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カテゴリー: 小児科学

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子供の便秘はこう診る!親子のやる気を引き出す小児消化器科医のアプローチ

1版

済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科/
神経言語プログラミング上級プロフェッショナルコーチ
十河 剛 著

定価

2,750(本体 2,500円 +税10%)


  • A5判  171頁
  • 2020年4月 発行
  • ISBN 978-4-525-28401-5

子供と親の便秘治療への理解度とモチベーションをアップさせる!

小児の日常診療ではありふれた「便秘」であるが,慢性便秘になると薬物療法だけでは排便コントロールは難しい.本書は,小児の便秘の診断・治療についておさえておくべき基本知識をわかりやすく網羅しつつ,治療のゴール達成のカギを握る患児本人と養育者の“ヤル気スイッチ”を入れて維持するためのアプローチ方法を伝授する.症例も多数提示.

  • 序文
  • 目次
序文
 2005年に,学生時代を合わせると14年間お世話になった防衛庁(現防衛省)を退職し,国際医療福祉大学熱海病院で本格的に小児肝臓・消化器疾患を専門に診療するようになった.当時,すでに他大学で小児肝臓・消化器疾患の専門外来をしていた某先生から,「肝臓・消化器外来が便秘外来のようになっている」と聞き,「えっ?そんなに便秘って多いの?」と思ったのを覚えている.熱海病院に在籍した2年半ほどの間には,それほど便秘診療で困ることはなかったし,便秘患者もそれほど多くはなかった.
 その後,わが国初の便秘診療ガイドラインの「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」作成委員に加えていただき,ガイドライン作成に向けて小児科・小児外科の諸先輩方と議論を交わすこととなった.当時,筆者が経験した便秘症例で最も印象的で,最も治療に難渋した症例は「コーラックを100錠飲んでも便が出ない」という自衛隊在職中に経験した19歳女性であった.結局,通常治療には反応せず,大腸内視鏡前の腸管洗浄薬を用いることで妊婦のように膨らんでいた腹部が出産後のようにへこんだ.海外の論文やガイドラインを見ていると“fecal impaction”という単語が頻回に出てくるが,日本には海外でいう“fecal impaction”をきたすような重症例は少ないのではないかと当時は考えていた.ガイドライン作成委員会でも「海外のような重症例は少ないのではないか?」という意見も出ていたように記憶している.しかし,この考えが間違えであったことに気づくのはそう遠い未来ではなかった.
 済生会横浜市東部病院で消化管外来を開設し,子供の便秘の市民公開講座を開催するや否や,消化管外来を受診する便秘症患者は急激に増え,それにつれてfecal impaction(便塞栓)を伴う重症例も多く経験するようになった.その頃には小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインでの議論も進んでいたが,治療の詳細は各作成委員間で違いはあれども,治療の大原則として,「fecal impaction(便塞栓)が存在する場合には,それを除去(disimpaction)してから維持療法を開始する」という考えは全員一致していた.ところが,済生会横浜市東部病院を受診する便秘の子供達の中でも,「他院で治療がうまくいかない」という理由で受診する子供達はほぼ間違いなく,大なり小なりfecal impaction(便塞栓)が直腸に存在していた.さらに話を聞いてみると,「浣腸して詰まっているうんちを出したけど,それでおしまいになってしまった」と折角,便塞栓を除去しても治療を継続されていない症例や,便塞栓を除去した後に「薬を長く使うのが怖いから」「3〜4日に1回はうんちが出ているから」といった理由で養育者の自己判断で治療が中止されている症例もいた.そして,そのような症例では便塞栓除去後も直腸横径が拡張しており,治療が順調に進み便意を感じやすくなると縮小していることに気づいた.
 患者が増えるにつれて,こんなときにはこんなこと,あんなときにはあんなこと,と治療の引き出しも増えていった.治療の引き出しが増えると同時に,養育者や子供達が便秘に関連してさまざまな悩みを抱えていることにも気づいた.その悩みを解決するために,養育者達は子供を連れて,あっちの医療機関へ,こっちの医療機関へと彷徨い,“便秘難民”となっていた.2018年1月に,“便秘難民ゼロ”をスローガンに掲げ,電子書籍として「子供のためのうんち学 −さあ,今からウンチについて語ろう− 便秘編」を出版した.この本は,市民公開講座での講演内容や外来での養育者からの質問を中心にまとめ,便秘の子供をもつ親御さん達へ向けたものである.電子書籍(Amazon Kindle)は,新しい情報があればすぐにアップデートできる,出版費用ゼロというメリットがある一方で,紙の媒体に慣れており,電子書籍には馴染みがないという人には手が出しにくい.また,実際に治療にあたる医師に向けた内容ではないため,医療現場にまで十分に情報が届かなかった.さらにその後,2018年11月に,わが国初のポリエチレングリコール製剤の便秘治療薬 モビコールが発売され,欧米のガイドラインでは標準治療となっている治療薬がやっと日本でも使用できるようになった.そこで何とか医療従事者,特に医師に向けた子供の便秘の本を出版できないかと考えていたところ,拙著を読まれた南山堂から出版のお声がかかった.奇跡的としか言いようのないタイミングである.
 本書はただ単に前述の電子書籍「子供のためのうんち学」に新たな情報を付け加えて医療従事者向けに書いた本ではない.医療現場のミスコミュニケーションから起こる事案を少しでも減らしたいと思い,コーチングの技術を用いた親子のやる気を引き出す方法も含めて解説している.これまで,「たかが便秘」であるが「たかが便秘」ごときで医師と患者・患者家族との信頼関係が崩れてしまう事案も経験してきた.コーチングは,臨床研修指導医講習ではテーマとして取り上げられているが,主に研修医に対するかかわり方が教えられている.しかし,コーチングはコミュニケーション技術でもあり,目標達成技術でもある.筆者は数年前から独学でコーチングを学び,2020年3月には米国NLP(神経言語プログラミング)&コーチング研究所認定NLP上級プロフェッショナルコーチの資格を取得した.学びながらも臨床現場でコーチングの知識・技術・経験をフル動員し,子供達や親御さんへ接してきた.そしてコーチングを用いて,子供達が気持ちよくうんちをして,便秘を解消できるように勇気づけてきた.浅学菲才ではあるが,本書には筆者の経験の中から子供達の便秘治療にコーチングがどのように使えるかも記載させていただいた.
 “便秘難民ゼロ”を目指し,そして,親子が笑顔で便秘症と向き合えるように本書をお役立てていただければ幸いである.

