地域とつながる
高齢者救急実践ガイド
1版
東京医科大学救急・災害医学分野 主任教授 行岡哲男 監修
東京医科大学救急・災害医学分野 兼任教授,恵泉クリニック 院長
太田祥一 編集
東京医科大学高齢診療科 主任教授 羽生春夫 編集
定価
6,050円(本体 5,500円 +税10%)
- A5判 431頁
- 2016年12月 発行
- ISBN 978-4-525-41091-9
救急の現場で高齢者を診る研修医・若手医師必読!
研修医・若手医師らが救急医療の現場で高齢者の対応をするときに知っておくべき,高齢者によくみられる症状・疾患や診療のポイント,専門医へのコンサルトのタイミング,地域医療との連携,看取りについて,各領域の専門家が基礎知識や診療の実際を示した症例を解説.臨床ですぐに活用できる「高齢者救急」の実践的なガイドブック.
- 序文
- 目次
序文
生老病死の「老」と「病」について,山上憶良が万葉集の「世間のとどまり難きを哀しびたる歌」(巻5-804)と「沈痾自哀の文」(巻5-897)で優れた論述を展開しています.憶良は,年を重ねると人は身体の不都合を多く経験すると言います.このうち「致し方なし」と受入れ可能なのが「老」に由来し,受入れがたく不条理極まりない身体の不都合こそが「病」によるものです.そして「病」は,その重さに応じて人生の可能性を制限し,重篤な場合,これまでの予想とは全く違う人生を人に迫ります.若ければ新しい人生のシナリオの選択も可能かもしれません.しかし,「老」に「病」が重なった場合,身体の不都合の相乗的悪化による制限の増大だけでなく,もはや新たな人生を選び取る時間的余裕もありません.74 歳の憶良は「老」と「病」に苦しみ,「死」の影に心が萎えます.すべての可能性が絶たれる「死」の恐ろしさもさることながら,「老」に「病」が重なる耐えがたい不条理を彼は切々とそして身悶えする激しさで訴えます.医学/医療が進歩した現代でも,憶良のこの訴えはその力を失っていません.
さて,21世紀前半のわが国では,少子高齢化を契機に社会・経済の土台が大きく組み変わります.あらゆる制度や体制が,すみやかな変革を迫られており,医療も例外ではありません.むしろ,医療こそがこの変革の先駆けとなるべきかもしれません.このような状況の中で本書は編纂されました.本書は,高齢者の救急診療において各論的対応から総合的なものまで,いかにすれば必要かつ十分な対応が可能か,その理論と実際がまとめられています.これまでに先行する類書はなく,本書は臨床医に重要で必要な情報を提供しうると思います.本書で紹介されるような洗練された救急診療が提供されるとしても,高齢者の救急現場では,1,300 年前に山上憶良が記した「老」に「病」が重なるときにその人が体験する不条理感を忘れてはなりません.この不条理感を解く妙法・妙薬がないとしても,否,ないからこそ,これが重要だと思います.
本書が高齢者の救急診療を担当する臨床医に活用され,その診療の一助となることを祈りつつ,皆さんの手元に本書をお届けします.
2016年10月
行岡哲男
さて,21世紀前半のわが国では,少子高齢化を契機に社会・経済の土台が大きく組み変わります.あらゆる制度や体制が,すみやかな変革を迫られており,医療も例外ではありません.むしろ,医療こそがこの変革の先駆けとなるべきかもしれません.このような状況の中で本書は編纂されました.本書は,高齢者の救急診療において各論的対応から総合的なものまで,いかにすれば必要かつ十分な対応が可能か,その理論と実際がまとめられています.これまでに先行する類書はなく,本書は臨床医に重要で必要な情報を提供しうると思います.本書で紹介されるような洗練された救急診療が提供されるとしても,高齢者の救急現場では,1,300 年前に山上憶良が記した「老」に「病」が重なるときにその人が体験する不条理感を忘れてはなりません.この不条理感を解く妙法・妙薬がないとしても,否,ないからこそ,これが重要だと思います.
本書が高齢者の救急診療を担当する臨床医に活用され,その診療の一助となることを祈りつつ,皆さんの手元に本書をお届けします.
