書籍カテゴリー:分子医学|癌・腫瘍学

がんの浸潤・転移
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The Frontiers in Medical Sciencesシリーズ
がんの浸潤・転移
臨床と基礎

1版

  • 神戸大学大学院医学系研究科教授 高井義美 編集

定価:6,264円(本体5,800円+税8%)

  • B5判 241頁
  • 2011年10月 発行
  • ISBN978-4-525-42081-9

概要

がんに対する外科手術や化学療法,放射線治療などの治療法は急速に進歩しているにもかかわらず,がんが 未だに“不治の病”である原因には「がんの浸潤・転移」が大きく関わっている.本書は,がんに関連する多くのテーマの中でも,「がんの浸潤・転移」の臨床と基礎に焦点を当て,この分野の第一線研究者によりわかりやすく解説.

序文

 現代の日本においてがんは全死亡原因の約3割を占め,1981年以来,死亡原因の第1位であり続けている.このような背景から,がんに対する臨床・基礎研究は医学研究の中でも最もさかんに行われている.近年,臨床医学においてがんの診断法およびがんに対する外科手術や化学療法,放射線治療法などの治療法は急速に進歩し,生存率も改善してきている.特に,早期に発見されたがんは,適切に治療されるのであれば,完全に“治癒”することも少なくない.一方,基礎医学研究の蓄積により,がんの発生や進展に関わる分子機構もかなり解明されてきた.その成果はがんに対する分子標的治療薬の開発など,がんに対する新しい診断・治療法として積極的に活用されるようになった.
 しかし,冒頭で述べたようにがんは依然,現代日本においても最大の死亡原因であり,今なお“不治の病”というレッテルが外れたわけではない.近年の診断・治療法の発達にもかかわらず,早期発見の機会を逃し,いわゆる手遅れの状態で受診されるがん患者さんも後を絶たない.抗腫瘍薬の開発・改良も進んではいるものの,薬剤のみで治癒にまで導けるがんは少なく,副作用の問題も無視できない.このように,がんが“不治の病”であり続ける原因として,本書で取り上げる「がんの浸潤・転移」が大きく関わっている.特に,がんの転移は,しばしば多臓器に生じるため,外科手術が困難となる.また,転移や再発の過程で,がんは抗腫瘍薬に対して耐性を獲得することも多く,化学療法などによる治療を困難にしている.さらに,がん細胞が転移先臓器で長年潜伏した後,腫瘍形成を再開し生命を脅かすようになる「がん休眠」の問題も,近年明らかになりつつある.
 このような現状をふまえて,本書ではがんに関連する多くの臨床的・基礎的問題の中でも,「がんの浸潤・転移」に焦点を当て,この分野に関わる新進気鋭の医師・研究者に「がんの浸潤・転移」の臨床と基礎の現状をわかりやすく解説してもらった.執筆項目については,現在最も活発に議論・検討されているトピックスを選択した.また,それぞれの筆者が執筆する際には,各項目に関して筆者自らの研究内容も含め全体を見通した上で,現時点までに明らかになっている点とこれからの問題点を明記してもらい,これからの問題点に対して今後どのように取り組んでいくべきかを専門外の読者にも理解できるよう心がけていただいた.「がんの浸潤・転移」の研究の進展が,社会的関心の高いがんという病気の治癒を困難にする要因を明らかにし,がんの臨床における診断および治療のさらなる向上につながっていくことを願っている.
 最後に,本書の執筆者と出版にまで導いていただいた南山堂編集部スタッフに感謝したい.

