EPDS活用ガイド
産後うつ病スクリーニング法と産後健診での正しい対応
1版
三重大学保健管理センター 教授 岡野禎治 監修
東京慈恵会医科大学 非常勤講師/広尾レディース 院長 宗田 聡 著
定価
1,980円(本体 1,800円 +税10%)
- A5判 92頁
- 2017年11月 発行
- ISBN 978-4-525-33191-7
EPDSのトリセツ,できました!
エディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)は産後うつ病のスクリーニング方法として広く知られるようになりました.しかし,手軽であるがゆえに間違った使い方をしている場合も見受けられます.本書では,EPDSの正しい使い方と活用法を分かりやすくまとめました.これからますます重要になる産後健診に必携の書です!
- 序文
- 目次
- 書評
序文
女性のライフサイクルの中でも,産褥期はうつ病が発病しやすい時期であるということが1960年代から指摘されてきました.そして,産後うつ病に罹患して未治療のままに放置されると、母親自身の精神的健康に大きな影響を与えるのみならず,子どもの心身の発達にも影響を及ぼすことが指摘されました.
1980年代になると,周産期のメンタルヘルス(周産期精神医学)という新しい専門領域の基盤が整備され,Marcé Societyという国際的な学会が設立されます.こうした背景のもと,産後うつ病専用のスクリーニングテストであるエディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)が,イギリスの精神科医Cox教授らにより1987年に開発されました.日本でも1996年に,われわれが日本語版を作成し,国内の母子保健行政(特に新生児訪問時)を中心に普及しました.
しかし,実際の臨床現場では,EPDSの使い方とその後の対応に苦慮することが多くありました.そのためCox教授は,助産師HoldenとともにEPDSを用いたスクリーニングのための具体的な解説本〔Perinatal Mental Health: A Guide to the Edinburgh Postnatal Depression Scale (EPDS)〕を2003年に出版します.この解説本は,幸運にも2006年に南山堂のご厚意からわれわれが翻訳し,「産後うつ病ガイドブック EPDSを活用するために」というタイトルで出版しました.ただし,この解説本はイギリスの医療保健システム(NHS)を基盤にして構成されていたため,日本の母子保健のシステムに携わる保健師らには使いづらいという一面がありました.
2017年4月,周産期メンタルヘルスに対して国が大きく動きました.厚生労働省母子保健課は,産婦健康診査事業の実施にあたって,うつ病の把握にEPDSの使用を推薦し,問診・診察から総合的にうつ病を発見すること、さらに精神科の専門医との連携強化を重要課題として産婦人科医に通達しました.つまり,従来の保健師らによる新生児訪問時に主に使用されていたEPDSを,産後健診時の医療機関でも配布して,産後うつ病の有無をスクリーニングすることになったのです.産後健診におけるこの新たな課題に対して,数多くの助産師、産婦人科医は困惑しました.さらに,区市町村側もどのように指導してよいのか十分に把握しない中での見切り発車となってしまいました.
このように混乱した状況に対して,日本の医療保健制度に合致した,EPDSによるスクリーニングの解説本「EPDS活用ガイド」を作成することを宗田聡先生とともに発案しました.運よく南山堂のご厚意もあって,早急に出版することができました.本書は従来のガイドブックにみられるような固い解説ではなく,医療現場で読むトリセツ(取り扱い説明書)のように簡潔な表現と易しい内容に特化しています.今後,日本の周産期メンタルヘルスに対する産婦人科医,助産師,保健師ら諸氏の活用を期待しています.
最後に,できるだけ簡易な表現で,かつ短期間での編集にご指導をいただいた南山堂の窪田雅彦様,山田歩様はじめ皆様にお礼を申し上げます.
2017年9月
岡野禎治
1980年代になると,周産期のメンタルヘルス(周産期精神医学)という新しい専門領域の基盤が整備され,Marcé Societyという国際的な学会が設立されます.こうした背景のもと,産後うつ病専用のスクリーニングテストであるエディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)が,イギリスの精神科医Cox教授らにより1987年に開発されました.日本でも1996年に,われわれが日本語版を作成し,国内の母子保健行政(特に新生児訪問時)を中心に普及しました.
しかし,実際の臨床現場では,EPDSの使い方とその後の対応に苦慮することが多くありました.そのためCox教授は,助産師HoldenとともにEPDSを用いたスクリーニングのための具体的な解説本〔Perinatal Mental Health: A Guide to the Edinburgh Postnatal Depression Scale (EPDS)〕を2003年に出版します.この解説本は,幸運にも2006年に南山堂のご厚意からわれわれが翻訳し,「産後うつ病ガイドブック EPDSを活用するために」というタイトルで出版しました.ただし,この解説本はイギリスの医療保健システム(NHS)を基盤にして構成されていたため,日本の母子保健のシステムに携わる保健師らには使いづらいという一面がありました.
