全身性エリテマトーデス診療ガイドライン 2019
1版
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班) 編
日本リウマチ学会 編
日本小児リウマチ学会 編集協力
日本腎臓学会 編集協力
日本皮膚科学会 編集協力
日本臨床免疫学会 編集協力
定価
4,400円(本体 4,000円 +税10%)
- B5判 261頁
- 2019年11月 発行
- ISBN 978-4-525-23471-3
全身性エリテマトーデス患者のマネジメントに必携
全身性エリテマトーデス(SLE)は,全国に6万人以上の患者がいる膠原病の代表的疾患である.SLEは多彩な病態を示す難病であるが,副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬,分子標的薬により治療が飛躍的に進歩してきた.当ガイドラインでは,40を超えるクリニカルクエスチョンを提示し,専門医の実地診療で役立つ情報をまとめている.
- 序文
- 目次
序文
全身性エリテマトーデス(SLE)は全身性自己免疫疾患のプロトタイプであり,過剰なB細胞活性化に伴う多彩な自己抗体産生を背景に,急性/亜急性あるいは慢性の多様な臓器病変を呈する症候群である.
活動性のSLEに対してグルココルチコイド(GC)が有効であることがわかる前は,SLEと診断されたら2年生存することが難しかった.わが国の統計でも,GC治療の黎明期である1960年ころの3年生存率は60%と報告されたが,以後は急速に生命予後が改善し,現在では10年生存率が90%を超えるようになった.一方で,SLEの非可逆的な臓器病変あるいはGCの長期大量投与に伴う合併症によって,SLE患者の生活の質の低下が問題視されるようになってきた.
2019年現在のSLEの治療目標は,生命予後のさらなる改善に加え,長期にわたって患者の生活の質を落とさないこと,すなわち「SLEではない健常者と何もかわらない社会活動を行える」状態を維持すること,ということができる.SLEが若年女性に好発することから,社会活動の意味するところは労働生産性のみでなく,妊娠・出産・育児という家庭活動が大きなウエイトを占めて含まれることは言うまでもない.総じて,SLEの治療目標を「SLEの社会的寛解の維持」とよびたい.
近年,GRADE法を用いた近代的なガイドラインが多くの疾患においてまとめられるようになった.2012年,SLEの臓器病変からループス腎炎を切り出したガイドラインが米国リウマチ学会,および欧州リウマチ学会・腎臓透析学会から相次いで発表され,いずれも秀逸なガイドラインとして日常診療に利用されていた.しかし,全身性疾患としてのSLEについては,その臨床的多様性から治療の標準化は困難であると考えられ,近代的ガイドラインは成立しなかった.そのような中,わが国ではその必要性から厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班)および日本リウマチ学会の合同でSLEガイドライン作成に着手することが決定され,今日まで作成チームの努力が続けられてきた.
SLEという疾患の特殊性,治療に使用する薬剤の特性を考えると,SLEはその診療に習熟した医師によって治療されるべき疾患のひとつであると考える.そのため,本ガイドラインも基本的にはSLE診療医がエビデンスを参照しながら治療プロトコールを実践いただくことを前提に推奨文を作成している.
本ガイドラインがSLE診療に活用され,SLEの治療目標を達成する患者がひとりでも増えることの一助になればたいへん幸いである.
2019年9月
診療ガイドライン統括委員会 委員長
北海道大学大学院 教授
渥美達也
活動性のSLEに対してグルココルチコイド(GC)が有効であることがわかる前は,SLEと診断されたら2年生存することが難しかった.わが国の統計でも,GC治療の黎明期である1960年ころの3年生存率は60%と報告されたが,以後は急速に生命予後が改善し,現在では10年生存率が90%を超えるようになった.一方で,SLEの非可逆的な臓器病変あるいはGCの長期大量投与に伴う合併症によって,SLE患者の生活の質の低下が問題視されるようになってきた.
2019年現在のSLEの治療目標は,生命予後のさらなる改善に加え,長期にわたって患者の生活の質を落とさないこと,すなわち「SLEではない健常者と何もかわらない社会活動を行える」状態を維持すること,ということができる.SLEが若年女性に好発することから,社会活動の意味するところは労働生産性のみでなく,妊娠・出産・育児という家庭活動が大きなウエイトを占めて含まれることは言うまでもない.総じて,SLEの治療目標を「SLEの社会的寛解の維持」とよびたい.
