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カテゴリー: 感染症学  |  臨床薬学

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目指せ感染症マスター!

抗菌薬処方支援の超実践アプローチ

1版

中村記念南病院 薬剤部 山田和範 著
感染症コンサルタント 岸田直樹 監修

定価

3,850(本体 3,500円 +税10%)


  • B5判  316頁
  • 2015年6月 発行
  • ISBN 978-4-525-23301-3

限りある医療資源,限られた環境で論理的な思考過程のもと,いかに質の高い感染症マネジメントを実践するか.
本書はこれに応える一冊です.
月刊誌『薬局』の好評連載をさらにパワーアップして書籍化した本書は,処方支援を行う上での薬剤師の視点,思考ロジックを詳細にわかりやすく解説します.

  • 監修のことば
  • 序文
  • 目次
  • 書評 1
  • 書評 2
  • 書評 3
  • 書評 4
監修のことば
 臨床感染症はこの数年で大きく変化しています.今後もまだ10年近くはさまざまな点で変化の連続だと思いますが,それにキャッチアップできている医療従事者とそうでない医療従事者の差が現場ではとても大きくなってきている印象です.PK-PDに基づいた抗菌薬の投与法についてだけでなく,診断につながる適切な培養提出とその解釈,そして適切な抗菌薬および治療期間への知識は,医師でも習得できている人とそうでない人で大きな差ができています.よって,ちょっと勉強した研修医のほうがはるかにすばらしい感染症マネジメントをしているという状況が起こっていますし,適切に勉強をし始めている薬剤師のほうがはるかに感染症全般の知識があり,現場で信頼され活躍しているということも起こっています.これは誰かが悪いとかではなく,変化を遂げようとしている過渡期であり,適切な感染症教育が現場にまだまだ行き届いていないことによります.可能であれば,気軽に相談できる適切に教育を受けた感染症専門医が各病院に一人でもいてほしところですが,そのような体制になるにはまだまだ時間がかかりそうです.このような中,世界的に耐性菌が急速に増加拡大にあり,抗菌薬適正使用は急務の課題であると2014年にWHOの声明がありました.このWHOの報告には,その役割を担う職種として薬剤師と明確に記載しています.このような日本および世界の現状を踏まえ,臨床感染症のサポートをぜひ薬剤師にお願いできればと心から思います.特に感染症は医師だけではなく,看護師・薬剤師・検査技師でのチーム医療が重要な代表的分野と思います.内容としては,究極的には薬剤師が持つべきスキルをやや超えた部分があると感じられるかもしれません.しかし,本書のようにコミュニケーション能力に長けた適切な知識を持った新時代の薬剤師が,医師と協同のもと,日本の医療現場をすでに支えていることは間違いありません.そして何より,薬剤師業務の一つである「適切な処方提案」という側面において,臨床感染症は最もやりがいがある分野ではないかと感じます.
 本書では,第一線で活躍している薬剤師の日々の感染症マネジメントがその思考過程を詳細に提示する形で,ある意味生々しく,極めて臨場感ある形で記載されています.薬剤師の知識を生かしてさまざまな現場の状況にも配慮しつつ,医師と同じ目線でディスカッションしていることに気がつくでしょう.適切な抗菌薬の選択・量・投与間隔・投与期間へのサポートができるためには,医師の診断への思考過程も理解しなければ,患者に不利益が生じ得ます.そして,それを伝えるコミュニケーションスキルが重要になります.ぜひ薬剤師も現場に出て,医師とディスカッションしながら患者のマネジメントに参加してください.よろしくお願いします.

