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カテゴリー: 臨床薬学

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薬のうごきを「みえる化」する

一目で伝わるADME図鑑

1版

九州保健福祉大学大学院 医療薬学研究科 教授 髙村徳人 著

定価

2,420(本体 2,200円 +税10%)


  • AB判  101頁
  • 2020年8月 発行
  • ISBN 978-4-525-78371-6

ADME患者人形で「薬物動態学のおさらい」& 「服薬指導」を ガッチリサポート!

「薬物動態学」の知識は,薬剤師として十分理解する必要がある.その知識を応用し,服薬指導などの場面でアウトプットしているが,口頭での説明は患者に正しく伝わっているのだろうか.この疑問を解決するために著者は「ADME患者人形」を開発.薬のうごきをみえる化し,ADMEのおさらい,患者対応,病態把握等に利用できる図鑑として編集した.

  • 序文
  • 目次
  • 書評1
  • 書評2
序文
 薬剤師は何をやっているのかが国民に見えない,ということで「見える化」なるものが盛んに叫ばれ,薬剤師は薬局を飛び出し,病棟や在宅へと仕事を拡大してきた.それにより患者との接点が以前より増え,「見える化」は促進されたようにも思う.
 しかし,薬剤師の仕事(=行動)を患者の目の前でいくら見せても,薬物治療のど真ん中の学問,つまり薬のADME(吸収: Absorption,分布: Distribution,代謝: Metabolism,排泄: Excretion)を患者に示さない限り,当然「見える化」は達成できない.であるなら,示せばよいではないかと言いたいところではあるが,薬のADMEは目に見えないので,現段階では患者にとってADMEを踏まえた理解はそもそも不可能である.
 だからと言って諦めるわけにはいかない.薬物治療の根幹であるADMEを抜きにした服薬指導などあり得ないからである.これを抜きにすれば薬剤師以外の医療スタッフの説明と何ら差がないことになる.
 それを解決するためには,薬のADMEを説明するための何かが必要なのである.それは「薬のADMEと薬物血中濃度と効果の関係」を患者にわかりやすく伝えることができるツールである.さらに詳しく言うと,ADMEのどこかの過程でイベントが発生した場合の発生前(要因なし)と発生後(要因あり)の薬物血中濃度の変化と効果の違いを患者にわかりやすく伝えることができるツールである.そのツールの形は何がよいかと問われれば,ADMEは人の体内で生じているので,人の形をしているツール,そう人形がよいに決まっている.その人形にイベントの発生前と発生後のADMEや血中濃度を図案化したアイコンを左右に貼ればわかりやすく説明できそうである.その人形がパペット人形だと口も手も動かせるので,さらに楽しんでもらえるだろう.これが『ADME人形』である.本人形の詳細については後の本文で説明する.
 服薬指導時でのADME人形は,目の前の患者を投影しているため,患者自身となる.つまり,患者は,自身を投影されたADME人形(患者自身=ADME人形)を目の前にして説明を受けることになるのである.必ず,患者のアドヒアランス※は向上し,患者への薬剤師の共感も深まる.
 とにかく,早急に薬剤師の有するADMEのイメージを国民に植え付けるために,薬のADMEを説明できるこの人形を使って,患者に薬のADMEを踏まえた服薬指導を実践していこうではないか.そして,「薬剤師は見えない薬のADMEを見極めて薬物治療に貢献する職業である」ということを薬剤師以外のすべての人々に認知してもらおうではないか.できれば,東京オリンピック・東京パラリンピックまでにおおむね完了したい.
 本書に出てくるADME人形用のアイコンの表現が,あまり的確でない場合もあるが(1つのアイコンで複数の事柄を表現するため),そこは読者のみなさまの力量で補えばよい.あるいは,的確なADMEを表現した図柄をマジックやフェルトなどを用いてアイコンを自作すればよいのである.手作り感満載のアイコンを人形に貼って説明すれば薬剤師の真心まで患者に伝わるに違いない.
 とにかく,見えない薬のADMEと血中濃度と効果の関係を国民にイメージレベルで理解させることができれば,本書の役目は十分に果たしたといえる.要は,「ADME」のイメージを患者に共有してもらうことが重要なのである.そして,「薬剤師といえば“ADME”だ」と,全国民に言わせようではないか.さあ,薬剤師総掛りで国民の頭の中をADME化して行こうではないか.このADME人形のもう1つの大きな狙いをエピローグで述べているので,必ず読んでほしい.
 最後に,本書の執筆にあたり多大な協力を頂いた株式会社南山堂の古川晶彦氏並びに村井恵美氏に心より感謝の意を表します.また,薬物動態学的見地から御助言を頂いた本学薬学部の緒方賢次准教授およびADME人形の活動に御支援頂いている徳永仁教授および瀬戸口奈央講師に深く感謝致します.

2020年夏
髙村徳人


*アドヒアランス(adherence):患者が治療方針の決定に賛同し,その決定に従って積極的に治療を受けること
目次
【プロローグ】「ADME人形」あらわる!

