介護漢方
排泄障害・摂食嚥下障害・運動器障害・睡眠障害・フレイル・サルコペニアへの対応
1版
医療法人徳洲会 日高徳洲会病院 院長/
サイエンス漢方処方研究会 理事長 井齋偉矢 著
定価
2,200円(本体 2,000円 +税10%)
- A5判 75頁
- 2020年7月 発行
- ISBN 978-4-525-47131-6
被介護者も介護スタッフも「漢方薬の活用」で元気な毎日を目指す!
多くの被介護者に排泄,睡眠,運動機能などに問題があり,これらは介護負担に直接つながり,軽減が求められています.そこで,本書では被介護者の問題となっている症状にあわせて「漢方薬を活用する」ことで被介護者が元気を取り戻し,介護者の身体的・精神的負担を軽減できるよう解説した.介護に携わる医療スタッフの必携の書.
- 序文
- 目次
- 書評1
- 書評2
- 書評3
序文
2018年5月に厚生労働省社会・援護局が発表した第7期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づく介護人材の必要数は,2020年度末には約216万人,2025年度末には約245万人と推計されている.そのため,2020年度末までに約26万人,2025年度末までに約55万人,年間6万人程度の新たな介護人材を確保する必要がある.これには,①介護職員の処遇改善,②多様な人材の確保・育成,③離職防止・定着促進・生産性向上,④介護職の魅力向上,⑤外国人材の受入環境整備など総合的な介護人材確保対策に国が取り組む必要があると述べている.
厚生労働省の推計に基づく分析では,団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度に必要とされる介護職員数に対し,確保できる見込み数の割合(充足率)は都道府県による地域差が大きく,最も低いのは福島県,千葉県の74.1%で,必要な職員数の4分の3に届かず,充足率が最も高い山梨県の96.6%と20ポイント以上の差があった.全国平均は86.2%で100%確保できるとした都道府県はなかった.介護職員は低賃金や重労働といったイメージから敬遠されがちで,このままでは将来も深刻な人手不足が避けられない.3Kとは「きつい,汚い,危険」という労働条件の厳しい職種を指し,一般的には,土木作業やゴミ収集などが3Kに含まれると言われる.介護職も「寝たきりの人の世話や認知症入居者の対応など体力的,精神的にきつい(kitsui)」「排泄物に触れるなど汚い(kitanai)仕事が多い」「危険(kiken)な感染症に罹患する恐れがある」という3Kとして知られているが,「給料(kyuryou)がほかの業種よりも低く,昇級や賞与がない」を加えて4Kであると言う人もいる.介護職の給料に関しては,一概には言えないが,仕事量に見合った給料をもらえないという理由で,短期間に離職する人も少なくないようである.
本書では,介護を担う人々(介護者)の,給料以外の3Kという状況を少しでも楽にして支えるためにサイエンス漢方処方では何ができるかということをまず考えてみたい.次いで,介護をされる人々(被介護者)に対して有効なサイエンス漢方処方を取り上げ解説する.
2020年5月
医療法人徳洲会 日高徳洲会病院 院長
サイエンス漢方処方研究会 理事長
井齋偉矢
厚生労働省の推計に基づく分析では,団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度に必要とされる介護職員数に対し,確保できる見込み数の割合(充足率)は都道府県による地域差が大きく,最も低いのは福島県,千葉県の74.1%で,必要な職員数の4分の3に届かず,充足率が最も高い山梨県の96.6%と20ポイント以上の差があった.全国平均は86.2%で100%確保できるとした都道府県はなかった.介護職員は低賃金や重労働といったイメージから敬遠されがちで,このままでは将来も深刻な人手不足が避けられない.3Kとは「きつい,汚い,危険」という労働条件の厳しい職種を指し,一般的には,土木作業やゴミ収集などが3Kに含まれると言われる.介護職も「寝たきりの人の世話や認知症入居者の対応など体力的,精神的にきつい(kitsui)」「排泄物に触れるなど汚い(kitanai)仕事が多い」「危険(kiken)な感染症に罹患する恐れがある」という3Kとして知られているが,「給料(kyuryou)がほかの業種よりも低く,昇級や賞与がない」を加えて4Kであると言う人もいる.介護職の給料に関しては,一概には言えないが,仕事量に見合った給料をもらえないという理由で,短期間に離職する人も少なくないようである.
