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カテゴリー: 内科学一般  |  救急医学/災害医学

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急変するかも! 重症感がある… 何かヘンだ?

危険なサインの謎を解く

1版

東京医科歯科大学 特命教授 奈良信雄 監修
津田沼中央総合病院 内科 佐仲雅樹 編集

定価

2,420(本体 2,200円 +税10%)


  • A5判  108頁
  • 2016年4月 発行
  • ISBN 978-4-525-20381-8

五感を使って“危険なサイン”を見抜く!!

危険なサインを直感的に察知することは,知識を学ぶだけで身につくものではない.医療現場で経験を積み重ね,丁寧に振り返ることで習得できる.本書では「経験と振り返りのサイクル」を効果的に促進する生きた知識や五感を使って危険なサインを見抜く方法として著者が提示する「五感アセスメント」を解説.すべての医療スタッフにお勧めの一冊.

  • 序文
  • 目次
序文
監修のことば

 「患者が大変危険な状態に晒されている」ことを察知するのは,医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師など,すべての医療者にとってきわめて重要である.救命救急士,介護者も同様である.一般人にとっても,目の前の人が危険な状態にあるかどうかを判断できることが望まれる.
 病気や治療を解説している教科書は数多い.ところが,同じ病気を解説しても,患者の容態が生命の危機にさらされたり,急激に悪化する状態にあることを説明している書物はほとんどない.たとえば,肺炎では,発熱,呼吸困難,咳,痰などの症状があることを解説しているが,どういう状態だと生命に危険が迫っているかを論理的に解説していない.
 医療の現場では,いち早く患者が生命の危機にあるかを察知し,どう対処するかが患者の予後を改善するのに重要である.医療従事者に重要と言われながらもこうした危険察知マニュアルがない点に着目し,本書は危険な状態を察知する徴候をわかりやすく説明し,しかもその理論的背景を解説している.典型的な症例を挙げてから解説に入っている点は読者に関心を呼ぶだろう.
 危険なサインをいかにキャッチするか,危険なサインの理論的背景は何か.注意すべき点を,ホメオスタシスの変化に対応するサバイバルシステムの観点からわかりやすく説明している.得てしてこの類の書物は言葉に難解なことが多いが,本書ではまずKeywordで解説している点も素晴らしいと思う.
 著者の佐仲雅樹博士は,長年の臨床経験から危険を察知する徴候を修得された.そして,この経験を広く伝え,医療の向上につなげるべく,本書を刊行された.既存の書物にはない切り口であり,すべての医療者,介護者,救命救急士,また一般の方に読んでいただきたい.実際の症例解説も多く,必ずや医療現場,介護現場で役立つと思う.

2016年初春

東京医科歯科大学 特命教授
奈良信雄



はじめに

 五感を使って「危険なサイン」を見抜く方法を「五感アセスメント」と呼ぶことにする.一般に五感とは視・聴・触・臭・味覚を指すが,患者をみる場合に味覚を用いることはない.その代わりに「直感(いわゆる第六感)」を入れて「五感」とする.危険なサインとは,急変や全身状態の悪化を予想させる手がかりのことである.五感アセスメントは,医師を初めとしてすべての医療者に求められる最も基本的なスキルであり,当然,臨床教育においても重視すべきテーマといえる.
 これまでも多くのテキストで急変の前兆/予兆,あるいは危険なサインがテーマとなり,その詳細が解説されてきた.しかし,「知識」をいくら学んでも,それを「現実」の患者に当てはめるとき,「うまくいかない」と感じる研修医(あるいは若手の医療スタッフ)は多いのではないだろうか.指導医も「知識」の背景にある,より本質的な「現実」が伝えられなくて,「もどかしい」と感じているのではないだろうか.「知識」と「現実」にはギャップがある.例えば,ショックを考えてみる.多くのテキストには,冷汗,頻呼吸,四肢の冷感など,言葉で表された客観的な「知識」が列挙されている.しかし,「冷汗」,「頻呼吸」,「四肢の冷感」という「知識」は何となく冷めていないだろうか.われわれが向きあう生々しい「現実」とは,苦しんでいる患者である.患者は生き延びるために,生命の危機に対して強く抵抗する.冷汗をかいて,息が荒く,手足が冷たくなっている患者の,こちらの身に迫ってくるような様子,全体像がある(図).「抵抗している患者の様子」とは第一印象,見た目,雰囲気とでもいうべきもので言葉で表現しにくいが,これこそが危険なサインの本質であり「現実」である.本書では「抵抗している患者の様子」を「全体イメージ」と呼んでいる.筆者が目指すところは,「知識」から「現実」への橋渡しであり,その鍵となるのが「全体イメージ」である(図).
 危険なサインを直感的に察知することは,ベテラン医師や看護師の「職人技」やセンスなどと言われる.このようなセンスを身に着けるには,「知識」を学びつつ,「現実」の経験を積み重ねていかなければならない.「全体イメージ」を知ることによって,「知識」が「現実」として実感できるようになるであろう.危険なサインを捉える五感アセスメントは,患者と接するすべての医療者にとって,有益なものだと考えている.
 本書を執筆するにあたって,脳神経学者であるアントニオ・R・ダマシオの著書を大いに参考にした.ダマシオは「脳と身体は個体の生存のために一体となって機能する」という大前提に立って,「情動,心,意識」を解明しようとしている.つまり,「脳」という部分ではなく,「人間」という全体を理解することが重要なのである.本書で強調している「生き残るために抵抗している患者の様子(全体イメージ)」というアイデアは,このダマシオの視点に基づいている.本書で参考文献に挙げているダマシオの著書は,患者をみるときに感じる「知識」と「現実」のギャップを埋めるために,非常に示唆に富むものである.御一読をお勧めする.
 さいごに本書の執筆にあたり東邦大学医療センター大森病院 総合診療・救急医学講座 助教 佐々木陽典氏と教授 瓜田純久氏にご協力を頂きました.深く感謝いたします.

