肺動脈形成術PTPA/BPA実践ガイド
1版
杏林大学医学部内科学(Ⅱ) 教授 佐藤 徹 監修
杏林大学医学部内科学(Ⅱ) 教授 吉野秀朗 監修
慶應義塾大学医学部循環器内科 講師 片岡雅晴 編集
定価
4,950円(本体 4,500円 +税10%)
- B5判 153頁
- 2015年8月 発行
- ISBN 978-4-525-24181-0
肺動脈形成術PTPA(またはBPA)は,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対するカテーテルを用いた新たな治療選択として,注目されている.世界をリードし本治療法のオピニオンリーダーでもある執筆陣が,持ち合わせている手技とエビデンスを余すことなく紐解き,CTEPHの診断とPTPAのスキルが身に付く実践書である.
- 刊行によせて
- 序文
- 目次
刊行によせて
慢性血栓塞栓性肺高血圧症 chronic thromboembolic pulmonary hypertension(CTEPH)は,これまであまり注目されてこなかった疾患である.しかし,労作時呼吸困難を主訴とする患者を精査すると少なからず存在することを経験する.特発性肺動脈性肺高血圧症 idiopathic pulmonary artery hypertension(IPAH)と異なり,CTEPHは肺動脈に形成された血栓塞栓をまるごと摘出する肺動脈内膜摘除術 pulmonary endoarterectomy(PEA)によってほぼ治癒できることがこれまで示されてきた.PEAは,全身麻酔の手術であり熟練した手術チームによってのみ可能な高度な治療法である.しかし,PEAの適応外であったりPEA後にも肺高血圧が残存したりするCTEPH症例に対してカテーテルを用いた治療法〔経皮的肺動脈形成術percutaneous transluminal pulmonary angioplasty(PTPA)ないしバルーン肺動脈形成術balloon pulmonary angioplasty(BPA)〕が試みられ,短期および比較的長期の良好な予後が示されるに至り,PTPAは一躍注目されるようになった.
杏林大学循環器内科の佐藤 徹教授の率いる肺高血圧治療チームは,このバルーンカテーテルを用いた肺動脈拡張術を用いて多くの症例の治療を重ね,その経験を論文発表してきた.日本には,他にいくつかの経験豊富なチームが存在するが,杏林大学チームの最も優れた点は,いかに安全に治療を行うか,合併症をいかに減らすかに心を砕き,それを客観的評価法へと集約し,操作手技をより簡便化してきたことである.ここでいう簡便化は操作を簡単にするという意味ではなく,操作手技をわかりやすくし,理屈にあった無駄のないものにするという意味である.こうすることによって手技の安全性が高まり,治療成績が向上する.また,手技を行う医療従事者の安全性をも考慮することで,医療者は患者の治療に集中することができる.治療法を現場で改良しつつ,情報を関係者皆で共有する.そのような地道な努力が未知の疾患の病態解明と多くの患者のための治療成績の向上につながる.
ここに,CTEPHに対するカテーテル治療法のpractical guideを上梓することとなった.これを機会にPTPAを理解していただくのみならず,CTEPHという疾患をより深く理解し,いまだ不明な病態の解明とその治療戦略の構築にぜひ参加していただければ望外の喜びである.
2015年6月
杏林大学医学部内科学(Ⅱ) 教授
吉野秀朗
杏林大学循環器内科の佐藤 徹教授の率いる肺高血圧治療チームは,このバルーンカテーテルを用いた肺動脈拡張術を用いて多くの症例の治療を重ね,その経験を論文発表してきた.日本には,他にいくつかの経験豊富なチームが存在するが,杏林大学チームの最も優れた点は,いかに安全に治療を行うか,合併症をいかに減らすかに心を砕き,それを客観的評価法へと集約し,操作手技をより簡便化してきたことである.ここでいう簡便化は操作を簡単にするという意味ではなく,操作手技をわかりやすくし,理屈にあった無駄のないものにするという意味である.こうすることによって手技の安全性が高まり,治療成績が向上する.また,手技を行う医療従事者の安全性をも考慮することで,医療者は患者の治療に集中することができる.治療法を現場で改良しつつ,情報を関係者皆で共有する.そのような地道な努力が未知の疾患の病態解明と多くの患者のための治療成績の向上につながる.
