1版
定価:4,400円(本体4,000円+税10%)
概要
本書では,顔面外傷で最も多い下顎骨骨折の典型的な好発部位と,そこに付着する筋の収縮により牽引された状態を,放射線の3D画像を応用し理解するという画期的方法を選んだ.また歯の脱臼・破折,さらに軟組織の外傷の処置などについても網羅.学生ばかりでなく,卒後研修医や歯科臨床医にも活用していただける一冊.
歯科医学教育の中で臨床科目の履修状況とその教育成果を合わせみると,口腔外科領域の中で認知度の比較的低いところがある.数年の経過をみると,これはその講義を担当する教員による差ではなく,どうも学生が理解しにくいところであることがわかってきた.意外なことに,その焦点の当たったところは「下顎骨骨折」であった.
外傷による顎骨にかかる力は歪みを生じ,やがてというよりは瞬時にその限界点を越えて“骨折”という結果を生むものである.骨折患者の初診時は応力の限界の結果で生じた下顎骨の変化をみるためには,その位置的環境や機能の変化を正常との比較が推測できないと,治療までにうまくたどり着けない.つまり,骨折した骨片があるだけでなく,そこに付着する筋による位置の異常(偏位)が大幅に生じていることが多いからである.骨折により生じた小骨片は筋の付着位置によっては強力に筋の収縮方向に引かれていく.例えば下顎骨の骨折時にはどこの部位で折れた時には,どの方向に牽引されるだろうかを知る必要があり,それには正常な解剖図が頭に浮かばなければいけない.おそらく,学生時期の弱点は,解剖は解剖,口腔外科は口腔外科というように分離して知識の集積がされている結果によるのであろう.
そこで,本書は典型的な骨折の好発部位とその際に付着している筋の収縮により牽引された筋を放射線の3D画像を応用し,理解するという画期的な方法を選んだ.したがってそれに対する解剖図も従来のものとは異なる方向観が描かれている.そこで,一つには学生諸君の学習の弱点を補ってもらえれば本書作成の意図が達成される.
また,骨折に限らず,歯科臨床では外傷に伴う歯の損傷に遭遇する機会も多い.病変の確認もともかく,歯をどう保存するか,それには歯髄も保存可能だろうか,さらに脱臼歯はどうすべきか,はたまた,新鮮創であれば,口周囲の皮膚から口腔粘膜までの軟組織の外傷の処置をどうすべきかまでが網羅されている.そのため,学生教育ばかりでなく,卒後研修医やまさに臨床の場で日夜戦っておられる歯科臨床医にも愛用していただける書として作成した.作成者の意図が伝わり,活用していただく書となることを希望している.
最後に,本書の執筆にあたっては大変お忙しい中,病態の表現に新しい工夫を快く考えて下さり,ご協力戴いた著者に深甚なる謝意を表する.また,本書の出版に当たって大変お世話になった南山堂編集部に,著者を代表して厚くお礼を申し上げる次第である.
I 総 論
1 外傷の定義
外傷とは?
創と傷の違いは?
外傷患者の治療の流れは?
付表.救急外来患者対応の流れ
II 軟組織の外傷
1 軟組織外傷の定義,種類
創の分類は?
傷の分類は?
2 顔面軟組織の外傷
顔面軟組織の解剖は?
発現する症状と解剖との関連は?
3 口腔軟組織の外傷
口腔軟組織外傷の種類は?
口腔の解剖は?
発現する症状と解剖との関連は?
4 創傷の治癒過程
創傷の治癒過程とは?
軟組織での一次治癒,二次治癒ってなに?
瘢痕とケロイドの違いは?
5 創傷の処置
どんな止血法があるか?
どんな縫合法があるか?
III 歯の脱臼
1 歯の脱臼の定義
歯の脱臼にはどんな種類があるか?
2 成人の脱臼歯症例
歯の脱臼の原因は?
歯の脱臼の症状は?
3 成人の脱臼歯の処置
歯の脱臼の治療方針は?
歯の脱臼の処置法は?
4 小児の脱臼歯症例
なぜ乳歯の外傷頻度は脱臼が一番多いか?
なぜ幼若永久歯の外傷の頻度は破折が多いか?
なぜ乳歯外傷の受傷年齢は平均1歳半ころで,幼若永久歯の外傷は平均7歳ころか?
歯の固定期間はどの位が良いか?
5 小児の外傷歯の処置
完全および不完全脱臼歯への対応はどうするか?
外傷で顎骨に埋入した乳歯の対応はどうするか?
隣在歯に固定源が求められないときはどうするか?
6 小児の外傷歯処置後の予後
受傷歯の重症度が高いほど,予後は悪いのか?
外傷を受けた乳前歯に後継する永久歯は大丈夫か?
付表.乳歯の外傷への対応
IV 歯の破折
1 成人の破折歯症例
歯の破折の症状は?
歯の破折の治療法は?
2 小児の破折歯症例
歯冠破折歯の処置はどうするか?
歯根破折歯の処置はどうするか?
V 顎骨骨折
1 顎骨骨折の定義
顎骨骨折ではどこが一番骨折するか?
顎骨骨折にはどんな種類があるか?
2 画像診断の知識
CT画像で骨や筋肉はどのように映るか?
MRI画像で骨や筋肉はどのように映るか?
断面画像と比べて三次元画像の有利な点は?
咀嚼筋の起始・停止はCT画像ではどう映るか?
3 骨折の治癒過程
骨折の治り方は?
抜歯の傷はどう治る?
4 顎骨骨折の整復固定の基本
観血的,整復や固定という用語の意味は?
骨固定法の種類は?
プレート固定の利点とは?