2016年春

津田沼中央総合病院 内科
佐仲雅樹

目次
第Ⅰ章 危険なサインと全体イメージ

 1.重要事項の概説
   ・急変とは? 予兆とは?
   ・全体イメージとサバイバルシステム
   ・医療者の直感
   ・全体イメージ
   ・危険なサインの構造
   ・「何だかヘンだ」と「重症感」
  
2.ケースシナリオ
   ・病棟で
   ・患者宅で
   ・救急外来で
   ・CT検査室で


第Ⅱ章 急変と全身状態の病態生理

 1.重症度と緊急度
   ・全身状態,重症度,緊急度の定義
   ・全身状態と予兆
   NOTE. 全身状態,重症度,緊急度の関連

 2.全身状態悪化とホメオスタシスの乱れ
   ・ホメオスタシスと細胞外液
   ・ホメオスタシスの乱れ

 3.ホメオスタシスと侵襲
   ・侵襲としての組織損傷
   ・組織損傷と炎症反応

 4.全身状態悪化と急変と予兆
   ・ガス交換サイクルと急変
   ・全体イメージと予兆
   ・広域波及性炎症反応とSIRS


第Ⅲ章 全身状態悪化を阻止するサバイバルシステム

 1. 「生き残り」のために進化したシステム
   ・生き残るための「抵抗」
   ・「抵抗力」としてみる全身状態

 2. サバイバルシステムと全身状態  
   ・サバイバルシステムの解剖生理学
   ・「外」に現われる「抵抗力」
   ・抵抗手段としてのサバイバルプログラム   
   NOTE. 自覚症状と不快感


第Ⅳ章 サバイバルシステムからみた危険なサイン

 1.自律神経反応
   ・ショックの代償作用
   ・「偽」の胃腸炎症状
   NOTE. 自律神経反応によるイベントサイン

 2.炎症反応
   ・炎症反応とASB
   ・ASBと冬眠様行動

 3. 換気応答
   ・頻呼吸による抵抗
   ・「動き」で捉える頻呼吸

 4.冬眠様行動
   ・耐え忍ぶ行動

 5.意識障害
   ・軽い意識障害
   ・せん妄
   NOTE. 直感について


第Ⅴ章 危険なサインを捉える五感アセスメントの実践

 1.全体イメージの「手がかり」

 2.「動き」をみる

 3.「顔」をみる
   ・全身状態としての「顔」
   ・「顔」によるコミュニケーション
   ・コミュニケーションの乱れ
   ・顔 色

 4.危険な全体イメージの捉え方
   ・全身状態悪化のプロトタイプ・イメージ
   ・「ぐったり」と「活気がない」
   ・「ざわめく」
   ・「苦しそう」
   ・「脱力」/「虚脱」
   ・「全体イメージ」から「症候サイン」へ  
  NOTE. 全身状態が悪化する3つのパターン
  NOTE. 全身状態とバイタルサイン


第Ⅵ章 ケースシナリオの謎を解く

 1.危険なサインの捉え方

 2.ケースシナリオ
   ・病棟で
   ・患者宅で
   ・救急外来で
   ・CT検査室で


第Ⅶ章 致死的急性疾患と全体イメージ

   ・急性冠症候群
   ・くも膜下出血
   ・細菌性(化膿性)髄膜炎
   ・急性喉頭蓋炎
   ・急性大動脈疾患(急性大動脈解離/大動脈瘤破裂)
   ・腹腔内出血
   ・腹膜炎
   ・敗血症
   ・肺塞栓症
   ・高血糖性意識障害
   NOTE. 「五感を研ぎ澄ます」とは?
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