書籍カテゴリー:病原微生物学

微生物感染学

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微生物感染学
新しい感染の科学

1版

  • 京都大学大学院教授 光山 正雄 編

定価:5,184円(本体4,800円+税8%)

  • B5判 312頁
  • 2005年11月 発行
  • ISBN978-4-525-16101-9
  • ISBN4-525-16101-9

概要

微生物学と感染症学をつなぐ「感染の科学」
微生物の巧妙な感染戦略と,それに対する宿主応答の卓抜した機構に関する最先端の知見をわかりやすくまとめた.
領域を越えた学生,院生,そして臨床家も,感染病態メカニズムの面白さを実感でき,新たな視点で「感染」が見える.

序文

現在の我が国には多数の医歯薬科向け微生物学テキストが出版されているが,その大半はほぼ同様の総論・各論の構成で,必要な知識は網羅されているものの,学問的な興味を呼び起こすには物足りないように感じていた.近年の新興・再興感染症の多発により感染症教育の重要性が叫ばれる一方,医学部における微生物学はややもすると単に臨床感染症を理解する上での最低限の基礎知識として要求されるに留まる傾向すら強まりつつあるように懸念される.長年医学部において微生物学,感染免疫学の教育に携わるなかで,記憶を強要する教育のつまらなさを再認識すると同時に,「感染」という生物学的現象に関わる微生物側の巧妙な戦略や,それに対処しようとする宿主応答の卓抜した機構に時に目を見張る学生の反応に喜びを感じてきた.
一研究者として微生物学研究の現場を見ると,新たな手法の開発もあって極めて多様な研究が進展し,目を見張る新たな発見が相次いでいることがわかる.とくに病原性に関する分子,遺伝子レベルでの研究には,興味深く,感染の病態に深い理解を与えるものが多く見られる.さらに近年のCellular MicrobiologyやMolecular Microbiologyなどの新規刊行,2003年秋からのNature Reviews Microbiologyの創刊に見られるように,世界的には学問としての微生物学に新たなスポットライトが当てられてきている.しかしながら,とくに基礎研究者がホットに感じる分子病態メカニズムの新たな知見が,一体どれだけ感染症を志す医師に同様の感覚でとらえられ,臨床感染症の場へ還元されているだろうか? 残念ながらこの2つの世界のクロストークは極めて不充分であったと言わざるを得ない.感染症学は臨床感染症に携わる臨床医の学問領域であり,微生物学は微生物を相手にする生物学的学問領域であるかのような住み分けがなされてきた結果,臨床現場での問題が容易には基礎研究へ提言されず,また一方,折角の先端的な基礎研究が臨床的感染症の現場では話題にもならないという,極めて重大な乖離が進行してきたと危惧される.
加えて,医学以外の領域にも感染に関する研究に興味を示す若手が多く見られるにも関わらず,この領域の研究の動向を理解させ興味を掻き立てるような書籍が極めて少ないのも現実である.そこで今回,微生物学と感染症学に接点をもたせるための「感染学(感染の科学)」という視点から,病態メカニズムがかなり明確になったもののみについて基礎研究を中心に分かりやすく,しかし最新の深い内容でまとめ,領域を越えた学部学生,大学院生,そして診療に追われる臨床家にも,感染の面白さを実感してもらえる書籍の刊行を企画してみた.本書のタイトルで用いた「感染学」という用語は一般になじみが薄いと思われる.臨床医学的な感染症学と,基礎生物学的な微生物学の間を連結する(ギャップを埋める)ものとして新たに提案する一種の造語であって,対応する英語は見当たらない.強いていえば,サブタイトルの「感染の科学science of infection」がその意図するものである.
本書では網羅的解説はやめ,いくつかの重要かつ研究の展開が著しい感染だけをとりあげ,その病態機構に関する最先端の研究を,それぞれ我が国での第一人者の方々に執筆いただき,感染病態研究のダイナミズムと新たな視点を提供することを企図したつもりである.この本は感染症のハンドブックでもなければ単なる基礎微生物学のテキストでもなく,本書を最初から通読する必要はない.各論のひとつでも読んで,微生物の巧妙な感染戦略とそれに立ち向かう宿主応答のせめぎ合い凌ぎ合いに目を見張っていただくことができればと願うのみである.