2020年3月
十河 剛
目次
第1章 子供の便秘の特徴
1.便秘(症)の分類と病態
 1)便秘の定義 —排便回数だけに着目すると便秘を見落とす!
 2)便秘の分類 —時間軸と原因での分類
2.排便と便秘のメカニズム
 1)“うんち”の成分から便秘を考えてみる
 2)正常な排便のメカニズム —うんちをするのは難しい
 3)便秘のメカニズム
 4)便秘の悪循環とは —便塞栓へ向かう負のスパイラル
 5)便秘になりやすい3つの時期とそれぞれの原因・誘因
3.症 状 —もしかしてだけど,それって便秘じゃないの?
 1)腹 痛
 2)裂肛(肛門痛,出血,肛門のかゆみなど)
 3)直腸脱,痔核
 4)便漏れ,便失禁
 5)肛門周囲の皮膚びらん
 6)吐き気,嘔吐
 7)胃食道逆流,げっぷ,口臭
 8)集中力低下
 9)夜尿,遺尿
4.有病率 —クラスに5〜6人いる便秘症
5.予 後 —大人の頑固な便秘に持ち越さないためにできること
6.乳幼児の便秘の特徴

第2章 子供の便秘の診断
1.診断の基本原則 —迷わず行けよ,行けばわかるさ
2.問診のしかた —話したいこといっぱいのお母さんから重要な情報を漏らさず聞き出すコツ
 1)承認する —まずはお母さん・お父さんの今までの努力や苦労を受け止める
 2)初診時の問診事項
3.必要な検査
 1)身体所見
 2)肛門視診
 3)直腸指診
 4)腹部単純X線検査
 5)アレルギー検査
 6)甲状腺機能検査
 7)注腸造影
 8)MRI
4.便塞栓(fecal impaction)の診断

