南山堂

カートを見る

立ち読み
注文数:

在庫あり

プライマリ・ケア研究

何を学びどう実践するか

1版

横浜市立大学大学院 データサイエンス研究科
ヘルスデータサイエンス専攻
金子 惇 翻訳

定価

5,940(本体 5,400円 +税10%)


  • B5判  291頁
  • 2022年6月 発行
  • ISBN 978-4-525-04131-1

研究のためのWONCA公式テキスト 待望の翻訳版!

世界家庭医機構(WONCA)が手掛けたプライマリ・ケア研究のための教科書が,日本語で読めるようになりました.プライマリ・ケア研究ならではの方法を学び,日常の臨床から感じた疑問を解決して世界に発信しましょう!

  • 序文
  • 目次
  • 書評1
  • 書評2
序文
 研究はプライマリ・ケアに従事する人々が,日々,患者や地域社会に貢献する質の高い臨床を行うための基礎となるものである.私たちは医療従事者として,科学や知識,臨床研究から得られるエビデンス,指導医や同僚が共有する知恵,そして個々の患者との関わりから日々得られる洞察に基づいて,医療を提供するよう訓練されている.
 それならば,どうすればプライマリ・ケア分野の研究者になれるのだろうか.研究は好奇心を持つこと,問いを発すること,ほかの人が気づいていないことに気づくこと,なぜこのような状況になっているのか,どうすればもっと良くなるのかを考えることから始まる.プライマリ・ケアでは診療所やコミュニティが新しい研究のアイデアの源であり,いわば「研究所」である.患者さんと接することで,私たちは毎日,人間の存在,健康,病気について洞察し,考えることができる.私たち一人一人がプライマリ・ケアの研究に挑戦する能力を持っており,始めるのに必要なのは好奇心とまず飛び込んでみることである.
 私は世界中のプライマリ・ケアに携わる全ての人が研究に参加する必要があると確信している.私たちは臨床家として,患者やコミュニティに最善のケアを提供するために必要なエビデンスを研究文献から探し出すスキルが必要である.また,臨床監査や質改善のための活動に参加することで,自分自身の診療や患者が直面している健康問題についての洞察を得ることができる.私たちの多くはアンケートに答えたり,研究に参加したりすることで,他の人たちの研究に関わっている.そして,最も幸運な人は医学的知識の向上を目指し,臨床医学の限界を探るために,自らの研究を行うことができるのである.また,研究に携わることで,キャリアを重ねる中で必然的に起こる臨床現場の変化に対応するスキルを身につけることもできる.
 この本は研究者としてスタートすることに興味がある全ての人に貴重なアドバイスを提供している.研究者になるための最初のステップは何か? プライマリ・ケアのどの分野があなたの関心を呼び,情熱をかきたてるのか? 具体的にどのような問題や課題に取り組みたいのか? 自分の診療所で,自分の国で,そして世界レベルでのプライマリ・ケアの発展を支える発見をするにはどうしたらいいだろうか??そして,論文の発表,プレゼンテーション,アドボカシー活動を通じて,どのように発見を共有し,健康政策や実践に影響を与えることができるだろうか?
 また,経験豊富な研究者にとっても,私たちの時代の素晴らしいプライマリ・ケア研究者たちが語るアドバイスや知恵は,多くの教訓となるだろう.
 現代はプライマリ・ケア研究者にとって絶好の機会である.世界中の国々が,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(国民皆保険)の実現に向けて,プライマリ・ケアの強化を目指している.ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ,つまり全ての人の健康を実現するためには強力なプライマリ・ケアを支え,プライマリ・ケアの開発を指導し,プライマリ・ケアへのアクセスに必要な投資と成長を求めるアドボカシー活動を支援するための研究が必要である.研究は各国の保健サービス提供の基盤としてのプライマリ・ケアの役割を提唱するために有用であり,プライマリ・ケアの強化が地域社会にもたらす恩恵とプライマリ・ケアの課題を解決するための研究への投資拡大の必要性を提唱するためにも力を発揮する.そして21世紀のヘルスケア提供に必要なエビデンスを生み出すための理想的な研究の場として,プライマリ・ケアというセッティングを示すことにも貢献する.
 私たちは世界的な健康上の大きな課題に直面しているが,プライマリ・ケアにはその答えの多くがある.慢性疾患の予防と管理,メンタルヘルスと併存疾患,複雑性と不確実性の課題,ヘルスケアに影響を与える倫理的問題,高齢者をケアするための統合的なプライマリ・ケアサービスの貢献,弱者や疎外された人々のヘルスケアへの公平なアクセスを確保する必要性,健康の社会的決定要因に取り組む必要性など,ほかの人にはできない,私たちにしか答えられないリサーチクエスチョンがあるのである.
 読者の方には本書「How To Do Primary Care Research」を楽しむと同時に,そこで立ち止まらないことを願う.この素晴らしい本をあなたのインスピレーションやガイドとして活用し自分の研究を始めること,あなたが新たな発見をすることを楽しみにしている.