平成17年9月 光山正雄


目次

I章 感染とは

【1】感染の定義
   1.感染と感染症
   2.病原体と宿主
   3.宿主と特異性
   4.「コッホの原則」
   5.新興・再興感染症
   6.意外な疾患への細菌の関与
【2】感染研究の歴史と現状
   1.感染症と病原微生物の理解
   2.免疫学の勃興期と細菌学
   3.微生物認識以降の感染と微生物研究の流れ


II章 細菌総論

【1】細菌の構造と特徴
   1.細菌の構造の特徴
   2.細菌の分子遺伝学的特徴
【2】細菌の病原因子
   1.定着因子
   2.細胞侵入因子
   3.細胞内寄生・エスケープ機構
【3】タンパク毒素
   1.外毒素と内毒素
   2.タンパク毒素の分類
【4】内毒素
   1.内毒素(エンドトキシン)の構造
   2.LPS のエンドトキシンとしての生物活性
   3.LPSの細胞活性化機構


III章 ウイルス総論

【1】ウイルスの構造と特徴
   1.ウイルスの構造
   2.ウイルスの分類
【2】感染と増殖の機構
   1.ウイルスの増殖
   2.ウイルス増殖機構の阻害
   3.インターフェロン(IFN)の作用とウイルスによるIFN阻害
   4.ウイルスの変異
【3】細胞・組織傷害の機構
   1.ウイルス感染そのものによる細胞・組織傷害
   2.免疫応答による細胞・組織傷害
   3.ウイルス発癌


IV章 感染防御機構

【1】感染にかかわる宿主側要因
   1.抗体と補体
   2.食細胞
   3.細胞性免疫とサイトカイン


V章 細菌と感染のメカニズム

【1】赤痢菌
   1.赤痢菌の腸粘膜感染と赤痢発症
   2.マクロファージ感染と炎症および細胞死の誘導
   3.上皮細胞侵入
   4.タイプIII分泌装置(TTSS)
   5.赤痢菌の腸粘膜上皮感染と炎症誘導
   6.菌の細胞内運動と細胞間感染
   7.オートファジーの回避
【2】サルモネラ
   1.サルモネラの細菌学と感染
   2.サルモネラ全身感染症発症の概要
   3.サルモネラ病原遺伝子カセット
   4.病原タンパクデリバリーシステムであるタイプIII分泌装置(TTSS)
   5.サルモネラと腸管上皮細胞との相互作用
   6.サルモネラとマクロファージの相互作用
   7.病原戦略のコントロール
【3】コレラ菌
   1.コレラの臨床
   2.病態機構
【4】下痢原性大腸菌
   1.病原性大腸菌(EPEC)
   2.毒素原性大腸菌(ETEC)
   3.腸管侵入性大腸菌(EIEC)
   4.腸管出血性大腸菌(EHEC)
   5.腸管凝集付着性大腸菌(EAggEC)
   6.その他の下痢原性大腸菌
   7.予防と治療
【5】腸炎ビブリオ
   1.腸炎ビブリオの臨床
   2.病態機構
【6】神経毒素産生クロストリジウム
   1.菌の性状,感染様式と症状など
   2.ボツリヌスprogenitor toxinの構造と機能
   3.神経毒素(NTX)の構造
   4.NTXの作用機構
   5.NTX遺伝子の構造と転写の調節
【7】黄色ブドウ球菌
   1.ブドウ球菌の臨床細菌学と感染
   2.黄色ブドウ球菌の病原因子
   3.病原因子遺伝子発現の制御
【8】化膿レンサ球菌
   1.化膿レンサ球菌(GAS)の臨床細菌学と感染
   2.GASによる侵襲型レンサ球菌感染症の概要
   3.細胞侵入とフィブロネクチン結合タンパク
   4.Speはスーパー抗原である
   5.抗貪食機構とMタンパク
   6.全ゲノム配列とファージ
   7.壊死性筋膜炎とsil遺伝子群
   8.STSSとインフルエンザウイルス
   9.重症化とHLAクラスIIハプロタイプ
【9】百日咳菌
   1.百日咳菌と百日咳
   2.百日咳菌の感染機序と病原因子
   3.百日咳菌のモード変換と相変異
   4.ボルデテラ属3菌種の全ゲノム配列と病原性比較
【10】緑膿菌
   1.緑膿菌のクオラムセンシング機構の基本構造
   2.緑膿菌感染症におけるクオラムセンシング機構の役割
   3.新しい感染症治療のターゲットとしてのクオラムセンシング機構
【11】リステリア
   1.リステリアの臨床細菌学と感染
   2.Listeria monocytogenesの細胞内動態の概要
   3.非食細胞系細胞への侵入とinl/InlAB
   4.マクロファージでのファゴソームからのエスケープとhly/LLO
   5.細胞質内移動とactA/ActA
   6.細胞間感染拡散とplc/phospholipase
   7.細胞質での増殖にかかわる遺伝子
   8.prfA/PrfAによるLIPI-1遺伝子群の発現制御
   9.主要病原因子LLOの宿主免疫応答へのかかわりに関する新知見
【12】レジオネラ
   1.レジオネラの臨床細菌学と感染
   2.Legionella pneumophilaの細胞内動態の概要
   3.マクロファージへの付着・貪食と膜選別
   4.細胞内殺菌抵抗とsodC/Cu・Zn-SODおよびmip/Mip
   5.レジオネラ特異的ファゴソームの形成とicm/dot(Icm/Dot transporter)
   6.L. pneumophilaの細胞内での分化とファゴリソソーム内増殖
   7.レジオネラの細胞内増殖を制御する宿主側の遺伝子Lgn1
【13】結核菌
   1.結核菌の概要
   2.結核の臨床所見
   3.結核病態の分子機構
   4.将来展望・臨床応用


