ワクチンで困るケースをみんなで話してみました
ケースで学ぶ予防接種の実際
1版
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 竹下 望 編集
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 山元 佳 編集
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 氏家無限 編集
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 金川修造 編集
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 大曲貴夫 編集
定価
3,850円(本体 3,500円 +税10%)
- B5判 185頁
- 2014年4月 発行
- ISBN 978-4-525-23101-9
予防接種には行政上の取り決めの要素が多いとはいえ,臨床の現場では実に多くの葛藤があり,公衆衛生,感染症,小児科,内科,旅行医学など関連する領域毎の考え方も存在する.本書では典型的なケースについて,各領域のエキスパートがその現状と展望をディスカッションした.臨床の立場から予防接種を巡る課題に向き合った画期的な一冊.
- 目次
- 序文
- 書評
目次
PartⅠ.小児へのワクチン接種を巡って
1集団生活でリスクが上昇する疾患を予防する
保育園に行くことになりましたが,集団生活を始めるにあたって何かワクチン接種を追加した方がいいでしょうか?(1歳5ヵ月女児の母親より)
Memo① PCVとPPVの違い
Memo② 免疫不全者への生ワクチンと不活化ワクチン
Memo③ 水痘の合併症
Memo④ Primary vaccine failureとbreakthrough varicella
Memo⑤ MMRVとMMRの副作用
Memo⑥ おたふくかぜワクチンのウイルス株による副反応と予防効果の違い
Memo⑦ HBVジェノタイプについて
2.Vero細胞型日本脳炎ワクチン接種における疑問点
途中までは日本脳炎ワクチンを接種したのですが,その後「接種しなくてよい」と言われ,やめていました.最近新しいワクチンが出たので「また接種した方がよい」と言われました.どうしたらよいでしょうか?(10歳男児の父親より)
Memo① マウス脳培養型ワクチンとVero細胞培養型ワクチン
Memo② 一般的な不活化ワクチンの接種間隔
Memo③ キャッチアップ接種
3.定期接種実施と制度の間に生じる問題点
産後に里帰りしてきたのですが,定期予防接種はどのように行えばよいでしょうか?(6ヵ月女児の母親より)
Memo① 混合診療とワクチン接種
Memo② 予防接種・ワクチン分科会
4.ポリオワクチン:OPVからIPVへの切り替えと今後の展望
生ポリオワクチンで1回目の接種を受けたのですが,2回目はどうしたらよいですか?(1歳男児の母親より)
Memo① ワクチン関連麻痺(VAPP)と2回目のOPV
Memo② 1975〜1977年生まれの方とポリオ
Memo③ アウトブレイクレスポンス
Memo④ ポリオと遺伝子型
5.定期接種以外の任意接種および同時接種
健診に来たのですが,定期接種以外の予防接種はこれからどうしていけばよいですか?(1ヵ月女児の父親より)
Memo① 混合ワクチン
Memo② BCGについて
6.小児へのインフルエンザワクチン
毎年ワクチンを接種していますが,いつもインフルエンザにかかってしまいます.今年も接種した方がいいでしょうか?(9歳女児の母親より)
Memo① インフルエンザワクチンと集団免疫
Memo② インフルエンザワクチンの重症化予防効果
Memo③ 乳児早期のインフルエンザワクチン
Memo④ ギランバレー症候群とインフルエンザワクチン
Memo⑤ インフルエンザワクチンの2回接種
Memo⑥ 経鼻生ワクチンについて
Memo⑦ アジュバント
7.ワクチン接種とアレルギー:接種不適当や接種要注意など
うちの子は卵アレルギーがあるのですが,ワクチン接種は避けた方がいいですよね?(2歳女児の父親より)
Memo① ワクチン以外のコンポーネントによるアレルギー
Memo② 卵アレルギーとワクチン
Memo③ プリックテスト,少量分注法
Memo④ 特異的IgE抗体検査radioallerogosorbent test(RAST)
Memo⑤ 免疫グロブリンとワクチン
8.水痘ワクチン
1歳半の弟が水ぼうそうになりました.兄はまだ水ぼうそうにかかっていないのですが,何かした方がよいでしょうか?(3歳男児の母親より)
Memo① 水痘の一次ウイルス血症と二次性ウイルス血症
Memo② 先天性水痘症候群と新生児水痘
Memo③ 水痘パーティー
Memo④ 水痘ワクチン2回接種の時期
