カテゴリー: 感染症学 | 総合診療医学/プライマリ・ケア医学
まだ変えられる!
くすりがきかない未来
知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし
1版
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 総合感染症科/AMR臨床リファレンスセンター 石金正裕 著
うえたに夫婦 著
定価
1,980円(本体 1,800円 +税10%)
- A5判 152頁
- 2019年8月 発行
- ISBN 978-4-525-00241-1
「その抗生物質は必要?」プロの感染症医とイラストレーターが伝える薬剤耐性(AMR)のはなし
医師見習いのオニギリ君はある夜、悪夢にうなされていた…「薬剤耐性菌」が世界で猛威をふるい、がんの死者数を超えてしまったと?。抗生物質の効かない「薬剤耐性(AMR)菌」は世界中で増えており大きな問題になっている。AMR問題に対して私たち一人ひとりができることを医師の「くすり先生」とその弟子「オニギリ君」と一緒に学ぶ!
- 序文
- 目次
序文
いきなりですが、医療従事者であれば抗生物質を出したことはありますか? 一般の方(患者)であれば抗生物質を飲んだことはありますか? 抗生物質を出した時、もしくは飲んだ時に、本当にこの抗生物質が必要であるか、考えたことはありますか? 特に、風邪に対して抗生物質を出したり、飲んだ経験はないでしょうか?
最近、「薬剤耐性」という言葉を新聞やインターネットのニュースで見かける機会が増えてきました。「薬剤耐性」は、読んで字のごとく、薬に耐性がある、つまり薬が効かなくなることを意味します。薬といってもたくさん種類がありますが、特に、抗生物質が細菌に効かなくなることが問題となっています。抗生物質が効かない薬剤耐性菌(耐性菌)が世界中の問題となっており、イギリスのグループの推定によると、このまま何の対策も行わず、耐性菌が増加してしまうと仮定すると、2050年には世界における耐性菌による死亡はがんによる死亡者の数を超えて、約1,000万人にも及ぶと考えられています(2013年の耐性菌による死亡者の数は約70万人)。
さて、どのようにして耐性菌により死亡者がでてしまうのでしょうか。直接的な要因としては抗生物質の効かない細菌が直接、肺炎や膀胱炎を起こしてしまい、亡くなってしまう可能性があります。さらには、細菌とは直接関係ない病気でも薬剤耐性が問題となることがあります。例えば、大腸がんの治療をするとします。手術をして大腸がんを取り除くことが大事な治療の一つなのですが、手術後に感染症が起こることがあります。そんなとき現在であれば、抗生物質で感染症を治療することは可能です。しかし、抗生物質がまったく効かない細菌が原因の感染症を起こしてしまうと、大腸がんは手術で取り除いたけれども術後の感染症で亡くなってしまう可能性があります。さらに、このような状況になってしまうと、術後感染症を心配して、場合によっては手術を行わないという選択肢をとるかもしれません。その場合、抗がん薬などで治療を行いますが、やはりがんを取り除いていないので大腸がんが原因で亡くなってしまう可能性もあります。このように薬剤耐性は、直接的だけでなく間接的にも問題となってしまいます。
これまでにも薬剤耐性に関する良書はたくさん出ています。今回は、より多くの医療従事者や一般の方に薬剤耐性について考えてもらいたいと考え、プロの感染症の専門医師と、プロのイラストレーターが協力して、漫画をつかって薬剤耐性について説明することを考えました。これは世界で初めての試みです。本書を読み終えると、薬剤耐性について理解が深まります。さらに、抗生物質が必要な状況と必要ではない状況がわかるはずです。
抗生物質が効かない未来を変えることができるかどうかは、一人ひとりの行動に手にかかっています。本書が未来を変えるきっかけとなることを願っています。
読者のみなさんにお願いがあります。この本を読み終わったら、未来のために行動に移してください。そしてご自身に問いかけてみてください。
「その抗生物質は必要ですか?」
令和元年7月吉日、初夏香る新宿にて
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 総合感染症科/
AMR臨床リファレンスセンター
石金正裕
最近、「薬剤耐性」という言葉を新聞やインターネットのニュースで見かける機会が増えてきました。「薬剤耐性」は、読んで字のごとく、薬に耐性がある、つまり薬が効かなくなることを意味します。薬といってもたくさん種類がありますが、特に、抗生物質が細菌に効かなくなることが問題となっています。抗生物質が効かない薬剤耐性菌(耐性菌)が世界中の問題となっており、イギリスのグループの推定によると、このまま何の対策も行わず、耐性菌が増加してしまうと仮定すると、2050年には世界における耐性菌による死亡はがんによる死亡者の数を超えて、約1,000万人にも及ぶと考えられています(2013年の耐性菌による死亡者の数は約70万人)。
