2005年8月臨時増刊号 Vol.87

「治療」2005年8月臨時増刊号 Vol.87

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亜鉛の有用性を探る
臨床での亜鉛補充による効果とその考え方-「治療」Vol.87 8月臨時増刊号

定価:2,052円(本体1,900円+税8%)

  • B5判 108頁

概要

亜鉛は生体にとって必須の微量元素の一つである.しかし,近年の偏った食生活,さらには高齢化により亜鉛欠乏が生じていることが明らかとなり注目を集めている.亜鉛は200,300ともいわれる酵素の中心活性元素であるため,その欠乏により生体内のさまざまな部位で支障をきたす.味覚障害をはじめ,皮膚炎,貧血,肝疾患,腎疾患,糖尿病などでも亜鉛欠乏になることも報告されている.このような亜鉛欠乏状態は亜鉛の補充により改善することが認められている.一方で,生体内における亜鉛の作用は極めて広範囲であり,生体内での挙動や作用メカニズムなど詳細なところは解明されておらず,今後の研究が待たれるところでもある.しかしながら亜鉛補充療法は,臨床の場においてさまざまな効果を見出し,QOLの向上に寄与していると考えられる.そこでさまざまな疾患に対する亜鉛補充の有用性(EBMの観点からも含めて)を,さまざまな分野の先生方にご一読願いたい.

