カテゴリー: 総合診療医学/プライマリ・ケア医学 | 産婦人科学
お母さんを診よう
プライマリ・ケアのためのエビデンスと経験に基づいた女性診療
改訂2版
大津ファミリークリニック 中山明子 編集
川崎セツルメント診療所 西村真紀 編集
定価
4,400円(本体 4,000円 +税10%)
- B5判 351頁
- 2022年5月 発行
- ISBN 978-4-525-20302-3
もっと広く、もっと深く「お母さんを診よう」!
今まさに「お母さん」である妊婦さんや授乳婦さんだけでなく,これから「お母さん」になる人,そして「お母さん」の周りの人も.すべての「お母さん」を診る機会がある医師のために,本書ではさまざまな観点から女性の健康問題とその診かたについて解説します.
今回の改訂2版では,最新の各種ガイドラインに基づいた内容のアップデートに加え,より広く,より深く「お母さんを診る」ためにさまざまなトピックを加え,パワーアップした内容をお届けします.疾患はもちろんのこと,健康増進やメンタルヘルス,乳幼児のヘルスケア,そして貧困やヘルスリテラシーといった社会的要因や,「おばあちゃん」「お父さん」など,「お母さん」の周囲の人の支え方まで.さまざまな視点から,「お母さん」と向き合うための知識をお伝えします.
- 序文
- 目次
- 書評
序文
この本の初版ができた2015年ごろはまだ女性診療,ウィメンズヘルスケアといえば産婦人科の領域であると思っている医療者が非常に多かった.改訂2版が出版される2022年までの7年の間に意識は大きく変わってきたように感じる.
2015年に「働き方改革」の波が医療現場にも押し寄せ,医師の長時間労働が問題となった.その時に問題にあがるのが,とくに女性の働き方である.2021年のジェンダーギャップ指数(男女格差)は156ヵ国中120位で,G7の中でも最下位,ASEAN諸国の中でも最下位となっており,政治と経済の女性の進出がとくに遅れている.健康格差を招くSDH(健康の社会的決定要因)の一つとしてもジェンダーは重要視されている.世界的にみても女性は経済力が低く,日本ではとくに母子家庭の貧困率が高いのはご承知の通りである.
日本では「男は強く,女はおしとやかに」,「男は仕事,女は家庭」といった性別の役割意識を刷り込まれており,2015年頃は“突破力”がある男性しか『男性の育休』は取れない状況であった.現在は筆者の周りでも男性の育休を取る人も増えてきて,スーパーや公園でベビーカーを男性1人で押している姿もよく目にする.
またLGBTQs・SOGIという言葉も浸透してきている.男性・女性という性別を2つにわけるのではなく,性別はグラデーションで性自認や性的指向は多様であるといった認識は徐々に広がりつつある.
本書は生物学的女性に特有の健康問題にフォーカスを当てている部分が多いが,LGBTQsや家庭内暴力などジェンダーに関わる社会的健康問題も盛り込んでいる.本書の目的は女性だけが健康を目指すことではなく,女性の健康を支えることで,パートナー・子ども・同僚・友人など,“性別によらず”周りの人たちの健康を支えることである.社会の変化とともにウィメンズヘルスケアも変化してきており,今回は仕事や運動と健康,父親の支援,中高年女性などさらに多様なトピックを加えている.
本書を通じて「女性の健康相談に乗れる」という医療者が多くなり,女性の相談窓口が増えることを願っている.
2022年3月
大津ファミリークリニック
中山明子
2015年に「働き方改革」の波が医療現場にも押し寄せ,医師の長時間労働が問題となった.その時に問題にあがるのが,とくに女性の働き方である.2021年のジェンダーギャップ指数(男女格差)は156ヵ国中120位で,G7の中でも最下位,ASEAN諸国の中でも最下位となっており,政治と経済の女性の進出がとくに遅れている.健康格差を招くSDH(健康の社会的決定要因)の一つとしてもジェンダーは重要視されている.世界的にみても女性は経済力が低く,日本ではとくに母子家庭の貧困率が高いのはご承知の通りである.
日本では「男は強く,女はおしとやかに」,「男は仕事,女は家庭」といった性別の役割意識を刷り込まれており,2015年頃は“突破力”がある男性しか『男性の育休』は取れない状況であった.現在は筆者の周りでも男性の育休を取る人も増えてきて,スーパーや公園でベビーカーを男性1人で押している姿もよく目にする.
