書籍カテゴリー:産婦人科学|精神医学/心身医学

産後うつ病ガイドブック
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産後うつ病ガイドブック
EPDSを活用するために

1版

  • 三重大学保健管理センター助教授 岡野 禎治 訳
  • パークサイド広尾レディスクリニック院長 宗田 聡 訳

定価:2,160円(本体2,000円+税8%)

  • B5判 97頁
  • 2006年4月 発行
  • ISBN978-4-525-52111-0
  • ISBN4-525-52111-2

概要

産後うつから母親の自殺や乳幼児虐待につながるケースもあり社会問題化してきた.その産後うつを診断する世界標準的な評価シートが,EPDS(エディンバラ産後うつ病自己調査票)であり,本書はEPDSを考案した著者によるEPDS使用時のガイドブックである.EPDSを用いて地域の産後うつ病患者のスクリーニングを行い,周産期のメンタルヘルスを担う保健師・助産師,産婦人科・精神科医師に必携の1冊である.

序文

エディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)は,地域における産後うつ病の検出を向上させるためのスクリーニング・テストとして考案された,10項目からなる自己調査票である.
この本は,異なる国々の読者を対象に,最新で入手可能な情報とプライマリおよびセカンダリー・ケアにおける使用方法を提供するために書かれた.付録1には原文のスケール(本訳書では日本語版)と得点記入用紙(本訳書では挟み込みシート)を,そして付録2には何ヵ国かの翻訳版を掲載している.
うつ病性障害は,世界中で最も共通してみられる疾患原因の1つである.1999年の世界健康レポート(世界保健機関)によれば,単極性の大うつ病は,「障害調整生存年数」(DALYS)〔訳注:DALYS=YLL(Years of Life Lost;早世による生命損失年数)+YLD(Years Lived with Disability;障害を抱えて生きる年数)〕によって解析された世界の総合疾病負担の4.2%に相当し,疾病原因の5番目である.
女性は産後という最も脆弱な時期に産後うつ病に脅かされ,長年にわたり未治療の状態に放置される.その結果として,主な疾患原因の一つに挙げられるという上述の驚くべき統計結果となっている.本書では,早期発見による二次的介入の可能性がエビデンス・ベースと一致すること,そしてプライマリ・ケアの専門家の働きかけによって,多くの国々において政府レベルでその事実が積極的に考慮されるようになったことを述べている.
富める国と貧しい国との双方の国々における臨床経験から,単極性うつ病,特に産後うつ病が,女性とその家族に多くの無用の苦難を生じさせる頻度の高い障害であると示され,EPDSが1980年代に開発された.さらに,我々は産後うつ病が,幼児の発育・栄養の状態,結婚の継続,家計に悪影響を及ぼすことも知った.
その後,国際的な情報網の普及によって,女性の健康問題はより重要な課題となり,周産期のメンタル・ヘルス,さらに周産期精神医学という専門的領域の基盤が拡充した.The Marc* Society (研究活動を活気づけ,周産期のメンタル・ヘルスに関する情報を普及させるためのフォーラムを開催する学際的な学会)は発展して,この分野では国際的に第一線の学会となった.つまり,従来の量的研究方法に質的研究方法が補足されて,今日女性の声は明白に伝わってくるようになったのである.自助患者およびケア・グループによる影響を受けて,政府はメンタル・ヘルスを優先課題へと変更した.
この流れにおいて,EPDSは産後うつ病の予防を促すための時宜を得た刺激材料となった.今日の英国では,プライマリ・ケアの専門家らは,うつ病の検出や一連のエビデンスに基づいた治療に熟練している.EPDSが初期のスクリーニング手段として使用されることで,さらに多くの疫学的研究が促進された.また,時間経過よってEPDSの感度は変化することから,治療研究中の経過を計る手段としても使用することができる.
この尺度は臨床的な使用と量的研究のニーズとを満たすために考案されたが,うつ症状の捉え方や評価項目にみられる比喩的な言い回しの訳し方(例えば「することがたくさんあって大変だった」),あるいは英国に内在する特殊な社会的状況から発展してきた尺度の比較文化的な妥当性について,といった“質”に関する重要な議論が表出してきた.
英国においてEPDSの使用および誤用に関する議論が,地区レベルの問題ではなく,国立検診審査会(National Screening Committee:国家的な全般スクリーニングが各地で実際に評価され始める前に,エビデンスに基づいて検討された欠陥を適切に指導する機関)の扱うべき問題として上申されたことは注目に値する.同様に地域医師・保健指導者協会〔Community Practitioners’and Health Visitors’Association(CPHVA)〕の反応も国立検診審査会の審議に付された.未治療の周産期精神障害の事情に詳しいヘルスビジターは,このありふれた,そして治療可能な疾患に対するスクリーニングにおいて,すでに主導的な立場にあった.ヘルスビジターは臨床評価のための面接技法とその重要性に精通しており,特に十分に訓練された保健専門家によってEPDSが配布された場合には,その有用性が認識されていた.EPDSはうつ病になる危険性が高い女性をスクリーニングすることはできないが,重症で遷延する疾患へと移行する軽症のうつ病を識別することができる.
EPDSの最適な使用方法に関するエビデンスの基本については,今後も調査され続けるであろう.我々は,EPDSのより幅広い使用の内,長期にわたる治療トライアルが促進されることを願う.とりわけ我々は,女性が“何”を“いかに”深刻に語っているのかについて,一般医がEPDSを通じて継続して傾聴していくことを望む.そして一方,全般的な周産期のメンタル・ヘルスや女性の健康問題といったより高い優先課題に結びつくデータの集積を期待したい.
産科医,一般医,助産師,保健師,精神科医および心理士に対するトレーニングは,産科心身医学および周産期ケアの多くの面で依然として不足している.このハンドブックによって,現状が変化し,新しく母親となった女性が乳幼児とよい母子関係を築くことができ,子供の発育にとって最適の環境が整う機会が増えることを期待したい.この本によって,研究者と臨床医による周産期のメンタル・ヘルスに対する戦略が発展し,さらに親のため,そして次世代のために,生活の質を損なう状況に対する予防方法がより探求されることを期待したい.周産期のメンタル・ヘルスは社会的支援次第といえるが,精神障害に直面した場合には継続することは難しい.我々は社会的支援の資源が非常に不足している場合に,優先順位によってメンタル・ヘルスサービスの提供が見送られた結果,周産期の精神障害によりあまりにも多くの家庭が犠牲になる姿をみてきた.
EPDSは,英国と東アフリカにおける健康指導および臨床精神科医療によって開発された.簡単に得点化できるこの簡潔な自己質問評価尺度が,どのような方法・手段で,産後うつ病の治療と二次的予防のために生かされるかという課題は,臨床医の決断にかかっているであろう.
今後も皆様のご意見を賜れば幸甚です.

