書籍カテゴリー:地域医療|保健/福祉/介護

多職種で支える 一人暮らしの在宅ケア
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カンファレンスで学ぶ
多職種で支える 一人暮らしの在宅ケア

1版

  • 社会医療法人財団大和会 在宅サポートセンター長 森 清 編

定価:2,160円(本体2,000円+税8%)

  • B5判 120頁
  • 2019年4月 発行
  • ISBN978-4-525-44231-6

概要

一人暮らしの人も、家に帰って療養できます!

超高齢社会の中,配偶者に先立たれたり,離婚・非婚が増えたりしたことなどによって単独世帯が増加している.本書では,異なる背景の一人暮らしの人を支えた8事例のケアカンファレンスを載録し,在宅療養支援のポイントを医師・看護師・社会福祉士・ケアマネジャー等の多職種の視点から解説.一人暮らしの人を最期まで支えるコツがわかる一冊!

序文

 「目がみえない人の一人暮らしなんて危険です」「老人が1人で暮らせるはずがありません」「寝たきりの高齢者が1人で生活できる可能性はない」「がん末期で親戚が1人もいない人を退院させられません」「無縁の方の自宅での生活を支えるのは怖いのでやりたくない」
 このような医療介護福祉専門職の声や発言は,不安な気持ちを正直に表したものであり,傾聴し,励まし,アドバイスを与えるべきであるが,そのまま,多くのスタッフの共感を勝ちとり,そのチームや院内の「常識」となって定着してしまう.私たちはこのような「不安」に支配されてしまっている.
 そのように感じることは,もっともなことであり,その不安の中に将来の社会の発展が隠されている.このような不安を覚える皆さまも,本書を通して,今の時代に何が必要なのかをともに考えていただけると幸いである.

 最近では,病院での抑制(身体拘束行為) や,自宅でのネグレクトを虐待として取り扱うようになった.家に帰りたい人を家に帰さないことも虐待である可能性がある.親子でも,あるいは夫婦でも,ときに利害関係は対立する.それにもかかわらず,病院のスタッフもケアマネジャーも「キーパーソン」なる家族の意向をもって,本人の意思として方針を定めることがある.「本人の気持ちを確認しましたか?」と尋ねるだけでも,けげんな顔をされることもある.「キーパーソン」という用語はあいまいであり,幻想のようなものである.本人の気持ちは本人以外に語ることはできない.本人は「家に帰りたい」と言っているのに,誰もかれも,聞き逃している.いや,聞き流していることがある.
 それだけ,家族(キーパーソン)の介護負担は重いのである.私たちは,家族やキーパーソンも同志として,あるいは仲間として,チームの一員として関わっていただく.「そんなことはできない」のであれば,そんなことをやるべきではない.そのような介護負担を強いてはならない.その上で,どうすれば本人の望む快適な在宅生活を維持できるのかを,チームのみんなで考えなくてはならない.よい案を誰も思いつかず,サービス担当者会議でも困難と介護疲労ばかりが確認される場合には,とりあえず,ショートステイや地域包括ケア病棟への入院などを検討することもある.2週間後や2ヵ月後に自宅で,みんなで再会するまでに,それぞれの課題をクリアできるか? それぞれの宿題を確認して,本人には短期入院を納得いただくこともある.
 サービス担当者会議におけるケアマネジャー(介護支援専門員)の役割は重要であり,会議の司会(議長)であるとともに,サービスの内容を決めなくてはならない.ケアマネジャーは,この会議だけではなく,入院直後の病院側の方針へのアドバイス(家に帰ることができる方であると情報提供することなど)や,退院調整のときの具体的な関わり(入院中に行われるべき調整を明確にすることなど)も求められている.訪問看護師は,サービス担当者会議において,安心の要である.会議に参加した訪問看護師が「私は新人で,よくわかりません.でも一生懸命頑張ります」などの自己紹介をされることがあるが,謙虚な自己紹介ではあっても,家族や本人は,この発言によって安心を得ることはできない.会議の中で,さまざまな問題が明確化されていくときにあっても,「大丈夫ですよ」と言い,微笑み続ける看護師の気概がある場合には,会議はスムーズに進行し,本人も家族も深く納得できるものである.もちろん,「大丈夫」の前には,たいていは「(ほとんどの苦痛はとれるので)大丈夫ですよ」「(本当に困ったら入院先はあるのですから)大丈夫ですよ」などのいくつものただし書きがつくのであるが.
 本人の「家に帰りたい」という思いは,多くの場合複雑である.ある男性が家に帰りたいと言い続けるので,家族が仕方なしに納得し,帰宅された.その男性に,「今までで一番の幸せは何でしたか?」と尋ねると,「ここに妻がいたことです」と涙ぐまれた.このような男性と何人も出会っている.家族は,「どうして家に帰りたいのか,理解し難い」と言っていたが,この姿を見て納得されていた.ひょっとしたら,本人は今は亡き妻に会いたくて,病院や施設で「家に帰りたい」と言い続けていたのかもしれない.実際に帰宅したところ,そこに愛する妻の姿がなく,呆然としてしまったときの,からっぽの心象風景を抱えた男性にかけるべき言葉を,社会も私たちも,まだ十分には蓄積していない.ここにいることが答えなのか,新しい話し相手や出会いを求めて,施設に入るべきなのか.デイケア/デイサービスに答えがあるのか? それぞれの症例で,ケアマネジャーを中心に議論がなされており,地域では,第2層協議体の関わりが求められている.そして,その先の「共生社会の実現」に期待したい.

