書籍カテゴリー:分子医学|循環器学

循環器疾患のサイエンス
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The Frontiers in Medical Sciencesシリーズ
循環器疾患のサイエンス 

1版

  • 千葉大学大学院医学研究院/大阪大学大学院医学系研究科教授 小室一成 編

定価:6,264円(本体5,800円+税8%)

  • B5判 236頁
  • 2010年3月 発行
  • ISBN978-4-525-24671-6

概要

循環器疾患は死亡率が高く,その対策は医学の大きな課題である.循環器疾患と心臓血管の分子メカニズムはここ数年大きく解明が進み,血液細胞や幹細胞による心筋や末梢血管の再生医学が注目を浴びている.近年新たな広がりをみせてきた本分野における最新の知見を循環器研究の各領域の第一人者により明解に解説した待望の一冊.

序文

序―循環器疾患のサイエンスは進んでいるのか?

It is now clear that abnormalities of molecular processes may be the basis of many cardiovascular diseases and that genetic influences play critical roles in the development of these abnormalities...


Eugene Braunwald, M.D., 1997
In Heart Disease: A Textbook of Cardiovascular Medicine, 5th edition





 国を問わず,循環器疾患の罹患率,死亡率は高い.わが国においても高血圧症患者は4,000万人もおり,100万人いると想定されている心不全患者の5年生存率は50%ときわめて不良である.生活習慣の欧米化と高齢化により,わが国における循環器疾患患者は増加の一途であり,医療費に占める割合も全疾患中トップである.
 それでは循環器病学は進歩しているのであろうか? 答えはyesであり,特に治療の進歩は著しい.生命予後を改善するほど有効な薬物療法はもとより,カテーテルを用いた血管形成術や不整脈治療,人工心臓など,非薬物治療も日進月歩である.それでは「循環器疾患のサイエンス」も急速に進歩しているといってよいであろうか? 循環器研究として,循環動態に関する生理学的な研究は一時代を築いた.その結果,多くの重要な現象が発見されたが,はたしてその現象は分子レベルで理解され,さらに治療に結実しているであろうか.確かに循環器領域の研究においても,それまでの生理学的研究による現象の把握から,分子生物学や細胞生物学的研究の応用により,疾患発症の分子機序が解明されるようになった.さらに最近のゲノムプロジェクトや遺伝子改変モデル動物の解析から,新しい原因分子の同定や,より詳細な機序の解明がなされ,新しい治療薬の開発も可能になっている.
 しかし現状に満足できるかというと答えはnoであろう.冒頭のBraunwaldの言葉は十数年前のものであるが,はたしてどれほどの現象や疾患が分子レベルで理解できているであろうか.たとえばFrank-Starling mechanismという有名な法則がある.筋肉は伸張により張力が増すという法則であるが,その分子実体は何であろうか.心臓からの血液の拍出には周期的な収縮弛緩が重要と考えられていたが,現在では定常流型の補助人工心臓が主流である.最近,腎臓交感神経アブレーションによる高血圧治療が注目されているが,腎臓の交感神経はどのように血圧を調節しているのであろうか.きわめて基本的なことでまだ理解されていないことが多いのである.
 本書が,循環器疾患研究の現状を明らかにし,将来の大きな発展の一助になることを期待したい.
 2010年2月


千葉大学大学院循環病態医科学/大阪大学大学院循環器内科学
小室一成



目次

第I部  総 論
第1章 総論 −循環器疾患の多様性と複雑性について−  小室一成
  1-1  心臓血管の生理
  1-2  循環器疾患各論
  1-3  治 療

第II部  疾患理解のための心臓血管の生理
第2章 心臓の発生・心筋細胞分化の分子機序  塩島一朗
  2-1  ショウジョウバエと脊椎動物の心臓発生過程
  2-2  心臓発生に関与する主要な転写因子
    1.Csx/Nkx2-5とTinman
    2.GATA-4/5/6とPannier
    3.Mef2cとD-Mef2
    4.Tbx5とDorsocross
    5.Hand1/eHandとHand2/dHand
    6.Islet-1
  2-3  心臓発生・心筋細胞分化に関与する主要な液性因子
    1.Dpp/BMP
    2.Wg/Wnt
    3.Wntシグナル阻害因子
    4.FGF
  2-4  まとめ

第3章 血管形成の分子機序 −内皮前駆細胞を含めて−  関口治樹 浅原孝之
  3-1  血管の形成
    1.血管の発生(胎生期の脈管形成)
    2.血管発生における増殖因子
    3.血管の萌芽とリモデリング(胎生期の血管新生)
    4.動脈と静脈の分化
    5.胎生期における血管系の発達
    6.生後の血管新生
  3-2  血管の新生
  3-3  EPCの発見
  3-4  血管新生促進因子
  3-5  細胞治療の臨床試験
    1.骨髄由来前駆細胞 bone marrow derived progenitor cell(BMC)の
       臨床試験
    2.CD34陽性細胞の臨床試験
  3-6  分化型EPCと未分化型EPC

