書籍カテゴリー:癌・腫瘍学

Triple Negative 乳癌
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Triple Negative 乳癌
発症メカニズムから診断・治療まで

1版

  • 京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学教授 戸井雅和 編集

定価:6,480円(本体6,000円+税8%)

  • B5判 142頁
  • 2010年11月 発行
  • ISBN978-4-525-42071-0

概要

Triple Negative 乳癌は,ホルモン受容体,HER2の発現がいずれも陰性であり,従来の薬物療法ではほとんど効果が得られず治療に難渋するとされてきた.しかし近年,有効な化学療法や分子標的薬の開発が進み治療の進展が期待されている.本書はTriple Negative 乳癌の基礎研究から実際の診断と治療方法まで,その全貌をまとめた初の成書である.

序文

本書は,現在注目されているtriple negative 乳癌について,第一線で活躍する臨床医・研究者が解説したタイムリーな書籍である.まだ解明されていないことも多く,標準的な治療法が確立されていない現状において,執筆者の先生方には最新の情報を今後の展望も含めて執筆していただいた.さらに巻末にはtriple negative 乳癌に関連したkeywordの解説も加えていただいた.Triple negative 乳癌に関する基礎研究,診断法,治療法の側面からこれだけの知識がまとめられた書物は本書が初めてである.
Triple negative 乳癌はさまざまなsubpopulationからなる集合体である.まず,BRCA1遺伝子変異・異常を有する乳癌がある.BRCA1/2遺伝子の発癌に及ぼす影響はよく知られるところであり,治療法に関しても白金製剤に対する高い反応性,PARP1阻害薬の奏効など,1つの独立治療亜群としてとらえる傾向にある.乳癌は遺伝子発現プロファイルに基づくintrinsic subtype分類をもとに治療法を考慮することが一般化しているが,triple negative 乳癌もそのサブカテゴリーとしてみられるようになりつつある.
治療戦略からみれば,遺伝子修復能とともに細胞増殖能も重要な要素であり,総じて増殖が速く予後不良のtriple negative乳癌であるが,予後が比較的良好なsubpopulationに関してはさらにサブカテゴリー化して考えたほうがよいのかもしれない.細胞増殖能が高く,早期再発の危険性を有するtriple negative乳癌の治療の主体は細胞障害性化学療法である.少なくとも現時点においてはほかに確立された治療法は存在しない.したがって,化学療法のレジメン,用量,サイクル数,期間は軽視できない問題であり,同時に支持療法も重要な意味をもつ.術前の治療の場合には,治療効果を最大限に引き出すという観点において,治療効果をみながら治療法を変更することも考慮すべき大切なポイントである.
また,実地臨床においてはtriple negative乳癌の正確な診断が必要であり,病理組織学的診断,放射線科的診断に関する基礎的・臨床的知識が欠かせない.集学的治療の観点からみると,局所療法をどのように考えるか,術前治療後の乳房切除の考え方なども重要である.non-triple negative乳癌,特にluminal 型の乳癌とは少し分けて考える必要があるかもしれない.術後のフォローアップも同様である.
Triple negative乳癌に対する新しい治療法の開発は大変活発である.PARP1阻害薬,血管新生阻害薬,Src阻害薬などの分子標的薬の開発が進んでおり,単独治療法としての開発や化学療法との併用療法の開発が主に進行している.またメトロノミック化学療法との併用療法の開発も検討されている.
さらに疫学の観点からは,non-triple negative乳癌とtriple negative乳癌では発癌リスク要因が異なる可能性が指摘されている.これは多角的な研究の蓄積が必要であるが,発癌リスク要因の検討は予防法に連結する課題であり,多くの関心が集まっている.
わが国ではまだ乳癌には保険適用されていないものの,白金製剤の導入によってtriple negative乳癌の治療成績は改善傾向にあり,また新規分子標的薬の臨床導入でさらに進展が期待されている.診断・治療ともに新しい時代に入りつつあるtriple negative乳癌の研究は,近い将来さらなる前進があると思われる.本書がその戦略を考えていくうえでの一助になれば幸いである.