 地域のケアマネジャーや病院の退院調整看護師や医療相談員の方々が,安易に「一人暮らしの方の在宅生活は無理です」と決めつける前に思い出してほしいことを,本書を通して伝えることができるのならば幸いである.また,自宅にいる方々を支えている医療介護福祉の関係者たちには,私たちの教訓を共有していただき,今後は同志として,まちづくり,くにづくりに,ともに努力してまいりましょう.

2019年3月
森 清

目次

1章 一人暮らしの人を支える在宅医療とケア 森 清

2章 事例から考える一人暮らしの人を支えるポイント
1 多職種と地域が連携して行った本人の思いをかなえた看取り
  KEYWORD:心不全の終末期がんと心不全の合併

2 全盲,認知症でこだわりの強い利用者に寄り添った在宅支援
  KEYWORD:病院受診拒否 服薬/検査拒否 転倒・転落

3 寝たきり独居での在宅生活をどう支えていくか?
  KEYWORD:右半身麻痺 認知症 全介助 自費でのサービス利用 

4 妻の入院中と死後の一人暮らしを支える在宅ケア
  KEYWORD:妻に先立たれた男性 一時的な一人暮らし中の支援 グリーフケア

5 1人で逝く無縁の利用者を医療と介護の連携で支援する
  KEYWORD:セルフネグレクト 暴言・暴力 生活保護

6 医療処置を必要とする無縁の人の在宅死を支える
  KEYWORD:腎瘻・ストーマの管理 抗がん剤の継続 清潔保持困難 語らない人 生活保護

7 社会福祉士がつないだ無縁の人の終末期の支援
  KEYWORD:診断後すぐの看取り 成年後見制度 葬儀 語らない人

8 介入を拒否していた身寄りのない高齢者への支援
  KEYWORD:ゴミ屋敷 セルフネグレクト 介護老人保健施設での看取り

3章 〈座談会〉一人暮らしの人の在宅療養を支えるためには何が必要か
龍原美賀,塚原あづさ,富田明彦,馬見塚統子,森 清,堀口希美,
中山美由紀,小野原智美,篠原かおる,浦上優子

付録
1 火災・事故予防チェックリスト
  社会医療法人財団大和会在宅サポートセンター
2 悪質商法や詐欺,家庭内のトラブル対策チェックリスト
  社会医療法人財団大和会在宅サポートセンター

Column
一人暮らしの高齢者が増えている 森 清
傾聴ボランティア 中山美由紀
病いの軌道 森  清
心不全の終末期と在宅医療の課題 森 清
アドバンス・ケア・プランニング 森 清
心不全とACP 森  清
幻覚・妄想のある患者への接し方 長坂省三
在宅で摂食嚥下リハビリテーションを導入するには? 元橋靖友
「死んでもいいから家に帰りたい」と言った方へのケアの方向性は? 篠原かおる
成年後見制度 田村美和子
ICT 中山美由紀
検死となる事態を予防する意味とは 篠原かおる
グリーフケア 森 清
デスカンファレンス 森 清
本人の意思を複数の機関,人間で担保できる体制づくり 森 清
セルフネグレクトと精神医療 長坂省三
生活保護制度の自立の概念 ケースワーカー
一人暮らしの人の見守り 塚原あづさ
ナラティブ 中山美由紀,森 清
ヘルパーと看取り 龍原美賀
法定後見と任意後見 田村 隆
無縁の人の死亡届 馬見塚統子,萬福 薫
遺骨の送付 小山貴広
相続財産管理人 市役所職員