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カテゴリー: 神経学/脳神経外科学  |  小児科学

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症例から学ぶ戦略的てんかん診断・治療

1版

京都大学大学院医学研究科 てんかん・運動異常生理学講座 教授
池田昭夫 編集
京都大学大学院医学研究科 てんかん・運動異常生理学講座 准教授
松本理器 編集協力
国立病院機構宇多野病院 神経内科 医長 木下真幸子 編集協力

定価

4,180(本体 3,800円 +税10%)


  • B5判  242頁
  • 2014年6月 発行
  • ISBN 978-4-525-24151-3

小児てんかんはもちろん,高齢化に伴い急速に増えている成人てんかんまで幅広いてんかんをバランス良く,症例に基づいて非専門医にもわかりやすく解説.てんかん診療のエキスパートは主訴や症状,また各種検査結果をどう解釈し診断・治療に結び付けていくかという思考過程が臨場感をもってたどれる一冊となっている.

  • 序文
  • 目次
  • 書評
序文
 中枢神経系の臨床分野では,基礎神経科学,分子遺伝学,脳機能検査法等の目覚ましい発展に伴い,従来の神経疾患と精神疾患の区別の垣根が徐々に低くなり,新しい視点からの診断,治療的アプローチを進めることが可能となってきました.その最たるもののひとつが「てんかん」です.従来「てんかん」は本邦では長く精神科疾患として診療されてきましたが,てんかん焦点の生理学的発生機構,分子遺伝学的発現機構,病理学的解明等が進んだ現在,てんかんは有病率が最も高い臨床神経科学の代表的疾患と見なされています.
 21世紀の現在,世界的に急速に高齢者社会となり,一見健常な高齢者に新たに発症する「高齢者てんかん」が急増しています.また神経細胞表面抗原に対する新規抗体が原因で,てんかん発作を主徴とする慢性部分脳炎が明らかにされつつあります.また小児医療の充実により熱性けいれんとその合併症も予防され海馬硬化症は漸減し,てんかん自体の疾病構造も大きく変化しつつあり,てんかん診療は,新たな時代に既に突入しました.
 2010年に日本神経学会が,日本てんかん学会,日本神経治療学会,日本小児神経学会,と協力し「てんかん治療ガイドライン2010」を作成し,診断と治療の「道しるべ」が示されました.医学は実証科学ですから,ガイドラインの内容を実際の症例に当てはめて初めて理解され役に立ちます.本書は,「症例から学ぶ戦略的てんかん診断・治療」として32例を提示しました.各症例にはclinical questionとして重要な内容を明示し,症例を通して実際の診断と治療を読者が追体験できるように構成しました.それにより,ガイドラインの知識がpassive knowledgeからactive knowledgeとなることが期待されます.基本的な症例を中心に,また日常診療で必ず遭遇する問題点をできるだけ分かりやすくお示しできるようにしています.初期研修から専門研修の段階の医師だけではなく,てんかんの分かりやすい実践書として,看護師,脳波技師等の皆様にもお役に立てると思います.
 最後に,分かりやすい症例提示を頂いた分担執筆者の皆様と,本書の企画段階から夢を持って担当して頂きました南山堂の佃和雅子様と橘理恵様に深謝致します.

2014年4月
池田昭夫
目次
Part I.総論

1.概念と定義   (池田昭夫)
 A.概念と定義
 B.ILAEの発作分類とてんかん分類の変遷
 C.てんかんの治療は「炭・石炭の火種を消す」こと

2.診断・検査   (松平敬史,井上有史)
 A.診断の手順
 B.発作情報の整理
 C.非発作性情報の整理
 D.検 査
 E.てんかんの診断
 F.鑑別診断

3.治療① 薬物療法   (兼本浩祐)
 A.無投薬例への投薬の開始
 B.第一選択薬が無効であった場合の第二選択薬
 C.難治例への投薬
 D.特異な状況における薬物療法
 E.減薬・減量・投薬中止
 F.いつ,どのタイミングで専門医へ紹介するか

4.治療② 外科的治療など   (川合謙介)
 A.てんかん外科治療の歴史と現況
 B.外科治療の適応判断
 C.術前検査
 D.頭蓋内脳波
 E.基本的な開頭手術の術式と有効性
 F.その他の準外科的治療
 G.てんかん外科の合併症