2015年6月
岸田直樹
序文
 わが国は超高齢社会に待ったなしで突き進んでおり,将来,未曾有の医療環境が待ち受けていることは想像に難くありません.薬剤師を取り巻く環境もその大きなうねりの中にあります.これを危機(ピンチ)ととるか好機(チャンス)ととるかは薬剤師ごとで違うかもしれません.薬剤師の業務は多岐にわたり,一昔前には想像もできなかった分野に積極的に進出しています.本書を手に取っていただいたみなさんは,感染症の分野でもピンチをチャンスに変えたいと考えている普段から問題意識の高いかただと思います.
 感染症はどの診療科でも目にする疾患です.その意味では感染症とその治療について「自分の担当病棟では関係ない」だとか,がん化学療法のように「自分の施設ではみない治療だ」とはなりません.現在,全国各地の病院薬剤師の中には,TDM解析を武器に治療に関与している方や,病棟薬剤師として医師とともに感染症治療に協同参画しながら多角的なアプローチを実践して臨床で活躍している方も大勢いると思います.しかし,質の高い感染症診療を実施できていない施設がまだまだ多いのも事実です.大きな病院では感染症科や感染症専門医,インフェクションコントロールドクターが充足されており,これらの専門医に気軽にコンサルトすることができるかもしれません.一方,大多数の中小病院では,抗菌薬の使い方について医師から相談されている薬剤師も多いと思います.ここで臨床感染症の知識を持った薬剤師が適切な情報提供を行い,医師と一緒になって治療に取り組むことで,より良いアウトカムが期待されます.また,医師は自分の専門領域の治療に専念することもでき,人材の上でも医療資源を適切に配置することが可能となります.
 本書を通じて,限りある医療資源,限られた環境で論理的な思考過程のもと,より質の高い感染症診療を実践するべく奮闘している薬剤師の姿から,このような薬剤師からの感染症治療へのアプローチもあることを知っていただければ幸いです.また,本書では症例に関し,できる限りグラム染色の鏡検画像を掲載しました.医師や細菌検査技師が解説したグラム染色所見を掲載した良書はたくさんありますが,薬剤師がこの分野に積極的に関わったものとして,他書とは一線を画した書籍と自負しています.
 なお,本書の舞台は病院のため,読者対象は病院薬剤師がメインのように思われるかもしれません.しかし,薬局薬剤師も在宅医療をはじめ,その活躍の場は広がっています.感染症やその治療の知識を活かして服薬指導にあたり,必要に応じて適切な早期の受診勧奨を患者さんに行っていただきたいと思います.
 最後に,本書の発刊にあたり企画段階からご尽力いただきました根本英一氏をはじめとする南山堂編集部の皆様に感謝申し上げます.また,監修いただきました岸田直樹先生には著者の不勉強でご負担をおかけし,多忙を極める中,いつも適切なアドバイスを懇切丁寧にいただき完成まで辿りつくことができました.心より感謝申し上げます.さらに,これまでご指導・ご協力いただきました社会医療法人医仁会中村記念南病院の理事長,院長,診療部の諸先生方,および筆者が所属します薬剤部の科長をはじめ関係諸氏の皆様にこの場を借りて深く感謝申し上げます.

2015年6月
山田和範
目次
第1章 知っておきたい基本のキホン!
1 徹底理解! グラム染色
2 培養結果と薬剤感受性はこう考える!
3 Review of Systemを使いこなそう!
4 薬剤耐性菌にはどう対応する!?

第2章 抗菌薬処方支援の実践!

1 尿路感染症
・心原性塞栓症発症後の発熱
・抗菌薬使用2日目にも解熱しない腎盂腎炎
・尿道カテーテル留置中の尿路感染症
・腎移植歴がある入院患者の発熱

2 呼吸器感染症
・発熱に伴い体の動きが悪くなったパーキンソン病患者
・嚥下障害のある高齢者の発熱
・急な意識障害と発熱、循環動態不全に陥った入院患者
・入院中息苦しさと倦怠感を訴えた患者
・肺炎の治療終了1週間後に発熱と呼吸器症状が再燃した入院患者
・咽頭浮腫で挿管管理中の入院患者の発熱
・脳幹梗塞で入院中の発熱患者

