薬物動態のイロハ

薬物動態のイロハ

書評

「丁寧な入門書でありながらエキスパートも楽しめます」

千葉 康司 先生(横浜薬科大学 教授)

 本書のタイトルは「薬物動態のイロハ」であり,入門書という位置づけである.研究室の薬学生に本書を読んでもらった.教養科目が中心の低学年の学生には,少々難しかったようであるが,薬物動態の重要性は理解してくれたようである.薬学を一通り学習した高学年の印象は良かった.「内容はそこそこ手応えがあり,面白かった.」「薬物動態が何に役立つのかよく分かった.」とか,「図が分かりやすく,特に多くの医薬品をプロットしたグラフには感動した.」「世に出ている医薬品のことがよく分かった.」などなど.私の感想も同様である.医薬品の血中濃度のグラフが読める方から,医薬品開発に従事している研究者まで,本書は楽しめると思う.
 著者は,市販されている経口剤の添付文書あるいはインタビューフォームを調べ,医薬品の物理化学的性質と吸収・分布・代謝・排泄,いわゆるADMEの各過程との関係を分析し,解説している.大変な作業であったと思う.他から引用したものをまとめたのではなく,著者自らの調査を通じ,著者の感覚,本書でいうところの「相場感」を確認した上でその結果を紹介している.著者ならではの薬物動態学に対する情熱が,精密に作成された図表から窺える.現場で医薬品を使っておられる方々は,ADMEの各章のそれぞれのグラフを見て,今日扱った医薬品がどこにプロットされるのか,気になるのではないだろうか.私も,グラフが出てくるたびに,思わず時間をかけてじっくり見入ってしまった.きっと著者自身も,予想通りの結果に感動しながら執筆されたのでは,と想像してしまう.
 本書では,平易な言い回しで薬物動態の理論をしっかりと解説している.専門用語の解説もとても丁寧であり,いちいちインターネットを調べながら読む必要はない.読み始めて暫くすると,「薬物動態の考え方の基本は水と油」のメッセージが登場する.本書では,このことが,手を替え品を替え何度も登場する.しかもデータ付きで登場する.読者はその事例に規則性があることを知り,また,例外がなぜ起こるのかも丁寧な解説から学ぶ.規則性と例外が分かると,データを基に現象を予測できることに興味を持つであろう.なるほど,著者のいう「相場感」が,感覚としてスッと入ってくる.また,この相場感が,医薬品をデザインする時に重要であることが,臨場感とともに伝わってくる.
 最後の章では,薬物間相互作用を学ぶ.単に薬の飲み合わせの原因を解説するのではなく,最高血漿中濃度と半減期の変化に焦点をあて,自分が服用した時に現れるであろう副作用を想像しながら,どのような時にどういった相互作用が起こるのかを知る.
 本書は確かに分かりやすい入門書である.しかし,エキスパートが読んでも楽しめるのではないだろうか.私は,付録の薬剤情報まで楽しませていただいた.