序文

わが国では、1960〜70年の高度経済発展優先の裏で環境中に過剰に放出されたメチル水銀やカドミウムなどの重金属によってもたらされた健康障害(いわゆる公害病),またミルクの製造過程で有害な砒素が混入して多くの乳児に重い後遺症を残した「森永砒素ミルク事件」など歴史的に不幸な出来事を経験した.これらを契機にして,ヒトと金属の研究は,主として環境汚染や中毒学の分野において先行し,むしろ日陰の花であった.しかし,近年生体内には多種類の金属がさまざまな濃度で存在して,生命機能の維持に重要な役割を担っていることが次々と明らかにされ,とくに“微量元素(金属)の生化学的,および栄養学的な機能,欠乏症,過剰症”などに関する学際的な研究発展とともに微量元素の重要性が広く注目されるようになった.まさに,微量元素に対する認識の負から正への転換が図られることになったと思う.
人体を構成する元素は,多量元素(酸素,炭素,水素,窒素,カルシウム,リン),少量元素(硫黄,カリウム,ナトリウム,塩素,マグネシウム),微量元素(鉄,フッ素,亜鉛,ルビジウム,ストロンチウム,臭素,鉛,銅),および超微量元素(アルミニウム,カドミウム,ホウ素,バリウム,錫,マンガン,ヨウ素,ニッケル,モリブテン,クロム,コバルトなど)に大別される.生体の構造と機能,潤滑なエネルギー代謝,細胞の増殖,自己複製などを正常に維持するために不可欠な元素を必須元素と呼ぶが,ヒトでは現在11種の常量元素(多量元素と少量元素)のほかに,必須微量元素としては,鉄,亜鉛,マンガン,銅,セレン,ヨウ素,クロム,コバルト,モリブテンの9種が広く知られている.このほかにも数種類の元素の必須性が示唆されている.人体におけるこれらの微量元素の存在比は0.02%にすぎないが,大部分が酵素の活性中心ないし微量生体内活性物質として存在し,微量でも大きな働きをしている.“たかが微量元素,されど微量元素”の認識が大切である.体内に含まれている量が少ないからといって重要度が低いということではない.たとえ微量であっても,生体にとっては欠かせないものであり,どの微量元素もそれぞれ大切な役割を担っている.
さて,亜鉛はヒトと動物に代表的な必須微量元素の一つである.その生理作用として,1)胎児の発育,2)皮膚およびその付属器官の新陳代謝,3)生殖機能,4)骨格の発育,5)味覚および嗅覚の維持,6)精神神経作用・行動への影響,7)免疫機能維持,8)その他,が知られている.これまでに300を超える亜鉛酵素,亜鉛要求酵素が単離されており,これらの酵素の活性中心となっていることが明らかにされているが,さらに亜鉛は酵素活性とは関係しなくとも蛋白の高次構造を維持するための構造中心として,多くの蛋白に含まれている.
1963年に,ヒトにおける亜鉛欠乏症の存在がPrasadらによってはじめて明らかにされ,1973年には遺伝的な病気である腸性肢端皮膚炎やある種の脱毛が,翌年には味覚・臭覚障害がそれぞれ亜鉛欠乏によることが明らかになった.また,1975年には高カロリー輸液で亜鉛欠乏症の起こることが発見された.その後1970年代後半から1980年代前半にかけて,米国で人口の亜鉛状態調査,亜鉛欠乏症と免疫異常の報告,亜鉛欠乏とフリーラジカル・過酸化との関係報告,高齢者における低亜鉛状態の問題化,味覚低下に対する亜鉛補充療法,などの研究報告が相次ぎ,謎につつまれていた生体内亜鉛が生命の働きを支えるカギとして,亜鉛パワーの秘密の新たな知見や情報が大きくクローズアップされるようになった.
亜鉛欠乏症の原因に関連して,今日飽食(崩食)の時代,グルメの時代といわれる日常の食生活のなかでインスタント食品や加工食品を中心とした偏食・奇食,あるいはダイエットなどによる欠乏症,薬剤や食品添加物(ポリリン酸,ピロリン酸,メタリン酸などの重合リン酸塩類)のキレート作用による欠乏症である味覚異常,また高齢者が増加するなかでがん,心臓病,糖尿病,動脈硬化症,高血圧症などの生活習慣病の病態の形成・進展と予防における必須微量元素欠乏状態の関係など,現代社会における新しい問題もでてきている.一方,亜鉛欠乏に対する補充療法についても,本来亜鉛をはじめとする生体に必要な微量元素は食事から摂るのが基本である.しかし,食品に含まれる亜鉛量そのものが少なくなっているという現状があるので,現代の食生活でなかなか一日の所要量である15mgを摂取するのは難しい状況にある.したがって,亜鉛を多く含む食品を意識的に多く摂取することが必要となるが,亜鉛を大量に含んだ健康食品を慢性的な亜鉛不足を補う栄養補助食品として上手に使用することも可能である.さらに,亜鉛とL-カルノシンから誕生したポラプレジンク製剤が亜鉛含有胃潰瘍薬として汎用されているが,今後亜鉛の幅広い生理作用のスペクトルムを考慮するとき,保険適用外ながら味覚障害,C型慢性肝炎,肝硬変,肝不全,皮膚疾患,口腔・粘膜障害,褥瘡,骨粗鬆症,亜鉛欠乏による貧血,などさまざまな亜鉛欠乏状態を伴う病気・病態の治療への積極的な応用が期待されるところである.
亜鉛欠乏症の患者は身近なところにいるが,なぜかこれまで長い間亜鉛の働きについて見過ごされてきた感がある.今や第一線の臨床の先生方にも亜鉛の生理作用と病態生理学的意義,そして亜鉛欠乏状態の治療対策などについての知識が要求されるようになっている今日の状況を鑑みて,このたび「治療」の8月臨時増刊号として,「亜鉛の有用性を探る─臨床での亜鉛補充による効果とその考え方─」を企画した.幸いにも,亜鉛の臨床研究の各領域でフロント・ランナーの先生方にご執筆を戴くことができ,最新の知識を満載して亜鉛パワーの秘密を探る特集にすることができました.ご執筆賜りました先生方に心から厚く御礼を申し上げる次第である.

2005年7月 荒川泰行(日本大学医学部内科学講座消化器肝臓内科部門教授)

目次

 1.亜鉛の生理
 2.高齢者と亜鉛
 3.小児と亜鉛
 4.味覚障害と亜鉛
 5.血液疾患と亜鉛―とくにスポーツ競技者の亜鉛欠乏性貧血について―
 6.腎不全と亜鉛
 7.放射線照射時の口腔粘膜障害予防と亜鉛
 8.消化器疾患と亜鉛―胃粘膜におけるHSP誘導作用を中心に―
 9.肝機能と亜鉛
10.C型慢性肝炎治療と亜鉛
11.C型慢性肝炎治療と亜鉛―インターフェロン治療における血球系副反応軽減効果―
12.肝線維化抑制と亜鉛
13.肝窒素代謝と亜鉛
14.糖尿病と亜鉛
15.皮膚疾患と亜鉛
16.褥瘡と亜鉛
17.関節リウマチと亜鉛
18.骨と亜鉛