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「薬局」2016年5月 Vol.67 No.6

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2016年5月 Vol.67 No.6
炎症性腸疾患
IBDと合併症に対する治療薬の考え方と使い方

定価:2,160円(本体2,000円+税8%)

特集の目次

■特集にあたって(日比 紀文)

■IBDの疾患概念と治療の変遷(岩本 史光 ほか)
■この治療薬はいつ・どの患者に・どう使う? ピットフォールは?
・‌5-アミノサリチル酸製剤(仲瀬 裕志)
・コルチコステロイド(中村 志郎 ほか)
・6-メルカプトプリン/アザチオプリン(久松 理一)
・カルシニューリン阻害薬(松岡 克善 ほか)
・抗TNF-α抗体(別府 孝浩 ほか)
■徹底解説! 抗TNF-α抗体に関するギモンを解決!
・抗TNF-α抗体のトップダウン療法とステップアップ療法の考え方と使い分け(本谷 聡 ほか)
・‌抗TNF-α抗体を「中止する」ときを見極めるポイント(小林 拓 ほか)
・抗TNF-α抗体の効果減弱・二次無効に対する治療戦略(鈴木 康夫)
・インフリキシマブ・バイオシミラーの臨床効果の差異と課題(渡辺 憲治 ほか)
■どう治療する? IBD患者の合併症へのアプローチ
・IBD×肛門病変(二見 喜太郎 ほか)
・IBD×腸管外合併症(遠藤 克哉)
・IBD×感染症(小川 まい子 ほか)
・IBD×過敏性腸症候群(福土 審)
■実践!IBDの治療における薬学的管理のポイント(八木澤 啓司 ほか)

シリーズ

■「治療」「薬局」合同連載 ポリファーマシー “処方整理力”を鍛える! 第2回
これがないと眠れないんです…
(矢吹 拓)
■薬剤師よ,心電図を読もう!
12誘導心電図特有の知識
(大八木 秀和)
■医療従事者のギモンや困ったに答える!トラブルに巻き込まれない著作権のキホン
(服部 誠)
■医療マンダラ 〜思考と感性のセンスを磨く〜
治療の本質について考える
「疾患」を診るのか,「病人」を診るのか
(中野 重行)

巻頭言

 日本における炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)研究の歴史は比較的新しい.免疫異常を是正する治療法は日本において1980年代までは重要視されず,クローン病では栄養療法,潰瘍性大腸炎ではペンタサ®・サラゾピリン®と副腎皮質ステロイドだけが用いられていた.メルカプトプリンやアザチオプリンなどチオプリン製剤は,当時の専門家の多くが,効果も明らかでない抗がん薬と考え,一部の施設のみが使用していたにすぎない.以前は,IBDを診断できることが専門家であったが,近年多くの治療薬が開発され,それらをいかに適切に選んで加療し,患者に通常の生活を送っていただけるよう工夫することが専門家に求められている.
 カルシニューリン阻害薬や白血球除去療法など潰瘍性大腸炎の寛解導入への選択肢が増えるとともに,生物学的製剤の臨床応用はIBDの治療に革命をもたらした.2002年からの抗TNF-α抗体製剤のクローン病・関節リウマチへの保険承認以後,急速に抗TNF-α抗体製剤の臨床応用が進み,その目覚ましい治療効果は,慢性炎症性疾患への免疫異常反応是正を目的とした種々の薬剤の開発にもつながった.抗TNF-α抗体製剤のもたらした功績は単に優れた治療効果を有していたことだけではなく,IBDの疾患概念や治療ストラテジーの見直しをもたらしたことである.クローン病は消化管の機能障害(disability)が蓄積する進行性疾患ととらえられているが,生物学的製剤登場以後,従来治療では変えられなかったクローン病の自然史が改善されるのではとの期待も出てきた.一方,抗TNF-α抗体治療が潰瘍性大腸炎にも有効であることが明らかとなり,同様に潰瘍性大腸炎の疾患概念も見直そうという機運がある.
 しかし,抗TNF-α抗体による副作用などで使用できない不耐例,さらには抗TNF-α抗体の無効例すなわち,投与初期より効果のない一次無効例や,徐々に効果が減弱する二次無効例が,投与例全体の20〜30%にみられることが問題となってきた.これらに対して,従来治療との組み合わせや工夫がなされているが,新しい薬剤の開発も進んでいる.これからの新薬としては,①サイトカイン産生の制御,②リンパ球など免疫担当細胞のホーミングに関係する接着や浸潤の制御,③腸内細菌の調節などに向けたものが中心となる.今後さらにIBD治療選択肢が豊富となり,新しい薬物療法が加わってくると考えられ,複雑化する薬物治療を適切に行うことがますます重要になってくるのは間違いない.適切な治療にはまずその薬剤の正確な知識と情報が求められ,各患者の病態を十分に把握することが必要となる.IBD診療の基本は,個々で病態が異なる患者にきめ細やかな治療を提供することである.
 今後もIBDの制圧のために基礎,臨床の両面から研究が進められ,根本的な治療法の開発が待たれるが,現状においては炎症をいかに長期に安全に抑制していくかが求められ,薬剤に関する知識を備え,深い経験をもつことが専門家に求められ,偏った情報などでの片手間の治療は絶対避けるべきである.IBD独特の合併症にも有効な薬剤を見極めることも重要であり,治療機序を熟知し,適切な治療を行うことが重要である.
 本特集は,日常臨床の場でいかに適切な治療を行うか,種々の治療薬についてそれぞれの専門家が,使用のノウハウやポイントを解説いただいている.各々の薬剤に関する経験と知識をもとに,多くの患者の日常生活が健常人と近いものとなるよう,治療の工夫をしていただければと存じます.

日比 紀文
北里大学北里研究所病院
炎症性腸疾患先進治療センター センター長