2006年8月臨時増刊号 Vol.57

「薬局」2006年8月臨時増刊号 Vol.57
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褥瘡 外用療法のヒミツ
-事例で学ぶ極意-「薬局」Vol.57 8月臨時増刊号

  • 国立長寿医療センター副薬剤部長 古田 勝経 著

定価:1,944円(本体1,800円+税8%)

  • B5判 61頁

概要

本書は褥瘡治療に長年にわたって取り組んできた薬剤師より,褥瘡を早く治す「ヒミツ」を解説しました.
褥瘡外用療法のキーポイントとなる
 1.DESIGN分類による創評価
 2.創部の湿潤環境のとらえ方
 3.外用薬やドレッシング材などの選び方
 4.ブレンド軟膏の調製と使い方
などについて写真・図表を多数掲載し,わかりやすく解説!
また,褥瘡の治療戦略を立てるときに役立つ9つの症例を掲載!!

序文

褥瘡は昔から全身状態の悪い患者に発生することが多く,一旦発生すると治りにくいことから,一般的に治らないものとして語り継がれてきた.医療者も同様な認識を持ち,予防は難しく,また治療は極めて困難として医療の中では厄介者扱いをされてきた.高齢化が進む中で,ねたきりの高齢者に発生する褥瘡の増加に伴い,治療費も増加していった.そのために予防することがまず必要との考えから,厚生労働省は褥瘡対策未実施減算により予防の必要性を,またチーム医療の形づくりを政策面から誘導してきた.それにより発生率はやや減少したかに見える.発生率が低下すれば,その治療に費やされる医薬品・医療材料を減らし,コストを抑えることができ,医療保険の給付額を減らすための道筋が作られてきたように思える.しかし,現実はそのような単純なものではない.予防や治療におけるさまざまな要因が絡んでいるために,難治性褥瘡の置かれている状況はさほど変化がないかもしれない.褥瘡は発生要因が複合的なためにどれかを除けば治るというものではない.
高齢者の場合,そもそも皮膚組織中の水分量や脂質量が減少してくるために,若い時のように艶があり,張りがあり,潤いがありというような皮膚ではなくなってくる.皮膚深部でも同じことが起こり,弾力が低下し外力に対する抵抗性が減少する.また皮膚組織のゆるみを整えていたコラーゲン線維が減少するために“たるみ”が出現し,“ずれ”を起こしやすくしている.皮膚自体も薄くなり,圧迫に弱い皮膚をつくってしまう.高齢者は高血圧や糖尿病,骨粗鬆症などのさまざまな病気をもち,何かがきっかけとなり,ねたきり状態へと陥ってしまう.ねたきりでは皮膚の清潔度を保持することに負担がかかり,食欲の低下によって栄養状態も徐々に下がる傾向にある.骨の突出や拘縮などからケア面でも苦慮することが多い.また,経験的な治療や漫然とした治療が行われていることも依然多い.さらに,多職種が参加するチーム医療が実践されていない施設も存在しているのが実情である.これらの状況を認識したうえで発生した褥瘡をいかに効率よく,短期間で治療するか,もちろんトータルコストを低く抑えることも同時に行う必要があり,そのためにどのようなことが重要かを薬物療法の視点から考える必要がある.
褥瘡の保存的治療に用いられる薬剤や材料は,創部の病態により使い分けが必要とされているが,それは病態が多彩に変化し,それぞれの病態に応じた適切な対応が求められることにほかならない.治癒過程は壊死組織除去から肉芽形成や上皮形成の経過を辿るが,その間には再圧迫や摩擦による組織のずれ,あるいは不顕性感染や感染・炎症徴候などさまざまな病態を示すことが個別性の強い疾患であることを示し,そのことが治療を難しくしている.局所の薬物療法では,褥瘡治療薬の効果が発揮される局所環境づくりが必要であり,そのためには主薬の薬理作用以外に,軟膏基剤や材料の特性に配慮し,湿潤環境理論に基づいた治療環境を整えることが重要である.創傷被覆材(ドレッシング材)は湿潤環境を整えるために必要な材料であり,薬剤との併用や用途の異なる創傷被覆材との併用によって局所環境を保持することがその大きな役割といえる.創傷治癒に関与する局所環境因子は,褥瘡局所を治癒しやすくするのに必要で,これらに配慮することで薬剤や材料の利点を引き出し,より一層の効果が期待できるとともに,これまでの保存的治療に要した期間を短縮することが可能である.すなわち,褥瘡の薬物療法において治りやすくするための創環境とは,創に対する外力が加わりにくく,細胞の増殖が円滑,かつスピーディに行われる状態を確保し,創の病態に応じた薬剤や材料の適切な選択や使用により主薬の効果が得られやすい局所環境をつくりあげることである.
褥瘡対策はチーム医療が不可欠とされている.その理由は,褥瘡の予防や治療には多職種の関与が必要となり,薬剤師は薬物療法の視点で提言する.もちろん,初心者が最初から提言していくことは無理である.褥瘡のチーム回診に参画するためには,基礎的な知識をある程度身につけるなどの準備が必要である.また,褥瘡は自身の目で見ることがとても重要であり,内科的な疾患と異なり,創の状態に対して医師が病態の評価を行い,それに対して適切な外用薬物療法を提言することが薬剤師としての役割となる.また,褥瘡治療においては薬剤管理指導業務に取り入れてサポートしていくことも重要である.外用療法では,外用薬や材料の特性を熟知した薬剤師ならではの知識を十二分に発揮して,円滑な局所治療をすすめるうえで有益な医療情報を提供したり,使用方法の指導を行うことが可能である.また,褥瘡治療薬には軟膏剤が多く,軟膏基剤の特性は薬剤師のみが学んでいる知識だとすれば,薬剤師が関与する意義を見いだすことができる.それゆえに薬剤師が積極的に褥瘡の薬物療法に介入することは治療の質を高め,患者・家族や医療スタッフから信頼を得ることができる.さらに,ほかの薬物療法を実践するための足がかりになることは紛れもない事実である.薬剤師本来の職能を活かすことのできる分野,それが褥瘡である.
本書は,著者が長年褥瘡治療に携わり,周囲の医療スタッフやdecunet(褥瘡治療薬サミット)の会員から「古田理論」「古田マジック」とも呼ばれた「ヒミツ」を解説した.褥瘡の治療にかかわる薬剤師をはじめとした医療スタッフにご活用いただき,患者さんのQOL向上のためにも褥瘡を早く適切に治癒することを願ってやまない.