またLGBTQs・SOGIという言葉も浸透してきている.男性・女性という性別を2つにわけるのではなく,性別はグラデーションで性自認や性的指向は多様であるといった認識は徐々に広がりつつある.
本書は生物学的女性に特有の健康問題にフォーカスを当てている部分が多いが,LGBTQsや家庭内暴力などジェンダーに関わる社会的健康問題も盛り込んでいる.本書の目的は女性だけが健康を目指すことではなく,女性の健康を支えることで,パートナー・子ども・同僚・友人など,“性別によらず”周りの人たちの健康を支えることである.社会の変化とともにウィメンズヘルスケアも変化してきており,今回は仕事や運動と健康,父親の支援,中高年女性などさらに多様なトピックを加えている.
本書を通じて「女性の健康相談に乗れる」という医療者が多くなり,女性の相談窓口が増えることを願っている.
2022年3月
大津ファミリークリニック
中山明子
目次
prologue プライマリ・ケア医がお母さんを診るということ(鈴木 真)
Ⅰ 診
これからお母さんになる人を診る
1 月経異常(中山明子)
2 性感染症(菅長麗依)
column ヘルス・メンテナンス ─USPSTFを知る─(中山明子)
3 HPVワクチン(伊藤雄二)
4 風疹ワクチン,葉酸(菅長麗依)
5 タバコ・アルコール(吉本 尚)
6 妊娠したい人へのケア(松田真和 他)
7 基礎疾患をもつ女性(進藤達哉 他)
column 遺伝カウンセリング(岡田唯男)
8 社会的支援が必要な場合(小橋孝介)
column 未成年女性の診療について(柴田綾子)
妊婦さんを診る
病 気
9 妊婦の血圧・血糖コントロール(清田実穂)
10 妊婦によくある疾患・症状(水谷佳敬)
11 妊婦の怖い腹痛(池田裕美枝)
12 妊娠中のX線(中山明子)
13 妊婦のメンタルヘルス(森屋淳子)
14 出生前診断(岡田唯男)
ヘルスメンテナンス
15 妊婦の食事・アルコール(清田実穂)
column 妊娠前・妊娠中の体重管理の正しい知識(西村真紀)
16 出産に当たって伝えておくべきこと・注意点(水谷佳敬)
column 妊婦の旅行(菅長麗依)
授乳婦さんを診る
病 気
17 おっぱいの相談(授乳中の乳房のしこり,痛み)(長尾智子)
18 産後うつ病(森屋淳子)
19 妊娠中の疾患の産後のフォローアップ(水谷佳敬)
ヘルスメンテナンス
20 母乳育児と離乳食(柴田綾子 他)
21 聞かれるとちょっと迷う赤ちゃんのよもやま相談(山内裕子)
column ワクチンスケジュールの参考例(山内裕子)
お母さんを診る
22 乳癌検診(中山明子)
23 子宮頸癌検診(中山明子)
column プライマリ・ケアのセッティングでもできる内診について(髙村一紘)
24 家族計画,避妊(池田裕美枝)
25 事故予防 〜こどもの安全を守るために〜(小橋孝介)
26 子どもへの性教育(遠見才希子)
27 小中学生の相談(西村真紀)
28 更年期のトラブル(菅長麗依)
29 骨粗鬆症(中山明子)
column おばあちゃんを診よう(西村真紀)
Ⅱ 支
30 家庭内暴力(IPV)(池田裕美枝)
31 貧 困(小橋孝介)
32 ヘルスリテラシー ~医療者が意識したいポイント~(三浦弓佳 他)
33 LGBTQs(SOGI)(久保田 希)
34 働く女性の健康支援(柴田綾子)
35 女性のライフサイクルと運動・スポーツ参加(濱井彩乃)
column お父さんを支える(山下洋充)
Ⅲ 薬
36 低用量ピル(池田裕美枝)
37 妊娠中の薬(柴田綾子)
38 授乳中の薬(杉谷真季 他)
39 外来での妊婦への処方 ─症例集① 風邪─(塩田正喜)
40 外来での妊婦への処方 ─症例集② 嘔吐・下痢─(岩間秀幸)
41 外来での妊婦への処方 ─症例集③ 尿路感染症─(塚原麻希子 他)
42 外来での妊婦への処方 ─症例集④ 頭痛─(濱井彩乃)
索 引
Ⅰ 診