VI章 ウイルスと感染のメカニズム

【1】インフルエンザウイルス
   1.インフルエンザウイルスの特性
   2.感染症と疫学
   3.病態発生機序
   4.治療と予防
【2】麻疹ウイルス
   1.麻疹ウイルスの基準株は変異株?
   2.真の麻疹ウイルスレセプター
   3.ウイルスのアクセサリータンパクと宿主のインターフェロン
   4.ウイルス遺伝子操作技術の発展と展望
【3】ポリオウイルス
   1.ポリオウイルスとは
   2.リバースジェネティクスと遺伝的変異
   3.神経病原性
   4.感染動物モデル
   5.体内伝播経路
【4】B型肝炎ウイルス
   1.B型肝炎ウイルス(HBV)の概要
   2.HBV感染症(B型肝炎)
   3.HBVの病態機構
   4.将来展望・臨床応用
【5】C型肝炎ウイルス
   1.C型肝炎ウイルス(HCV)の概要
   2.HCV感染症(C型肝炎)
   3.HCVの病態機構
4.将来展望・臨床応用
【6】単純ヘルペスウイルス
   1.ヘルペスウイルス感染症の多彩な臨床像
   2.HSVの構造および増殖過程の概要
   3.潜伏感染・再活性化は複数の要素がかかわる
   4.膜タンパクとカプシドは別々に軸索内輸送される
   5.HSV感染はアポトーシスを誘導・抑制する
   6.HSVは多様な手段により巧みに免疫システムからエスケープする
   7.ヘルペス脳炎の病態にToll-like receptorが大きく関与する
   8.HSVとHIVとは分子レベル,個体レベルで複雑に絡み合う
【7】EBウイルス
   1.EBウイルスの概要
   2.EBウイルスと疾患
   3.EBウイルスの細胞感染機構
   4.EBウイルスの潜伏感染
   5.B細胞不死化と免疫不全関連リンパ増殖性疾患
   6.バーキットリンパ腫,胃癌,上咽頭癌,ホジキンリンパ腫におけるEBウイルスの役割
【8】レトロウイルスと感染病態(1)HIV/AIDS
   1.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の世界的流行
   2.HIV-1がコードするウイルスタンパク
   3.HIV-1の複製機構
   4.HIV-1の分子疫学
   5.HIV感染からAIDS発症へ
   6.HIV-1に対する抗ウイルス療法
【9】レトロウイルスと感染病態(2)HTLV/ATL
   1.ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)はいかにして見つかったか?
   2.HTLV-1感染症の疫学
   3.HTLV-1の感染経路
   4.HTLV-1の構造とウイルスタンパク
   5.HTLV-1感染細胞の運命
   6.成人T細胞白血病(ATL)
   7.ATLの病態と癌細胞
   8.HTLV-1とHIV-1:増殖と破壊


VII章 感染以外の疾患への細菌の関与

【1】胃潰瘍とピロリ菌
   1.ピロリ菌の発見と細菌学的特徴
   2.病原因子
   3.ピロリ菌に関連する胃,十二指腸疾患とそれ以外の疾患
【2】ギラン・バレー症候群とカンピロバクター
   1.ギラン・バレー症候群(GBS)
   2.「分子相同性仮説」
   3.明らかにされていないこと:GBS発症規定因子
【3】動脈硬化とクラミジア
   1.感染と動脈硬化
   2.肺炎クラミジアの動脈硬化症への関与
   3.推測される肺炎クラミジアによる動脈硬化発症機序


VIII章 プリオン病

【1】プリオンとプリオン病
   1.なぜプリオン病がいま注目されるのか
   2.プリオン病の発見から「プリオン仮説」まで
   3.プリオン病の分子機構:現在の「プリオン仮説」と残された問題点
   4.BSE大流行と新変異型CJD