2011年 秋
神戸大学大学院医学研究科分子細胞生物学分野
高井 義美

目次

序論 がんの浸潤・転移研究  (下野洋平・高井義美) 

1 がん研究の歴史
 1.黎明期
 2.がん遺伝子の発見
 3.がん抑制遺伝子の発見
 4.プロテインキナーゼの発見と発がんのプロモーション機構
 5.遺伝子の不安定性

2 がんの浸潤・転移研究の現状と課題
 1.臨床的早期がんにおける浸潤・転移の可能性
 2.がん転移の臓器指向性
 3.腫瘍間質とがん細胞の相互作用
 4.がん細胞の血行性転移機構
 5.がん細胞の浸潤・転移に関連する分子機構

3 がんの診断と治療の進展
 1.がん診断技術の進展
 2.循環腫瘍細胞(CTC)
 3.がん治療法の進展


Ⅰ 臓器別がんにおける浸潤と転移 ─現状と課題─

第1章 消化器がん  (南 晶洋・東 健)

1-1 消化器がんの臨床
 1.部位別にみた初診時進行度と予後
 2.臨床病期分類
 3.がん転移と関連する臨床指標
 4.転移様式
 5.微小転移

1-2 難治性膵がんの現状と課題
 1.バイオマーカーによる早期発見の試み
 2.遺伝子変異
 3.微小環境
 4.薬剤のがん細胞への有効運搬
 5.画像診断による微小転移の検出
 6.進行膵がんの治療戦略

1-3 胃がんの現状と課題
 1.胃がんの組織型と浸潤様式
 2.びまん浸潤型胃がんの特徴と問題点


第2章 肺がん  (石川暢久・河野修興)

2-1 肺がんの疫学
2-2 肺がん転移の臨床像
2-3 肺がん浸潤・転移におけるKL-6の役割
2-4 肺がんの浸潤・転移の診断
2-5 肺がんの治療


第3章  乳がん  (直居靖人・野口眞三郎)

3-1 乳がんの再発予後予測法
 1.Mammaprint
 2.Oncotype DX
 3.GGI
 4.95-gene classifier

3-2 乳がんの抗がん剤感受性予測法
 1.30-probe set DLDA classifier
 2.70-gene classifier


第4章 前立腺がん  (三宅秀明・藤澤正人)

4-1 前立腺がんの浸潤・転移機構
 1.前立腺がんの浸潤・転移の特徴
 2.前立腺がんの骨転移機構
 3.前立腺がんの精嚢浸潤機構

4-2 前立腺がんの浸潤・転移にかかわるバイオマーカー
 1.前立腺がんのバイオマーカー開発の現況
 2.細胞外マトリックス(ECM)分解酵素
 3.抗アポトーシスタンパク質

4-3 新規治療による前立腺がんの浸潤・転移制御の可能性
 1.進行前立腺がんに対する新規治療開発の現況
 2.サイトカインを標的にした新規治療による前立腺がんの浸潤・転移制御
 3.抗アポトーシスタンパク質を標的にした新規治療による前立腺がんの浸潤・転移制御


第5章 血液腫瘍  (織谷健司・金倉 譲)

5-1 正常リンパ球の生存・成熟と局在
 1.リンパ組織
 2.リンパ球の移動

5-2 リンパ系腫瘍の進展
 1.リンパ球系腫瘍細胞
 2.リンパ球系腫瘍の進展様式
 3.悪性リンパ腫の臨床病期診断
 4.リンパ球系腫瘍の新しい治療

5-3 骨髄球系腫瘍
 1.白血病幹細胞
 2.造血幹細胞ニッチ
 3.白血病幹細胞を標的とした治療戦略


Ⅱ がんの浸潤と転移に対する治療法 ─現状と課題─

第6章 化学療法  (谷岡真樹・南 博信)

6-1 転移と浸潤に対する化学療法 ─ 総論

6-2 転移と浸潤に対する化学療法 ─ 各論
 1.既存薬剤の開発
 2.新規細胞傷害性抗がん剤の開発
 3.局所に対する化学療法

6-3 転移と浸潤に対する化学療法 ─ 課題


第7章 分子標的療法  (平瀨主税・松村 到)

7-1 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)シグナル阻害薬

7-2 MMP阻害薬

7-3 TNF-αシグナル阻害薬

7-4 TGF-βシグナル阻害薬

7-5 ケモカインシグナルの阻害薬


第8章 免疫細胞療法  (本橋新一郎・中山俊憲)