PartⅡ.成人へのワクチン接種を巡って
9.HPVワクチン
子宮頸がん検診で異形成があるといわれ,産婦人科に通院中です.担当の先生にHPVワクチンを接種するように勧められたのですが(28歳独身女性より)
Memo① ヒトパピローマウイルス(HPV)の遺伝子型と子宮頸がんの関係
Memo② ヒトパピローマウイルス(HPV)の遺伝子型と尖圭コンジローマの関係
Memo③ HPVワクチンの積極的勧奨の差し控えについて
10.未承認(輸入)ワクチン
開発援助に携わるため,1ヵ月後に南スーダンに赴任し,1年間滞在の予定です.どんな予防接種を受ければよいでしょうか??(38歳男性より)
Memo① 渡航前に必要となる予防接種の種類と考え方
Memo② 未承認ワクチンとは
Memo③ 輸入代行業者による未承認ワクチンの副反応に対する保険制度
Memo④ 今回のケースで接種が検討されるワクチン
11.成人への肺炎球菌ワクチン
10年以上高血圧と2型糖尿病治療歴のある58歳男性の患者さんです.糖尿病コントロール不良により腎機能が低下しており,今後は血液透析の導入が検討されています.
また20歳頃から1日20本の喫煙歴があり,最近では階段を上る時に息切れを自覚しています.ワクチンによる今後の肺炎予防について教えてください(主治医より)
Memo① 肺炎球菌ワクチン
Memo② 脾摘患者における侵襲性肺炎球菌感染症
12.成人へのインフルエンザワクチン
高齢者施設に入所している80歳の男性で,認知症に加えてCOPDがあり通院中の患者さんです.この方のインフルエンザワクチン接種について,どのように考えるのがよいか教えてください(施設の嘱託医より)
Memo① 超過死亡数について
Memo② インフルエンザ関連疾患のハイリスクグループとは
PartⅢ.トラベラーズワクチンを巡って
13.トラベラーズワクチン接種の実際
タイに渡航予定なのですが,どんなワクチンを接種しておくのがよいでしょうか?(23歳の男子大学生より)
Memo① ワクチン推奨度
Memo② 訪問地域ごとに多い疾患は
14.留学とワクチン接種
留学の際にワクチンを接種するように大学から説明がありました.どうしたらよいでしょうか?(23歳女性より)
Memo① 経口生ポリオワクチン接種者に対する不活化ポリオワクチン追加推奨
Memo② 留学に要求されるフォーマット例
15.小児のトラベラーズワクチン:その姿勢と考え方
タイのバンコクに長期出張予定なのですが,息子に定期接種以外に追加するワクチンはありますか?(2歳男児の母親より)
Memo① 日本脳炎と季節性
Memo② 他国の日本脳炎ワクチン
Memo③ 狂犬病暴露後予防,暴露前予防
Memo④ 腸チフスワクチン
16.妊婦のトラベラーズワクチン
夫がインドネシアに転勤することになったのですが,妊娠しているとワクチンは受けられないでしょうか?(25歳女性より)
Memo① 妊婦と生ワクチン
Memo② トリメスター(3半期)
Memo③ 妊婦と感染症
Memo④ Cocoon strategy
【ワクチン解説】
・組換え沈降B型肝炎ワクチン
・乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン
・乾燥ヘモフィルスb型ワクチン
・沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)
・不活化ポリオワクチン
・沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン
・経口生ポリオワクチン
・経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン
・5価経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン
・乾燥BCGワクチン
・インフルエンザHAワクチン(小児関連情報)
・乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン
・乾燥弱毒生水痘ワクチン
・乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン
・組換え沈降4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン
・組換え沈降2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン
・腸チフスワクチン(Vi多糖体不活化ワクチン,経口弱毒生ワクチン)
・髄膜炎菌ワクチン(莢膜多糖体不活化ワクチン,蛋白結合不活化ワクチン)
・コレラワクチン(1価経口不活化ワクチン,2価経口不活化ワクチン)
・23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(PPV23)
