた…34/Q&A…36
2.脳科学と社会─脳科学リテラシーの観点から …43
原 塑(玉川大学脳科学研究所グローバルCOE准教授)
廣野 喜幸(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
基礎研究と臨床研究をつなぐ神経科学リテラシー…45/神経科学リテラシーを身につけるために…46/ヒトはなぜだまされるのか…48/悪質商法の種類と脳のはたらき…49/なぜ高齢者がだまされるのか…51/消費行動に広告がどのように作用するか…53/高齢者と若者の広告に対する反応の違い…54/視覚刺激を使った広告のはたらき…56/神経科学でどこまでわかるか…57/意思決定のプロセスにおける脳のはたらき…59/ギャンブルにおける若者と高齢者の反応の違いとは…61/だまされないために─神経科学は何ができるか…63/喧々諤々 科学技術インタープリターの役割とは…65
3.「羊水」は教えられているか?─日本と諸外国の生物教育比較の観点から …73
松田 良一(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
羊水とは何か…74/35歳を過ぎると羊水が腐るか…75/海外の教科書で羊水はどのように取り上げられているか…76/日本の教科書で羊水はどのように取り上げられているか…78/海外で遺伝や遺伝子はどのように教えられているか…81/日本では遺伝と遺伝子はどのように教えられているか…83/感染症やドラッグはどのように教えられているか…84/教科書の厚さもこれだけ違う…87/ヒトの生物学が必要か…89/国際比較にみる生物教育の違い…91/学習指導要領と大学生の学力…94/科学全般の知識とバランスは必要か…96/米国のAP教育とは…98/学校の先生たちに問題はないか…100/おわりに…101/Q&A…102
4.科学技術の社会的受容─GM作物と許認可体制の観点から …111
嶋田 正和(東京大学大学院総合文化研究科教授)
はじめに─問題の背景…112/「カルタヘナ法」下での許認可体制…113/GM作物の開発技術…116/GM作物の近縁野生植物が国内に存在する事例…117/事例1 GMダイズとツルマメ…117/事例2 GMセイヨウアブラナと在来ナタネ…120/事例3 GMクリーピング・ベントグラスとハイコヌカグサ…122/交雑性による遺伝子浸透─遺伝的浮動…124/GM作物の社会的受容に向けて…128/問題1 省庁系のGM作物関連ウェブサイトによる広報の不備…129/問題2 日本の農業をめぐる老齢化…132/問題3 フェイルセーフとしての緊急措置計画書の広報…134/問題4 食品安全基準に照らした広報─アレルゲン・データベースの規準…135/おわりに…136
5.医療の進歩と社会─科学技術インタープリターの観点から …139
黒田 玲子(東京大学大学院総合文化研究科教授)
はじめに…140/死の定義…142/グリーン夫妻の場合…143/生きているとは何か…145/無の質問…146/はっきりとした線が引けるのか…147/円のはじめと終わり…148/脳死と臓器移植…149/臓器移植の歴史…150/日本の臓器移植の歴史…151/脳死は人の死か…152/ドナー不足の解決の試み…155/再生医療…158/がんの治療法について…159/遺伝子組換え作物の是非…162/おわりに…163
6.わかりやすさとは何か生命科学の場合─科学の公衆理解の観点から …165
藤垣 裕子(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
はじめに…166/「科学の公衆理解」とは何か…166/「わかるということ」は何か…168/4つのモデル(欠如モデル、文脈モデル、素人の専門性モデル、市民参加モデル)…171/モデル1 欠如モデル…171/欠如モデルへの批判…173/モデル2 文脈モデル…176/モデル3 素人の専門性モデル…178/モデル4 市民参加モデル…178/市民参加モデルの現状と具体例…180/生命科学の場合―市民をまきこんだ研究…185/がんの疫学研究の事例─インフォームド・コンセント…186/コホート研究実施における問題点…187/ゲノム疫学研究の事例─市民とのコミュニケーション…190
7.物質・生命・意識─科学哲学の観点から …195
村上陽一郎(東京大学大学院総合文化研究科特任教授)
問題の所在はどこにあるか…196/生命体であるか生命体でないか…199/精神の座はどこにあるか…200/ハーヴィーによる血液循環論…201/一眼児と胚発生…204/心臓は単なるふいごだ…206/人間とロボットの違い…207/言葉による認識とは何か…210/幻肢痛から考える…212/心身症とは…214/デカルトとクリスティーナ女王…216/こころのタブー…217/心理学とこころ…219/科学においてこころはどのように扱われるか…219/Q&A…221