Michael Kidd AM
President, World Organization of Family Doctors (2013-2016)
Chair, Department of Family and Community Medicine, The University of Toronto, Canada
Senior Innovation Fellow, Institute for Health System Solutions and Virtual Care, Women’s College Hospital, Canada
Professorial Fellow, Murdoch Children’s Research Institute, Australia
Honorary Professor of Global Primary Care, Southgate Institute for Health, Society and Equity, Flinders University, Australia


訳者序文

 原著である『How To Do Primary Care Research』を自分が初めて知ったのはプライマリ・ケア関連の研究に特化した学会であるNorth American Primary Care Research Group(NAPCRG)の学術大会に始めて参加した2016年のことでした.その際に世界のプライマリ・ケア研究のリーダーの一人であるFelicity Goodyear-Smith先生に始めてお会いし,「あなたの『International Perspectives on Primary Care Research』がすごい好きなんです」とたどたどしい英語でお伝えしたところ「もっといい本が出たのよ」と教えてくれたのがこの本でした.
 本書籍の一番の売りはプライマリ・ケア研究という言葉の示すもの,その範囲がわかることだと自分は思っています.臨床で「家庭医療」,「プライマリ・ケア」を学び始めた時に,その膨大な領域に「どこまでが家庭医療のカバーする範囲なんだろう」と途方に暮れていた時期がありました.その時に海外の家庭医療の教科書が翻訳されたものをガイドとしてその守備範囲をなんとなく把握して自分のカバーできる範囲を少しずつ広げていきました.研究に関する入門書や各方法論に関して詳細に書かれた本は多く出ていますが,「プライマリ・ケア研究」と言った時にそれが何を指しており,どこまでカバーしているかを一冊の本で表したものはこれまであまりなかったのではないかと思います.この本は自分にとってのプライマリ・ケア研究のガイドですし,読者の皆様にとってもそうなって貰えたらと願っています.もちろん細かい点を全て網羅している訳ではありませんが,その点はさらに学びたい人のためのリンクや書籍が掲載されています.
 この本の輪読会に参加してくれて多くの気づきをくれた横浜市立大学の大学院生の皆さん,同僚である大石 愛先生,自分の師である東京慈恵会医科大学の松島雅人先生,二人三脚で企画段階からこの本を一緒に進めてくれた南山堂の片桐洋平さんに心からお礼を申し上げます.最後にいつも一緒に歩んでくれる家族への感謝を込めて筆をおきたいと思います.

2022年5月
金子 惇
目次
SECTION Ⅰ はじめに
 CHAPTER 01  プライマリ・ケア研究とは何か ?
 CHAPTER 02  存在論,認識論,方法論,方法,研究パラダイム
 CHAPTER 03  トピックとリサーチクエスチョンの選び方
SECTION Ⅱ プライマリ・ケア研究における革新的アプローチ
 CHAPTER 04  プライマリ・ケアにおける学際的研究
 CHAPTER 05  量的手法と質的手法の組み合わせ
 CHAPTER 06  真の協働:共創とアクションリサーチ
 CHAPTER 07  プライマリ・ケアリサーチネットワークの設立と活用
 CHAPTER 08  ビッグデータを使ったプライマリ・ケアリサーチ
 CHAPTER 09  ソーシャルメディアを使ったプライマリ・ケア研究
 CHAPTER 10  プライマリ・ケアにおける質改善研究
 CHAPTER 11  プライマリ・ケアにおけるプログラム評価
SECTION Ⅲ プライマリ・ケア研究を始めるために
 CHAPTER 12  研究提案書をどう書くか
 CHAPTER 13  倫理的に研究を行うために
 CHAPTER 14  文献の検索と批判的吟味
SECTION Ⅳ プライマリ・ケア研究のための方法と技術
 CHAPTER 15  既存の研究を評価する:システマティックレビューを行うためのアプローチ
 CHAPTER 16  プライマリ・ケア研究における統計解析
 CHAPTER 17  質問紙調査の進め方
 CHAPTER 18  妥当性の研究:新しいツールの妥当性検証と古いツールの新しい環境への適用
 CHAPTER 19  診断に関する検査:予測の価値を理解する
 CHAPTER 20  観察研究の進め方
 CHAPTER 21  プライマリ・ケアにおけるランダム化比較試験
 CHAPTER 22  グラウンデッド・セオリー
 CHAPTER 23  プライマリ・ケアにおける解釈学的現象学研究
 CHAPTER 24  プライマリ・ケア研究におけるエスノグラフィー
 CHAPTER 25  ケーススタディ(事例研究)
 CHAPTER 26  プライマリ・ケア外来における相互作用分析
SECTION Ⅴ 研究を発信するために
 CHAPTER 27  査読に通る論文の書き方
 CHAPTER 28  効果的なポスターの作り方:シンプルに,視覚的に,はっきりと
 CHAPTER 29  プライマリ・ケア研究を発信するためにソーシャルメディアをどう使うか
 CHAPTER 30  政策決定者にエビデンスを届け社会的なインパクトをもたらすために
SECTION Ⅵ 研究のキャパシティを広げるために
 CHAPTER 31  研究初学者や経験の浅い研究者をどうスーパーバイズ/メンタリングするか?
 CHAPTER 32  メンタリングが上手くいくための環境づくり
 CHAPTER 33  研究の能力を伸ばすためのアプローチ:個人,ネットワーク,組織文化
 CHAPTER 34  実臨床の中に研究を組み込むために
書評1
”「研究に興味あるけど……」のプライマリ・ケア医のための1冊 ”