2017年4月,周産期メンタルヘルスに対して国が大きく動きました.厚生労働省母子保健課は,産婦健康診査事業の実施にあたって,うつ病の把握にEPDSの使用を推薦し,問診・診察から総合的にうつ病を発見すること、さらに精神科の専門医との連携強化を重要課題として産婦人科医に通達しました.つまり,従来の保健師らによる新生児訪問時に主に使用されていたEPDSを,産後健診時の医療機関でも配布して,産後うつ病の有無をスクリーニングすることになったのです.産後健診におけるこの新たな課題に対して,数多くの助産師、産婦人科医は困惑しました.さらに,区市町村側もどのように指導してよいのか十分に把握しない中での見切り発車となってしまいました.
このように混乱した状況に対して,日本の医療保健制度に合致した,EPDSによるスクリーニングの解説本「EPDS活用ガイド」を作成することを宗田聡先生とともに発案しました.運よく南山堂のご厚意もあって,早急に出版することができました.本書は従来のガイドブックにみられるような固い解説ではなく,医療現場で読むトリセツ(取り扱い説明書)のように簡潔な表現と易しい内容に特化しています.今後,日本の周産期メンタルヘルスに対する産婦人科医,助産師,保健師ら諸氏の活用を期待しています.
最後に,できるだけ簡易な表現で,かつ短期間での編集にご指導をいただいた南山堂の窪田雅彦様,山田歩様はじめ皆様にお礼を申し上げます.
2017年9月
岡野禎治
目次
第1章 EPDS-Overview
・EPDSの「これまで」と「これから」
EPDSとの出会いから日本語版作成まで
EPDSの日本での導入経緯と問題点
産婦健康診査事業での新たな取り組みとEPDS
今後の展望
第2章 EPDSのトリセツ
・産後うつ病健診の流れ
1 産後うつ病スクリーニングの流れ
背景
産後健診での位置付け
産後うつ病スクリーニングの実際
産後健診の流れ
2 EPDSの実際
EPDSのポイント
EPDSとは?
EPDSの進め方
3 産後の生活についての問診
問診のポイント
一般的な聴取内容
EPDSの結果を見ながら行う問診
問診を行う時に気を付けたいこと
4 総合評価の実際
評価のポイント
総合評価の流れ
評価のしかた
第3章 Q&A
1 産後うつ病スクリーニングでは,必ずEPDSを使わないといけないの?
2 EPDSは待合室で書いてもらってもいいの?
3 自宅で書いてもらい,郵送で送ってもらってもいい?
4 質問文は,意味が変わらない範囲であれば変更してもいい?
5 外国人のお母さんにも日本語版EPDSを使っていい?
6 お母さんがEPDSを記入している間,赤ちゃんはどうするの?
7 記入にはどのくらい時間がかかる?
8 EPDSの記入を拒否されたらどうする?
9 お母さんが自分で採点するの?
10 点数は,お母さんに伝えていい?
11 EPDSが高得点のお母さんは産後うつ病なの?
12 「EPDSが高得点=重度の産後うつ病」なの?
13 高得点だったお母さんにはどう対応したらいいの?
14 EPDSの点数と,面接での印象が違う気がする…。どう判断すればいい?
15 「区分点」ってなに?
16 「偽陽性」ってなに?
17 産後健診で,身体の診察と産後うつ病スクリーニングはどちらを先に行うべき?
18 産後1ヵ月健診でEPDSを行い,さらに2週間後にもう1回行ったら
どちらも区分点以上でした。このお母さんを産後うつ病と判断していい?
19 EPDSは,産後1ヵ月ではなく2週間健診で行った方がいいの?
または両方行うべき?
引用文献
コラム
1 産後のお母さんとEPDS
2 産後2週間健診とは?
3 EPDSの質問項目の特徴
4 あくまでもお母さん一人で!
5 なぜEPDSを受けるの?
6 EPDSと区分点
7 魔法の杖ではありません!
8 偽陽性と偽陰性,区分点の考え方
9 EPDSの合計点が0点?!
10 自殺企図には要注意!
・EPDSの「これまで」と「これから」
EPDSとの出会いから日本語版作成まで
EPDSの日本での導入経緯と問題点
産婦健康診査事業での新たな取り組みとEPDS
今後の展望
第2章 EPDSのトリセツ
・産後うつ病健診の流れ
1 産後うつ病スクリーニングの流れ
背景
産後健診での位置付け
産後うつ病スクリーニングの実際
産後健診の流れ
2 EPDSの実際
EPDSのポイント
EPDSとは?
EPDSの進め方
3 産後の生活についての問診
問診のポイント
一般的な聴取内容
EPDSの結果を見ながら行う問診
問診を行う時に気を付けたいこと
4 総合評価の実際
評価のポイント
総合評価の流れ
評価のしかた
第3章 Q&A
1 産後うつ病スクリーニングでは,必ずEPDSを使わないといけないの?
2 EPDSは待合室で書いてもらってもいいの?
3 自宅で書いてもらい,郵送で送ってもらってもいい?
4 質問文は,意味が変わらない範囲であれば変更してもいい?
5 外国人のお母さんにも日本語版EPDSを使っていい?
6 お母さんがEPDSを記入している間,赤ちゃんはどうするの?
7 記入にはどのくらい時間がかかる?
