カテゴリー: 内科学一般 | 総合診療医学/プライマリ・ケア医学
みんなはどう診るこの症状
1版
広島大学病院総合内科・総合診療科 横林賢一 編著
定価
3,520円(本体 3,200円 +税10%)
- B5判 163頁
- 2013年4月 発行
- ISBN 978-4-525-20231-6
同じ症状を診ても,専門科が異なれば,注目する場所や最初になにを鑑別するかなどは変わってくる.そこで本書では,プライマリの現場でよく遭遇する症状を取り上げ,症状ごとに1つの症例をあげ,専門科ごとの思考過程を提示,それをプライマリ・ケアに携わる医師の参考になるようにまとめた.ほかの医師の頭のなか,覗いてみませんか?
- 序文
- 目次
序文
「おや?」
2 月のある夜,2 歳になったばかりの娘の顔と首に,境界明瞭な点状紅斑が散在していることに気づきました.「風疹かな? 予防接種は打ったよね?」…「ワクチンは打っているしリンパ節も腫れていないし……皮疹の形態も少し異なるね」…「元気だし薬疹かな? それとも何らかのウイルス性?」…総合診療医の私と皮膚科専門医の妻の臨床推論が始まりました.
「圧迫して消退しないから,紅斑というより紫斑だね」…「あ! そういえば!」…保育園の先生が毎日丁寧に書いてくれる連絡ノートを取り出しました.『今日は節分祭りをしました.オニの登場後,びっくりしたのか今までにないくらいの大号泣でしたよ』と書かれています.「これか……(笑)」二人で顔を見合わせました.怒責性紫斑(号泣や激しい咳・排便などで急激に毛細血管内圧が上昇して生じる点状紫斑)でした.
医師として患者さんを診るとき,私たちは診断に至る前に病歴・身体所見をとり,検査を行います.「とにかく病歴と身体所見が大切だ!」とよく聞きます.全くその通りだと思いますが,漫然と病歴・身体所見をとるだけではなかなか診断にたどり着きません.まず現病歴を聞いて,次に既往歴を聞いて,次に……とやっていると時間ばかりかかってしまいます.
熟練した医師でも,患者さんから簡単な病歴を聞いて思い浮かぶ疾患は3〜5つ程度と聞きます.そのうち,どの疾患に近いかを確認するため,そして見逃したくない疾患を除外するため,「能動的に」病歴と身体所見をとることが大切です.“history & physical taking”,その名のとおりこちらから「とりに= taking」いくことで,効率的かつ見逃しの少ない臨床推論を行うことが可能となります.順序にこだわる必要もなく,上の例のようにワクチン接種歴,服薬歴や身体所見が優先されることもあり,また最終的には「患者さん自身が診断を教えてくれる」ことも少なくないと感じています.能動的に病歴・身体所見をとったうえで,状況に応じて検査をしたり,想定する領域に強い専門科と相談することも大切です.
本書では症状ごとに,「①症例提示」→「②その症例を各専門医がどのように診療していくか」→「③『②』を踏まえたディスカッション(「専門医に聞いてみよう!!」)」→「④総合診療科によるまとめ(「総合診療医によるイイトコドリ!」)」という流れでお話が進んでいきます.
まず①では,簡単な病歴とバイタルが記載されています.中規模総合病院で看護師さんが事前に病歴とバイタルをとっている状態とお考えください.その経過で思い浮かぶ疾患を,本命(最も考えられる疾患),対抗(次に考えられる疾患),大穴(見逃したくない,あるいは積極的には考えにくい疾患)として,それぞれ1〜2 個ずつ想起した後,ページをめくってください.
そこには②として,その症状に関連する領域の専門医の方々が,想定される疾患,それを診断・除外するために行う問診・身体診察・検査と診断後の対応について書いています(最終診断として導き出された疾患を専門として診る医師がそのなかにいる場合は,その先生のワクだけ太線で囲まれています).専門科ごとにみているポイントや行う検査が異なっているのは非常に興味深いところです.
続いて③にて,その関連領域の専門医(卒後10〜20 年目の現場バリバリの先生方)に対して,総合診療医が気になることをディスカッション形式で聞いていきます.普段はなかなか知ることができない「専門医の頭の中」をさらけ出してくれており,非専門領域の医師として気をつけておきたい目から鱗の情報が満載です.
最後の④では,各専門医の意見を踏まえたうえで,総合診療医としての視点からパールをまとめています.
本書が,自分の専門以外の領域でも当直・救急外来などで診なければならない病院勤務医の先生方,多彩な症状に真摯に向き合い続ける診療所の先生方,「症状→診断」の実践的なプロセスを学びたい学生・研修医の方々のお役に立てば,望外の喜びでございます.
最後になりましたが,「インターネット上で各専門医の執筆者とチャット形式のディスカッションがしたい」という無茶なお願いを実現してくれた伊藤 毅さん(南山堂),常に温かくサポートし続けてくれた宇津木菜緒さん(南山堂),そして新しい執筆形態にもかかわらず真摯にご協力いただき,惜しげもなく「頭の中」を教えていただいた執筆者の皆様に,深く御礼申し上げます.