・インフルエンザHAワクチン(成人関連情報)
・乾燥組織培養不活化A型肝炎ワクチン
・乾燥組織培養不活化狂犬病ワクチン
・沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン
1集団生活でリスクが上昇する疾患を予防する
保育園に行くことになりましたが,集団生活を始めるにあたって何かワクチン接種を追加した方がいいでしょうか?(1歳5ヵ月女児の母親より)
Memo① PCVとPPVの違い
Memo② 免疫不全者への生ワクチンと不活化ワクチン
Memo③ 水痘の合併症
Memo④ Primary vaccine failureとbreakthrough varicella
Memo⑤ MMRVとMMRの副作用
Memo⑥ おたふくかぜワクチンのウイルス株による副反応と予防効果の違い
Memo⑦ HBVジェノタイプについて
2.Vero細胞型日本脳炎ワクチン接種における疑問点
途中までは日本脳炎ワクチンを接種したのですが,その後「接種しなくてよい」と言われ,やめていました.最近新しいワクチンが出たので「また接種した方がよい」と言われました.どうしたらよいでしょうか?(10歳男児の父親より)
Memo① マウス脳培養型ワクチンとVero細胞培養型ワクチン
Memo② 一般的な不活化ワクチンの接種間隔
Memo③ キャッチアップ接種
3.定期接種実施と制度の間に生じる問題点
産後に里帰りしてきたのですが,定期予防接種はどのように行えばよいでしょうか?(6ヵ月女児の母親より)
Memo① 混合診療とワクチン接種
Memo② 予防接種・ワクチン分科会
4.ポリオワクチン:OPVからIPVへの切り替えと今後の展望
生ポリオワクチンで1回目の接種を受けたのですが,2回目はどうしたらよいですか?(1歳男児の母親より)
Memo① ワクチン関連麻痺(VAPP)と2回目のOPV
Memo② 1975〜1977年生まれの方とポリオ
Memo③ アウトブレイクレスポンス
Memo④ ポリオと遺伝子型
5.定期接種以外の任意接種および同時接種
健診に来たのですが,定期接種以外の予防接種はこれからどうしていけばよいですか?(1ヵ月女児の父親より)
Memo① 混合ワクチン
Memo② BCGについて
6.小児へのインフルエンザワクチン
毎年ワクチンを接種していますが,いつもインフルエンザにかかってしまいます.今年も接種した方がいいでしょうか?(9歳女児の母親より)
Memo① インフルエンザワクチンと集団免疫
Memo② インフルエンザワクチンの重症化予防効果
Memo③ 乳児早期のインフルエンザワクチン
Memo④ ギランバレー症候群とインフルエンザワクチン
Memo⑤ インフルエンザワクチンの2回接種
Memo⑥ 経鼻生ワクチンについて
Memo⑦ アジュバント
7.ワクチン接種とアレルギー:接種不適当や接種要注意など
うちの子は卵アレルギーがあるのですが,ワクチン接種は避けた方がいいですよね?(2歳女児の父親より)
Memo① ワクチン以外のコンポーネントによるアレルギー
Memo② 卵アレルギーとワクチン
Memo③ プリックテスト,少量分注法
Memo④ 特異的IgE抗体検査radioallerogosorbent test(RAST)
Memo⑤ 免疫グロブリンとワクチン
8.水痘ワクチン
1歳半の弟が水ぼうそうになりました.兄はまだ水ぼうそうにかかっていないのですが,何かした方がよいでしょうか?(3歳男児の母親より)
Memo① 水痘の一次ウイルス血症と二次性ウイルス血症
Memo② 先天性水痘症候群と新生児水痘
Memo③ 水痘パーティー
Memo④ 水痘ワクチン2回接種の時期
PartⅡ.成人へのワクチン接種を巡って
9.HPVワクチン
子宮頸がん検診で異形成があるといわれ,産婦人科に通院中です.担当の先生にHPVワクチンを接種するように勧められたのですが(28歳独身女性より)
Memo① ヒトパピローマウイルス(HPV)の遺伝子型と子宮頸がんの関係
Memo② ヒトパピローマウイルス(HPV)の遺伝子型と尖圭コンジローマの関係
Memo③ HPVワクチンの積極的勧奨の差し控えについて
10.未承認(輸入)ワクチン
開発援助に携わるため,1ヵ月後に南スーダンに赴任し,1年間滞在の予定です.どんな予防接種を受ければよいでしょうか??(38歳男性より)
Memo① 渡航前に必要となる予防接種の種類と考え方
Memo② 未承認ワクチンとは
Memo③ 輸入代行業者による未承認ワクチンの副反応に対する保険制度
Memo④ 今回のケースで接種が検討されるワクチン
11.成人への肺炎球菌ワクチン
10年以上高血圧と2型糖尿病治療歴のある58歳男性の患者さんです.糖尿病コントロール不良により腎機能が低下しており,今後は血液透析の導入が検討されています.