2016年10月
行岡哲男
目次
第Ⅰ章 高齢者救急の基礎知識
1.救急医療と高齢者
1)救急医学概論
2)高齢医学概論
3)高齢者医療のこれから—地域包括ケアシステムの重要性
2.高齢者に起こりやすい急性症状,疾患と診断・治療
1)めまい
2)神経所見の診かた
3)不整脈
4)大動脈瘤・解離,肺塞栓症
5)深部静脈血栓症(DVT)
6)貧 血
7)腹痛(腸管虚血,腸管穿孔)
8)排尿障害
9)慢性腎臓病
10)皮膚病変
11)重症外傷への挑戦
12)骨折・骨粗鬆症
13)変形性関節症
14)精神科救急─せん妄の診断と治療
15)認知症
16)心肺停止
17)鎮痛薬の使い方
18)高齢者のポリファーマシー
19)高齢者への処方の注意
3.高齢者救急診療のポイント
1) 高齢者救急診療総論─見落としなく元の生活に戻ることを目標としたよりよい
高齢者救急対応のために
2)救急初期対応
3)検査のポイント
4.感染制御総論
5.リハビリテーション総論
1)リハビリテーション総論
2)高齢者救急とリハビリテーション
3)評価のしかたとリハビリテーションの実際
6.高齢者医療と地域包括ケア
1) 地域の医療機関・施設との連携と介護者のかかわり
2) 高齢者をとりまく状況と救急医療とのかかわり
3)介護保険・訪問看護のしくみ
7.集中治療の限界
8.End-of-Life Care
1)End-of-Life Care概論
2)高齢者救急とEnd-of-Life Care
9.看取り
1)オプション提示(移植医療に関する情報提供)
2)最期の診察(死亡確認)
3)死後の対応
STEP UP Column 死後の処置とマナー
第Ⅱ章 症例からみる高齢者救急の実際
症例1 てんかん
症例2 失 神
症例3 脳血管障害
症例4 心不全
症例5 肺炎,誤嚥性肺炎
症例6 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
症例7 特発性肺線維症(IPF)
症例8 気 胸
症例9 尿路感染敗血症
症例10 血流障害
症例11 中 毒
症例11 虐 待
症例12 神経難病の看取り
症例13 積極的な救命救急診療後の看取り─救急・集中治療における終末期対応から
第Ⅲ章 高齢者救急のこれから
索 引
1.救急医療と高齢者
1)救急医学概論
2)高齢医学概論
3)高齢者医療のこれから—地域包括ケアシステムの重要性
2.高齢者に起こりやすい急性症状,疾患と診断・治療
1)めまい
2)神経所見の診かた
3)不整脈
4)大動脈瘤・解離,肺塞栓症
5)深部静脈血栓症(DVT)
6)貧 血
7)腹痛(腸管虚血,腸管穿孔)
8)排尿障害
9)慢性腎臓病
10)皮膚病変
11)重症外傷への挑戦
12)骨折・骨粗鬆症
13)変形性関節症
14)精神科救急─せん妄の診断と治療
15)認知症
16)心肺停止
17)鎮痛薬の使い方
18)高齢者のポリファーマシー
19)高齢者への処方の注意
3.高齢者救急診療のポイント
1) 高齢者救急診療総論─見落としなく元の生活に戻ることを目標としたよりよい
高齢者救急対応のために
2)救急初期対応
3)検査のポイント
4.感染制御総論
5.リハビリテーション総論
1)リハビリテーション総論
2)高齢者救急とリハビリテーション
3)評価のしかたとリハビリテーションの実際
6.高齢者医療と地域包括ケア
1) 地域の医療機関・施設との連携と介護者のかかわり
2) 高齢者をとりまく状況と救急医療とのかかわり
3)介護保険・訪問看護のしくみ
7.集中治療の限界
8.End-of-Life Care
1)End-of-Life Care概論
2)高齢者救急とEnd-of-Life Care
9.看取り
1)オプション提示(移植医療に関する情報提供)
2)最期の診察(死亡確認)
3)死後の対応
STEP UP Column 死後の処置とマナー
第Ⅱ章 症例からみる高齢者救急の実際
症例1 てんかん
症例2 失 神
症例3 脳血管障害
症例4 心不全
症例5 肺炎,誤嚥性肺炎
症例6 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
症例7 特発性肺線維症(IPF)
症例8 気 胸
症例9 尿路感染敗血症
症例10 血流障害
症例11 中 毒
症例11 虐 待
症例12 神経難病の看取り
症例13 積極的な救命救急診療後の看取り─救急・集中治療における終末期対応から
第Ⅲ章 高齢者救急のこれから
索 引