PartⅡ.実証例から学ぶてんかん診断と治療

<診 断>
症例1 失神とてんかん発作との鑑別は   (臼井桂子,寺田清人,臼井直敬,井上有史)
 その① 主訴:四肢を硬くして意識を失って倒れ,時に失禁する 17歳 女性 右利き
 その② 主訴:突然意識を失い,全身が硬直する.その後ボタンをまさぐるなどの動作を伴う場合と,倒れて白目をむく場合がある 53歳 男性 右利き

症例2 過眠症とてんかん発作との鑑別は   (宮本雅之,平田幸一)
 主訴:仕事中に急に眠くなる 36歳 女性 右利き 職業:設計プログラム

症例3 全身けいれんは必ずしも意識消失を伴わない   (人見健文,池田昭夫)
 主訴:体がピクっと動く,時に意識もなくなる 27歳 女性 右利き

症例4 脳波と病歴のどちらが重要か   (寺田清人,臼井直敬,井上有史)
 主訴:夜間に不安となり,四肢が“けいれん”する 43歳 男性 右利き

症例5 心因発作とてんかん発作は合併しうる   (岡田元宏)
 その① 主訴:出勤途中で意識消失,全身けいれんを繰り返す 22歳 女性 右利き
 その② 主訴:問題行動の後に発作を繰り返す側頭葉てんかん患者 40歳 女性 右利き

症例6 最も多い急性症候性発作は   (國枝武治)
 主訴:全身けいれん発作 51歳 男性 右利き


<一般治療>
症例7 部分てんかんの一般的な治療は   (矢澤省吾,井上周子)
 主訴:急に言葉が出なくなる,右半身に力が入らなくなる 50歳 男性 右利き

症例8 全般てんかんの一般的な治療は   (山野光彦,赤松直樹,辻 貞俊)
 主訴:全身けいれん発作 21歳 女性 右利き

症例9 精神症状を呈する患者における抗てんかん薬の選択は   (原 恵子)
 主訴:「以前より不機嫌になり,てんかんの発作も増えている」(母親より)38歳 男性 右利き

症例10 腎疾患患者の抗てんかん薬の選択は   (井内盛遠)
 主訴:急にゾクゾクと気持ち悪くなる,別世界に行くような不安・恐怖を感じる 62歳 男性 右利き

症例11 脳卒中患者における抗てんかん薬の選択は   (吉村 元,幸原伸夫)
 主訴:全身けいれん発作 70歳 男性 右利き

症例12 肝疾患患者における抗てんかん薬の選択は   (赤松直樹)
 主訴:1〜2分間意識がなくなり,周りの物を目的なくさわる発作 65歳 男性 右利き

症例13 どの時点で難治てんかんと呼ぶか またその治療法は   (塩田睦記,小国弘量)
 主訴:体が急に右へ引っ張られ回転する 10歳1か月 女児 右利き

症例14 皮疹出現後の第二選択薬は   (三枝隆博)
 主訴:ボーッとして記憶が飛ぶ 72歳 男性 右利き

症例15 てんかん患者の発作様症状は必ずしもてんかん性とは限らない (江刺家有希,太田貴幸,兼子 直)
 主訴:体がフワフワする,目の前がピカピカする,発作が起こりそうな感じ 36歳 男性 右利き

症例16 高齢者の抗てんかん薬選択で注意する点は   (大沼 歩)
 主訴:けいれん,異常行動,記憶障害 74歳 男性 右利き

症例17 新規抗てんかん薬に薬物濃度モニターは有効か   (小出泰道)
 主訴:ふらつき 41歳 男性 右利き

症例18 良性の小児てんかんの治療は成人と異なる   (加藤竹雄)
 主訴:てんかんと診断されたが,抗てんかん薬は必要か? 7歳10か月 男児 右利き

症例19 小児の難治てんかんの治療の大原則は   (下野九理子,永井利三郎)
 主訴:顔を向反させ上肢強直から始まる全身発作 12歳 女児 右利き
症例20 救急外来レベルでのてんかん重積治療法は   (前原健寿)
 その① 主訴:全身けいれんの繰り返し 25歳 男性 右利き
 その② 主訴:反応低下,左上肢の脱力 11歳 男児 右利き

症例21 新規抗てんかん薬は重積状態で有効か   (松本英之,宇川義一)
 主訴:意識がなく,けいれんしている 21歳 男性 右利き

症例22 成人の重積治療時の薬物療法の実際は   (越智さと子,三國信啓)
 主訴:無言,右半身間代強直発作を繰り返すけいれん発作重積,意識障害 30歳 男性 右利き