第4章 心筋収縮弛緩の分子機序  土居正浩 矢野雅文
  4-1  心筋細胞はCa2+なしでは収縮できない
    1.Ca2+トランジェント
    2.興奮‐収縮連関(E-C coupling)
    3.Ca2+の流れ
    4.Ca2+貯蔵庫としての筋小胞体
    5.筋小胞体上のCa2+放出チャネル
    6.Ca2+の筋小胞体への取り込み
    7.Ca2+の“時間的な”流れ
  4-2  Ca2+動態から動力発生機構(筋原線維)へ
    1.筋原線維の構造
    2.Ca2+とトロポニン複合体
    3.収縮タンパク質の収縮と伸展
    4.ストレスセンサー
  4-3  心筋細胞の薬剤に対する反応
  4-4  心不全時の心筋細胞

第5章 高血圧の病態生理と血管内皮障害の意義  光山勝慶
  5-1  血圧調節機序の基礎
  5-2  血管内皮障害とeNOS
  5-3  食塩感受性高血圧における血管内皮障害とeNOSアンカップリングの役割
  5-4  食塩感受性高血圧の血管内皮障害におけるレニン‐アンジオテンシン系の意義
  5-5  血管内皮障害,eNOSアンカップリングの機序におけるASK1の重要性

第III部  循環器疾患発症の分子機序
第6章 心不全-1 心肥大  赤澤 宏 小室一成
  6-1  生理的心肥大と病的心肥大
  6-2  心肥大形成の分子メカニズム
  6-3  メカニカルストレスによるAT1受容体の活性化
  6-4  心肥大から心不全への移行

第7章 心不全-2 収縮不全  彦惣俊吾 大津欣也
  7-1  心臓の負荷に対する適応と破綻
  7-2  収縮不全にかかわる分子機構
    1.心筋細胞死
    2.Ca2+代謝異常
    3.エネルギー代謝異常
  7-3  今後の方向性

第8章 心不全-3 拡張不全  山本一博 坂田泰史 真野敏昭
  8-1  概 念
  8-2  拡張機能障害から心不全へ:生理学的裏づけ
  8-3  拡張不全の発症過程
  8-4  拡張機能障害のメカニズム
  8-5  組織学的変化,機能変化をもたらす因子
  8-6  ミネラルコルチコイド受容体
  8-7  収縮不全と拡張不全の違い
  8-8  心臓外の拡張不全増悪因子
  8-9  まとめ   83

第9章 虚血性心疾患-1 プラークの形成と破綻  平瀬徹明 野出孝一
  9-1  プラークの形成機構
    1.プラークの病理組織像
    2.プラーク形成における内皮細胞機能障害
    3.血管平滑筋細胞の形質転換
  9-2  プラークの不安定化と急性冠症候群
    1.プラークの質的変化と急性冠症候群
    2.スタチンによるプラーク安定化   88
  9-3  まとめ   89

第10章 虚血性心疾患-2 梗塞後リモデリング  朝倉正紀 浅沼博司 北風政史
  10-1  梗塞後リモデリングとは
  10-2  レニン‐アンジオテンシン-アルドステロン系
  10-3  交感神経系
  10-4  マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)
  10-5  ナトリウム利尿ペプチド(ANP/BNP)
  10-6  エリスロポエチン
  10-7  まとめ

第11章 虚血性心疾患-3 冠攣縮性狭心症  安田 聡 下川宏明
  11-1  冠攣縮とは?
  11-2  血管平滑筋の関与−Rhoキナーゼの重要性−
  11-3  Rhoキナーゼ阻害薬
  11-4  まとめ

第12章 心筋症-1 肥大型心筋症  藤野 陽 今野哲雄 井野秀一 山岸正和
  12-1  肥大型心筋症(HCM)の病態と疫学
  12-2  肥大型心筋症(HCM)発症の分子機序
  12-3  まとめ

第13章 心筋症-2 拡張型心筋症  木村彰方
  13-1  心筋症の臨床病型と遺伝子変異
  13-2  肥大型心筋症(HCM)原因遺伝子の多様性
  13-3  肥大型心筋症(HCM)における病因変異による機能異常
  13-4  肥大型心筋症(HCM)類似疾患の原因遺伝子
  13-5  拡張型心筋症(DCM)における遺伝子異常
  13-6  拡張型心筋症(DCM)における病因変異による機能異常
  13-7  まとめ