2013年3月
横林賢一
2 月のある夜,2 歳になったばかりの娘の顔と首に,境界明瞭な点状紅斑が散在していることに気づきました.「風疹かな? 予防接種は打ったよね?」…「ワクチンは打っているしリンパ節も腫れていないし……皮疹の形態も少し異なるね」…「元気だし薬疹かな? それとも何らかのウイルス性?」…総合診療医の私と皮膚科専門医の妻の臨床推論が始まりました.
「圧迫して消退しないから,紅斑というより紫斑だね」…「あ! そういえば!」…保育園の先生が毎日丁寧に書いてくれる連絡ノートを取り出しました.『今日は節分祭りをしました.オニの登場後,びっくりしたのか今までにないくらいの大号泣でしたよ』と書かれています.「これか……(笑)」二人で顔を見合わせました.怒責性紫斑(号泣や激しい咳・排便などで急激に毛細血管内圧が上昇して生じる点状紫斑)でした.
医師として患者さんを診るとき,私たちは診断に至る前に病歴・身体所見をとり,検査を行います.「とにかく病歴と身体所見が大切だ!」とよく聞きます.全くその通りだと思いますが,漫然と病歴・身体所見をとるだけではなかなか診断にたどり着きません.まず現病歴を聞いて,次に既往歴を聞いて,次に……とやっていると時間ばかりかかってしまいます.
熟練した医師でも,患者さんから簡単な病歴を聞いて思い浮かぶ疾患は3〜5つ程度と聞きます.そのうち,どの疾患に近いかを確認するため,そして見逃したくない疾患を除外するため,「能動的に」病歴と身体所見をとることが大切です.“history & physical taking”,その名のとおりこちらから「とりに= taking」いくことで,効率的かつ見逃しの少ない臨床推論を行うことが可能となります.順序にこだわる必要もなく,上の例のようにワクチン接種歴,服薬歴や身体所見が優先されることもあり,また最終的には「患者さん自身が診断を教えてくれる」ことも少なくないと感じています.能動的に病歴・身体所見をとったうえで,状況に応じて検査をしたり,想定する領域に強い専門科と相談することも大切です.
本書では症状ごとに,「①症例提示」→「②その症例を各専門医がどのように診療していくか」→「③『②』を踏まえたディスカッション(「専門医に聞いてみよう!!」)」→「④総合診療科によるまとめ(「総合診療医によるイイトコドリ!」)」という流れでお話が進んでいきます.
まず①では,簡単な病歴とバイタルが記載されています.中規模総合病院で看護師さんが事前に病歴とバイタルをとっている状態とお考えください.その経過で思い浮かぶ疾患を,本命(最も考えられる疾患),対抗(次に考えられる疾患),大穴(見逃したくない,あるいは積極的には考えにくい疾患)として,それぞれ1〜2 個ずつ想起した後,ページをめくってください.
そこには②として,その症状に関連する領域の専門医の方々が,想定される疾患,それを診断・除外するために行う問診・身体診察・検査と診断後の対応について書いています(最終診断として導き出された疾患を専門として診る医師がそのなかにいる場合は,その先生のワクだけ太線で囲まれています).専門科ごとにみているポイントや行う検査が異なっているのは非常に興味深いところです.
続いて③にて,その関連領域の専門医(卒後10〜20 年目の現場バリバリの先生方)に対して,総合診療医が気になることをディスカッション形式で聞いていきます.普段はなかなか知ることができない「専門医の頭の中」をさらけ出してくれており,非専門領域の医師として気をつけておきたい目から鱗の情報が満載です.
最後の④では,各専門医の意見を踏まえたうえで,総合診療医としての視点からパールをまとめています.
本書が,自分の専門以外の領域でも当直・救急外来などで診なければならない病院勤務医の先生方,多彩な症状に真摯に向き合い続ける診療所の先生方,「症状→診断」の実践的なプロセスを学びたい学生・研修医の方々のお役に立てば,望外の喜びでございます.
最後になりましたが,「インターネット上で各専門医の執筆者とチャット形式のディスカッションがしたい」という無茶なお願いを実現してくれた伊藤 毅さん(南山堂),常に温かくサポートし続けてくれた宇津木菜緒さん(南山堂),そして新しい執筆形態にもかかわらず真摯にご協力いただき,惜しげもなく「頭の中」を教えていただいた執筆者の皆様に,深く御礼申し上げます.
2013年3月
横林賢一
目次
1 右季肋部痛
2 下腹部痛
3 咳・痰
4 発 熱
5 頭 痛
6 胸 痛
7 腰背部痛
8 倦怠感
9 皮疹・咽頭痛
10 めまい
11 悪心・嘔吐
12 呼吸困難
13 浮 腫
14 リンパ節腫脹
15 動 悸
16 失 神
17 意識障害
18 関節痛
19 しびれ
巻末資料
1 感度,特異度,陽性尤度比,陰性尤度比
2 OPQRST
2 下腹部痛
3 咳・痰
4 発 熱
5 頭 痛
6 胸 痛
7 腰背部痛
8 倦怠感
9 皮疹・咽頭痛
10 めまい
11 悪心・嘔吐
12 呼吸困難
13 浮 腫
14 リンパ節腫脹
15 動 悸
16 失 神
17 意識障害
18 関節痛
19 しびれ
巻末資料
1 感度,特異度,陽性尤度比,陰性尤度比
2 OPQRST