また20歳頃から1日20本の喫煙歴があり,最近では階段を上る時に息切れを自覚しています.ワクチンによる今後の肺炎予防について教えてください(主治医より)
Memo① 肺炎球菌ワクチン
Memo② 脾摘患者における侵襲性肺炎球菌感染症
12.成人へのインフルエンザワクチン
高齢者施設に入所している80歳の男性で,認知症に加えてCOPDがあり通院中の患者さんです.この方のインフルエンザワクチン接種について,どのように考えるのがよいか教えてください(施設の嘱託医より)
Memo① 超過死亡数について
Memo② インフルエンザ関連疾患のハイリスクグループとは
PartⅢ.トラベラーズワクチンを巡って
13.トラベラーズワクチン接種の実際
タイに渡航予定なのですが,どんなワクチンを接種しておくのがよいでしょうか?(23歳の男子大学生より)
Memo① ワクチン推奨度
Memo② 訪問地域ごとに多い疾患は
14.留学とワクチン接種
留学の際にワクチンを接種するように大学から説明がありました.どうしたらよいでしょうか?(23歳女性より)
Memo① 経口生ポリオワクチン接種者に対する不活化ポリオワクチン追加推奨
Memo② 留学に要求されるフォーマット例
15.小児のトラベラーズワクチン:その姿勢と考え方
タイのバンコクに長期出張予定なのですが,息子に定期接種以外に追加するワクチンはありますか?(2歳男児の母親より)
Memo① 日本脳炎と季節性
Memo② 他国の日本脳炎ワクチン
Memo③ 狂犬病暴露後予防,暴露前予防
Memo④ 腸チフスワクチン
16.妊婦のトラベラーズワクチン
夫がインドネシアに転勤することになったのですが,妊娠しているとワクチンは受けられないでしょうか?(25歳女性より)
Memo① 妊婦と生ワクチン
Memo② トリメスター(3半期)
Memo③ 妊婦と感染症
Memo④ Cocoon strategy
【ワクチン解説】
・組換え沈降B型肝炎ワクチン
・乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン
・乾燥ヘモフィルスb型ワクチン
・沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)
・不活化ポリオワクチン
・沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン
・経口生ポリオワクチン
・経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン
・5価経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン
・乾燥BCGワクチン
・インフルエンザHAワクチン(小児関連情報)
・乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン
・乾燥弱毒生水痘ワクチン
・乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン
・組換え沈降4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン
・組換え沈降2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン
・腸チフスワクチン(Vi多糖体不活化ワクチン,経口弱毒生ワクチン)
・髄膜炎菌ワクチン(莢膜多糖体不活化ワクチン,蛋白結合不活化ワクチン)
・コレラワクチン(1価経口不活化ワクチン,2価経口不活化ワクチン)
・23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(PPV23)
・インフルエンザHAワクチン(成人関連情報)
・乾燥組織培養不活化A型肝炎ワクチン
・乾燥組織培養不活化狂犬病ワクチン
・沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン
序文
予防接種は,7価肺炎球菌結合型ワクチン(現在は13価肺炎球菌結合型ワクチン),ヘモフィルスb型ワクチン(インフルエンザ桿菌ワクチン),2価ヒトパピローマウイルスワクチン,4価ヒトパピローマウイルスワクチン,不活化ポリオワクチン,百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン,経口弱毒生ロタウイルスワクチンと2010年度以降に複数のワクチンが承認された.これまで,先進国ではすでに認可されているワクチンの多くが,日本では未承認であることは大きな課題であったが,少しずつ改善されており,医療者にとっては,ワクチンの選択肢が増えたこととようやく安心して使える状態になったという印象がある.
