カテゴリー: 基礎薬学
Applied Pharmacometrics
1版
明治薬科大学 名誉教授 緒方宏泰 監修
日本大学薬学部 臨床薬物動態学研究室 教授 松本宜明 監修
日本大学薬学部 薬剤師教育センター 教授 辻 泰弘 監訳
MSD株式会社グローバル研究開発本部
クリニカルリサーチ領域臨床薬理開発 ディレクター 吉次広如 監訳
定価
27,500円(本体 25,000円 +税10%)
- B5判 522頁
- 2021年10月 発行
- ISBN 978-4-525-72151-0
ファーマコメトリクスの基礎から医薬品開発での具体的な応用事例を学べる実践書
医薬品開発においてファーマコメトリクスはより良い医薬品を迅速に・高確率に臨床につなぐ強力なツールとなっています.本書はファーマコメトリクスの基本的な考え方からモデリング&シミュレーションに基づく医薬品開発における具体的な応用事例までを幅広くまとめています.
- 目次
- 序文
目次
1章 生理学的薬物速度論を中心としたファーマコメトリクスと
数学モデルを用いた薬理学
2章 個別化医療:臨床現場におけるExposure-Response(曝露と反応)
3章 小児におけるファーマコメトリクス
4章 慢性腎臓病におけるファーマコメトリクス
5章 糖尿病治療薬のための薬物-疾患モデルをベースにした開発
6章 肥満に関するファーマコメトリクスの応用
7章 心血管系に対する安全性評価におけるファーマコメトリクス
8章 細菌感染症のファーマコメトリクス
9章 ウイルス感染症のファーマコメトリクス
10章 抗真菌薬のファーマコメトリクスの適用
─カンジダ血症と侵襲性カンジダ症の治療における
フルコナゾールとキャンディン系薬─
11章 ファーマコメトリクスと結核
12章 呼吸器疾患におけるファーマコメトリクス
13章 骨粗鬆症における最新のファーマコメトリクスモデル
14章 精神疾患におけるファーマコメトリクス
15章 アルツハイマー病におけるクリニカルトライアル・シミュレーション
16章 炎症に対するファーマコメトリクスの応用
17章 皮膚疾患におけるファーマコメトリクス
18章 疼痛管理におけるファーマコメトリクス
19章 脂質異常症におけるファーマコメトリクス
数学モデルを用いた薬理学
2章 個別化医療:臨床現場におけるExposure-Response(曝露と反応)
3章 小児におけるファーマコメトリクス
4章 慢性腎臓病におけるファーマコメトリクス
5章 糖尿病治療薬のための薬物-疾患モデルをベースにした開発
6章 肥満に関するファーマコメトリクスの応用
7章 心血管系に対する安全性評価におけるファーマコメトリクス
8章 細菌感染症のファーマコメトリクス
9章 ウイルス感染症のファーマコメトリクス
10章 抗真菌薬のファーマコメトリクスの適用
─カンジダ血症と侵襲性カンジダ症の治療における
フルコナゾールとキャンディン系薬─
11章 ファーマコメトリクスと結核
12章 呼吸器疾患におけるファーマコメトリクス
13章 骨粗鬆症における最新のファーマコメトリクスモデル
14章 精神疾患におけるファーマコメトリクス
15章 アルツハイマー病におけるクリニカルトライアル・シミュレーション
16章 炎症に対するファーマコメトリクスの応用
17章 皮膚疾患におけるファーマコメトリクス
18章 疼痛管理におけるファーマコメトリクス
19章 脂質異常症におけるファーマコメトリクス
序文
“Pharmacometrics”という用語,それがカバーする領域に対して,わが国の新薬開発の関係者,医療従事者などにおける認知度,理解はいまだ拡がっている状況にはないと言ってもよいかもしれません.一方で,中心的に用いられるModeling & Simulationの手法そのものは,エンジニアリングの分野で汎用されています.