第3章 子供の便秘の治療
1.便秘治療の基本的な考え方
 1)便秘治療の三大原則と排便習慣のよい循環
 2)便秘治療のゴール設定 —SMARTの法則で考える
 3)治療がうまくいっているかどうかの見極めかた —エビデンスを探せ!!
 4)「いいね!」をたくさん出してヤル気UP!!
2.薬物治療の基本
 1)便塞栓除去(disimpaction)
 2)維持療法
 3)専門医への紹介タイミングの見極めかた(yellow flags,red flags)
3.乳幼児(1歳以下)の便秘の治療
 1)離乳食開始前
 2)離乳食開始後
4.慢性機能性便秘症の治療
 1)便塞栓除去(disimpaction)
 2)維持療法
5.生活習慣の改善指導 —早寝,早起き,朝うんち
6.食事の改善指導 —便秘には“アレがよい”より“バランスよく”
7.トイレットトレーニング虎の巻
8.和式トイレは世界を救う!?—便秘に有効な便座の座り方・姿勢
9.基礎疾患のある子供の便秘(器質性便秘症)の治療
 1)発達障害のある子供の便秘
 2)過敏性腸症候群(IBS)が関与する便秘
 3)牛乳アレルギーが関与する便秘
 4)裂肛(切れ痔)と便秘の関連
 5)低位鎖肛が関与する便秘
10.便秘の子供,こんなときどうする?
 ①お泊り保育(宿泊学習)
 ②保育所でトイレに行けず我慢させられる
 ③保育所でパンツに履き替えさせられる
 ④小学校入学時
 ⑤プールに入れてもらえない
 ⑥風邪をひいたとき
 ⑦下痢のとき
 ⑧嘔吐のとき
 ⑨抗菌薬投与時
 ⑩家以外でトイレに行きたがらない
 ⑪同じ時間に排便させたほうがよいのか?
 ⑫うんちの前におなかが痛くなる
 ⑬スマホやタブレットを見ないとうんちが出ない
 ⑭排便状況が確認できない
 ⑮おなかマッサージ
 ⑯野菜を食べてくれない
 ⑰水を飲んでくれない
 ⑱いつまで治療を続けるか?
 ⑲遺 伝

症例1.10歳女児—げっぷ,嘔吐,口臭が主訴の例
症例2.8歳女児—眠っているときにだけ大きなうんちをする例
症例3.7歳男児—コーチング的アプローチで遺糞が治癒した例
症例4.8歳女児—治療へのモチベーションを上げるコーチングを用いた例
症例5.8歳男児—エロビキシバットが漏便に有効であっ例
症例6.13歳女児—エロビキシバットが有効であった年長児の例
症例7.生後3ヵ月女児—乳児期(離乳食開始前)の便秘の典型例
症例8.生後2ヵ月女児—乳児期(離乳食開始前)の牛乳アレルギーによる便秘
症例9.生後8ヵ月男児—乳児期(離乳食開始後)に発症した便秘の典型例
症例10.6歳男児—プロトコール通りに服薬したら遺糞が改善した例
症例11.12歳男児—トイレが詰まるような大きく硬い便を排便した例
症例12.3歳男児—母親が便秘症に気づいていない便塞栓による遺糞の例
症例13.5歳女児—服薬中止まで4年かかった例
症例14.2歳7ヵ月男児—浣腸連日で排便コントロールせざるを得ない症例
症例15.3歳男児—順調にピコスルファートナトリウムが減量できた例
症例16.10歳男児—便塞栓除去を行わずに治療を開始したために腹痛が増悪した例
症例17.3歳女児—自己判断で服薬中止してしまった例
症例18.2歳女児—尖圭コンジローマを疑われた肛門周囲の皮膚びらんの例
症例19.7歳男児—授業中にトイレに行きたいと言えずに漏らしてしまうため,本来必要な投与量で治療できなかった例
症例20.9歳女児—母親が排便状況を把握していない例
症例21.10歳男児—「トイレに行けない」が主訴で消化器科外来を受診した例
症例22.12歳女児—自閉スペクトラム症に対する便秘治療の例
症例23.11歳男児—便秘型過敏性腸症候群に対する漢方薬治療の例
症例24.1歳6ヵ月男児—幼児期の牛乳不耐症による便秘の例
症例25.4歳男児—便秘による裂肛を疑ったが,S状結腸ポリープであった例
症例26.10ヵ月女児—発熱,嘔吐で発見された定位鎖肛に脊髄脂肪腫を合併した例
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