3 骨感染症
・骨折術後の皮下排膿部からMRSAが検出された患者
・左踵に潰瘍がある発熱患者
・発熱と腰背部痛を主訴に入院となった患者

4 ウイルス感染症
・1週間前にかぜの診断で内服抗菌薬を処方されていた頭痛を訴える患者
・長期入院高齢患者の皮疹を伴う発熱

5 皮膚軟部組織感染症
・サッカー練習中の外傷と3日後の発熱と皮膚発赤
・慢性硬膜下血腫の穿頭術後の皮膚発赤と発熱

6 カテーテル関連血流感染症
・中心静脈カテーテル留置患者の発熱

7 脳膿瘍
・食欲低下から体重が減少し歩行困難に至った患者

8 感染性心内膜炎
・1週間前から床上生活となっていた高齢患者

付 録
1 感染症の治療効果判定パラメータの例
2 各種抗菌薬投与量の目安
書評 1
徳田安春 先生(地域医療機能推進機構(JCHO)本部 顧問)

病院医療の価値を高める実践書

 著者を存じ上げていなかったので,バイアスなしに読んで,「すごい本」であることが分かった.著者は「すごい!」のである.患者ケアでの著者のパフォーマンスは,一般の非感染症科医師が行うレベルを超えているのだ.監修者が感染症専門医であるとはいえ,この本の内容を読むと,著者が行っているパフォーマンスの質の高さが分かる.
 まず,病歴聴取と身体診察について,ポイントをおさえながら詳細に記述している.ベッドサイドに足しげく通い,診断に決定的なフィジカル所見をみつけている.医師が見逃すような,CRBSIでのライン刺入部の発赤や心内膜炎での粘膜の点状出血,糖尿病足での骨まで届く深い皮膚潰瘍,など,これを読むと感染症診療でのフィジカル診断のポイントが分かる.
 また,徹底的なグラム染色検査を施行している.医療関連感染症で問題となる肺炎と尿路感染症の可能性を常に念頭において,喀痰と尿を染めている.その解釈も非常に専門的なハイレベルである.また,抗菌薬投与後のグラム染色検査を行って,治療効果の判定をみずから行っている.読者もグラム染色を「やってみよう」という気になる.
 鑑別診断の根拠も妥当である.もちろん,推奨する抗菌薬内容は,論理的で薬学的な知識を存分に提供してくれている.各種感染症のモニタリング法も,症状,バイタルサイン,身体所見などを重視し,CRP値や画像検査に振り回されることのない,高価値な医療(High Value Care)を実践している.ベッドサイドでフィジカルを取れる薬剤師が今後ますます増えてくるであろう.
 各ケースの後の反省点も正直で潔い.医師が書く本にはあまりない部分で,謙虚さと向学心がうかがえる.監修者からのコメントも有用であり,ピットフォールを分かりやすく示してくれている.参考文献も最新のものであり,メジャーなジャーナルから慎重に引用している.一読した直後に評者は,著者が勤務している病院を検索した.薬剤師がこの高価値医療を提供できている病院を知りたかったためだ.調べてみると,札幌市内の脳神経科病院であった.著者の病院のように,薬剤師と医師がうまく協働して,感染症ケアを薬剤師中心に行っている病院が今や全国に広がりつつある.
 評者の結論は,全国の病院薬剤師が本書を読み感染症ケアの重要な一員になるということ,である.全国の薬剤師が本書の内容を実践すれば日本全体の医療の価値が高まるであろう.
書評 2
大曲貴夫 先生(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)

感染症診療に数歩踏み込みたい薬剤師のための手引書

 わが国における感染症診療は過去10年で大きく変わった.好ましい変化であるといえる.感染症の原則的な考え方の重要性が医療現場で理解されるようになり,医療実践も変わってきている.
 従来,そのリーダーは感染症を専門とする医師,あるいは感染症診療を得意とする各科の医師であった.しかし,感染症を得意とする医師がいない現場も現実にはよくある.ならば関係する者が力を合わせて臨んでいくしかない.そこで大きく力を発揮するのが薬剤師である.
 日本の医療現場では感染症の診療に深く参画する薬剤師が増えてきていることを,筆者は実感している.しかし,薬剤師が感染症の診療に関わることは必ずしも楽ではない.意見を求められるのが用法・用量などに限られていればまだよい.しかし,実際には「よくならないから何か抗菌薬を教えて欲しい」などの極めて難しい質問を受けて答えられずに苦悶する,なにやら怪しげな抗菌薬処方をしている医師に治療を変えさえようとしてもその医師を納得させるような意見を述べることができないなど,厳しい現実があるのも事実である.
 無理をせずそこには踏み込まないことも選択の一つである.ヤケドする.しかし,そこで踏み込むと決心したならば,腹を括って学んで実践するしかない.何を学ぶかといえば,感染症診療の考え方を実際の場で適用して自分の実力にしていくことである.すなわち,さまざまな患者・多様な疾患の患者がいる中で,その問題にどう対処するかを,原則的な考え方を手がかりに何度も繰り返すことである.
 本書は事例ベースで構成されている.しかし,事例に直面したときの考え方をどうすべきかを,医師と薬剤師の対話の形で愚直に繰り返して説いている.この繰り返しこそが重要である.
書評 3
北田光一 先生(日本病院薬剤師会 会長)