この概念が医薬品開発においてクローズアップされてきたのには,医薬品開発の状況が背景にあります.新規医薬品の開発においては,新薬開発費が大幅に増大している一方で,臨床試験段階になってからの開発中止比率が高いという非効率性の回避という命題があります.米国食品医薬品局(FDA)は,2004年に“Innovation or Stagnation:Challenge and Opportunity on the Critical Path to New Medical Products”を発出し,創薬基盤技術のめざましい発展に比して応用研究(臨床研究)の発展が進んでおらず,それが原因となって開発生産性が悪くなっている可能性を指摘しました.さらに,2006年にFDAは,“Innovation or Stagnation:Critical Path Opportunities Report”を発表し,より具体的な内容,バイオマーカー,アダプティブデザインを含む新しい臨床試験方法の推進とその合理化,PKモデル,PDモデルおよび疾患モデルを基盤にした医薬品開発(Model-Informed Drug Development:MIDD)に言及しました.それ以降,欧米では官・学・産における研究が促進され,成果が蓄積されて来ています.
一方,わが国においては,2014年,医薬品医療機器総合機構(PMDA)に次世代審査等推進室が設置されました.PMDAホームページの「次世代審査・相談体制について(申請電子データ提出)」において設置の目的が以下のように述べられています.
近年の医薬品開発においては,Modeling & Simulationの利用等,開発の意思決定において,データに基づく定量的な情報の積極的な利用が進められております.一方,本邦では,健康医療戦略(平成25年6月14日内閣官房長官,厚生労働大臣・関係大臣申合せ)において,「PMDA自らが臨床データ等を活用した解析や研究を進め,審査・相談において,より合理的で効率的な評価・判断プロセスの構築を進める」と述べられており,承認申請データを一層活用した承認審査や相談の質の向上が求められています.そこで,PMDAでは,医薬品承認申請時に添付されるデータを電子的に集積し,先進的手法により解析等を行い,その情報を活用するための具体的検討(次世代審査・相談体制検討)を行っています.PMDA自らが先進的手法による解析等を行うことにより根拠に基づく審査・相談が可能となり,業務の質が向上するだけでなく,承認申請時における企業の負担軽減にもつながると考えられます.また,データが電子的に集積されることで,Modeling & Simulation等の品目横断的な検討も可能となり,新規ガイドラインの作成等が促進され,医薬品開発の成功率向上にもつながると期待されるところです.
このような流れを背景に,『母集団薬物動態/薬力学解析ガイドライン(薬生薬審発0515第1号,2019年5月15日)』『医薬品の曝露-応答解析ガイドライン(薬生薬審発0608号第4号,2020年6月8日)』『生理学的薬物速度論モデルの解析報告書に関するガイドライン(薬生薬審発1221第1号,2020年12月21日)』の3つのガイドラインが連続的に発出されました.
本書は,タイトルにあるように,Pharmacometricsの応用例を記載しています.入門的な記載にはなっていません.Modeling & Simulationは,ある条件下における推定精度の向上を背景に真実解明のヒントを与える場合はあるものの,真実解明の手法ではありません.用いたデータとモデルに依存し,推定にも限界を有しています.Pharmacometricsの成果を示すという本書の編集方針によるとは思いますが,この限界についての言及,推定されたモデルの信頼性,妥当性の検討も,同時に重要です.本書では,モデルの活用を中心に記述されているため,モデル構築の背景や妥当性については,巻末の参考文献を読み解く必要があります.Pharmacometricsは,モデル構築に用いた仮定や結果解釈の限界を理解した上で,解決すべき課題に適用することが重要と考えます.
この分野に対し初学であり,どのようなものなのかをのぞいてみたいと思われている方は,詳しいことに気を取られることなく,とにかく読み進めてください.医薬品開発の先端で行われている新たな取り組みの息吹や状況,情報を総合化し,取り組んでいくダイナミックさ,そして新たな科学を感じることができるでしょう.ぜひみなさまに感じていただければと思います.