本書では,介護を担う人々(介護者)の,給料以外の3Kという状況を少しでも楽にして支えるためにサイエンス漢方処方では何ができるかということをまず考えてみたい.次いで,介護をされる人々(被介護者)に対して有効なサイエンス漢方処方を取り上げ解説する.
2020年5月
医療法人徳洲会 日高徳洲会病院 院長
サイエンス漢方処方研究会 理事長
井齋偉矢
目次
本書を読む前に─漢方薬を理解する─
第1章 在宅・施設・訪問医療における問題点
1 在宅・施設・訪問医療患者の特徴
2 在宅・施設・訪問医療に漢方治療ができること
第2章 介護者と被介護者のための漢方治療
1 排便障害─便秘─
◇大腸機能が低下している被介護者に対する第一選択薬
桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)
◇桃核承気湯を投与したら軟便になるときの第一選択
麻子仁丸(マシニンガン)
◇麻子仁丸でも軟便になるときの選択肢
大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)/調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)/
桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)
◇桃核承気湯を投与しても便が硬いままのときの第一選択
大承気湯(ダイジョウキトウ)
◇骨盤内の微小循環障害がさらに進行しているときの選択肢
通導散(ツウドウサン)
◇右下腹部に痛みを訴えたときの選択肢
大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)
2 排便障害─下痢─
◇腸管の機能が落ちたことによる下痢の選択肢
啓脾湯(ケイヒトウ)/真武湯(シンブトウ)/人参湯(ニンジントウ)
◇細菌性あるいはウイルス性腸炎の症状としての下痢のときの選択肢
半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)/桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)
3 フレイル,サルコペニア
◇老化現象,特に下半身の機能低下に対する第一選択
八味地黄丸(ハチミジオウガン),八味丸(ハチミガン)
◇特に下肢のしびれや夜間頻尿に使用する場合の第一選択
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
◇老化現象に加えて皮膚乾燥が著しいときの第一選択
六味丸(ロクミガン)
◇老化現象に加えて胃腸虚弱になって痩せていくときの第一選択
真武湯(シンブトウ)
◇免疫能と消化管機能を元に戻したいときの第一選択
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
◇ヘロヘロ・ヨレヨレに精神・呼吸器症状などを合併しているときの第一選択
人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
◇寝たきりあるいは終日横になっている高齢者を起こしたいときの第一選択
黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)
4 摂食嚥下障害とそれに伴う低栄養
◇食べる意欲を取り戻したいときの第一選択
黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)
◇摂食障害がそれほど深刻ではないときの第一選択
人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
5 運動器障害
◇骨折・骨挫傷・骨折術後の局所の抗炎症・微小循環改善のための第一選択
治打撲一方(ヂダボクイッポウ)
◇部位にかかわらず打撲したときの第一選択
通導散(ツウドウサン)/桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
◇頸椎の変形性疾患により発症した上肢の神経痛やしびれに対する第一選択
桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)
◇肩関節周囲炎,五十肩,肩関節リハビリ中に対する第一選択
二朮湯(ニジュツトウ)
◇急性の腰背部痛に対する第一選択
葛根湯(カッコントウ)+芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)+疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
◇慢性の腰背部痛に対する第一選択
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)+疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
◇下肢のしびれに対する第一選択
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
◇変形性膝関節症で膝蓋骨が見えなくなって膝が丸くなり大きくなる症例に対する第一選択
防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)
◇膝の内側側副靭帯炎によって膝痛を来す症例に対する第一選択
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)
◇下腿に限局した浮腫に対する第一選択
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)and/or 猪苓湯(チョレイトウ)
6 排尿障害
◇高齢者の夜間頻尿,男性の尿失禁に対する第一選択