ここに,CTEPHに対するカテーテル治療法のpractical guideを上梓することとなった.これを機会にPTPAを理解していただくのみならず,CTEPHという疾患をより深く理解し,いまだ不明な病態の解明とその治療戦略の構築にぜひ参加していただければ望外の喜びである.
2015年6月
杏林大学医学部内科学(Ⅱ) 教授
吉野秀朗
序文
慢性血栓塞栓性肺高血圧症 chronic thromboembolic pulmonary hypertensions(CTEPH)は,難病指定疾患であるが近年の認定患者数は急激に増加傾向にある.これはCTEPHに対するカテーテルインターベンション治療である経皮的肺動脈形成術percutaneous transluminal pulmonary angioplasty(PTPA)〔またはバルーン肺動脈形成術balloon pulmonary angioplasty(BPA)ともいう〕が世界に先駆けて日本国内数施設で実施されるようになり,CTEPHという疾患自体に対する認知度が拡大したことも影響していると考えられる.本書は,日本が先導し開発してきた本治療法を少しでも多くの施設で広く認知してもらい,より多くの患者の治療へ貢献することを期待して,本治療法の立ち上げと発展に尽力した杏林大学医学部内科学(Ⅱ)の医局員とともに企画,執筆したものである.
2000年代後半より著者らの施設を含めた日本国内数施設にてPTPAが開始され,本治療法に関する経験とエビデンスが世界に先駆けて日本から発信されてきた.2015年5月現在で国内約2,000名のCTEPH認定患者のうち,国内施設から発表された論文報告などから推定されるだけでも,少なくとも約500名前後のCTEPH患者がすでにPTPAを施行済みである.日本が世界をリードして開発・発展してきたカテーテル治療として非常に価値の高い治療法である.
PTPAは,冠動脈インターベンション法などすでに世界的に確立されつつある手技と比較して,まだまだ発展途上の治療法であるが,本治療法に対する認知度が急速に拡大している現状もあり,各施設において安全で確実な治療効果を得られるよう,ある程度の共通認識が必要と考える.そのため,われわれ著者らもいまだ多くの検討課題を抱え全力で取り組んでいる現状であるが,現時点における臨床上有用な知見を本書にまとめた.なるべく多施設からフィードバックと率直なご指導を頂ければ光栄である.
本書の編集に際しては,カテーテル操作法など実践的手技のポイントをわかりやすく,かつ文献的なエビデンスレベルの重要内容も網羅できるよう努めた.本書が,難病疾患であるCTEPHの患者診療へ僅かながらも貢献できれば幸いである.
2015年6月
慶應義塾大学医学部循環器内科 講師
(前 杏林大学医学部内科学(Ⅱ) 助教)
片岡雅晴
2000年代後半より著者らの施設を含めた日本国内数施設にてPTPAが開始され,本治療法に関する経験とエビデンスが世界に先駆けて日本から発信されてきた.2015年5月現在で国内約2,000名のCTEPH認定患者のうち,国内施設から発表された論文報告などから推定されるだけでも,少なくとも約500名前後のCTEPH患者がすでにPTPAを施行済みである.日本が世界をリードして開発・発展してきたカテーテル治療として非常に価値の高い治療法である.
PTPAは,冠動脈インターベンション法などすでに世界的に確立されつつある手技と比較して,まだまだ発展途上の治療法であるが,本治療法に対する認知度が急速に拡大している現状もあり,各施設において安全で確実な治療効果を得られるよう,ある程度の共通認識が必要と考える.そのため,われわれ著者らもいまだ多くの検討課題を抱え全力で取り組んでいる現状であるが,現時点における臨床上有用な知見を本書にまとめた.なるべく多施設からフィードバックと率直なご指導を頂ければ光栄である.
本書の編集に際しては,カテーテル操作法など実践的手技のポイントをわかりやすく,かつ文献的なエビデンスレベルの重要内容も網羅できるよう努めた.本書が,難病疾患であるCTEPHの患者診療へ僅かながらも貢献できれば幸いである.