8 EPDSの記入を拒否されたらどうする?
9 お母さんが自分で採点するの?
10 点数は,お母さんに伝えていい?
11 EPDSが高得点のお母さんは産後うつ病なの?
12 「EPDSが高得点=重度の産後うつ病」なの?
13 高得点だったお母さんにはどう対応したらいいの?
14 EPDSの点数と,面接での印象が違う気がする…。どう判断すればいい?
15 「区分点」ってなに?
16 「偽陽性」ってなに?
17 産後健診で,身体の診察と産後うつ病スクリーニングはどちらを先に行うべき?
18 産後1ヵ月健診でEPDSを行い,さらに2週間後にもう1回行ったら
どちらも区分点以上でした。このお母さんを産後うつ病と判断していい?
19 EPDSは,産後1ヵ月ではなく2週間健診で行った方がいいの?
または両方行うべき?
引用文献
コラム
1 産後のお母さんとEPDS
2 産後2週間健診とは?
3 EPDSの質問項目の特徴
4 あくまでもお母さん一人で!
5 なぜEPDSを受けるの?
6 EPDSと区分点
7 魔法の杖ではありません!
8 偽陽性と偽陰性,区分点の考え方
9 EPDSの合計点が0点?!
10 自殺企図には要注意!
書評
竹田 省(順天堂大学産婦人科学講座 特任教授)
日本での産後うつ病や妊産褥婦の自殺の深刻な実態が明らかになり,またすぐに対応しないと母親だけでなく次世代を担う子どもたちの身体発育や精神・行動発達などに重大な障害や遅延をきたすことが問題となっている.このため,周産期領域,精神科領域,地域行政などの多職種連携による早急な対策と,一般社会への周産期メンタルヘルスの重要性の認知・周知が叫ばれている.産褥1ヵ月健診では一見問題がなくても,その後にうつ病を発症すると,核家族社会の中で知識がない夫より叱咤激励され,母親はさらに孤立し,病状悪化に追い込まれる.このため,産後の健康診査におけるエディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)によるスクリーニングは重要であるが,きちんとその方法,評価法を理解して行わないと,かえって混乱を招くばかりか誤った対応となる危険があり,本来の目的が損なわれることになる.
このたび長年,周産期メンタルヘルス分野の臨床,研究,教育に深く取り組んでこられた我が国のオピニオンリーダーである宗田先生,岡野先生のお二人が執筆,監修された本書が時宜を得て発刊された.“EPDSのトリセツ”にふさわしく,簡便に,容易に理解できるよう,本法の概要,意義,やりかた,評価,解釈,対応などの解説と,多くの疑問に答える形の実践に即したQ & Aとで書かれており,その取扱い,対応の疑問が微に入り細にわたって解説されている.現場で使用される医師,看護師・助産師,地域の行政担当者,保健師さんなどにぜひ一読いただき,実際の使用に役立てていただきたい.EPDSを正しく理解し,正しく使用して,母子の心身ともに健康増進を図り,子育てにやさしい社会づくりを目指していただければと願っている.同時に,周産期メンタルヘルスを広く背景や対応を知りたい方には「これからはじめる周産期メンタルヘルス」(南山堂)をあわせて読むことをお勧めしたい.
日本での産後うつ病や妊産褥婦の自殺の深刻な実態が明らかになり,またすぐに対応しないと母親だけでなく次世代を担う子どもたちの身体発育や精神・行動発達などに重大な障害や遅延をきたすことが問題となっている.このため,周産期領域,精神科領域,地域行政などの多職種連携による早急な対策と,一般社会への周産期メンタルヘルスの重要性の認知・周知が叫ばれている.産褥1ヵ月健診では一見問題がなくても,その後にうつ病を発症すると,核家族社会の中で知識がない夫より叱咤激励され,母親はさらに孤立し,病状悪化に追い込まれる.このため,産後の健康診査におけるエディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)によるスクリーニングは重要であるが,きちんとその方法,評価法を理解して行わないと,かえって混乱を招くばかりか誤った対応となる危険があり,本来の目的が損なわれることになる.
このたび長年,周産期メンタルヘルス分野の臨床,研究,教育に深く取り組んでこられた我が国のオピニオンリーダーである宗田先生,岡野先生のお二人が執筆,監修された本書が時宜を得て発刊された.“EPDSのトリセツ”にふさわしく,簡便に,容易に理解できるよう,本法の概要,意義,やりかた,評価,解釈,対応などの解説と,多くの疑問に答える形の実践に即したQ & Aとで書かれており,その取扱い,対応の疑問が微に入り細にわたって解説されている.現場で使用される医師,看護師・助産師,地域の行政担当者,保健師さんなどにぜひ一読いただき,実際の使用に役立てていただきたい.EPDSを正しく理解し,正しく使用して,母子の心身ともに健康増進を図り,子育てにやさしい社会づくりを目指していただければと願っている.同時に,周産期メンタルヘルスを広く背景や対応を知りたい方には「これからはじめる周産期メンタルヘルス」(南山堂)をあわせて読むことをお勧めしたい.