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
◇膀胱神経症,女性の尿失禁に対する第一選択
清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
7 認知症
◇易怒性を伴う認知症に対する第一選択
抑肝散(ヨクカンサン)
◇不安の強い認知症に対する第一選択
抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)
8 睡眠障害
◇睡眠のリズムを回復させる第一選択
酸棗仁湯(サンソウニントウ)
◇神経が昂っているために眠られない人の第一選択
柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)
第3章 介護者を支える漢方治療
1 介護者の過重な労働を少しでも軽減させるために漢方薬ができること
2 介護・施設・訪問医療を支える人の悩みを解決するための支援
◇気分が塞ぎ抑うつ状態になったとき
半夏厚朴湯
◇いろいろな状況で腹が立ったとき
抑肝散/抑肝散加陳皮半夏
◇自信を喪失したとき
桂枝加竜骨牡蛎湯
◇神経過敏,神経興奮を来たしたとき
柴胡加竜骨牡蛎湯
◇疲労困憊して食欲がなくなったとき
補中益気湯
Column 漢方薬を楽に美味しく飲む方法
第1章 在宅・施設・訪問医療における問題点
1 在宅・施設・訪問医療患者の特徴
2 在宅・施設・訪問医療に漢方治療ができること
第2章 介護者と被介護者のための漢方治療
1 排便障害─便秘─
◇大腸機能が低下している被介護者に対する第一選択薬
桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)
◇桃核承気湯を投与したら軟便になるときの第一選択
麻子仁丸(マシニンガン)
◇麻子仁丸でも軟便になるときの選択肢
大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)/調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)/
桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)
◇桃核承気湯を投与しても便が硬いままのときの第一選択
大承気湯(ダイジョウキトウ)
◇骨盤内の微小循環障害がさらに進行しているときの選択肢
通導散(ツウドウサン)
◇右下腹部に痛みを訴えたときの選択肢
大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)
2 排便障害─下痢─
◇腸管の機能が落ちたことによる下痢の選択肢
啓脾湯(ケイヒトウ)/真武湯(シンブトウ)/人参湯(ニンジントウ)
◇細菌性あるいはウイルス性腸炎の症状としての下痢のときの選択肢
半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)/桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)
3 フレイル,サルコペニア
◇老化現象,特に下半身の機能低下に対する第一選択
八味地黄丸(ハチミジオウガン),八味丸(ハチミガン)
◇特に下肢のしびれや夜間頻尿に使用する場合の第一選択
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
◇老化現象に加えて皮膚乾燥が著しいときの第一選択
六味丸(ロクミガン)
◇老化現象に加えて胃腸虚弱になって痩せていくときの第一選択
真武湯(シンブトウ)
◇免疫能と消化管機能を元に戻したいときの第一選択
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
◇ヘロヘロ・ヨレヨレに精神・呼吸器症状などを合併しているときの第一選択
人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
◇寝たきりあるいは終日横になっている高齢者を起こしたいときの第一選択
黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)
4 摂食嚥下障害とそれに伴う低栄養
◇食べる意欲を取り戻したいときの第一選択
黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)
◇摂食障害がそれほど深刻ではないときの第一選択
人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
5 運動器障害
◇骨折・骨挫傷・骨折術後の局所の抗炎症・微小循環改善のための第一選択
治打撲一方(ヂダボクイッポウ)
◇部位にかかわらず打撲したときの第一選択
通導散(ツウドウサン)/桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
◇頸椎の変形性疾患により発症した上肢の神経痛やしびれに対する第一選択
桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)
◇肩関節周囲炎,五十肩,肩関節リハビリ中に対する第一選択
二朮湯(ニジュツトウ)
◇急性の腰背部痛に対する第一選択
葛根湯(カッコントウ)+芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)+疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
◇慢性の腰背部痛に対する第一選択
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)+疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