【Part 1】 ADMEを「みえる化」しよう!
 1 薬の剤形と投与経路
 2 血中濃度とは
 3 薬の吸収と血中濃度
 4 薬の分布と遊離形薬物濃度
 5 薬の代謝と血中濃度
 6 薬の排泄と血中濃度
 7 注射剤の特徴と血中濃度
 8 坐剤の特徴と血中濃度
 9 貼付剤の特徴と血中濃度
 10 吸入剤の特徴と血中濃度
 11 点眼剤の特徴と血中濃度
 12 加齢と薬の量

【Part 2】 薬物─薬物相互作用がみえる!
 13 吸収過程の相互作用
 14 分布過程の相互作用
 15 代謝過程の相互作用
 16 排泄過程の相互作用

【Part 3】 薬物─食物・嗜好品の相互作用もみえる!
 17 吸収過程の相互作用① 食後服用する薬
 18 吸収過程の相互作用② グレープフルーツジュース
 19 吸収過程の相互作用③ 牛乳
 20 吸収過程の相互作用④ 緑茶
 21 代謝過程の相互作用① グレープフルーツジュース
 22 代謝過程の相互作用② セントジョーンズワート
 23 代謝過程の相互作用③ アルコール
 24 代謝過程の相互作用④ タバコ
 25 排泄過程の相互作用

【Part 4】 薬のスペシャリストとしてADMEを見極める!
 26 肝機能が低下した場合の肝血流律速型薬物と肝代謝律速型薬物の違い
 27 タンパク結合阻害とタンパク質濃度の減少における遊離形薬物濃度の変動
 28 α-グルコシダーゼ阻害薬の服用タイミングと血糖値
 29 腎機能障害における血中濃度と病態
 30 分布に関与するトランスポーター

【Part 5】 シミュレータ実習とADME人形の活用
 31 狭心症
 32 心筋梗塞
 33 心不全①
 34 心不全②
 35 低血糖とレスキュー法
 36 浣腸剤や坐剤の投与と体位

【エピローグ】ADME人形で薬剤師の「真の見える化」を現実のものとせよ!

【応用事例】
 ・メタボリックシンドローム
 ・ADME人形を用いたオンライン講義
 ・ドーピング防止

「ADME人形」アイコン一覧
書評1
大井 一弥(鈴鹿医療科学大学 薬学部 教授)

 髙村徳人氏は,大学病院薬剤師として18年間活躍し,その後大学教授になった著名人です.髙村氏は薬剤師として勤務する中で,医師と薬剤師の薬に対する考え方の大きな違いは何かについて解答が出せず,30代後半までもがき苦しんだ経験を有しています.ちょうどこの時期は,奇しくも本書の内容に該当するADMEの解析業務に携わっていたと聞いています.しかし長年の苦しみから,A薬が効かないとB薬に変更する医師とは違い,薬剤師は薬学的分布診断法による投与タイミングを駆使してA薬を効かせることだという症例研究を経て一つの投与法を確立しました.それゆえに当時の髙村氏は,薬剤師とは薬物治療の効果を最大限に高めるタイミングを見極める職業であると述べています.その後,大学教授となり18年近くが経過しましたが,現在でも終始一貫,目の前の患者の薬物動態を簡単に見抜く方法が必要であるという信念のもと,教育・研究を進めており,大学病院薬剤師の当時とまったく変わりがありません.よって本書は,苦しんできた成果の一つとして発刊されたものと理解しています.
 ADMEは,医学や看護学ではほとんど学ぶことがなく,薬学領域で薬物治療の効果を最大限に引き出すための学問として根づいています.しかしADMEは,臨床においても薬学に限定的な概念であり,数式や数値によって議論されることが多いため,髙村氏は,ADMEのみえる化に踏み切ったのだと思います.さらに図鑑にまでしたのは,今までの経験から薬学者として創意工夫し,これしかないという結果たどりついた表現形であると推察します.本書は,まったく類書がないこともあり,完成までに膨大な時間が費やされており,ADMEを何とかわかりやすく伝えたいという気持ちがこのADME人形とアイコンに込められています.読者のみなさまは,ADME人形アイコンをうまく利用され,服薬指導や教育に活かしていただければと切に願います.
 髙村氏は,18年前大学教授になった時,知識をどうやってわかりやすく国民(患者)に伝えることができるのかというもどかしさは,ADME人形のみえる化によって一つの壁は乗り越えたのかもしれません.このように『一目で伝わるADME図鑑』は,髙村氏の渾身の書と言え,ここに自信をもって推薦させていただきます.
書評2
Artificial intelligence(AI)時代の薬剤師とADME

藤田健一(昭和大学薬学部臨床薬学講座がんゲノム医療薬学部門 教授)

 AI時代に薬剤師がパフォーマンスを発揮するためには,より高度な知識や技術が求められる.「ADMEに根差した薬物治療のマネージメント」は大いなる薬剤師の武器である.チーム医療が進められるなか,①この分野は薬学が最も高い専門性を持つ,② 薬物治療の成功には,処方設計を含めた薬物動態学的マネージメントが不可欠である,これらがその理由である.
 私は本書を興味深く拝読した.「ADMEの見える化」による服薬指導は薬剤師の専門分野であり,「薬剤師の見える化」に大きく貢献するものと思われる.Part 4の「薬のスペシャリストとしてADMEを見極める」も興味深い.ADME人形を用いて丹念に考え,病態における体内動態の変化を定性的に考察している.つまり,複雑な数式を用いずに,さまざまな病態を持つ患者における薬物動態の特性をイメージしている.ADMEの深い考察は薬剤師に自信を与え,ADME人形を用いた服薬指導におけるさまざまな工夫に発展すると期待される.
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