ひと目でわかる方剤学

ひと目でわかる方剤学

書評

丁 宗鐵 先生 (日本薬科大学 学長)

 この度,私が尊敬する漢方医学者の一人である森先生が,新しい方剤学の本を書き上げました.この本には医療用漢方製剤のほとんどが網羅されておりますが,注目すべき点は収載された方剤の数ではありません.

 漢方を学び始めた人の多くは,初め手すぐに「ある壁」にぶつかります.それは長年漢方の研鑽を積んできた先輩方からの「まずは古典をしっかり学べ」という教えです.
漢方を深く理解するために,古典を学ぶことの重要性は言うまでもありません.
しかし,特に漢方が専門ではないが臨床家にとって「古典を学ぶ」ことが大きな負荷になり,それをきっかけに漢方の道をあきらめてしまう人も少なくありません.
右も左も分からない初学者に無理な勉強をさせることが,先達の役割なのでしょうか.古典の重要なエッセンスを一冊にまとめ,そこから学び始めれば古典を全て読まなくても迷わずに漢方のあらましが理解できる.
そのような「漢方のガイドブック」を作ることこそ,長年古典を学び,その真髄を深く理解している先達にしかできない本当の仕事であり,また義務でもあると私は思うのです.

 この度,森 先生が書かれた本は,まさに「漢方方剤のガイドブック」と呼ぶにふさわしい,初めて漢方を学ぶ人が方剤の特徴や医療用漢方の位置づけをしっかり理解できる一冊です.特に素晴らしいのは総論でしょう.
漢方の基本概念や特徴など,最も大事なエッセンスが非常に簡潔に分かりやすく説明され,全く無駄のないその内容に私は敬意を表さずにはいられません.

 現在,日本の医師の約80%以上が医療用漢方製剤を処方する時代になりましたが,医療用漢方製剤が選ばれたのかという経緯は忘れ去られつつあります.
実はこれらの処方のほとんどは,大塚敬節先生をはじめとした昭和の漢方の大家たちの常用処方の中から,特に使われた頻度の高い処方を選んだだけのものなのです.
まず昭和の漢方医や漢方薬局の薬剤師の頻処方が210処方集められ,その中からさらに147処方の医療用漢方製剤が選ばれましたが,頻用処方をランダムに集めたために方剤の系統性などは全く考慮されていません.

 そのため,方剤学の観点からみると,医療用漢方製剤には軸となる幹のような処方と,そこから派生した枝葉のような処方が並列的に扱われているという,おかしなことになっているのです.
この本では,「幹の処方」と「枝葉の処方」が,系統的にきちんと分類されています.
また,方剤の説明には分かりやすいイラストも多数使われていますが,一見ランダムにちりばめられているかのようなイラストも「幹の処方」にだけ入れられており,枝葉の処方にはイラストがありません.
つまり,イラストの描かれた処方が,よりしっかり勉強できるように工夫されているのです.

 この本で学んだ人が臨床で漢方を扱える領域に入り,一人でも多くの患者さんに漢方薬を処方して治療効果を上げていただきたいという,どこまでも初学者の立場に立った森先生の熱意が伝わってくる一冊です.