心不全の緩和ケア

心不全の緩和ケア

心不全患者の人生に寄り添う医療

書評

草場鉄周 先生 (北海道家庭医療学センター 理事長)

在宅患者の心不全を考えるとき,いつも一人の患者を思い出す.その方は,神社の神主のご家族で80代の女性.弁膜症による高度心不全にて循環器科から紹介されて訪問診療を行っていた.神社の坂の上にお住まいで通院が難しく,ちょっとした外出にも常に呼吸困難を伴う状況.在宅酸素療法を行いつつ,徐々に安静時の呼吸苦が悪化する中で内服調整や水分摂取調整に四苦八苦した.癌と異なり,どこまでこの介護が続くのか分からない中で,息子夫婦の心理的・肉体的負担も重く,ショートステイも好まれない状況で,訪問看護師と共に家族サポートを続けた.まさに神様助けてくれと.1年あまりで自宅で看取ることができたのだが,末期癌と異なる一進一退の病状に独特の難しさを痛感した.
そうしたかねてからの問題意識を持ちつつ本書を通読する中で,その現場目線の症例提示の多さ,そして,痒いところに手が届くアドバイスに大きくうなずく思いであった.オピオイド治療による呼吸苦緩和の実際,予後予測が難しい中でのアドバス・ケア・プランニング,そして,先行き不明瞭な末期心不全患者ケアには欠かせない介護者への多職種によるサポート.いずれも,真摯に在宅医療に取り組む者にとって,「あぁ,それで良かったんだ」あるいは「そうか,そういうやり方もあるんだ」と温かく励ましてもらい,明日からもっと頑張ろうと思える内容と言って良い.近年重視されてきつつあるがまだ手探りの感のある「非癌患者のターミナル・ケア」という観点からも,本書が提示した問題提起やソリューションは大変示唆に富むものとも感じる.少しでも多くの心不全緩和ケアに取り組む医療者に手にとって欲しいと切に思う良書である.