◇下肢のしびれに対する第一選択
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
◇変形性膝関節症で膝蓋骨が見えなくなって膝が丸くなり大きくなる症例に対する第一選択
防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)
◇膝の内側側副靭帯炎によって膝痛を来す症例に対する第一選択
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)
◇下腿に限局した浮腫に対する第一選択
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)and/or 猪苓湯(チョレイトウ)
6 排尿障害
◇高齢者の夜間頻尿,男性の尿失禁に対する第一選択
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
◇膀胱神経症,女性の尿失禁に対する第一選択
清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
7 認知症
◇易怒性を伴う認知症に対する第一選択
抑肝散(ヨクカンサン)
◇不安の強い認知症に対する第一選択
抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)
8 睡眠障害
◇睡眠のリズムを回復させる第一選択
酸棗仁湯(サンソウニントウ)
◇神経が昂っているために眠られない人の第一選択
柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)
第3章 介護者を支える漢方治療
1 介護者の過重な労働を少しでも軽減させるために漢方薬ができること
2 介護・施設・訪問医療を支える人の悩みを解決するための支援
◇気分が塞ぎ抑うつ状態になったとき
半夏厚朴湯
◇いろいろな状況で腹が立ったとき
抑肝散/抑肝散加陳皮半夏
◇自信を喪失したとき
桂枝加竜骨牡蛎湯
◇神経過敏,神経興奮を来たしたとき
柴胡加竜骨牡蛎湯
◇疲労困憊して食欲がなくなったとき
補中益気湯
Column 漢方薬を楽に美味しく飲む方法
書評1
訪問診療の治療の引き出しが増やせる
小田行一郎(菫ホームクリニック 院長)
井齋先生が介護部門を専門に網羅する漢方薬の書籍を出版されました.私は,以前からもっと治療の引き出しを増やしたい,そのためにも漢方を取り入れてみたいとの思いがありました.いろいろな漢方の成書を読んでみましたが,私にはとっつきにくい感じでなかなか上手くいきませんでした.あるとき書店で井齋先生の書籍(文庫本)が目についたので,ものは試しと購入してみました.「目から鱗が落ちる」とはまさにこのことで,読後はすっかりサイエンス漢方の虜になってしまいました.とくに感銘を受けたのは,本書の前書きにもあるように“漢方薬は変調を来したシステムを,正常化する応答を患者から引き出す薬剤である”.主語は薬剤ではなく“host”であるという考え方です.
私は訪問診療をメインで行っております.対象となるのは外来に通院できなくなったご高齢の方がメインとなります.血圧,血糖,コレステロールなども壮年の方々と違って,いかにコントロールするかというよりも,少しでも元気に,少しでも長い間,口から食事ができることを希望されるご家族も多い状況です.とくに介護者の方が苦労され,相談を受けることが多いのは排泄・排尿・睡眠・摂食障害などに関することです.これらに関しても本書では第2章から病態ごとに簡潔な形で解説されており,第一選択漢方薬が明示されています.しかもフローチャートで示されているので,西洋薬を選択するときと同じように病名や病態で漢方薬が選択できるのも特徴です.新しい視点としては第3 章に“介護者を支える漢方治療”が設けられていることです.介護をする側の方の苦労を少しでも軽減する漢方処方の提示もありました.
本書はA5判で厚さも分厚くないので診療バッグに入れるのも苦になりません.そばに置いていつも活用するつもりです.
小田行一郎(菫ホームクリニック 院長)
井齋先生が介護部門を専門に網羅する漢方薬の書籍を出版されました.私は,以前からもっと治療の引き出しを増やしたい,そのためにも漢方を取り入れてみたいとの思いがありました.いろいろな漢方の成書を読んでみましたが,私にはとっつきにくい感じでなかなか上手くいきませんでした.あるとき書店で井齋先生の書籍(文庫本)が目についたので,ものは試しと購入してみました.「目から鱗が落ちる」とはまさにこのことで,読後はすっかりサイエンス漢方の虜になってしまいました.とくに感銘を受けたのは,本書の前書きにもあるように“漢方薬は変調を来したシステムを,正常化する応答を患者から引き出す薬剤である”.主語は薬剤ではなく“host”であるという考え方です.
私は訪問診療をメインで行っております.対象となるのは外来に通院できなくなったご高齢の方がメインとなります.血圧,血糖,コレステロールなども壮年の方々と違って,いかにコントロールするかというよりも,少しでも元気に,少しでも長い間,口から食事ができることを希望されるご家族も多い状況です.とくに介護者の方が苦労され,相談を受けることが多いのは排泄・排尿・睡眠・摂食障害などに関することです.これらに関しても本書では第2章から病態ごとに簡潔な形で解説されており,第一選択漢方薬が明示されています.しかもフローチャートで示されているので,西洋薬を選択するときと同じように病名や病態で漢方薬が選択できるのも特徴です.新しい視点としては第3 章に“介護者を支える漢方治療”が設けられていることです.介護をする側の方の苦労を少しでも軽減する漢方処方の提示もありました.
本書はA5判で厚さも分厚くないので診療バッグに入れるのも苦になりません.そばに置いていつも活用するつもりです.