近年,GRADE法を用いた近代的なガイドラインが多くの疾患においてまとめられるようになった.2012年,SLEの臓器病変からループス腎炎を切り出したガイドラインが米国リウマチ学会,および欧州リウマチ学会・腎臓透析学会から相次いで発表され,いずれも秀逸なガイドラインとして日常診療に利用されていた.しかし,全身性疾患としてのSLEについては,その臨床的多様性から治療の標準化は困難であると考えられ,近代的ガイドラインは成立しなかった.そのような中,わが国ではその必要性から厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班)および日本リウマチ学会の合同でSLEガイドライン作成に着手することが決定され,今日まで作成チームの努力が続けられてきた.
SLEという疾患の特殊性,治療に使用する薬剤の特性を考えると,SLEはその診療に習熟した医師によって治療されるべき疾患のひとつであると考える.そのため,本ガイドラインも基本的にはSLE診療医がエビデンスを参照しながら治療プロトコールを実践いただくことを前提に推奨文を作成している.
本ガイドラインがSLE診療に活用され,SLEの治療目標を達成する患者がひとりでも増えることの一助になればたいへん幸いである.
2019年9月
診療ガイドライン統括委員会 委員長
北海道大学大学院 教授
渥美達也
目次
Clinical Question(CQ)一覧
全身性エリテマトーデス診療ガイドライン作成組織
発刊にあたって
ガイドラインを有効に活用するために
診療のアルゴリズム
第1章 全身性エリテマトーデス(SLE)の診断
CQ 1 診断にはどの分類基準が参考になるか?
第2章 ループス腎炎
CQ 2 ループス腎炎の予後とISN/RPS分類は関係があるか?
3 グルココルチコイド治療の基本的な考え方は何か?
4 グルココルチコイドの漸減や維持療法はどのように行うべきか?
5 寛解の定義と意義は何か?
6 ISN/RPS分類Class Ⅲ/Ⅳの適切な寛解導入の治療は何か?
7 ISN/RPS分類Class Ⅴの適切な寛解導入の治療は何か?
8 ISN/RPS分類 Class Ⅲ/Ⅳの適切な寛解維持の治療は何か?
9 ISN/RPS分類Class Ⅴの適切な寛解維持の治療は何か?
10 どのような補助療法を行うべきか?
第3章 神経精神ループス
CQ 11 診断・治療効果判断において必要な検査は何か?
12 適切な寛解導入の治療は何か?
13 適切な寛解維持の治療は何か?
第4章 全身性エリテマトーデス(SLE)の皮膚症状
CQ 14 皮疹の活動性評価にCLASIは有用か?
15 皮疹の診断にループスバンドテストは有用か?
16 皮疹の治療にステロイド外用薬は有用か?
17 皮疹の治療にタクロリムス外用薬は有用か?
18 皮疹の治療にグルココルチコイド内服は有用か?
19 皮膚エリテマトーデスに対してヒドロキシクロロキンによる治療は有用か?
第5章 全身性エリテマトーデス(SLE)のその他の全身症状
CQ 20 SLEの関節炎のコントロールはどのように行うか?
21 SLEの漿膜炎(胸膜炎・心膜炎・腹膜炎)に対する治療はどのように行うか?
22 SLEの自己免疫性溶血性貧血に対する治療はどのように行うか?
23 SLEの自己免疫性血小板減少に対する治療はどのように行うか?
24 SLEにおける血栓性微小血管症に対する治療はどのように行うか?
25 SLEの間質性肺炎に対する治療はどのように行うか?
26 SLEの心筋炎に対する治療はどのように行うか?
27 SLEの動脈硬化性変化に対する治療はどのように行うか?
28 SLEの肺高血圧症に対する治療はどのように行うか?
29 SLEの肺動脈塞栓症に対する治療はどのように行うか?
30 SLEの肺胞出血に対する治療はどのように行うか?
31 SLEの腸炎(ループス腸炎)に対する治療はどのように行うか?
32 SLEの膀胱炎に対する治療はどのように行うか?
第6章 全身性エリテマトーデス(SLE)と妊娠
CQ 33 妊娠に関するカウンセリングおよび妊娠前管理をどのように行うか?
34 SLE患者の妊娠管理はどのように行うか?
35 妊娠高血圧腎症およびSLE増悪の管理はどのように行うか?
36 妊娠計画時,妊娠中,出産後・授乳中のSLE治療薬の選択はどのように行うか?
第7章 全身性エリテマトーデス(SLE)患者のモニタリング
CQ 37 疾患活動性評価の適切なモニタリングはどのように行うか?
38 臨床的寛解とその適切な評価項目は何か?