2021年8月
明治薬科大学 名誉教授
緒方宏泰
この概念が医薬品開発においてクローズアップされてきたのには,医薬品開発の状況が背景にあります.新規医薬品の開発においては,新薬開発費が大幅に増大している一方で,臨床試験段階になってからの開発中止比率が高いという非効率性の回避という命題があります.米国食品医薬品局(FDA)は,2004年に“Innovation or Stagnation:Challenge and Opportunity on the Critical Path to New Medical Products”を発出し,創薬基盤技術のめざましい発展に比して応用研究(臨床研究)の発展が進んでおらず,それが原因となって開発生産性が悪くなっている可能性を指摘しました.さらに,2006年にFDAは,“Innovation or Stagnation:Critical Path Opportunities Report”を発表し,より具体的な内容,バイオマーカー,アダプティブデザインを含む新しい臨床試験方法の推進とその合理化,PKモデル,PDモデルおよび疾患モデルを基盤にした医薬品開発(Model-Informed Drug Development:MIDD)に言及しました.それ以降,欧米では官・学・産における研究が促進され,成果が蓄積されて来ています.
一方,わが国においては,2014年,医薬品医療機器総合機構(PMDA)に次世代審査等推進室が設置されました.PMDAホームページの「次世代審査・相談体制について(申請電子データ提出)」において設置の目的が以下のように述べられています.
近年の医薬品開発においては,Modeling & Simulationの利用等,開発の意思決定において,データに基づく定量的な情報の積極的な利用が進められております.一方,本邦では,健康医療戦略(平成25年6月14日内閣官房長官,厚生労働大臣・関係大臣申合せ)において,「PMDA自らが臨床データ等を活用した解析や研究を進め,審査・相談において,より合理的で効率的な評価・判断プロセスの構築を進める」と述べられており,承認申請データを一層活用した承認審査や相談の質の向上が求められています.そこで,PMDAでは,医薬品承認申請時に添付されるデータを電子的に集積し,先進的手法により解析等を行い,その情報を活用するための具体的検討(次世代審査・相談体制検討)を行っています.PMDA自らが先進的手法による解析等を行うことにより根拠に基づく審査・相談が可能となり,業務の質が向上するだけでなく,承認申請時における企業の負担軽減にもつながると考えられます.また,データが電子的に集積されることで,Modeling & Simulation等の品目横断的な検討も可能となり,新規ガイドラインの作成等が促進され,医薬品開発の成功率向上にもつながると期待されるところです.
このような流れを背景に,『母集団薬物動態/薬力学解析ガイドライン(薬生薬審発0515第1号,2019年5月15日)』『医薬品の曝露-応答解析ガイドライン(薬生薬審発0608号第4号,2020年6月8日)』『生理学的薬物速度論モデルの解析報告書に関するガイドライン(薬生薬審発1221第1号,2020年12月21日)』の3つのガイドラインが連続的に発出されました.
本書は,タイトルにあるように,Pharmacometricsの応用例を記載しています.入門的な記載にはなっていません.Modeling & Simulationは,ある条件下における推定精度の向上を背景に真実解明のヒントを与える場合はあるものの,真実解明の手法ではありません.用いたデータとモデルに依存し,推定にも限界を有しています.Pharmacometricsの成果を示すという本書の編集方針によるとは思いますが,この限界についての言及,推定されたモデルの信頼性,妥当性の検討も,同時に重要です.本書では,モデルの活用を中心に記述されているため,モデル構築の背景や妥当性については,巻末の参考文献を読み解く必要があります.Pharmacometricsは,モデル構築に用いた仮定や結果解釈の限界を理解した上で,解決すべき課題に適用することが重要と考えます.
この分野に対し初学であり,どのようなものなのかをのぞいてみたいと思われている方は,詳しいことに気を取られることなく,とにかく読み進めてください.医薬品開発の先端で行われている新たな取り組みの息吹や状況,情報を総合化し,取り組んでいくダイナミックさ,そして新たな科学を感じることができるでしょう.ぜひみなさまに感じていただければと思います.
2021年8月
明治薬科大学 名誉教授
緒方宏泰