 目覚ましい医・薬学の進展とともに薬物療法が複雑・高度化し、薬剤師独自の視点と新たなスキルを持った、より専門性の高い薬剤師の果たすべき役割は益々増大している。それは、薬剤師による積極的な処方提案であり、薬物治療のモニタリングからマネジメントへの展開である。
 抗菌薬の適正使用に関する業務は比較的早期から薬剤師が展開してきた薬剤業務の一つであり、PK-PD理論に基づいた用法・用量の提案など関わりが深い領域であるが、本書は臨床感染症治療における一歩進んだ一味違った抗菌薬の処方提案における具体的な薬学的アプローチを臨場感ある形で示している。第1章では、基本的検査な解説、培養検査と薬剤感受性結果の解釈、薬剤耐性菌への対応など感染症に対する基本が解説されている。第2章では、各種臨床感染症ごとに臨床検査値等の診療情報、病棟あるいは外来で収集した患者情報や臨床経過等から問題点を整理し、抗菌薬処方支援の実践に至るまでの薬学的推論の過程を分かりやすく解説している。「プロフェッショナルな対応の極意」「医師から薬剤師へのアドバイス」の押さえておくべきポイントは感染症をマスターする上で大変参考になる。
 薬剤師は、薬学的アプローチを介して医薬品の適正使用を実践し、個々の患者に対する最適な薬物治療の提供と医療の安全確保に努め、明確な医療への貢献を示すことが求められている。本書では、具体的な臨床場面ごとに患者の症状や病態から何をどのように考えるかが理解できるよう分かりやすく解説されており、臨床感染症に対するより精度の高い薬学的アプローチを展開するために是非とも一読いただき、活用いただきたい書籍である。
書評 4
山本信夫 先生(日本薬剤師会 会長)

 タイトルに掲げられている「超実践アプローチ」の「超」の意味を、本書を読み解いていくうちに実感することができる。
 臨床で実際に遭遇する症例を提示し、医師から「おすすめの抗菌薬は?」という薬剤師への問い合わせから、Q&A形式で薬剤師が適切な「抗菌薬」を提案するまでの思考過程が詳細に解説されている。吹き出しにある医師と薬剤師のコメントは、ポイントが絞られており、本文の解説の理解がより深まるように構成が工夫されている。本書からはあたかも実際の患者がその場にいるかのような臨場感と緊張感が伝わってくる。しかも、どの診療科でも少なからず直面する「抗菌薬」の処方支援がテーマである。患者の感染症治療になくてはならない抗菌薬だが、その適正使用は耐性菌拡大を防ぐ上で、わが国のみならず今まさに世界的にも重要な課題である。
 症例は病院の外来や入院の患者であるため、患者背景には心音、肺音、腹部などの身体所見や血液、尿、X線などの検査所見が示されているため、一見すると病院薬剤師向けの書籍のようにもみえる。しかしながら、在宅患者を担当する開局の現場でも、この抗菌薬提案への思考過程を十分に理解することは不可欠である。著者が語っているように、薬局薬剤師の活躍の場は、在宅医療をはじめとし、地域全体へと広がっている。今後、地域の医師から「在宅患者におすすめの抗菌薬は?」と処方提案を求められる日もそう遠いことではない。
 薬局薬剤師が地域のチーム医療の一員として、なくてはならない、信頼される「かかりつけ薬剤師」として貢献する上で、本書は、しっかり研鑽積むための格好の書籍となろう。
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