8-1 NKT細胞を標的とした免疫細胞治療の臨床研究

8-2 NKT細胞免疫治療の課題と展望

8-3 転移抑制を目指したその他の免疫治療


第9章 粒子線治療  (菱川良夫)

9-1 医学研究から医療へ
 1.医学研究
 2.医療
 3.民間施設での治療

9-2 粒子線の基礎的特徴

9-3 施設,加速器,治療室 ─兵庫と指宿の例─

9-4 システム
 1.装置
 2.医療システム

9-5 陽子線と炭素イオン線の違い

9-6 システムとしてのがん治療

9-7 課題
 1.安全な医療
 2.指宿でのイノベーション


Ⅲ がんの浸潤と転移に対する診断 ─現状と課題─

第10章 病理診断  (伊藤智雄)

10-1 浸潤
 1.切離断端の術中迅速診断
 2.局所における浸潤の評価

10-2 転移
 1.リンパ節転移
 2.原発不明転移性腫瘍に対する病理診断


第11章 質量分析診断  (吉田 優・波多野直哉・西海 信)

11-1 質量分析計を用いたメタボロミクスのがん診断への応用
 1.液体クロマトグラフィー -質量分析計(LC-MS)を利用したメタボロミクス
 2.キャピラリー電気泳動 -質量分析計(CE-MS)を利用したメタボロミクス
 3.ガスクロマトグラフィー -質量分析計(GC-MS)を利用したメタボロミクス

11-2 GC-MSでの膵臓がん患者血清を利用したメタボロミクスの実例
 1.サンプルの前処理
 2.GC-MSの測定条件
 3.MSデータの解析


第12章 循環腫瘍細胞(CTC)  (田中文啓・米田和恵)

12-1 がんの進展と微小転移
 1.がんの転移と循環腫瘍細胞(CTC)
 2.微小転移とその重要性
 3.微小転移の評価法

12-2 CTCの検出法
 1.間接法
 2.直接法
 3.CellSearchシステム

12-3 CTCの臨床的意義


Ⅳ がん細胞の特性 ─浸潤と転移の阻止に向けて─

第13章 上皮間葉転換(EMT)  (齋藤 朗・宮園浩平)

13-1 EMTの分類

13-2 EMTとがんの進展

13-3 TGF-βによるEMTの誘導

13-4 転写因子によるEMTの誘導

13-5 ほかのシグナル経路によるEMTの制御

13-6 マイクロRNAによるEMTの制御

13-7 EMTによる細胞形質の変化

13-8 がん微小環境におけるEMTの位置づけ


第14章 がん幹細胞  (吉田 剛・佐谷秀行)

14-1 がん幹細胞に基づく腫瘍組織構築モデル

14-2 可塑性に基づく動的がん幹細胞モデル

14-3 がん幹細胞を支える特殊な微小環境 ─ニッチ─

14-4 がん幹細胞と上皮間葉転換(EMT)の関係

14-5 上皮間葉転換(EMT)に基づくがん転移誘導の新たな考え方

14-6 前転移ニッチとがん幹細胞による転移巣形成機構

14-7 原発不明がんとがん幹細胞


第15章 がん休眠  (信谷健太郎・下野洋平)

15-1 がん休眠とは
 1.細胞の休眠
 2.がん細胞の休眠

15-2 がん休眠に関連する臨床的知見
 1.がんの潜伏期間と休眠期間
 2.潜伏がん細胞の検出
 3.移植臓器を介したがん発症

15-3 がん休眠に関連する分子機構
 1.細胞レベルでのがん休眠機構
 2.腫瘍塊レベルでのがん休眠

15-4 がん休眠の臨床応用


第16章 細胞間接着破綻  (扇田久和)

16-1 上皮細胞における細胞間接着の機構

16-2 接着分子系の異常とがんの浸潤・転移
 1.カドヘリン-カテニン系の異常とがんの浸潤・転移
 2.ネクチン-アファディン系またはネクチン様分子の異常とがんの浸潤・転移
 3.クローディンの異常とがんの浸潤・転移


第17章 運動亢進  (山崎大輔・竹縄忠臣)