2015年6月
慶應義塾大学医学部循環器内科 講師
(前 杏林大学医学部内科学(Ⅱ) 助教)
片岡雅晴
目次
第1章 CTEPHの歴史と診断
1 慢性血栓塞栓性肺高血圧症CTEPHの診断と治療
1.CTEPHの病態と診断
2 CTEPHの治療と経皮的肺動脈形成術PTPAの歴史
1.肺動脈内膜摘除術 PEA
2.薬物治療
3.PTPAの歴史
3 CTEPHの右心カテーテル検査と肺動脈造影検査 ─肺動脈区域枝ナンバリングを含めて─
1.CTEPHの診断と右心カテーテル検査や肺動脈造影検査の位置づけ
2.右心カテーテル検査の流れ
3.肺動脈造影検査
4.肺動脈造影検査の具体的な方法
5.肺動脈の解剖学的構造
4 CTEPHの鑑別疾患
1.肺動脈以外の肺組織が要因となり,肺動脈の障害を合併する疾患
2.肺動脈以外の肺組織が要因ではなく,肺動脈が障害されるCTEPH以外の疾患
3.腫瘍性疾患
4.その他の疾患
第2章 PTPAの実践─手順・コツとトラブル対処─
1 PTPAによる治療介入時期と適応をどう考えるか
1.治療介入時期
2.PTPAの適応
2 術前準備 ─管理方法やクリニカルパスの実際─
1.入院時にチェックすべき項目
2.入院後の抗凝固療法の施行について
3.術後早期管理について
4.クリニカルパスについて
3 PTPA中の手技手順
1. 穿刺アプローチからシース挿入
2. ガイディングカテーテルとガイドワイヤーの選択と操作
3. 治療病変の選択法 ─造影所見による病変形態分類を含めて─
4. 肺動脈造影所見:肺血管造影分類pulmonary flow grade(PFG)
5. 各病変の拡張エンドポイント ─pressure wireやアンギオをガイドとした実際─
6. バルーンの選択とバルーン拡張
7. 肺水腫予測点数化指標PEPSIを用いたセッションエンドポイント
8. 血管合併症に対するトラブルシューティング
4 術後管理 ─肺水腫への対応を含めて─
1.PTPA後の病棟管理:一般病棟管理かICU管理か
2.PTPA周術期の内服薬やカテコラミンの使用
3.再灌流性肺水腫の予防
4.再灌流性肺水腫の出現時期
5.PTPA術後の酸素化不良時の対応方法
5 PTPAセッションの施行回数と施行期間の判断
1.PTPAの施行回数
2.PTPAの施行期間
6 カテーテル挿入下心肺運動負荷試験による治療適応と治療効果の検討
1.運動負荷を行う意義
2.運動中の肺動脈圧の正常値
3.カテーテル挿入下心肺運動負荷試験(CPX)の実際
4.結果の解釈
第3章 PTPAにおける画像モダリティ
1 ローテーショナル肺動脈造影と3D構築画像の有用性
1.PTPAにおける3D構築画像の役割
2.Cアーム装置による回転撮影 ─ローテーショナル肺動脈造影の有用性─
2 血管内超音波(IVUS)と光干渉断層映像(OCT)
1.IVUSとOCTの特徴
2.PTPAにおけるイメージング使用法
第4章 ケーススタディで学ぶPTPA
1 中枢性CTEPHに対するPTPA
2 多臓器障害と右心不全を合併した重症CTEPHに対するPTPA
第5章 PTPAにおけるエビデンス
1 PTPA後の短期効果と長期効果 ─国内外のエビデンスをまとめて─
2 薬物治療vs. 外科治療(PEA) vs. PTPA ─治療効果や予後─
1.各治療法についての概説
2.自施設データに基づく検証
3 高齢者におけるPTPAの効果と安全性
1.高齢者における侵襲的治療
2.高齢者におけるPTPAの効果
3.高齢者におけるPTPAの安全性
4 外科治療(PEA)後の残存性・再発性の肺高血圧に対するPTPAの有用性
1.術後残存性・再発性肺高血圧に対するPTPAによるアプローチ
5 PTPA治療前後の右室機能の変化 ─心臓MRI─
1.心臓MRIの特徴
2.撮影方法・条件
3.解析方法と現時点でのエビデンス
4.PTPAにおける心臓MRIの今後
6 PTPA治療前後の右室機能の変化 ─心エコー─
1.CTEPHにおける右心機能障害
2.心エコーによる右心機能評価
