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心不全の緩和ケア
心不全患者の人生に寄り添う医療
改訂2版
兵庫県立姫路循環器病センター 大石醒悟 編
国立循環器病センター 高田弥寿子 編
兵庫県立姫路循環器病センター 竹原 歩 編
東京ふれあい医療生活協同組合 平原佐斗司 編
定価
4,400円(本体 4,000円 +税10%)
- B5判 279頁
- 2020年8月 発行
- ISBN 978-4-525-24162-9
進歩の著しいこの分野 最新の知見をふまえて大幅改訂!
突然死の可能性も回復の可能性も最期まで残る心不全は,がんと比べ予後予測も終末期の見極めも困難である.しかし患者の苦痛は大きく,緩和的なケアのニーズは非常に高い.本書では,急性期病院から在宅医療までを視野に,症状緩和,支持療法,家族・医療者へのケアなどを各専門職種の視点で解説.緩和ケア実践への道しるべとなる一冊である.
- 序文
- 目次
- 書評
序文
2014年に第1版“心不全の緩和ケア”を上梓し,6年が経過した.その間に本邦において急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)の中で緩和ケアについて言及され,保険算定上も末期心不全が緩和ケア加算の対象となる(2018年度診療報酬改定)など心不全の緩和ケアは徐々にその存在は周知されてきているように思われる.
しかし,実臨床においては緩和ケアが終末期医療と同等であるかのように扱われることも多く,治療の中止が緩和ケアの入り口であるかのような誤解を目にする機会も少なくない.
今回,第2版を改訂するに際し,第1版の内容の充実に加え,前回は十分に取り上げることができなかった本邦における課題を知ることができるように構成した.
具体的な変更点として,第3章で全身疾患や高齢者疾患としての心不全を取り上げ,さらに緩和ケアと同様にQOL向上を図るためのアプローチである心臓リハビリテーションについて記載した.続く第4章の全人的苦痛への介入の項では社会的苦痛とスピリチュアルな問題に関する内容を重点的に強化し,第7章で家族ケア,第8章で地域連携,第12章で諸問題(集中治療,植込み型除細動器の除細動機能中止,医学教育,医療費,侵襲的治療の適応)についてそれぞれ新たに取り上げた.第11章では,具体的なイメージを深めることを目的として方針の決定に難渋する場合の臨床倫理の考え方について具体的な症例を取り上げ,さらに,周辺事項への理解を補助するために第1章および第4章の章末にそれぞれ“終末期医療の実践に法的整備は必須か?”,第4章の章末に“臨床宗教師と医療”についてのコラムを記載いただいた.
いずれもそれぞれの分野における本邦のパイオニアの先生方に執筆いただいており,現時点における“心不全の緩和ケア”に関する最も充実したテキストであるものと考えられる.多忙な中,本書の作成にご尽力いただいた諸先生方には深くお礼を申し上げたい.
第1版上梓からの6年で心不全の緩和ケアについて議論される機会は臨床の現場でも関連学会などでも多くなってきているが,治療とは異なるものとして扱われ,心不全診療に十分に内包されているとは言い難いのが現在の実状ではないだろうか?
“心不全患者の人生に寄り添う医療である”緩和ケアが終末期医療ではなく,経過の中で治療と上手に融合され,地域の中で提供される“患者や家族の希望を中心に据えた心不全診療”の実現のために本書を利用いただければ甚だ幸いである.
最後に,本書の発行に際し,第1版から引き続き辛抱強く調整,編集いただいた佃 和雅子氏ならびに南山堂関係者の皆さまに心から感謝申し上げる.
2020年6月
大石醒悟
高田弥寿子
竹原 歩
平原佐斗司
しかし,実臨床においては緩和ケアが終末期医療と同等であるかのように扱われることも多く,治療の中止が緩和ケアの入り口であるかのような誤解を目にする機会も少なくない.
今回,第2版を改訂するに際し,第1版の内容の充実に加え,前回は十分に取り上げることができなかった本邦における課題を知ることができるように構成した.
具体的な変更点として,第3章で全身疾患や高齢者疾患としての心不全を取り上げ,さらに緩和ケアと同様にQOL向上を図るためのアプローチである心臓リハビリテーションについて記載した.続く第4章の全人的苦痛への介入の項では社会的苦痛とスピリチュアルな問題に関する内容を重点的に強化し,第7章で家族ケア,第8章で地域連携,第12章で諸問題(集中治療,植込み型除細動器の除細動機能中止,医学教育,医療費,侵襲的治療の適応)についてそれぞれ新たに取り上げた.第11章では,具体的なイメージを深めることを目的として方針の決定に難渋する場合の臨床倫理の考え方について具体的な症例を取り上げ,さらに,周辺事項への理解を補助するために第1章および第4章の章末にそれぞれ“終末期医療の実践に法的整備は必須か?”,第4章の章末に“臨床宗教師と医療”についてのコラムを記載いただいた.
いずれもそれぞれの分野における本邦のパイオニアの先生方に執筆いただいており,現時点における“心不全の緩和ケア”に関する最も充実したテキストであるものと考えられる.多忙な中,本書の作成にご尽力いただいた諸先生方には深くお礼を申し上げたい.