志水太郎(獨協医科大学 総合診療医学講座)

 総合診療領域の先生で,研究をやってみたい,でもその方法論についてよく知らないから戸惑ってしまう,そんな声をよく聞きます.プライマリ・ケアに従事する人のデフォルトに研究という仕事は多くの場合,存在しません.そのためどうしても,研究をやる,というと新しい領域に「えいやっ」と進まなければならないハードルが心理的にあるという印象を業界内部者として受けます.プライマリ・ケア研究というと難しそうに感じるかもしれませんが,本書は同領域にかかわる人にとっての福音書となるでしょう.なぜなら,研究デザインといったいわゆる疫学的なことや,統計学的なことまで幅広くカバーした包括的な内容になっているからです.巷にある疫学や統計学の本はそれぞれが分厚かったり,分冊になっていたり,難解な言葉や式にあふれているものが多いのですが,本書はそれを気持ちのよいくらい明快に解説し(たとえばp147:Chapter 16),また本質を突いた言葉で説明してくれているのが入門としてとくによい点だと思いました.「もしあなたの研究に統計家が必要なら,研究デザイン自体を改善すべきである」(p147)などは箴言と思います.さらに,経験値の浅い研究者のスーパーバイズ法(p258:Chapter 31)や,査読をくぐり抜ける精度を上げる論文執筆法(p234:Chapter 27),質問紙調査の進め方(p152:Chapter 17),効果的なポスターの作り方(p243:Chapter 28)なども,研究を進めていくうえで避けて通ることができないトピックをカバーしていて,網羅的に勉強することができます.さらに本書にはプライマリ・ケア研究の発展という視点も含まれていて,個人的にその中核にあるのはPBRN(プラクティスベースド・リサーチネットワーク)の設立(端的にいえばプライマリ・ケア医と学術機関が共同して研究を盛り上げていくネットワーク)のことだと思いますが,現在の日本にもそれが必要で,その意味でも本書を日本に紹介することはとても重要なイニシアチブだと思います(p51:Chapter 7).そのような素晴らしい書籍です.訳者は日本のプライマリ・ケア研究のtop notch のお一人,金子惇先生です.訳がまた,読みやすい! ということで,研究をこれからやっていきたい人,そして経験者にももちろんお勧めの本です.

書評2
" プライマリ・ケア研究に関心があるなら必読の一冊 "

藤沼康樹(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター)

 世界家庭医機構(WONCA)が認証した公式テキストブックである“How To Do Primary CareResearch”の日本語訳がリリースされたことは,日本のプライマリ・ケアそして総合診療(generalistmedicine)の発展にとってきわめて重要な意味をもつ事件である.
 私は総合診療には独自の研究領域があり,それは「質が高く,費用対効果に優れ,地球環境に優しいプライマリ・ケアを地域住民に妥当性をもって公平に提供することに資する研究」であると考えている.これが真正のプライマリ・ケア研究の定義であり,このプライマリ・ケア研究に対応した学的領域を世界的には家庭医療学(family medicine)と呼ぶのである.つまり,ジェネラリスト医師が行う医療は総合診療であり,その学的基盤が家庭医療学であるということだ.
 この真正のプライマリ・ケア研究の定義の一つひとつのタームが研究の領域を示している.たとえば,「医療の質はどのように調べるべきなのか,そもそも質とは何か?」,「費用対効果や環境に優しい医療の開発は?」を問わねばならない.またプライマリ・ケアの医療内容(診断,治療,ケア,患者の経験など)に関する研究,またそれを提供している医療者自身の分析(認知バイアスや生涯教育など),特定の地域に対する医療提供の妥当性(たとえば大都市圏と僻地に必要なニーズは違うなど),公平性(健康格差問題など)を実現するためにはどうしたらよいのかが問われるだろう.総じて,医学生物学的研究以外のすべてを含む広大な対象をもつのがプライマリ・ケア研究の特質なのである.そうなると当然研究の方法論は,生物医学や疫学的な方法にとどまらず,質的研究や混合研究法も必要であるし,人文社会科学的な知見や方法論にも越境的に接続することになる.これはきわめて知的興奮に満ちた研究なのだ.
 本書はそうした多様な研究方法論が紹介されているだけでなく,研究を進めるための組織づくりや継続方法も紹介しているし,発表の仕方,一般の人たちとの研究コミュニケーションの仕方まで言及されていて,きわめて実践的な構成になっている.翻訳もこなれていて読みやすいことも付け加えておこう.本書は,総合診療やプライマリ・ケアの研究に関心のある医療者にはマストアイテムであり,自信をもっておすすめしたい一冊である.
カートに追加しました。
お買い物を続ける カートへ進む