書籍カテゴリー:臨床看護学|保健/福祉/介護

認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション

1版

  • 大阪大学歯学部附属病院医長 野原幹司 編
  • 京都府立医科大学教授 山脇正永 著
  • 平成歯科クリニック院長 小谷泰子 著
  • 名古屋第二赤十字病院 山根由起子 著
  • 南多摩病院 石山寿子 著

定価:2,700円(本体2,500円+税8%)

  • B5判 166頁
  • 2011年11月 発行
  • ISBN978-4-525-52061-8

概要

認知症患者の摂食支援では,機能回復を念頭に置いた脳卒中患者と同じ方法ではうまくいかないことが多い.本書は,意思疎通が困難な事が多い認知症患者の特徴を知り,摂食支援を安全かつ的確にフォローするための実践書である.図を多用し,代表的な30症状をまとめた.忙しい看護師,言語聴覚士にお勧めの一冊である.

序文

 この本を手に取られた読者は,医療・介護の現場で認知症の症例と真摯に向き合っておられる方であろう.認知症の臨床では摂食・嚥下の問題は避けては通れない.しかしながら,これまで認知症患者の嚥下リハビリテーションは参考となる成書が少なく,各人が不安を抱えながら取り組んでいたことと思う.そこで,図や写真を多く入れた「使える知識」満載の本書を企画した次第である.
 筆者自身も取り組み当初は戸惑うことが多かった.自分が学んだ診察法や訓練が,意思疎通困難な認知症例にはほとんど適用できなかったからである.まれに適用できることもあったが,症状が改善されるどころか悪化していくことも多く,医療者として無力感に苛まれたのを覚えている.あるとき,参考にしていた成書が,回復期の脳血管障害を対象にしていたことにふと気づいた.それから「認知症の嚥下リハ」を意識するようになり,認知症(の多く)は進行性,認知症に起因する障害は改善困難,訓練ではなく支援が重要,認知症はキュアできないからこそケアが必要,などの多くを症例から学んだ.
 本書では,それら筆者の経験と知識の集大成として,認知症の嚥下リハを体系づけたものである.認知症の嚥下リハは参考文献が少ない分,臨床から得たノウハウをふんだんに載せて実践的な内容とした.また,嚥下の書籍としてはめずらしく,改善しない嚥下障害,胃瘻,終末期についてもページを割いた.認知症になじみのない読者には違和感があるかもしれないが,嚥下を担う医療者には必須の内容である.
 筆者だけでは補いきれない知識や経験,感性は,第一線で活躍されている山脇先生(医師),山根先生(摂食・嚥下障害看護認定看護師),石山先生(言語聴覚士),小谷先生(歯科医師)にご執筆頂いた.本書の特徴である「実践編」では,山根・石山両先生に各職種の視点を活かした執筆をお願いした.
 認知症例にとって,「食べることは生きること」である.「口から食べる」という行為は,最後まで残る自発動作であり,「家族が作ったものを口から食べる」という行為は,最後まで残る家族とのコミュニケーションでもある.人生の最終章を迎えた認知症例の「食べる」という行為を,「医療者の安心のため」という怠慢や知識不足で奪ってはならない.本書を手にした読者が行動を起こし,嚥下難民といわれる認知症例が少しでも救われれば幸甚である.
 最後に,「認知症の嚥下リハ」の確立に向けて臨床で切磋琢磨し合った教室員各位,本書の写真撮影・整理を手伝ってくれた金子信子歯科衛生士に感謝の意を表します.みんながいなければこの本は完成しませんでした.ありがとう.また,本書が最高の本になるように,数々のアイデアを出しつつ筆者を叱咤激励してくれた南山堂の庄司豊隆氏に心より感謝いたします.