第1版上梓からの6年で心不全の緩和ケアについて議論される機会は臨床の現場でも関連学会などでも多くなってきているが,治療とは異なるものとして扱われ,心不全診療に十分に内包されているとは言い難いのが現在の実状ではないだろうか?
“心不全患者の人生に寄り添う医療である”緩和ケアが終末期医療ではなく,経過の中で治療と上手に融合され,地域の中で提供される“患者や家族の希望を中心に据えた心不全診療”の実現のために本書を利用いただければ甚だ幸いである.
最後に,本書の発行に際し,第1版から引き続き辛抱強く調整,編集いただいた佃 和雅子氏ならびに南山堂関係者の皆さまに心から感謝申し上げる.
2020年6月
大石醒悟
高田弥寿子
竹原 歩
平原佐斗司
目次
第1章 心不全における緩和ケアのニーズ
A.循環器医療の視点から
B.緩和ケアの視点から
C.在宅医療の視点から
D.心不全の病みの軌跡と緩和ケアニーズ
E.病みの軌跡に沿った看護師の関わり
コラム 終末期医療の実践に法的整備は必須か?
第2章 心不全症候群の病態・治療・経過と予後
A.病 態
B.慢性心不全の治療
C.経過と予後
第3章 心不全患者の全身管理
A.心不全患者にみられる心外疾患と随伴症状
B.高齢者心不全の特徴
C.心臓リハビリテーション
第4章 心不全患者の全人的苦痛への介入
A.緩和ケアの対象とニーズ
B.身体的苦痛への対応
C.精神・心理的苦痛への対応
D.社会的苦痛への対応
E.スピリチュアルな問題への対応
コラム 臨床宗教師と医療
第5章 心不全患者・家族の治療選択における意思決定支援
A.医療者-患者関係からみた意思決定のパターン
B.継続的な意思決定支援 ―アドバンス・ケア・プランニング
C.心不全患者の治療選択における意思決定支援
第6章 人生の最終段階におけるケア
A.死にゆく心不全患者の苦痛緩和
B.看取りのクリティカルパス(Liverpool Care Pathway)
第7章 家族ケア
A.心不全の過程における家族支援
B.悲嘆のケア
第8章 医療連携で実現する心不全の緩和ケア
A.病院の立場と役割
B.生活の場にいる患者を支える連携体制
C.訪問看護の立場から
D.重度心不全患者の在宅管理
コラム 地域包括ケア時代の心不全地域連携 ―2人主治医制の提案
第9章 心不全診療の多職種連携の実際
A.緩和ケアを見据えた心不全多職種チーム医療
B.既存の緩和ケアチームと心不全多職種チームの連携
C.心不全多職種チームによる疾病管理
D.心不全多職種チーム運営の実際
E.心不全多職種チームと基本的緩和ケア
第10章 緩和ケアに携わる医療者のこころのケア
A.WHOによる緩和ケアの定義
B.心不全における緩和ケア
C.医療者の置かれている現状
D.医療者のバーンアウト(NIOSHの職業性ストレスモデルを援用して)
E.バーンアウト予防も視野に入れた医療者のこころのケア
第11章 心不全緩和ケアにおける臨床倫理の使い方
A.症例1:87歳 男性
B.症例2:97歳 男性
C.症例3:78歳 女性
D.症例検討のまとめ
第12章 心不全緩和ケアを巡る諸問題
A.集中治療における心不全緩和ケアの考え方
B.ICDの除細動機能中止について
C.医学教育について
D.医療費の側面からの問題
E.各種心不全治療の適応と侵襲度
索 引
A.循環器医療の視点から
B.緩和ケアの視点から
C.在宅医療の視点から
D.心不全の病みの軌跡と緩和ケアニーズ
E.病みの軌跡に沿った看護師の関わり
コラム 終末期医療の実践に法的整備は必須か?
