地域で支える みんなで支える
実践!! 小児在宅医療ナビ
1版
あおぞら診療所墨田 院長 前田浩利 編集
定価
5,940円(本体 5,400円 +税10%)
- B5判 388頁
- 2013年5月 発行
- ISBN 978-4-525-28051-2
【本邦初の小児在宅医療テキスト!】
できることからやってみよう!!
多職種連携をキーワードに,職種の垣根を越えて,在宅医療を必要としている子どもを「地域で」「みんなで」支える方法を提案します.
この一冊を読むと,あなたも小児在宅医療にかかわらずにはいられません.
- 序文
- 目次
序文
自らの来しかたを振り返るとき,自分が「出会い」によって今の自分になっていると深く感じます.特に,一人ひとりの患者さんとの「出会い」こそ,私が今取り組んでいる「小児在宅医療」へと導いてくれました.
幼いころから医師になりたいと願ってきた私にとって,小児科というのは,まるで思ってもいない選択でした.しかし,大学5年の通学途中で閃いた「小児科かな?」という直感は,ある先輩との出会いによって,確信に変わりました.
母校の大学病院で小児科研修医として勤務を始めた私が直面したのは,子どもたちが厳しい治療の末に亡くなってゆく現実でした.懸命に治療の苦痛に耐えるあどけない幼い子どもたちに容赦なく訪れる「死」.それまで私が知らなかった不条理な悲しみに満ちた現実と出会い,いつしか,私のなかに「この子どもたちとご家族のそばにいたい」という想いが生まれていました.
そのなかでも,忘れ難いのは,3歳のシュン君という子との出会いでした.彼は,生後3ヵ月で鼻の上に肉腫ができ,鼻の切除後に頸部リンパ節に転移.3年にわたって入退院を繰り返しながら化学療法を続けていました.私は,彼の担当研修医として最後の4ヵ月を受け持ちました.彼と私には不思議な心の交流が生まれ,私は彼を本当に大切な弟,親友のように感じていました.やがて,腫瘍が肺に転移し急速に増大,酸素テントの中で苦しげに喘ぐ彼に私は為す術がありませんでした.自分の身に代えても失いたくないと心から思っていた彼の病気も治せず,苦痛さえ和らげることができない自分の無力に私は絶望し,人生で初めてといえる徹底的な挫折を体験しました.
彼が亡くなった後,不条理な現実を受け入れられず,自分を責め続けていた私に,人生の師と仰ぐ方が,「人生の時間が長いから幸せ,短いから不幸せというのは人間の傲慢な見方ですよ」と話してくださいました.私は,この言葉に衝撃を受けました.しかし,その言葉の真意はわからず,心の中で懸命に「しかし,あんなに幼くあんなに苦しんで死んだシュンは幸せだったのですか?」と叫んでいました.その後の23年間,私は多くの子どもたち,患者さんたちとの出会いをいただきました.そして,導かれるように治らない病気,限りある時を生きる子どもたちと深くかかわる「小児在宅医療」に取り組んできました.それは,あの酸素テントの中で喘ぐ3歳のシュン君に応える歩みであり,先の師の言葉の真意をたずねる歩みでもあったと思っています.そして今,私は,「たとえ短い命でも,重い病や障害があっても,本当に幸せに生きることができる道がある」と確信しつつあります.
その確信を,このわが国で最初の本格的な小児在宅医療の教科書の根底に置きたいと願って編集を続けました.この教科書を手に取られた方に,その想いが少しでも伝われば望外の喜びです.
お忙しい中,執筆を引き受けて下さった筆者の先生方,仕事が遅く,なかなか筆が進まない私に辛抱強くお付き合い下さり,ご一緒に一生懸命考えて下さった南山堂の伊藤美由紀氏,佃和雅子氏に心から感謝します.
そして,いつも帰宅が深夜で,仕事一辺倒の私を黙って支えてくれた妻,裕美子に心からの感謝を述べて序に代えさせていただきます.
2013年 春の暖かさが待ち遠しい季節に
前田浩利
幼いころから医師になりたいと願ってきた私にとって,小児科というのは,まるで思ってもいない選択でした.しかし,大学5年の通学途中で閃いた「小児科かな?」という直感は,ある先輩との出会いによって,確信に変わりました.