第14章 心筋症-3 心筋炎  小玉 誠
  14-1  心筋炎の頻度,原因,分類
  14-2  ウイルス性心筋炎
  14-3  自己免疫性心筋炎
  14-4  心筋炎から拡張型心筋症への進展

第15章 弁膜症  伯野大彦 福田恵一
  15-1  弁膜症研究の最近の動向
  15-2  弁膜症発症の分子メカニズム
    1.細胞外マトリックス
    2.Wnt,TGF-β1,BMP,Notchシグナル
    3.その他
  15-3  病的血管新生と弁膜症

第16章 不整脈-1 イオンチャネルとその修飾因子の異常  古川哲史
  16-1  心筋再分極異常
    1.再分極時間
    2.再分極時間の空間的分布
  16-2  Ca2+ハンドリング異常
    1.カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)
    2.心不全

第17章 不整脈-2 心房細動  熊谷浩一郎
  17-1  心房細動の開始機序
  17-2  心房のリモデリングとARB
  17-3  炎症と心房細動
  17-4  RAS阻害による心房細動慢性化予防

第18章 不整脈-3 QT延長症候群  堀江 稔
  18-1  遺伝性QT延長症候群の歴史的背景
  18-2  遺伝性QT延長症候群は単一疾患ではなく異なる遺伝型からなる
  18-3  遺伝型に基づくLQTSの治療

第19章 先天性心疾患  山岸敬幸 古道一樹
  19-1  心臓大血管発生の各段階に関与する分子
  19-2  先天性心疾患の疾患責任遺伝子と分子機序
    1.心房中隔欠損・心室中隔欠損
    2.心内膜床欠損(房室中隔欠損)
    3.肺動脈弁狭窄
    4.大動脈狭窄,末梢性肺動脈狭窄
    5.左右軸形成異常・心房内臓錯位症候群
    6.流出路(円錐動脈幹)異常

第20章 大動脈瘤研究の現状と課題  青木浩樹 吉村耕一
  20-1  大動脈瘤の分子病態
    1.炎症メディエーターと炎症細胞
    2.細胞外マトリックス代謝
    3.細胞内シグナル伝達系
  20-2  臨床応用に向けて
  20-3  大動脈瘤研究の課題
  20-4  まとめ

第21章 高血圧  伊藤貞嘉
  21-1  生命の進化と高血圧
  21-2  高血圧の成因における腎臓の役割
  21-3  食塩とカリウム摂取と高血圧
  21-4  Na再吸収の分子機構とその異常
  21-5  食塩摂取と血管機能
  21-6  腎血行動態の異常
  21-7  まとめ

第22章 動脈硬化  森田啓行 永井良三
  22-1  早期病変
  22-2  単球の内皮への接着
  22-3  動脈硬化における免疫反応の関与
    1.自然免疫
    2.適応免疫
  22-4  プラークの構造
  22-5  血管外膜と動脈硬化病変形成とのかかわり
  22-6  プラーク破綻
  22-7  メカニズムから治療へ

第IV部  循環器疾患の新しい治療
第23章 心臓再生医療  内藤大督 加藤 拓 片村真紀 竹原有史 王 英正 松原弘明
  23-1  心筋細胞塊 cardiosphereを利用したヒト心筋前駆細胞の増殖
  23-2  ヒトCSC(cardiosphere-derived stem cell)
  23-3  CSC移植による不全心の機能改善効果−再生工学との融合−
  23-4  CSCによる心筋再生
  23-5  まとめ

第24章 血管新生治療−循環器領域における再生治療の現状と可能性−
   坂東泰子 室原豊明
  24-1  循環器領域の再生医療
    1.サイトカイン治療・遺伝子治療
    2.細胞治療
  24-2  再生医療の今後の課題と克服すべき問題点
    1.サイトカイン療法・遺伝子治療の課題
    2.細胞治療の課題
  24-3  血管新生療法の新展開

第25章 遺伝子治療・核酸医薬  谷山義明 眞田文博 森下竜一
  25-1  循環器分野での遺伝子治療・核酸医薬
  25-2  HGFのさまざまな障害臓器への保護作用
  25-3  HGFを用いた下肢虚血疾患への遺伝子治療−第I/IIa相−
  25-4  日本でのHGFを用いた下肢虚血疾患への遺伝子治療−第III相−
  25-5  HGF以外の血管新生因子を用いた臨床研究
  25-6  HGFによるPI3K/Akt経路抑制を介した細胞老化抑制作用
  25-7  デコイを介した転写因子抑制治療
  25-8  まとめ