2006年 夏  国立長寿医療センター 副薬剤部長 古田勝経


目次

褥瘡外用療法のヒミツ

I.褥瘡が難治性である理由
 1.発生の原因を完全に取り除くことは難しい
 2.大量の壊死組織は治癒を妨げる
 3.極めて多彩な病態をとり,個別性が強い
 4.どのように克服したらよいのでしょうか?
  a.原因を調べる
  b.病態を把握する
  c.治療方針を立てる
  d.定期的に創評価をする

I I.褥瘡の多彩な病態を把握するには
 1.褥瘡の時間経過による分類
  a.急性期の褥瘡
  b.慢性期の褥瘡
 2.深さによる分類
  a.深達度による重症度分類
  b.浅い褥瘡と深い褥瘡
 3.色調分類
 4.DESIGN(褥瘡重症度分類)
  a.開発の目的
  b.構成の項目
  c.要素の表記と重症度分類

I I I.褥瘡治療の進め方
 1.褥瘡のとらえ方−治療に関与する因子−
  a.全身的因子
  b.局所環境因子
  c.圧迫・ずれの防止
 2.DESIGN(褥瘡重症度分類)を用いた褥瘡の治療方針
  a.創の深さ:D→d
  b.浸出液の量:E→e
  c.創の大きさ:S→s
  d.炎症/感染:I→i
  e.肉芽形成:G→g
  f.壊死組織:N→n
  g.ポケット:−P→なし
 3.褥瘡治療は短期戦か,長期戦か
 4.褥瘡治療を目的とした外用薬

IY.湿潤環境を重視した褥瘡の薬物療法
 1.軟膏剤の構成
 2.軟膏基剤の特性
  a.外用薬の軟膏基剤による分類
  b.局所環境因子における薬効成分と基剤の役割
  c.軟膏基剤の創面に対する影響
  d.創面上の軟膏(基剤)
  e.壊死組織除去
  f.肉芽形成促進
  g.創面水分量からみた基剤などの分類
  h.基剤の特性を活かしたブレンド軟膏の調製

症例から学ぶ褥瘡外用療法の極意

Case1  創部の湿潤コントロールを創傷被覆材のみで行った外用療法

Case2  深い褥瘡に創傷被覆材のみを用いた外用療法

Case3  軟膏基剤を用いた外用療法

Case4  乾燥気味の創面に対する水分補給とブレンド軟膏による外用療法

Case5  圧迫と感染によって発生した「ポケットを形成した褥瘡」への外用療法

Case6  「広範なびらん」へブレンド軟膏と創傷被覆材を用いた外用療法

Case7  浸出液の減少により乾燥環境となった創に対し湿潤環境を考慮した外用療法

Case8  「ポケットを形成した褥瘡」の治療期間を短縮できたフィブラストスプレー+ベスキチンW-A併用療法

Case9  「ポケットを形成した褥瘡」にオルセノン軟膏とデブリサンのブレンド軟膏を用いた外用療法

付 録   褥瘡経過評価用スケール