母校の大学病院で小児科研修医として勤務を始めた私が直面したのは,子どもたちが厳しい治療の末に亡くなってゆく現実でした.懸命に治療の苦痛に耐えるあどけない幼い子どもたちに容赦なく訪れる「死」.それまで私が知らなかった不条理な悲しみに満ちた現実と出会い,いつしか,私のなかに「この子どもたちとご家族のそばにいたい」という想いが生まれていました.
そのなかでも,忘れ難いのは,3歳のシュン君という子との出会いでした.彼は,生後3ヵ月で鼻の上に肉腫ができ,鼻の切除後に頸部リンパ節に転移.3年にわたって入退院を繰り返しながら化学療法を続けていました.私は,彼の担当研修医として最後の4ヵ月を受け持ちました.彼と私には不思議な心の交流が生まれ,私は彼を本当に大切な弟,親友のように感じていました.やがて,腫瘍が肺に転移し急速に増大,酸素テントの中で苦しげに喘ぐ彼に私は為す術がありませんでした.自分の身に代えても失いたくないと心から思っていた彼の病気も治せず,苦痛さえ和らげることができない自分の無力に私は絶望し,人生で初めてといえる徹底的な挫折を体験しました.
彼が亡くなった後,不条理な現実を受け入れられず,自分を責め続けていた私に,人生の師と仰ぐ方が,「人生の時間が長いから幸せ,短いから不幸せというのは人間の傲慢な見方ですよ」と話してくださいました.私は,この言葉に衝撃を受けました.しかし,その言葉の真意はわからず,心の中で懸命に「しかし,あんなに幼くあんなに苦しんで死んだシュンは幸せだったのですか?」と叫んでいました.その後の23年間,私は多くの子どもたち,患者さんたちとの出会いをいただきました.そして,導かれるように治らない病気,限りある時を生きる子どもたちと深くかかわる「小児在宅医療」に取り組んできました.それは,あの酸素テントの中で喘ぐ3歳のシュン君に応える歩みであり,先の師の言葉の真意をたずねる歩みでもあったと思っています.そして今,私は,「たとえ短い命でも,重い病や障害があっても,本当に幸せに生きることができる道がある」と確信しつつあります.
その確信を,このわが国で最初の本格的な小児在宅医療の教科書の根底に置きたいと願って編集を続けました.この教科書を手に取られた方に,その想いが少しでも伝われば望外の喜びです.
お忙しい中,執筆を引き受けて下さった筆者の先生方,仕事が遅く,なかなか筆が進まない私に辛抱強くお付き合い下さり,ご一緒に一生懸命考えて下さった南山堂の伊藤美由紀氏,佃和雅子氏に心から感謝します.
そして,いつも帰宅が深夜で,仕事一辺倒の私を黙って支えてくれた妻,裕美子に心からの感謝を述べて序に代えさせていただきます.
2013年 春の暖かさが待ち遠しい季節に
前田浩利
目次
写真でみる小児在宅医療
「おうちはいいよ!」川原一華さんの一日
訪問診療も行う小児科開業医
成人を主に診ている在宅支援診療所
症例を通して小児在宅医療を知ろう ~多職種連携の実際のアプローチ~
在宅療養支援カレンダー
ケース概説
Event 1~6(週間スケジュール・在宅療養連携カルテ)
総 論
1 子どもが家で過ごすということ ~小児在宅医療の必要性とその背景~
2 小児在宅医療を支える看護
3 子どもと家族の生活を支える多職種地域連携
各 論
4 子どもの在宅療養支援の依頼 どうする? 何をする? ~医師としてできること~
5 本当にできる? ~小児在宅医療の採算性~
6 子どもを自宅で診るために必要なこと ~退院支援~
①NICUからの退院支援
②一般小児病棟から自宅へ
③すでに在宅療養中の子どもを診るには? ~支援を受けていない子どもへの介入~
7 小児在宅医療を支えるチームケア
①在宅支援チームはどこにあるの? ~地域の人材を発掘する~
②KEY PERSONは訪問看護師 ~チームとして協働するためのコーディネイト~
8 安定期の子どもと家族を支える ?医療的ケアで支える?