症例23 小児の重積治療時の薬物療法の実際は   (越智さと子,三國信啓)
 主訴:左上下肢のピクつきが右上肢,顔面に広がった進行性頭蓋骨骨折に伴う脳脱,硬膜下血腫

<外科治療>
症例24 外科的手法が最も有効なてんかんとは   (岩崎真樹,中里信和)
 主訴:意識を失い記憶を伴わない発作 30歳 女性 右利き

症例25 外科的難易度が高いが適応を考慮すべきてんかんは   (白水洋史,亀山茂樹)
 主訴:ボーッとする.四肢を強直させ,転倒する 30歳 女性 右利き

症例26 迷走神経刺激療法は有効である   (森岡隆人)
 主訴:左上肢の脱力や右下肢の異常感覚を感じた後に,意識が減損する 10歳 女児 右利き


<長期展望>
症例27 急性脳炎の治療経過が良好であった場合の長期的展望は   (重藤寛史)
 主訴:結婚直後で,挙児希望.発作をおこしていないのですが,抗てんかん薬を服用する必要がありますか? 29歳 女性 右利き

症例28 治療の終結が難渋しがちなてんかんは   (池田 仁)
 主訴:薬を止めたい 16歳 女性 右利き


<種々の問題>
症例29 妊娠時の適切な抗てんかん薬の使い方は   (松本理器)
 主訴:妊娠前に相談したい 31歳 女性 右利き

症例30 周産期の抗てんかん薬の使い方は   (木下真幸子)
 主訴:投薬調整の相談   31歳 女性 右利き

症例31 遺伝子診断が臨床上役立つケースは   (日暮憲道,井原由紀子,廣瀬伸一)
 その① 主訴:発熱時にけいれんを繰り返す 1歳 女児 右利き
 その② 主訴:てんかん発作の群発 11か月 女児 右利き

症例32 てんかん発作と自動車運転との関係は (松浦雅人)
 その① 主訴:5年以上発作が抑制されている 18歳 男性
 その② 主訴:2年間発作がない 20歳 女性
 その③ 主訴:月単位で単純部分発作が生じる 25歳 男性
 その④ 主訴:年単位で夜間睡眠中に発作が生じる 35歳 女性
書評
橋本洋一郎 先生
(熊本市民病院 首席診療部長・神経内科部長・地域医療連携部長・リハビリテーション科部長)

 ①頭痛,②てんかん,③脳卒中,④認知症などのcommonな神経疾患について,診断法や治療法の発展とともに診療ガイドラインも整備され,連携による地域全体での新たな取り組みが必要となってきている.
 池田昭夫先生編集の「症例から学ぶ 戦略的てんかん診断・治療」が発刊された.てんかんについて,①概念と定義,②診断・検査,③薬物療法,④外科的治療などの最新の情報がコンパクトに冒頭にまとめてあり,その後32症例が提示され,最後まで一気に読める大変上手く企画された本である.
 専門医へ紹介された時点での初診時の現病歴,既往歴,家族歴,診察所見が記載され,初診時診断,その時点での患者・家族への説明,再診時,経過,最終診断へと展開され,最後に総合解説が行われている.さらに本文の右側に個々のポイントとなる箇所の解説があり,専門医からみたてんかん診療におけるコツが明快に記載されており,提示された症例について十分に考えることができるようになっている.
 てんかんとともに,てんかん以外の疾患(心因性非てんかん発作,失神や睡眠障害など)が症例として提示されており,てんかんかどうか,てんかんであればどの病型か,てんかん以外の疾患であれば何かを考えながらわくわくしながら読める本である.部分抑制運動発作,急性症候性発作,一過性羽ばたき振戦ミオクローヌスなどのプライマリ・ケアで経験する病態も示されている.また外科治療・迷走神経刺激療法(2010年7月から保険適応),妊娠時のてんかん治療,てんかん患者の免許取得の問題なども提示されている.てんかん治療ガイドライン2010を踏まえて非専門医やプライマリ・ケアの先生向けに分かりやすく書かれており,専門医への紹介のタイミングもわかるようになっている.
 次にどのような症例が出てくるか楽しみながら飽きることなく読めて,最後まで読み終えることができた.気軽に読んでみて頂きたい.
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