向精神薬と妊娠・授乳

向精神薬と妊娠・授乳

書評

天正 雅美(さわ病院 薬剤部長)

 私は精神科単科病院に長年勤務しているが,ここ10数年の間に待合室の様子は大きく変わり,20代・30代の若者,特に女性の患者が増えた.これは,女性に多いとされるうつ病や適応障害といった精神疾患が世間で認知され,専門医療機関である精神科を受診することへの敷居が下がったからかもしれない.  若い女性患者が増えると,当然妊娠・出産と薬についての相談が増えてくるが,実は精神科に勤める薬剤師にとって,妊娠や出産についての相談は積極的には受けたくない相談である.それは,もともとの知識不足を補うべく文献を調べても明確なエビデンスが少ないために,相談者が納得できるような回答を用意ができずに「産科の先生にご相談ください」と他力本願となることも多いからである.そんな中,最近知り合いの妊婦・授乳婦専門薬剤師から「妊婦やこれから妊娠を考えている女性から受ける相談は,ほとんどが向精神薬の相談である」と言われ,いつまでも苦手意識をもたずに精神科薬剤師も妊娠と薬についての知識を増やし,相談や質問を受けた時,少なくとも患者が安心できるような回答をして,産科につなぐ必要があるのではないかと薬剤師仲間で話をしていた.  そんな折,本書が発売されたことを聞いたのだが,まず,タイトルに惹かれた.私の今一番興味があるものずばりであり,さらに精神科医の鈴木先生が編者になっておられることに興味をそそられ,早速開いてみた.まず,妊娠周期と薬の関係に始まり,エビデンスの話,主な向精神薬が妊娠や授乳に与える影響,精神疾患の特徴と薬理学的治療,そして具体的な症例と,基礎的なことから臨床まで多岐にわたり,精神科薬剤師が欲しかった情報が順序立ててわかりやすく書かれていた.本書は,精神科薬剤師はもちろん,病院薬剤師,保険薬局薬剤師にとっても満足な一冊となるだろう.本書を教科書として手元に置き,精神疾患を有する患者が安心して出産・授乳できるよう援助してほしいと考える.