糖尿病におけるmultimorbidity

糖尿病におけるmultimorbidity

書評

猿田享男(慶應義塾大学名誉教授/日本臨床内科医会会長)

 日本では急速に高齢化が進み,平成26年には65歳以上の人口が総人口の26%に達し,その後も高齢者が増加し続けている.寿命が延びることは大変喜ばしいことであるが,高齢者が望むことは,高齢になっても介護を受けることなく元気に活躍できる健康寿命の延長である.しかし,高齢になってくると何らかの身体障害の発症を避けることが出来ず,次々に病気をもつようになり,治療薬の数が増えてくる.すでに医療保険上でも高齢者の多疾患罹患(multimorbidity)と多くの薬剤使用(polypharmacy)が問題とされ,国がその対策に乗り出している.
 このように高齢化とともにmultimorbidityが重要な問題となってきたが,この問題は高齢者に限らず糖尿病患者においても大変注目されてきている.平成24年の国民健康・栄養調査で糖尿病患者数は約2050万人と推定され,増加の一途を辿っている.これらの糖尿病患者では,高齢者に限らずmultimorbidityがみられ,年とともにその頻度や重篤度が増し,polypharmacyが深刻な問題になってきている.
 このような動向に注目されていたのが,日本で糖尿病の臨床をリードしてこられた松岡健平先生である.松岡先生は約4年前,先生が編者となって『いまさら聞けない糖尿病診療』と題するマニュアルを南山堂から発刊されて大変好評を博した.今回も長年の糖尿病臨床医としての貴重な経験から,糖尿病領域でmultimorbidityは大変重要と考え,先生が編者となって多くの糖尿病専門医の方々と『糖尿病におけるmultimorbidity』と題するマニュアルを発刊された
 本書では,まずmultimorbidityおよびpolypharmacyが近年問題となってきた背景と,なぜ糖尿病領域で特に注目されてきたのか,その背景を説明されたのち,糖尿病におけるmultimorbidityへの対策,治療および予後等が説明されている.これまで糖尿病患者に行われてきた糖尿病の基本治療(食事療法,運動療法および薬物療法)の最近の動向が解説され,続いて諸疾患が生じてくる無駄がないか治療のポイントがまとめられている.多疾患の併存状態での治療では,諸領域の専門家が治療に関与するため,どの領域の医師が診察しても,すぐに各疾患の治療がどこまで進み,現在の問題点が何かがすぐに把握できなければならない.そのチーム医療の重要性や対策についても言及されているなど,大変有用なマニュアルになっている.
 今後の医療にとって大変注目されているmultimorbidityについて,現時点で考えられる対策と治療法を解説された貴重なマニュアルとして,糖尿病領域の診療に関係する方々ばかりでなく,研修医の方々や日常臨床の第一線で活躍されている医師や医療関係者の皆様方にも是非お読みいただきたいと願っている.