2011年10月
著者を代表して
野原 幹司

目次

●理論編 ─ 嚥下臨床に必須の知識と技術 ─

1章 摂食・嚥下リハビリテーション
I.キュアからケアへ
II.回復期と慢性期の嚥下リハ
III.認知症の嚥下リハ―訓練から支援へのパラダイムシフト
IV.最適な認知症の嚥下リハを行うために

2章 認知症総論
I.認知症とは―認知症の概念と定義
II.認知症の疫学
 1 認知症の頻度
 2 認知症のリスクファクター
III.認知症の種類
 1 アルツハイマー型認知症
 2 レビー小体型認知症
 3 前頭側頭型認知症
 4 軽度認知障害
IV.中核症状と周辺症状―認知症状の特徴と対応・ケア
 1 中核症状
  A.記憶障害
  B.見当識障害
  C.理解・判断力の障害
  D.実行機能障害
  E.感情表現の変化
 2 周辺症状
  A.妄 想
  B.睡眠リズムの障害
  C.せん妄,軽度の意識障害
  D.徘徊・多動
  E.食行動の異常
  F.不潔行為
  G.抑うつ
  H.仮性作業(常同性強迫性)
  I.攻撃的行動(介護への抵抗)
  J.無気力・無関心・意欲低下
V.認知症のスクリーニング,重症度
VI.認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーションへ

3章 嚥下機能評価のポイント
I.認知症と嚥下
 1 認知症のタイプと嚥下
  A.アルツハイマー型認知症
  B.レビー小体型認知症
  C.前頭側頭型認知症
  D.脳血管性認知症
 2 認知症の症状進行と嚥下障害の関係
  A.初 期
  B.中 期
  C.末 期
 3 認知症とケア
II.問 診
 1 基本情報
  A.主訴(誰の)
  B.おもな介助者・キーパーソン
 2 全身状態
  A.生活自立度・要介護度・FAST
  B.身長・体重・BMI
  C.既往疾患(発症年齢・担当医)
  D.服用薬剤
  E.褥瘡の有無・部位・大きさ・深さ
  F.発熱の既往
  G.視 力
  H.聴 力
 3 食 事
  A.嗜好・食欲
  B.栄養摂取方法
  C.食事時の姿勢
  D.食事に要する時間
  E.介助の有無
  F.食事内容・摂取量
  G.増粘剤の使用
 4 嚥 下
  A.むせの有無
  B.肺炎の既往
  C.窒息の既往
  D.以前に受けた嚥下機能検査・指導内容
 5 問診でわからない情報の判断
III.身体所見採取
 1 頸 部
 2 口唇,頬
 3 口腔内
  A.衛生状態
  B.口腔乾燥
  C.舌
  D.咬合支持の有無
  4 呼 吸
  5 身体所見の解釈
IV.食事時の観察ポイント
 1 先行期
  A.食物の認知,食事への意欲(食べるのを嫌がる,食べてくれない)
  B.口への運搬(食卓に座っているが動かない,こぼす)
  C.口での取り込み(口を開けない,開けたまま)
  D.一口量,ペース
 2 準備期
  A.咀 嚼
  B.食べ物をまとめる
 3 口腔期
  A.口腔から咽頭への送り込み(なかなか飲み込まない,口に入れっぱなし)
 4 咽頭期
  A.喉頭挙上
  B.む せ
 5 食道期
  A.胃食道逆流
 6 食事観察時の心得
V.嚥下内視鏡検査
 1 認知症の症例における嚥下内視鏡検査
  A.VEの長所と短所
  B.VEの目的
 2 客観的判断の重要性

4章 嚥下訓練
I.間接訓練
 1 間接訓練とは
 2 認知症における間接訓練
  A.マッサージ,ROM訓練
  B.アイスマッサージ
II.呼吸理学療法
 1 嚥下と呼吸
 2 誤嚥性肺炎発症のバランス
 3 口から食べ続けるための呼吸理学療法
 4 認知症における呼吸理学療法
  A.深呼吸
  B.胸郭可動域訓練

5章 食事支援
I.直接訓練と食事支援
  A.「訓練」と「支援」の違い
  B.認知症例に適するのはどちらか
II.認知症と食事
 1 食行動の障害へのアプローチ
  A.声かけ
  B.サーカディアンリズムの調整
  C.ペーシング
  D.マッサージ,嚥下体操
  E.食事環境のセッティング
  F.食器の選択
  G.食事の匂い,味付け
  H.全身状態の把握
  I.異食への対応
  J.介助者のこころがけ
 2 嚥下障害へのアプローチ
  A.食事を摂る時間帯
  B.食事時のポジショニング
  C.食事内容の工夫
  D.一口量
  E.食事の介助
  F.歯科治療
  G.服薬の方法
III.理想と現実のバランス

