てんかんの手術の正しい理解

てんかんの手術の正しい理解

書評

てんかん外科を考える最良の書

井上有史 先生
(独立行政法人 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 院長)

 まず,手にとってやさしい.平易に書かれていて読みやすい.読んでいると,脳について,てんかんについて,手術について,眼前に浮かびあがるようである.23年間にわたり,約750例のてんかん手術にかかわってきた著者の経験の蓄積がそうさせるのだろう.
 薬物治療の次に外科治療があるのではなく,外科治療を包括的なてんかん医療の枠組みのなかに位置づけて手術適応を考える著者は,手術が可能かどうかは,発作の頻度や程度で判断するのではなく,患者の置かれている状況をよく把握し,手術が確かにQOLの改善につながるかどうかを見極める必要があると書く.このような見極めを,チームを組んでいる他職種の意見も取り入れて率先して行っていた.QOLの論文も書いた脳外科医は稀有である.
 読者は読み進むにつれて「脳とは何だろう」,「てんかんとは何だろう」,「治療とは何だろう」と考えさせられる.
 著者は,2008年に『脳の働きをうかがい知る─外科てんかん学入門』(創造出版)という書物を出版した.この本はしかし入門どころではなく,日本で初めてのてんかん外科専門書である.そこに著者は「脳の働きをうかがい知る」というタイトルをつけた.単に病変を取り除くだけではなく,てんかんと格闘しながら脳を学び,脳を考えながらてんかんを治した著者の姿勢がうかがえる.一方,本書は,てんかんのある人に長年寄り添った著者が,外科治療を通して,てんかんをもって生きる人を考えた本といえる.
 本書は,てんかんに悩み,治療の選択肢として手術を考えようとしている人にとても役立つ.またてんかんのある人を支える周囲の人への指南書となる.一方,てんかん外科の初学者には,外科医の体温が感じられる格好の入門書である.てんかん医療に携わる人は共感をもって読め,一般の人は脳科学の本のように読めるだろう.
 てんかんという病気にかかわるすべての人に薦めたい,実に内容の濃い,そして何よりも信頼できる一冊である.