目次

第1章 産後うつ病:概観
 イントロダクション
 産後の他の精神障害
 母親の経験談
 乳幼児との相互関係に与える影響
 うつ病の母親が子どもに与える影響の持続性
 父親と産後うつ病
 臨床的全体像
 産後うつ病の識別
 診断の確認
 病因
 産後うつ病女性に対するケア

第2章 エディンバラ産後うつ病自己調査票の出典と開発
 既存の尺度(自己質問票)
 エディンバラ産後うつ病自己調査票の妥当性
 信頼性
 他の尺度との比較
 EPDSの他の使用方法

第3章 国際および文化的論点
 翻訳
 妥当性

第4章 臨床場面におけるエディンバラ産後うつ病自己調査票の使用方法:研究エビデンス
 日常的なスクリーニング方法
 うつ病の検出
 EPDSに対する受容
 うつ病といわれた時の本音(感情の正当化)
 産前の研究とEPDS
 妊娠中にルーチンのスクリーニングとしてEPDSを使用すべきか?
 産前の他の予測的評価法
 産褥精神病に発展するリスクをもつ妊婦の識別
 EPDSスクリーニング研究からの結論

第5章 周産期のうつ病に対するカウンセリングおよびその他の心理療法
 エディンバラ式カウンセリング介入
 研究の概略
 我々の見出したこと
 トライアルのセッティング
 ヘルスビジターのトレーニング
 問題点
 研究の成果を日常臨床へ応用する
 臨床トライアルから我々が学んだこと:臨床への適合性
 ケンブリッジでの治療研究
 スウェーデンにおけるヘルスビジターのカウンセリング
 抗うつ薬と認知カウンセリングとの比較
 対人関係療法(interpersonal psychotherapy)
 電話によるカウンセリング
 産後うつ病に対するグループ治療
 心理療法,認知療法と夫婦でのカウンセリング
 マッサージの効果とグループ援助
 ヘルスビジターのもとで行われる集団サポート/療法について
 デイ・ホスピタル・ケア
 妊婦への介入
 分娩前のサポート・情報提供グループ
 その他の周産期における援助
 他の機関との連携
 パートナーやその他の家族

第6章 エディンバラ産後うつ病自己調査票によるスクリーニングと治療
 運営委員会
 共通理解
 医療関係者の知識
 産後うつ病における看護師の役割
 紹介制度の必要性
 精神科専門サービスの必要性
 項目10のスコアが指し示すもの,自傷
 トレーニングとサポート
 カウンセリングのトレーニング
 結論

第7章 エディンバラ産後うつ病自己調査票の活用
 どのようにしてEPDSを用いるか
 EPDSを研究に用いる
 EPDSを臨床に用いる
 回答の信憑性
 EPDSに回答したくないという人がいたらどうするか?
 いつ,どこで,どのようにしてEPDSに答えてもらうか
 EPDSを非英語圏の人に用いる
 結論

付録1 エディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)日本語版
付録2 エディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)の翻訳について
 中国語(北方中国語),英語,アラビア語,フランス語,ドイツ語,ヘブライ語,ヒンズー語,ポルトガル語,
 スペイン語,ベトナム語

References
索引