痛みの内科診断学

痛みの内科診断学

書評

清田雅智 先生(飯塚病院総合診療科)

 痛みは別名「第5のバイタルサイン」とも称され重要な臨床徴候とされている割に、臨床の現場で痛みの訴えにどうアプローチしてよいのか頭を抱える医師は多いだろう。ペインクリニックに通っている患者さんの中にも、痛みの診断を十分に受けないまま鎮痛薬だけを処方されてきたようにみえる人にも遭遇する。総合診療科に受診される痛みの患者さんの中には、心理社会的な問題が誘引の患者さんが実に多いことを著者は経験している。しかし、多くの医師は、医学部や研修医時代に痛みへの系統的なアプローチを学ばなかったのが実際ではなかろうか。
 本書は、総合診療部の教授が、痛みに対してどのようにアプローチを試みるかを、自身の経験と学問的な見地を織り合わせて解説した良書である。特に痛みの由来を「炎症、内臓、神経、筋、脳」に分類して鑑別してゆくアプローチは実践的であり、評者も脳≒心理と置き換えて同じ思考で診察していることに気づいた。科学的な内容も踏まえた総論的な内容に加えて、系統的な身体診察のポイントや、10例の症例を基にしたアプローチは実践的な理解を助ける。著者自身の痛みの経験などを綴ったコラムは、身に染みる内容である。
 「外科医のメスに相当する武器は、内科医においては内科診断学である」というのは至言である。伝統的内科診断学が細分化した医学領域を統合するように、痛みに対しても、神経学、麻酔科学、精神科学など複数の領域の知識を動員して分析し統合する必要がある。医療の細分化が、患者の痛みを分かりたくても理解できない医師を増やしているのかもしれない。「専門分野ではないので他の医師に紹介します」、や「とりあえずNSAIDs、抗痙攣薬などの鎮痛補助薬、ダメなら麻薬系」と処方をしても、患者は浮かばれないだろう。
 著者の広範な知識に加えて、謙虚で真摯な診療への姿勢が本書から伝わってくる。痛みを訴える患者さんに接するときの姿勢としても大いに得るところがある。多くの若手の医師に一読を勧めたい。