しかし,いまだに医療者も予防接種される立場の人にとっても,課題は残っている.新規のワクチンが導入されたことで,被接種者や家族の関心も高くなり,接種現場での情報提供や,同時接種の必要性について説明する時間の確保がこれまで以上に課題となっている.また,諸外国と比較すると,定期接種となっているワクチンの種類は十分とは言えない.任意接種のワクチンについては,一部の自治体では補助も行われているが,居住地や保護者の経済力によって子どもの健康にかかわるサービスに格差が生じている.さらに,麻疹や風疹をはじめとする「ワクチンで予防できる疾患」の地域流行が未だ続いている日本国内では,高い予防接種率を維持できるよう,普段からの予防が重要であることを,改めて認識せざるを得ない状態である.
このようにワクチンの開発・普及が進むなか,予防接種に関わる医療者は今後増加することは確実である.また,従来小児期が中心であった予防接種は,接種もれ対象者や基礎疾患をもつ方々への対応,海外渡航時の相談など,プライマリ・ケア領域をはじめとする医療職の参画が必要になっている.どのような点に注意をして,リスクアセスメントを行い,説明するかといったスキルの共有が課題となる.
本書では,日常診療で考えられるケースを通して,どのように考えて予防接種計画をたて,説明を加えるかについて議論されている.複数の専門家の視点で構成されているため,すべての専門家が一致する内容もあれば,多少の見解の相違が生じる内容もある.教科書やマニュアルでは明記しづらいニュアンスも割愛せず,実臨床に応用できる考え方のプロセスを提示するように心がけた.
なお本書の制作にあたり,多くのご助言を頂いた南山堂の編集部の皆様に感謝をいたします.
2014年 2月
編者を代表して 竹下 望
しかし,いまだに医療者も予防接種される立場の人にとっても,課題は残っている.新規のワクチンが導入されたことで,被接種者や家族の関心も高くなり,接種現場での情報提供や,同時接種の必要性について説明する時間の確保がこれまで以上に課題となっている.また,諸外国と比較すると,定期接種となっているワクチンの種類は十分とは言えない.任意接種のワクチンについては,一部の自治体では補助も行われているが,居住地や保護者の経済力によって子どもの健康にかかわるサービスに格差が生じている.さらに,麻疹や風疹をはじめとする「ワクチンで予防できる疾患」の地域流行が未だ続いている日本国内では,高い予防接種率を維持できるよう,普段からの予防が重要であることを,改めて認識せざるを得ない状態である.
このようにワクチンの開発・普及が進むなか,予防接種に関わる医療者は今後増加することは確実である.また,従来小児期が中心であった予防接種は,接種もれ対象者や基礎疾患をもつ方々への対応,海外渡航時の相談など,プライマリ・ケア領域をはじめとする医療職の参画が必要になっている.どのような点に注意をして,リスクアセスメントを行い,説明するかといったスキルの共有が課題となる.
本書では,日常診療で考えられるケースを通して,どのように考えて予防接種計画をたて,説明を加えるかについて議論されている.複数の専門家の視点で構成されているため,すべての専門家が一致する内容もあれば,多少の見解の相違が生じる内容もある.教科書やマニュアルでは明記しづらいニュアンスも割愛せず,実臨床に応用できる考え方のプロセスを提示するように心がけた.