2010年9月
京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学 教授
戸井雅和

目次

Chapter1 原発性triple negative乳癌の病態
1.疫学
 ① 発症率
 ② 再発・生存率
 ③ 再発形式
2.発症リスク因子
3.分子生物学的特徴
 ① BRCA1遺伝子
 ② 上皮増殖因子受容体(EGFR)
 ③ 血管新生
 ④ Notch-1-survivin経路
 ⑤ 上皮間葉移行(EMT)
 ⑥ 微小転移

Chapter2 再発triple negative乳癌の病態
1.Triple negative乳癌の再発形式
2.再発triple negative乳癌の病態
3.転移部位による再発triple negative乳癌の経過
 ① 残存乳房内再発
 ② 領域再発(鎖骨上リンパ節,皮膚再発など)
 ③ 遠隔再発
4.再発triple negative乳癌の薬物治療

Chapter3 Triple negative乳癌と癌幹細胞
1.正常幹細胞と癌幹細胞
2.乳癌幹細胞の表面マーカーと発生メカニズム
3.癌幹細胞と微小環境(ニッチ)
4.癌幹細胞と上皮間葉移行(EMT)

Chapter4 Triple negative乳癌の生物学的特徴 -BRCA1変異乳癌の特徴-
1.BRCA1変異乳癌の臨床病理学的特徴
2.BRCA1変異乳癌とbasal-like型乳癌
3.BRCA1変異乳癌の発癌経路
4.BRCA1変異乳癌の治療反応性
 ① BRCA1変異乳癌と化学療法感受性
 ② BRCA1変異乳癌とPARP1阻害薬

Chapter5 Triple negative 乳癌の病理診断
1.乳癌の病理組織診断
2.乳癌の病型分類への新しい試み①:細胞の分化との関わり
3.乳癌の病型分類への新しい試み②:術後治療との関わり
4.Triple negative乳癌とbasal-like型乳癌の病理組織診断における実際の考え方
 ① Triple negative乳癌とは病理学的には何か?
 ② Basal-like型乳癌とは何か?

Chapter6 Triple negative 乳癌の画像診断
1.形態画像:マンモグラフィ,超音波,造影MRI
 ① BI-RADSを使用した画像診断用語
 ② Spiculated massの意味するもの
 ③ Triple negative乳癌の形態画像と血流診断
2.機能画像:PETとMR spectroscopy

Chapter7 乳癌における化学療法感受性
1.化学療法感受性とは何か?
2.細胞周期と癌
3.細胞周期とチェックポイント
4.癌細胞におけるアポトーシス誘導とp53
5.癌細胞における分裂期崩壊とスピンドルチェックポイント
6.分裂期崩壊を意図した抗癌薬
7.Triple negative乳癌に対する治療戦略
8.新しいコンセプトから生まれる新薬とその可能性

Chapter8 Triple negative乳癌の治療

Chapter8-1.総 論
1.乳癌全体におけるtriple negative乳癌の位置づけ
2.BRCA1変異乳癌とtriple negative乳癌
3.現在の乳癌治療戦略とtriple negatve乳癌の位置づけ
4.今後のtriple negative乳癌の治療:targeted therapy
 ① 微小管作用薬
 ② 腫瘍血管を標的とする薬剤(vascular targeting agent)
 ③ DNA直接傷害
 ④ 増殖因子阻害

Chapter8-2.局所療法 ─手術療法を中心に─
1.乳癌における手術療法の変遷
2.Triple negative乳癌の局所療法
3.Triple negative乳癌における術前化学療法後の局所療法
 ① 化学療法による腫瘍の縮小パターンと切除範囲の設定
 ② 局所再発のリスク
 ③ センチネルリンパ節生検の妥当性

Chapter8-3.術前化学療法
1.Triple negative乳癌における術前化学療法の治療戦略:これまでの報告から
2.Triple negative乳癌における術前化学療法の薬剤選択
3.Triple negative乳癌における術前化学療法の治療スケジュール
4.Triple negative乳癌における術前化学療法の感受性予測
5.今後の展望

Chapter8-4.術後化学療法
1.Triple negative乳癌における術後化学療法の感受性:EBCTCGメタアナリシスから
2.Triple negative乳癌における術後化学療法のレジメン選択
3.Triple negative乳癌における術後化学療法の各薬剤の感受性
4.分子標的薬および新規薬剤の感受性
5.今後の展望

Chapter8-5.再発後の化学療法
1.再発triple negative乳癌の予後
2.再発triple negative乳癌に対する標準的化学療法:アンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤の効果と今後の課題
3.再発triple negative乳癌に対するアンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤以外の化学療法薬
 ① 現在使用可能な薬剤
 ② 臨床導入が研究されている薬剤

Chapter8-6.分子標的治療
1.Basal-like型乳癌とtriple negative乳癌の関係
2.Basal-like型乳癌の遺伝子異常
3.Triple negative乳癌の予後
4.Triple negative乳癌の化学療法
5.Triple negative乳癌に対する研究中の分子標的薬
 ① PARP1阻害薬
 ② 血管新生阻害薬
 ③ Multipleチロシンキナーゼ阻害薬
 ④ EGFR阻害薬
 ⑤ その他の分子標的薬

症例提示1.原発性triple negative乳癌の術前化学療法施行例
症例提示2.異時性両側性triple negative乳癌の症例
症例提示3.再発non-basal型乳癌の症例

Keyword解説

索引