3.PTPAによるCTEPHの右心機能改善
日本語索引
外国語索引
1 慢性血栓塞栓性肺高血圧症CTEPHの診断と治療
1.CTEPHの病態と診断
2 CTEPHの治療と経皮的肺動脈形成術PTPAの歴史
1.肺動脈内膜摘除術 PEA
2.薬物治療
3.PTPAの歴史
3 CTEPHの右心カテーテル検査と肺動脈造影検査 ─肺動脈区域枝ナンバリングを含めて─
1.CTEPHの診断と右心カテーテル検査や肺動脈造影検査の位置づけ
2.右心カテーテル検査の流れ
3.肺動脈造影検査
4.肺動脈造影検査の具体的な方法
5.肺動脈の解剖学的構造
4 CTEPHの鑑別疾患
1.肺動脈以外の肺組織が要因となり,肺動脈の障害を合併する疾患
2.肺動脈以外の肺組織が要因ではなく,肺動脈が障害されるCTEPH以外の疾患
3.腫瘍性疾患
4.その他の疾患
第2章 PTPAの実践─手順・コツとトラブル対処─
1 PTPAによる治療介入時期と適応をどう考えるか
1.治療介入時期
2.PTPAの適応
2 術前準備 ─管理方法やクリニカルパスの実際─
1.入院時にチェックすべき項目
2.入院後の抗凝固療法の施行について
3.術後早期管理について
4.クリニカルパスについて
3 PTPA中の手技手順
1. 穿刺アプローチからシース挿入
2. ガイディングカテーテルとガイドワイヤーの選択と操作
3. 治療病変の選択法 ─造影所見による病変形態分類を含めて─
4. 肺動脈造影所見:肺血管造影分類pulmonary flow grade(PFG)
5. 各病変の拡張エンドポイント ─pressure wireやアンギオをガイドとした実際─
6. バルーンの選択とバルーン拡張
7. 肺水腫予測点数化指標PEPSIを用いたセッションエンドポイント
8. 血管合併症に対するトラブルシューティング
4 術後管理 ─肺水腫への対応を含めて─
1.PTPA後の病棟管理:一般病棟管理かICU管理か
2.PTPA周術期の内服薬やカテコラミンの使用
3.再灌流性肺水腫の予防
4.再灌流性肺水腫の出現時期
5.PTPA術後の酸素化不良時の対応方法
5 PTPAセッションの施行回数と施行期間の判断
1.PTPAの施行回数
2.PTPAの施行期間
6 カテーテル挿入下心肺運動負荷試験による治療適応と治療効果の検討
1.運動負荷を行う意義
2.運動中の肺動脈圧の正常値
3.カテーテル挿入下心肺運動負荷試験(CPX)の実際
4.結果の解釈
第3章 PTPAにおける画像モダリティ
1 ローテーショナル肺動脈造影と3D構築画像の有用性
1.PTPAにおける3D構築画像の役割
2.Cアーム装置による回転撮影 ─ローテーショナル肺動脈造影の有用性─
2 血管内超音波(IVUS)と光干渉断層映像(OCT)
1.IVUSとOCTの特徴
2.PTPAにおけるイメージング使用法
第4章 ケーススタディで学ぶPTPA
1 中枢性CTEPHに対するPTPA
2 多臓器障害と右心不全を合併した重症CTEPHに対するPTPA
第5章 PTPAにおけるエビデンス
1 PTPA後の短期効果と長期効果 ─国内外のエビデンスをまとめて─
2 薬物治療vs. 外科治療(PEA) vs. PTPA ─治療効果や予後─
1.各治療法についての概説
2.自施設データに基づく検証
3 高齢者におけるPTPAの効果と安全性
1.高齢者における侵襲的治療
2.高齢者におけるPTPAの効果
3.高齢者におけるPTPAの安全性
4 外科治療(PEA)後の残存性・再発性の肺高血圧に対するPTPAの有用性
1.術後残存性・再発性肺高血圧に対するPTPAによるアプローチ
5 PTPA治療前後の右室機能の変化 ─心臓MRI─
1.心臓MRIの特徴
2.撮影方法・条件
3.解析方法と現時点でのエビデンス
4.PTPAにおける心臓MRIの今後
6 PTPA治療前後の右室機能の変化 ─心エコー─
1.CTEPHにおける右心機能障害
2.心エコーによる右心機能評価
3.PTPAによるCTEPHの右心機能改善
日本語索引
外国語索引