なお本書の制作にあたり,多くのご助言を頂いた南山堂の編集部の皆様に感謝をいたします.
2014年 2月
編者を代表して 竹下 望
書評
山口征啓 先生 (健和会大手町病院感染症内科 副院長)
本書は,その名前の通りワクチン診療を行っている医師の対談をもとにしている.登場する医師は,各方面の第一線で診療を行っている医師たちで,とても豪華な顔ぶれである.ケーススタディとディスカッション形式のためにとても読みやすいが,内容は非常に濃厚であり,読者に現場のノウハウを伝えようという著者らの熱意を感じる.
各章が一つのワクチンを対象にしており,PartIは小児8ケース,PartⅡが成人4ケース,PartⅢがトラベラーズワクチン4ケースという構成になっている.どれも本当に「困るケース」なのであるが,それらに対して基本的な知識に加えて,実践的なTipsやコツが満載である.たとえば,引っ越しで自治体が変わった場合の対応,2種類の製剤を組み合わせる場合,季節が逆になる南半球へ旅行する場合,卵アレルギーの対応,妊婦の渡航ワクチンなどなどである.またワクチン診療では費用が問題となることが多いが,保険適応や公費負担,接種法など細かいところまで議論されている.各所で重要なエビデンスを紹介しつつも,エビデンスの届かないところには貴重なエキスパートオピニオンが述べられている.このようなコツは,成書や講演会では得にくく,実際にワクチン外来で研修をしないと習得は難しいが,本書はケースとディスカッション形式をとることで,これらをまとめることに成功している.
各章のはじめには各ワクチンについてまとめられており,後から参照するときにもわかりやすい.各章の最後にはTake home messageが箇条書されている.また本書はディスカッションを元にしているが,収録日と最終更新日がきちんと記載されており,良心的である.
日本のワクチン診療は,諸外国に遅れていたワクチンの導入や新たなワクチンの登場で大きく変化しており,アップデートが重要になっているが,小児から高齢者までカバーしている本書は,プライマリケアの医師の診察室にお勧めの1冊である.
本書は,その名前の通りワクチン診療を行っている医師の対談をもとにしている.登場する医師は,各方面の第一線で診療を行っている医師たちで,とても豪華な顔ぶれである.ケーススタディとディスカッション形式のためにとても読みやすいが,内容は非常に濃厚であり,読者に現場のノウハウを伝えようという著者らの熱意を感じる.
各章が一つのワクチンを対象にしており,PartIは小児8ケース,PartⅡが成人4ケース,PartⅢがトラベラーズワクチン4ケースという構成になっている.どれも本当に「困るケース」なのであるが,それらに対して基本的な知識に加えて,実践的なTipsやコツが満載である.たとえば,引っ越しで自治体が変わった場合の対応,2種類の製剤を組み合わせる場合,季節が逆になる南半球へ旅行する場合,卵アレルギーの対応,妊婦の渡航ワクチンなどなどである.またワクチン診療では費用が問題となることが多いが,保険適応や公費負担,接種法など細かいところまで議論されている.各所で重要なエビデンスを紹介しつつも,エビデンスの届かないところには貴重なエキスパートオピニオンが述べられている.このようなコツは,成書や講演会では得にくく,実際にワクチン外来で研修をしないと習得は難しいが,本書はケースとディスカッション形式をとることで,これらをまとめることに成功している.
各章のはじめには各ワクチンについてまとめられており,後から参照するときにもわかりやすい.各章の最後にはTake home messageが箇条書されている.また本書はディスカッションを元にしているが,収録日と最終更新日がきちんと記載されており,良心的である.
日本のワクチン診療は,諸外国に遅れていたワクチンの導入や新たなワクチンの登場で大きく変化しており,アップデートが重要になっているが,小児から高齢者までカバーしている本書は,プライマリケアの医師の診察室にお勧めの1冊である.