17-1 細胞運動

17-2 アクチン細胞骨格
 1.アクチンの重合
 2.ミオシンとの相互作用
 3.Rhoファミリーによる制御

17-3 がん細胞の運動様式とその可塑性
 1.運動様式
 2.可塑性


第18章 血管外遊出  (今井俊夫)

18-1 免疫細胞の組織浸潤機構
 1.細胞浸潤の4つのステップ
 2.ローリング──軽い接触にかかわる接着分子
 3.トリガリング──活性化因子としてのケモカイン
 4.アドヒジョン──強固な接着を媒介するインテグリン
 5.トランスマイグレーション──細胞間隙の通過を制御する内皮細胞間接着分子

18-2 ケモカインによるがん細胞の組織選択的浸潤
 1.CXCR4
 2.CX3CR1
 3.CCR7
 4.その他のケモカイン受容体

18-3 細胞接着分子Necl-5によるがん細胞の浸潤・転移の増強


Ⅴ がんの微小環境 ─浸潤と転移の阻止に向けて─

第19章 正常細胞との協調と競合  (藤田恭之)

19-1 背景

19-2 がん細胞とストローマの相互作用
 1.がん細胞周囲の線維芽細胞
 2.がん細胞周囲の細胞外マトリックスタンパク質
 3.がん細胞周囲の免疫細胞

19-3 がん幹細胞とがん微小環境

19-4 転移がん細胞とその周囲のがん微小環境

19-5 がん細胞とストローマの相互作用をターゲットにした治療法

19-6 がん細胞と隣接する正常上皮細胞の相互作用


第20章 細胞外マトリックス(ECM)  (坂本毅治・清木元治)

20-1 ECMの機能
 1.物理的役割
 2.増殖因子のリザーバーとしての機能
 3.ECM成分の細胞に対する機能

20-2 ECMの構造
 1.基底膜
 2.間質(結合組織)

20-3 ECMの成分
 1.プロテオグリカンとヒアルロン酸
 2.コラーゲン
 3.フィブロネクチン
 4.ラミニン

20-4 ECMの環境

20-5 がん組織におけるECMの産生

20-6 がん組織でのECMの修飾,分解
 1.ヘパラナーゼ
 2.MMP
 3.LOX


第21章 腫瘍血管新生  (高倉伸幸)

21-1 正常組織における血管形成
 1.脈管形成の分子機序
 2.血管新生の分子機序

21-2 正常血管と腫瘍内血管の相違

21-3 腫瘍血管の血管正常化による治療概念

21-4 腫瘍血管新生抑制療法における今後の課題
 1.がん細胞の浸潤
 2.がん幹細胞の血管ニッチ


第22章 リンパ管新生  (渡部徹郎)

22-1 リンパ管の役割と構造
 1.毛細リンパ管
 2.集合リンパ管

22-2 がん転移における血管とリンパ管の役割

22-3 リンパ管新生を制御する因子群
 1.VEGF-C,-Dとその受容体
 2.その他のリンパ管新生因子

22-4 リンパ管新生シグナルを標的としたがん転移抑制の試み
 1.リンパ管新生とがん患者予後との相関
 2.VEGF-C/VEGFR3シグナル阻害によるがん転移の抑制効果
 3.その他のリンパ管新生阻害によるがん転移の抑制効果


第23章 炎症とがん  (丸澤宏之・松本裕子・高井 淳・千葉 勉)

23-1 炎症発がんの機序
 1.サイトカインと発がん
 2.炎症による遺伝子異常の誘発
 3.炎症と遺伝子不安定性の獲得
 4.H. pyloriによる胃粘膜細胞への遺伝子変異の導入
 5.AID発現によるゲノム不安定性の誘導

23-2 AIDの炎症発がんにおける普遍性

23-3 AID研究からみえてきたこと
 1.発がんにおけるNF-κBの役割
 2.がんの遺伝子変異パターン解析の重要性
 3.AIDの遺伝子特異性
 4.AIDと遺伝子の脱メチル化


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