これからお母さんになる人を診る
1 月経異常(中山明子)
2 性感染症(菅長麗依)
column ヘルス・メンテナンス ─USPSTFを知る─(中山明子)
3 HPVワクチン(伊藤雄二)
4 風疹ワクチン,葉酸(菅長麗依)
5 タバコ・アルコール(吉本 尚)
6 妊娠したい人へのケア(松田真和 他)
7 基礎疾患をもつ女性(進藤達哉 他)
column 遺伝カウンセリング(岡田唯男)
8 社会的支援が必要な場合(小橋孝介)
column 未成年女性の診療について(柴田綾子)
妊婦さんを診る
病 気
9 妊婦の血圧・血糖コントロール(清田実穂)
10 妊婦によくある疾患・症状(水谷佳敬)
11 妊婦の怖い腹痛(池田裕美枝)
12 妊娠中のX線(中山明子)
13 妊婦のメンタルヘルス(森屋淳子)
14 出生前診断(岡田唯男)
ヘルスメンテナンス
15 妊婦の食事・アルコール(清田実穂)
column 妊娠前・妊娠中の体重管理の正しい知識(西村真紀)
16 出産に当たって伝えておくべきこと・注意点(水谷佳敬)
column 妊婦の旅行(菅長麗依)
授乳婦さんを診る
病 気
17 おっぱいの相談(授乳中の乳房のしこり,痛み)(長尾智子)
18 産後うつ病(森屋淳子)
19 妊娠中の疾患の産後のフォローアップ(水谷佳敬)
ヘルスメンテナンス
20 母乳育児と離乳食(柴田綾子 他)
21 聞かれるとちょっと迷う赤ちゃんのよもやま相談(山内裕子)
column ワクチンスケジュールの参考例(山内裕子)
お母さんを診る
22 乳癌検診(中山明子)
23 子宮頸癌検診(中山明子)
column プライマリ・ケアのセッティングでもできる内診について(髙村一紘)
24 家族計画,避妊(池田裕美枝)
25 事故予防 〜こどもの安全を守るために〜(小橋孝介)
26 子どもへの性教育(遠見才希子)
27 小中学生の相談(西村真紀)
28 更年期のトラブル(菅長麗依)
29 骨粗鬆症(中山明子)
column おばあちゃんを診よう(西村真紀)
Ⅱ 支
30 家庭内暴力(IPV)(池田裕美枝)
31 貧 困(小橋孝介)
32 ヘルスリテラシー ~医療者が意識したいポイント~(三浦弓佳 他)
33 LGBTQs(SOGI)(久保田 希)
34 働く女性の健康支援(柴田綾子)
35 女性のライフサイクルと運動・スポーツ参加(濱井彩乃)
column お父さんを支える(山下洋充)
Ⅲ 薬
36 低用量ピル(池田裕美枝)
37 妊娠中の薬(柴田綾子)
38 授乳中の薬(杉谷真季 他)
39 外来での妊婦への処方 ─症例集① 風邪─(塩田正喜)
40 外来での妊婦への処方 ─症例集② 嘔吐・下痢─(岩間秀幸)
41 外来での妊婦への処方 ─症例集③ 尿路感染症─(塚原麻希子 他)
42 外来での妊婦への処方 ─症例集④ 頭痛─(濱井彩乃)
索 引
書評
" 女性からの相談に乗ってあげるための本 "
國松淳和(南多摩病院 総合内科・膠原病内科)
この書評を書くにあたりまずタイトルを決めた.女性からの相談に乗ってあげるための本.(國松にしては)いささか普通のタイトルだなと思いつつ,これだなと思った.そしていざ書評文を書こうと思ったとき,ふと編著者の一人である中山明子先生の「はじめに」を読んで,驚いた.最後の一文が,「女性の健康相談に乗れる」という医療者が多くなり,女性の相談窓口が増えることを願っている,なのであった.なんと,そのまんまだったのだ.少し迷ったが,タイトルは修正しないことにした.
この本の良いところの1つ目.女性に関する重要な臨床問題について項目が網羅されている.たとえばHPVワクチン,妊娠・授乳中の女性への投薬,LGBTQsなど,日頃気にしている問題意識であるもののきちっと把握し切れていなかった事柄について簡潔ながら堅実なまとめがなされていて,資料・手引きとして有用である.この点,外来診察室に常に置いておく価値がある.実際私はそうしようと思う.