5 顎骨骨折:症例解説
1-1)骨体部骨折の病態
骨体部骨折では顎はどちらに曲がるか?
骨体部骨折では下唇がしびれるか?
1-2)骨体部の画像診断
下顎骨骨体部に付着する筋肉の画像所見は?
下顎骨骨体部における下顎管の走行は?
下顎骨骨体部骨折の画像所見の特徴は?
1-3)骨体部の正常像
顎二腹筋の神経支配と発生由来は?
下顎骨に付着しない舌骨上筋は?
舌骨下筋群とは?
舌筋の分類は?
1-4)骨体部の処置
偏位が大きく,整復できない時は?
骨固定の方法は何を基準に決めるか?
2-1)下顎角部骨折の病態
下顎角部骨折では顎はどちらに曲がるか?
下顎角部骨折では咬合はどうなるか?
2-2)下顎角部の画像診断
下顎角部に付着する筋肉の画像所見は?
下顎角部骨折の画像所見の特徴は?
2-3)下顎角部の正常像
下顎角部骨折の多い理由は?
下顎枝部に骨折が少ないのはなぜ?
2-4)下顎角部の処置
骨折線上の埋伏智歯は必ず抜去するか?
プレート固定の際に下顎管の損傷を避ける方法は?
3-1)関節突起部骨折の病態
関節突起部骨折では顎はどちらに曲がるか?
関節突起部骨折では,なぜ開口障害が起きるか?
3-2)関節突起部の画像診断
蝶形骨と関節突起部,外側翼突筋の画像所見は?
関節突起部骨折の画像所見の特徴は?
3-3)関節突起部の正常像
顔面神経の枝は?
下顎神経の枝は?
外頸動脈の枝は?
メッケル軟骨の残遺物である顎関節の靭帯は?
下顎孔伝達麻酔の際の蝶下顎靭帯の臨床的意義は?
外頸動脈同定に際する外科的指標は?
関節突起の構成要素は?
3-4)関節突起部の処置
小骨片の復位はどうするか?
顎間固定の期間はどのくらい?
4-1)オトガイ部骨折の病態
オトガイ部骨折では,顎はどちらに曲がるか?
4-2)オトガイ部の画像診断
オトガイ部の画像所見は?
オトガイ部骨折の画像所見の特徴は?
4-3)オトガイ部の正常像
オトガイ棘に付く筋は?
4-4)オトガイ部の処置
偏位はないが,このままで大丈夫?
オトガイ部の直達骨折と関節突起部の介達骨折に対する対応は?
5-1)筋突起部骨折の病態
筋突起部骨折では,顎はどちらに曲がるか?
5-2)筋突起部の画像診断
側頭筋の画像所見の特徴は?
筋突起部骨折の画像所見の特徴は?
5-3)筋突起部の正常像
筋突起に停止する筋は?
5-4)筋突起部の処置
特に症状のない場合はどうするか?
切除することも多い筋突起?
顎間固定が不必要な骨折は?
6-1)上顎骨骨折の病態
上顎骨骨折はLe Fortの分類だけか?
特徴的な症状は?
上顎骨骨折治療の特徴は?
6-2)上顎部の画像診断
上顎部の骨の画像所見の特徴は?
上顎骨骨折の画像所見の特徴は?
6-3)上顎部の正常像
上顎骨水平骨折における顔貌変形の指標は?
鼻唇溝構成に関与する筋は?
上顎神経の枝は?
眼窩下神経の枝は?
上顎骨に接する骨は?
頬骨弓を構成する骨は?
頬骨骨折で咬合異常を訴えるのはなぜ?
眼窩を構成する骨は?
副鼻腔とは?
上顎骨の構成要素は?
鼻中隔を構成している頭蓋骨は?
6 小児の顎骨骨折
小児の顎骨骨折の性・年齢別分布・部位・原因は?
小児の顎骨骨折の治癒機転は?
小児の骨折の特徴は?
小児顎骨骨折の対処法は?
床副子の製作法と固定法は?
7 小児の顎骨の正常像
頭蓋底骨折の特徴は?
VI 顎関節脱臼
1 顎関節脱臼の病態
顎関節脱臼はどうして起こるか?
顎関節脱臼にはどんな種類があるか?
顎関節脱臼ではどんな症状がでるか?
2 顎関節脱臼の画像診断
MRI画像では顎関節の構造はどのように映るか?
顎関節脱臼の画像所見の特徴は?
3 顎関節の正常像
残存歯がすべて脱落し無歯顎となった際,従来の咬合位を越えて閉口できない理由は?
外側靭帯の役割は?
4 顎関節脱臼の治療
顎関節脱臼の治療法は?
整復後の再発防止はどうしたらいい?
VII 外傷患者の対応
1 外傷患者の初期救急
外傷時に発現する痛みの特徴は?
痛みの対処法は?
2 外傷患者の全身検査
バイタルサインの評価はどのように行うか?
ショック状態の時の対処法は?
3 外傷患者の処置時の局麻
局所麻酔の作用機序は?
局所麻酔時の偶発症には何がある?
4 外傷患者への術後の薬物療法
外傷患者への全身的抗菌薬の投与の原則は?
外傷時に投与される鎮痛薬は?
5 外傷患者の術後の後遺症
神経麻痺はなぜ生じるか?
咀嚼障害の検査法は?
6 外傷患者の術後管理,経過観察
顎間固定中の食事や会話はどうしたらよいか?
顎間固定は究極のダイエット?
7 外傷患者への輸血時の対応
輸血後GVHD(移植片対宿主病)とは?
8 高齢者の外傷
高齢者の骨折の特徴は?
オトガイ帽(チンキャップ)はどんな時に使うか?
高齢者の骨折は死を招くことも少なくない?
索 引