39 合併症のモニタリングはどのように行うか?
第8章 薬と小児
CQ 40 SLEに対してヒドロキシクロロキンをどう使うか?
41 SLEに対してシクロホスファミド間欠静注療法をどう行うか?
42 SLEに対してミコフェノール酸モフェチルをどう使うか?
43 SLEに対してカルシニューリン阻害薬をどう使うか?
44 SLEに対してリツキシマブをどう使うか?
45 SLEに対してベリムマブをどう使うか?
46 小児期発症SLEの臨床的特徴にはどのようなものがあるか?
略 語
索 引
全身性エリテマトーデス診療ガイドライン作成組織
発刊にあたって
ガイドラインを有効に活用するために
診療のアルゴリズム
第1章 全身性エリテマトーデス(SLE)の診断
CQ 1 診断にはどの分類基準が参考になるか?
第2章 ループス腎炎
CQ 2 ループス腎炎の予後とISN/RPS分類は関係があるか?
3 グルココルチコイド治療の基本的な考え方は何か?
4 グルココルチコイドの漸減や維持療法はどのように行うべきか?
5 寛解の定義と意義は何か?
6 ISN/RPS分類Class Ⅲ/Ⅳの適切な寛解導入の治療は何か?
7 ISN/RPS分類Class Ⅴの適切な寛解導入の治療は何か?
8 ISN/RPS分類 Class Ⅲ/Ⅳの適切な寛解維持の治療は何か?
9 ISN/RPS分類Class Ⅴの適切な寛解維持の治療は何か?
10 どのような補助療法を行うべきか?
第3章 神経精神ループス
CQ 11 診断・治療効果判断において必要な検査は何か?
12 適切な寛解導入の治療は何か?
13 適切な寛解維持の治療は何か?
第4章 全身性エリテマトーデス(SLE)の皮膚症状
CQ 14 皮疹の活動性評価にCLASIは有用か?
15 皮疹の診断にループスバンドテストは有用か?
16 皮疹の治療にステロイド外用薬は有用か?
17 皮疹の治療にタクロリムス外用薬は有用か?
18 皮疹の治療にグルココルチコイド内服は有用か?
19 皮膚エリテマトーデスに対してヒドロキシクロロキンによる治療は有用か?
第5章 全身性エリテマトーデス(SLE)のその他の全身症状
CQ 20 SLEの関節炎のコントロールはどのように行うか?
21 SLEの漿膜炎(胸膜炎・心膜炎・腹膜炎)に対する治療はどのように行うか?
22 SLEの自己免疫性溶血性貧血に対する治療はどのように行うか?
23 SLEの自己免疫性血小板減少に対する治療はどのように行うか?
24 SLEにおける血栓性微小血管症に対する治療はどのように行うか?
25 SLEの間質性肺炎に対する治療はどのように行うか?
26 SLEの心筋炎に対する治療はどのように行うか?
27 SLEの動脈硬化性変化に対する治療はどのように行うか?
28 SLEの肺高血圧症に対する治療はどのように行うか?
29 SLEの肺動脈塞栓症に対する治療はどのように行うか?
30 SLEの肺胞出血に対する治療はどのように行うか?
31 SLEの腸炎(ループス腸炎)に対する治療はどのように行うか?
32 SLEの膀胱炎に対する治療はどのように行うか?
第6章 全身性エリテマトーデス(SLE)と妊娠
CQ 33 妊娠に関するカウンセリングおよび妊娠前管理をどのように行うか?
34 SLE患者の妊娠管理はどのように行うか?
35 妊娠高血圧腎症およびSLE増悪の管理はどのように行うか?
36 妊娠計画時,妊娠中,出産後・授乳中のSLE治療薬の選択はどのように行うか?
第7章 全身性エリテマトーデス(SLE)患者のモニタリング
CQ 37 疾患活動性評価の適切なモニタリングはどのように行うか?
38 臨床的寛解とその適切な評価項目は何か?
39 合併症のモニタリングはどのように行うか?
第8章 薬と小児
CQ 40 SLEに対してヒドロキシクロロキンをどう使うか?
41 SLEに対してシクロホスファミド間欠静注療法をどう行うか?
42 SLEに対してミコフェノール酸モフェチルをどう使うか?
43 SLEに対してカルシニューリン阻害薬をどう使うか?
44 SLEに対してリツキシマブをどう使うか?
45 SLEに対してベリムマブをどう使うか?
46 小児期発症SLEの臨床的特徴にはどのようなものがあるか?
略 語
索 引