書評2
高齢者の笑顔がもどる漢方薬の力
髙﨑 潔子(株式会社タカサ 薬局事業部 在宅療養連携支援室 室長)
井齋偉矢先生ご執筆の『147処方を味方にする漢方見ひらき整理帳』と『救急初療室でも使える! 一撃!! 応急漢方』に続き,待ちに待った『介護漢方―排泄障害・摂食嚥下障害・運動器障害・睡眠障害・フレイル・サルコペニアへの対応―』が発刊された.手に取ったとき,高齢者特有の症候別に,一目でわかるサポート手順が明解に記述されており感動した.在宅訪問診療同行では,薬剤師が薬剤選択に介入することが多くある.上記3冊から学び,実践した事例を2つ紹介したい.
一つ目は「排便コントロール」の事例である.施設の入居者の排便状況について,事前に看護師等から排便回数・便の形態を聞き取り,内滴剤・浣腸等の使用頻度を調査し,「桃核承気湯」を提案したところ,浣腸や内滴剤の使用頻度が減った.しかも,患者さんの笑顔が増えたとの報告を得た.「桃核承気湯」は,桃仁,桂枝,大黄,芒硝および甘草の5つの生薬から構成されている.おそらく運動不足もあり,腸の動きが減っていることで生じていた微小循環障害が桃仁による破血効果で改善し,大黄,芒硝により瀉下作用が奏効したのではと想定した.添付文書では,「比較的体力があり……」と記載されているが,井齋先生から学んだ通り,「体力のない寝たきりに近い方」や「運動の機会の少ない方」への適用は正解であった.本書でも「弱まっている大腸機能の回復」と記述されており,とても腑に落ちた.便秘で悩む男性患者さんに,本書の指南通りに同じ承気湯系列である「大承気湯」を提案したところ,排便リズムが整い,加えて不穏な状況から脱出しつつある.最近では施設の看護師や介護スタッフから他の該当者にも漢方薬を使ってみたいとのリクエストも出てきている.
二つ目として上肢片麻痺があり,健側の上肢にしびれ・痛みがある患者さんの事例である.この方はNSAIDsの服用では改善せず,『漢方見ひらき整理帳』から学んだ「桂枝加朮附湯」を処方提案し,痛みが軽減した結果を得た.日々その痛みと格闘していた患者さんから,井齋マジックにより,笑顔が増えた.本書ではブシの加減処方について詳しく書かれている.私は,ブシ末の加減は不得手な分野でもあったので処方提案の参考としたい.
本書は高齢者特有の症候対応について,西洋薬と同様に漢方薬処方のエビデンスが多く,あまり漢方方剤の使用経験のない医師への処方提案のときに提示するととても説得力がある.薬剤師は大学で生薬の勉強をしてきたが,漢方が苦手な場合が多い.そのような薬剤師の在宅診療同行時や病棟のベッドサイド業務での必携の一冊として推薦をしたい.
髙﨑 潔子(株式会社タカサ 薬局事業部 在宅療養連携支援室 室長)
井齋偉矢先生ご執筆の『147処方を味方にする漢方見ひらき整理帳』と『救急初療室でも使える! 一撃!! 応急漢方』に続き,待ちに待った『介護漢方―排泄障害・摂食嚥下障害・運動器障害・睡眠障害・フレイル・サルコペニアへの対応―』が発刊された.手に取ったとき,高齢者特有の症候別に,一目でわかるサポート手順が明解に記述されており感動した.在宅訪問診療同行では,薬剤師が薬剤選択に介入することが多くある.上記3冊から学び,実践した事例を2つ紹介したい.
一つ目は「排便コントロール」の事例である.施設の入居者の排便状況について,事前に看護師等から排便回数・便の形態を聞き取り,内滴剤・浣腸等の使用頻度を調査し,「桃核承気湯」を提案したところ,浣腸や内滴剤の使用頻度が減った.しかも,患者さんの笑顔が増えたとの報告を得た.「桃核承気湯」は,桃仁,桂枝,大黄,芒硝および甘草の5つの生薬から構成されている.おそらく運動不足もあり,腸の動きが減っていることで生じていた微小循環障害が桃仁による破血効果で改善し,大黄,芒硝により瀉下作用が奏効したのではと想定した.添付文書では,「比較的体力があり……」と記載されているが,井齋先生から学んだ通り,「体力のない寝たきりに近い方」や「運動の機会の少ない方」への適用は正解であった.本書でも「弱まっている大腸機能の回復」と記述されており,とても腑に落ちた.便秘で悩む男性患者さんに,本書の指南通りに同じ承気湯系列である「大承気湯」を提案したところ,排便リズムが整い,加えて不穏な状況から脱出しつつある.最近では施設の看護師や介護スタッフから他の該当者にも漢方薬を使ってみたいとのリクエストも出てきている.