6章 栄養へのアプローチ
I.認知症の発症と栄養
II.高齢者の低栄養
 1 マラスムス型とクワシオコール型
 2 低栄養の原因 ―飢餓,侵襲,悪液質
 3 高齢者の栄養状態
III.低栄養による弊害
IV.栄養状態の評価
 1 体 重
 2 身体計測
 3 血液検査
 4 栄養摂取量
V.低栄養に対するアプローチの実際
 1 食事摂取の時間帯の工夫
 2 間食の利用
 3 脂質の利用
 4 嗜好に合わせる
 5 栄養剤(栄養補助食品)の利用
VI.柔軟な多方面からのアプローチ

7章 リスク管理
I.窒息のリスク管理
 1 高齢者と窒息
 2 窒息のリスク
  A.ヒト側のリスク
  B.食べ物側のリスク
 3 窒息時の対応法
  A.窒息を発見したら
  B.窒息物の確認
II.誤嚥のリスク管理
 1 誤嚥とは
 2 誤嚥と誤嚥性肺炎―誤嚥性肺炎発症のバランス
  A.不顕性誤嚥
  B.侵襲の軽減
  C.抵抗の向上
 3 誤嚥時の対応法
 4 誤嚥性肺炎のサイン
 5 誤嚥性肺炎を疑うときの診査・検査
 6 誤嚥性肺炎の早期発見の重要性

8章 胃 瘻
I.認知症における胃瘻
 1 胃瘻とは
 2 胃瘻の長所
  A.栄養改善・確保
  B.誤嚥・誤嚥性肺炎の予防
  C.脱水の予防
  D.服 薬
  E.介助負担の軽減
 3 胃瘻の短所
  A.入院・手術が必要
  B.嚥下機能の廃用症候群
  C.延命装置としての胃瘻
 4 胃瘻にするかどうか
  A.決め手は症例とその家族
  B.認知症というファクターをどう捉えるか
 5 胃瘻との付き合い方―胃瘻症例における食事支援
  A.胃瘻と経口摂取
  B.経口摂取の注意点
II.胃瘻の適応と実際

9章 終末期の対応

I.認知症の終末期とは
II.いつまで経口摂取を続けるか
III.認知症終末期における経口摂取の重要性
 1 口腔・咽頭のケア
 2 QOLの維持
 3 コミュニケーション
IV.ケアとしての嚥下リハ
 1 「誤嚥させない」ではなく「誤嚥しても肺炎にならないように」
 2 「肺炎にさせない」ではなく「肺炎を予知する」
V.嚥下機能のソフトランディング


●実践編
よくある症状とその対応

1 嚥下訓練をしてくれない
2 指示しても咳ができない
3 呼吸が浅い,指示しても深呼吸ができない
4 食事時に意識レベルが低い
5 食事を認識しない
6 食べない
7 食べるペースが早い
8 食べこぼしが多い
9 食べるのが遅い,食事に時間がかかる
10 うまくスプーン,食器が持てない
11 食事中,食事後に呼吸が乱れる
12 食べ物を飲み込まない,口にためたままになる
13 食事のとき口を開けない
14 食べ物を口から出す
15 食事を残す
16 食事中にむせる
17 とろみ剤,ペースト食を嫌がる
18 咬まない,丸飲み
19 義歯を嫌がって入れない,義歯を出してしまう
20 食後にのどがゴロゴロ鳴る
21 窒息した
22 (不顕性)誤嚥をしているといわれた
23 痩せてきた
24 好き嫌いが多い
25 原因不明の発熱がある,ときどき微熱がある
26 異食がある
27 飲み込んだ食べ物,胃瘻から入れた食べ物が口に戻ってくる
28 胃瘻をしているが食べたい・食べさせたい
29 肺炎をくり返す
30 どうしても誤嚥してしまう