①職種別のケア
(1)―1小児科医の場合
(1)―2小児科医師と他科医師が連携して行う小児在宅医療
(2)看護師の場合
(3)リハビリスタッフの場合
(4)訪問介護員(ホームヘルパー)としてのかかわり
(5)歯科医師としてのかかわり
(6)ソーシャルワーカーの果たすべき役割
②在宅で行われる手技やケア
(1)呼吸の管理
(2)呼吸器リハビリテーション
(3)在宅中心静脈栄養の管理
(4)在宅経腸栄養の管理
(5)排泄ケア
(6)透析(在宅自己腹膜潅流法)
(7)痛みのマネジメント
(8)さまざまな症状のコントロール
(9)医療物品の管理
9 家族とその生活を支える ~日常生活支援~
①家庭医の役割を担う ~家族のカルテをつくる~
②在宅で利用できる人材やサービス ~社会資源の活用~
③一時的に子どもを預かる ~レスパイトケアの必要性~
④保育所,幼稚園,通常学校,特別支援学校 ~現状と課題~
10 End of Life Care
①亡くなりゆく子どもと家族をどう支える? ~小児の在宅緩和ケ~
②終末期の子どもの症状をコントロールする ~治療,延命,緩和~
③小児医療におけるインフォームド・コンセント ~子どもへの医療は誰が意思決定するべきなのか?~
④限りある時間をどう支える? ~子ども,親,そして家族へのケア~
⑤子どもを亡くした家族へのケア ~地域で支えるビリーブメントケア~
座談会 いまを生きる子どもたちと出逢って
Part1:医師編
Part2:看護師編
索引
「おうちはいいよ!」川原一華さんの一日
訪問診療も行う小児科開業医
成人を主に診ている在宅支援診療所
症例を通して小児在宅医療を知ろう ~多職種連携の実際のアプローチ~
在宅療養支援カレンダー
ケース概説
Event 1~6(週間スケジュール・在宅療養連携カルテ)
総 論
1 子どもが家で過ごすということ ~小児在宅医療の必要性とその背景~
2 小児在宅医療を支える看護
3 子どもと家族の生活を支える多職種地域連携
各 論
4 子どもの在宅療養支援の依頼 どうする? 何をする? ~医師としてできること~
5 本当にできる? ~小児在宅医療の採算性~
6 子どもを自宅で診るために必要なこと ~退院支援~
①NICUからの退院支援
②一般小児病棟から自宅へ
③すでに在宅療養中の子どもを診るには? ~支援を受けていない子どもへの介入~
7 小児在宅医療を支えるチームケア
①在宅支援チームはどこにあるの? ~地域の人材を発掘する~
②KEY PERSONは訪問看護師 ~チームとして協働するためのコーディネイト~
8 安定期の子どもと家族を支える ?医療的ケアで支える?
①職種別のケア
(1)―1小児科医の場合
(1)―2小児科医師と他科医師が連携して行う小児在宅医療
(2)看護師の場合
(3)リハビリスタッフの場合
(4)訪問介護員(ホームヘルパー)としてのかかわり
(5)歯科医師としてのかかわり
(6)ソーシャルワーカーの果たすべき役割
②在宅で行われる手技やケア
(1)呼吸の管理
(2)呼吸器リハビリテーション
(3)在宅中心静脈栄養の管理
(4)在宅経腸栄養の管理
(5)排泄ケア
(6)透析(在宅自己腹膜潅流法)
(7)痛みのマネジメント
(8)さまざまな症状のコントロール
(9)医療物品の管理
9 家族とその生活を支える ~日常生活支援~
①家庭医の役割を担う ~家族のカルテをつくる~
②在宅で利用できる人材やサービス ~社会資源の活用~
③一時的に子どもを預かる ~レスパイトケアの必要性~
④保育所,幼稚園,通常学校,特別支援学校 ~現状と課題~
10 End of Life Care
①亡くなりゆく子どもと家族をどう支える? ~小児の在宅緩和ケ~
②終末期の子どもの症状をコントロールする ~治療,延命,緩和~
③小児医療におけるインフォームド・コンセント ~子どもへの医療は誰が意思決定するべきなのか?~
④限りある時間をどう支える? ~子ども,親,そして家族へのケア~
⑤子どもを亡くした家族へのケア ~地域で支えるビリーブメントケア~
座談会 いまを生きる子どもたちと出逢って
Part1:医師編
Part2:看護師編
索引