二つ目として上肢片麻痺があり,健側の上肢にしびれ・痛みがある患者さんの事例である.この方はNSAIDsの服用では改善せず,『漢方見ひらき整理帳』から学んだ「桂枝加朮附湯」を処方提案し,痛みが軽減した結果を得た.日々その痛みと格闘していた患者さんから,井齋マジックにより,笑顔が増えた.本書ではブシの加減処方について詳しく書かれている.私は,ブシ末の加減は不得手な分野でもあったので処方提案の参考としたい.
本書は高齢者特有の症候対応について,西洋薬と同様に漢方薬処方のエビデンスが多く,あまり漢方方剤の使用経験のない医師への処方提案のときに提示するととても説得力がある.薬剤師は大学で生薬の勉強をしてきたが,漢方が苦手な場合が多い.そのような薬剤師の在宅診療同行時や病棟のベッドサイド業務での必携の一冊として推薦をしたい.
書評3
大澤幸恵(日本調剤前橋日赤前薬局)
医療と介護を結ぶ薬剤師の一人として,本書から新しい薬学的な視点に気付かされました.
介護の現場では,排泄の問題や食欲低下,運動機能低下,昼夜逆転,不眠などのさまざまな困難事例,また,薬の効果と副作用との狭間にある難しいケースなどを数多く経験します.さらに,慢性的な人手不足,体力的・精神的な負担が多く,介護職の方々へのサポートは早急に必要です.
しかし,介護の現場で働いていると想定,想像,理解を上回る場面に直面し,自分の無力さを思い知らされるばかりです.同時に介護職の方々の「どうして…」「どうしたら…」への返答の難しさを感じる場面にも度々遭遇し,矛盾をかかえ壁にぶつかり立ち止まることもあります.
本書は,漢方という視点から,このような悶々と鬱うっ積していた悩みをスッキリ解決し,薬剤師から提案できるヒントが具体的に示されています.例えば,困難な症状に対し,難解な解説は用いず,患者さんの症状や背景からシンプルなフローチャートにより漢方薬が提案できるよう解説されています.また,「第3章 介護者を支える漢方治療」では,患者のみならず,介護・施設・訪問医療を支える人への支援として,漢方薬の活用について解説しています.一人で悩みを抱え込まず,ぜひ本書を開いてください.介護現場での薬学的な新たなアプローチを発見できる書籍としておすすめの一冊です.
医療と介護を結ぶ薬剤師の一人として,本書から新しい薬学的な視点に気付かされました.
介護の現場では,排泄の問題や食欲低下,運動機能低下,昼夜逆転,不眠などのさまざまな困難事例,また,薬の効果と副作用との狭間にある難しいケースなどを数多く経験します.さらに,慢性的な人手不足,体力的・精神的な負担が多く,介護職の方々へのサポートは早急に必要です.
しかし,介護の現場で働いていると想定,想像,理解を上回る場面に直面し,自分の無力さを思い知らされるばかりです.同時に介護職の方々の「どうして…」「どうしたら…」への返答の難しさを感じる場面にも度々遭遇し,矛盾をかかえ壁にぶつかり立ち止まることもあります.
本書は,漢方という視点から,このような悶々と鬱うっ積していた悩みをスッキリ解決し,薬剤師から提案できるヒントが具体的に示されています.例えば,困難な症状に対し,難解な解説は用いず,患者さんの症状や背景からシンプルなフローチャートにより漢方薬が提案できるよう解説されています.また,「第3章 介護者を支える漢方治療」では,患者のみならず,介護・施設・訪問医療を支える人への支援として,漢方薬の活用について解説しています.一人で悩みを抱え込まず,ぜひ本書を開いてください.介護現場での薬学的な新たなアプローチを発見できる書籍としておすすめの一冊です.