第2章 心不全症候群の病態・治療・経過と予後
A.病 態
B.慢性心不全の治療
C.経過と予後
第3章 心不全患者の全身管理
A.心不全患者にみられる心外疾患と随伴症状
B.高齢者心不全の特徴
C.心臓リハビリテーション
第4章 心不全患者の全人的苦痛への介入
A.緩和ケアの対象とニーズ
B.身体的苦痛への対応
C.精神・心理的苦痛への対応
D.社会的苦痛への対応
E.スピリチュアルな問題への対応
コラム 臨床宗教師と医療
第5章 心不全患者・家族の治療選択における意思決定支援
A.医療者-患者関係からみた意思決定のパターン
B.継続的な意思決定支援 ―アドバンス・ケア・プランニング
C.心不全患者の治療選択における意思決定支援
第6章 人生の最終段階におけるケア
A.死にゆく心不全患者の苦痛緩和
B.看取りのクリティカルパス(Liverpool Care Pathway)
第7章 家族ケア
A.心不全の過程における家族支援
B.悲嘆のケア
第8章 医療連携で実現する心不全の緩和ケア
A.病院の立場と役割
B.生活の場にいる患者を支える連携体制
C.訪問看護の立場から
D.重度心不全患者の在宅管理
コラム 地域包括ケア時代の心不全地域連携 ―2人主治医制の提案
第9章 心不全診療の多職種連携の実際
A.緩和ケアを見据えた心不全多職種チーム医療
B.既存の緩和ケアチームと心不全多職種チームの連携
C.心不全多職種チームによる疾病管理
D.心不全多職種チーム運営の実際
E.心不全多職種チームと基本的緩和ケア
第10章 緩和ケアに携わる医療者のこころのケア
A.WHOによる緩和ケアの定義
B.心不全における緩和ケア
C.医療者の置かれている現状
D.医療者のバーンアウト(NIOSHの職業性ストレスモデルを援用して)
E.バーンアウト予防も視野に入れた医療者のこころのケア
第11章 心不全緩和ケアにおける臨床倫理の使い方
A.症例1:87歳 男性
B.症例2:97歳 男性
C.症例3:78歳 女性
D.症例検討のまとめ
第12章 心不全緩和ケアを巡る諸問題
A.集中治療における心不全緩和ケアの考え方
B.ICDの除細動機能中止について
C.医学教育について
D.医療費の側面からの問題
E.各種心不全治療の適応と侵襲度
索 引
書評
心不全緩和ケアのすすめ - 人生と病跡に寄り添って -
和泉 徹(恒仁会 新潟南病院)
法律による循環器病対策は,2021年4月より医療計画や介護事業で実運用される.望まれるのは急性期・回復期・維持期と繋がる一連の由緒正しい高度先進循環器病体制の構築ばかりではない.むしろアナザーストーリーに眼目がおかれている.健康長寿の延伸である.今の日本は人類のトップをきって少子・超高齢化社会を深化させている.総人口減少の中でこの健康長寿を達成せねばならない.こうした時代認識の下に循環器病を伴う高齢者対策はクローズアップされてきた.中でも心不全対応は代表例のひとつ,喫緊課題である.今回の循環器病対策基本計画にも心不全を伴う高齢者への簡素でエレガントな在り方が示されている.そのひとつが心不全緩和ケアである.本書はこのニーズに応えようと新しい内容を加えて第2版として上梓された.
高齢者は長年歩んできた人生の軌跡上にいる.心不全は循環器病の積み重ねの結果発症する.病の軌跡(病跡)と呼ばれる.対象患者への人間的な理解と循環器病の基本認識を基盤として緩和ケアは始まる.そのうえ高度先進医療の正しい理解を必須としている.簡素な介入でエレガントなアウトカムを得られるか否かが先ず問われる.またその病勢判断に応じられるヘルスリテラシーの醸成の有無が患者にも親しい家族にも要請されている.終局,介入の如何を問わずこの過程における心臓リハビリの果たす役割は大きい.患者の人生と心不全の病跡に寄り添い,両者を勘案して再発・重症化予防がはじまる.その結果は適切なACP活動に連なる.心不全を伴う傘寿者(80歳以上)を例にとると,由緒正しいアプローチは10%相当に限られる.30%は院内死亡,15%は終末施設搬送に至る.そして45%の患者に緩和ケアが長期提供される.医療介入を最小限に留め,介護・介助負担を出来るだけ軽減する地域多職種連携活動の始まりである.
和泉 徹(恒仁会 新潟南病院)
法律による循環器病対策は,2021年4月より医療計画や介護事業で実運用される.望まれるのは急性期・回復期・維持期と繋がる一連の由緒正しい高度先進循環器病体制の構築ばかりではない.むしろアナザーストーリーに眼目がおかれている.健康長寿の延伸である.今の日本は人類のトップをきって少子・超高齢化社会を深化させている.総人口減少の中でこの健康長寿を達成せねばならない.こうした時代認識の下に循環器病を伴う高齢者対策はクローズアップされてきた.中でも心不全対応は代表例のひとつ,喫緊課題である.今回の循環器病対策基本計画にも心不全を伴う高齢者への簡素でエレガントな在り方が示されている.そのひとつが心不全緩和ケアである.本書はこのニーズに応えようと新しい内容を加えて第2版として上梓された.
高齢者は長年歩んできた人生の軌跡上にいる.心不全は循環器病の積み重ねの結果発症する.病の軌跡(病跡)と呼ばれる.対象患者への人間的な理解と循環器病の基本認識を基盤として緩和ケアは始まる.そのうえ高度先進医療の正しい理解を必須としている.簡素な介入でエレガントなアウトカムを得られるか否かが先ず問われる.またその病勢判断に応じられるヘルスリテラシーの醸成の有無が患者にも親しい家族にも要請されている.終局,介入の如何を問わずこの過程における心臓リハビリの果たす役割は大きい.患者の人生と心不全の病跡に寄り添い,両者を勘案して再発・重症化予防がはじまる.その結果は適切なACP活動に連なる.心不全を伴う傘寿者(80歳以上)を例にとると,由緒正しいアプローチは10%相当に限られる.30%は院内死亡,15%は終末施設搬送に至る.そして45%の患者に緩和ケアが長期提供される.医療介入を最小限に留め,介護・介助負担を出来るだけ軽減する地域多職種連携活動の始まりである.