2つ目は,各項目の最後に「こんな女性に出会ったら」「私の伝え方」「思考のあしあと」という見出しによってまとめられた,“事例プラス実践”の記述である.これが実に有益である.やはり著者の私見に触れられるのは書籍の醍醐味である.またレイアウトやフォント,小イラストなども柔らかく(これを言ったら怒られるかもしれないが)女性的で,つまりは可愛い.
最後.この本を読めば,臨床家として行動変容が起きるという点である.たとえば,p.300 ~ 307の低用量ピルの項では,使用法の概説の後で末尾に「ぜひプライマリ・ケア医の皆様も処方を開始して欲しい」とある.実際ピルの処方プロセスで重要なのは病歴聴取(リスク把握など)と説明(メリット・デメリット)であり,危険な薬ではないことが記述が具体的なのもあって良くわかる.そもそもピルに関連する合併症の対処は,婦人科というより内科的である.
そういえば全体を通して記述が簡潔にして穏やかで読みやすいのは,変にひどく初学者に寄り過ぎず,安直で緩すぎる雰囲気がないし,またガチガチに学術的でもなく,絶妙だからだろう.個人的には,変に“家庭医/ プライマリ・ケア医推し”でなく,あるべき論みたいなのが(プロローグを除けば)薄いのが好感を持てた.そう,もはや家庭医療/プライマリ・ケアの精神を喧伝する時代は終わりにしたらいいのだ.家庭医療/ プライマリ・ケアは,独立するものではなく,われわれの診療に染み込むものであって欲しい.本書から醸し出される落ち着いた雰囲気は,未来の診療現場そのものを象徴しているといいなと思った.
國松淳和(南多摩病院 総合内科・膠原病内科)
この書評を書くにあたりまずタイトルを決めた.女性からの相談に乗ってあげるための本.(國松にしては)いささか普通のタイトルだなと思いつつ,これだなと思った.そしていざ書評文を書こうと思ったとき,ふと編著者の一人である中山明子先生の「はじめに」を読んで,驚いた.最後の一文が,「女性の健康相談に乗れる」という医療者が多くなり,女性の相談窓口が増えることを願っている,なのであった.なんと,そのまんまだったのだ.少し迷ったが,タイトルは修正しないことにした.
この本の良いところの1つ目.女性に関する重要な臨床問題について項目が網羅されている.たとえばHPVワクチン,妊娠・授乳中の女性への投薬,LGBTQsなど,日頃気にしている問題意識であるもののきちっと把握し切れていなかった事柄について簡潔ながら堅実なまとめがなされていて,資料・手引きとして有用である.この点,外来診察室に常に置いておく価値がある.実際私はそうしようと思う.
2つ目は,各項目の最後に「こんな女性に出会ったら」「私の伝え方」「思考のあしあと」という見出しによってまとめられた,“事例プラス実践”の記述である.これが実に有益である.やはり著者の私見に触れられるのは書籍の醍醐味である.またレイアウトやフォント,小イラストなども柔らかく(これを言ったら怒られるかもしれないが)女性的で,つまりは可愛い.
最後.この本を読めば,臨床家として行動変容が起きるという点である.たとえば,p.300 ~ 307の低用量ピルの項では,使用法の概説の後で末尾に「ぜひプライマリ・ケア医の皆様も処方を開始して欲しい」とある.実際ピルの処方プロセスで重要なのは病歴聴取(リスク把握など)と説明(メリット・デメリット)であり,危険な薬ではないことが記述が具体的なのもあって良くわかる.そもそもピルに関連する合併症の対処は,婦人科というより内科的である.
そういえば全体を通して記述が簡潔にして穏やかで読みやすいのは,変にひどく初学者に寄り過ぎず,安直で緩すぎる雰囲気がないし,またガチガチに学術的でもなく,絶妙だからだろう.個人的には,変に“家庭医/ プライマリ・ケア医推し”でなく,あるべき論みたいなのが(プロローグを除けば)薄いのが好感を持てた.そう,もはや家庭医療/プライマリ・ケアの精神を喧伝する時代は終わりにしたらいいのだ.家庭医療/ プライマリ・ケアは,独立するものではなく,われわれの診療に染み込むものであって欲しい.本書から醸し出される落ち着いた雰囲気は,未来の診療現場そのものを象徴しているといいなと思った.