さて、どのようにして耐性菌により死亡者がでてしまうのでしょうか。直接的な要因としては抗生物質の効かない細菌が直接、肺炎や膀胱炎を起こしてしまい、亡くなってしまう可能性があります。さらには、細菌とは直接関係ない病気でも薬剤耐性が問題となることがあります。例えば、大腸がんの治療をするとします。手術をして大腸がんを取り除くことが大事な治療の一つなのですが、手術後に感染症が起こることがあります。そんなとき現在であれば、抗生物質で感染症を治療することは可能です。しかし、抗生物質がまったく効かない細菌が原因の感染症を起こしてしまうと、大腸がんは手術で取り除いたけれども術後の感染症で亡くなってしまう可能性があります。さらに、このような状況になってしまうと、術後感染症を心配して、場合によっては手術を行わないという選択肢をとるかもしれません。その場合、抗がん薬などで治療を行いますが、やはりがんを取り除いていないので大腸がんが原因で亡くなってしまう可能性もあります。このように薬剤耐性は、直接的だけでなく間接的にも問題となってしまいます。
これまでにも薬剤耐性に関する良書はたくさん出ています。今回は、より多くの医療従事者や一般の方に薬剤耐性について考えてもらいたいと考え、プロの感染症の専門医師と、プロのイラストレーターが協力して、漫画をつかって薬剤耐性について説明することを考えました。これは世界で初めての試みです。本書を読み終えると、薬剤耐性について理解が深まります。さらに、抗生物質が必要な状況と必要ではない状況がわかるはずです。
抗生物質が効かない未来を変えることができるかどうかは、一人ひとりの行動に手にかかっています。本書が未来を変えるきっかけとなることを願っています。
読者のみなさんにお願いがあります。この本を読み終わったら、未来のために行動に移してください。そしてご自身に問いかけてみてください。
「その抗生物質は必要ですか?」
令和元年7月吉日、初夏香る新宿にて
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 総合感染症科/
AMR臨床リファレンスセンター
石金正裕
目次
■はじめに
■1章 ヒトと感染症
・第1話 身近な感染症① かぜ
・データ 抗生物質に関する意識調査データ①
・第2話 身近な感染症② 食中毒
・第3話 身近な感染症③ 膀胱炎
・解説 風邪/食中毒/膀胱炎
■2章 抗生物質と薬剤耐性の成り立ち
・第4話 薬剤耐性とは
・データ 薬剤耐性菌による死者が2050年には1,000万人に!?
・第5話 抗生物質の歴史
・解説 薬剤耐性/抗生物質の歴史/(プチ情報)DNAによる薬剤耐性獲得
■3章 薬剤耐性の具体的な問題
・第6話 抗生物質の正しい使い方① 人にあげないもらわない
・解説 急性副鼻腔炎/(プチ情報)抗生物質投与群と非投与群の比較
・第7話 抗生物質の正しい使い方② 途中でやめない
・データ 抗生物質に関する意識調査データ②
・解説 抗生物質の正しい使い方
・第8話 ワンヘルス
・解説 ワンヘルス
■4章 薬剤耐性に対する世界と日本の取り組み
・第9話 海外での抗生物質
・解説 途上国での抗生物質の問題
・第10話 世界における薬剤耐性への取り組み
・解説 世界における薬剤耐性への取り組み
・第11話 日本における薬剤耐性への取り組み
・解説 日本における薬剤耐性への取り組み
■おわりに オニギリくんの未来
■1章 ヒトと感染症
・第1話 身近な感染症① かぜ
・データ 抗生物質に関する意識調査データ①
・第2話 身近な感染症② 食中毒
・第3話 身近な感染症③ 膀胱炎
・解説 風邪/食中毒/膀胱炎
■2章 抗生物質と薬剤耐性の成り立ち
・第4話 薬剤耐性とは
・データ 薬剤耐性菌による死者が2050年には1,000万人に!?
・第5話 抗生物質の歴史
・解説 薬剤耐性/抗生物質の歴史/(プチ情報)DNAによる薬剤耐性獲得
■3章 薬剤耐性の具体的な問題
・第6話 抗生物質の正しい使い方① 人にあげないもらわない
・解説 急性副鼻腔炎/(プチ情報)抗生物質投与群と非投与群の比較
・第7話 抗生物質の正しい使い方② 途中でやめない
・データ 抗生物質に関する意識調査データ②
・解説 抗生物質の正しい使い方
・第8話 ワンヘルス
・解説 ワンヘルス
■4章 薬剤耐性に対する世界と日本の取り組み
・第9話 海外での抗生物質
・解説 途上国での抗生物質の問題
・第10話 世界における薬剤耐性への取り組み
・解説 世界における薬剤耐性への取り組み
・第11話 日本における薬剤耐性への取り組み
・解説 日本における薬剤耐性への取り組み
■おわりに オニギリくんの未来