カテゴリー: 分子医学
The Frontiers in Life Sciencesシリーズ
幹細胞研究と再生医療
1版
東京大学医科学研究所 教授 / スタンフォード大学医学部 教授
中内啓光 編集
定価
6,160円(本体 5,600円 +税10%)
- B5判 238頁
- 2013年12月 発行
- ISBN 978-4-525-13441-9
ES/iPS細胞などを用いた安全で実用的な再生医療の実現には,基礎研究で培われてきた幹細胞研究の基盤技術が大いに貢献している.本書では幹細胞の性質の理解・制御から免疫/神経/網膜/軟骨など器官再生に向けた取り組みまでを第一線の研究者により紹介し,がん幹細胞や動物個体内での臓器再生など近年関心を集めているトピックスも取り上げる.
- 序文
- 目次
臨床応用を目指した幹細胞研究は,臨床応用が進んでいた造血幹細胞研究をフラッグシップとして進められ,20世紀後半のクローン羊ドリーの誕生,ヒトES細胞の樹立をきっかけに,この約15年の間に大きく発展してきた.今世紀に入り,核移植することなく体細胞から多能性幹細胞を樹立するという画期的なiPS細胞技術が発見され,その勢いはさらに加速している.iPS細胞の樹立発表から6年という異例の早さで京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことは,iPS細胞技術が研究領域に与えた影響の大きさ,社会的な関心の高さを感じさせる.かつて分子生物学や発生生物学に立脚していた幹細胞研究は,いまや再生医学を新たなフィールドとし,臨床応用・産業利用という次の段階に向かおうとしている.難治性疾患の克服を期待する社会からの強い要請もあり,今後ますます臨床応用に向けた研究が促進されていくであろう.
しかし,安全で効果の高い再生医療の実現には,基礎研究で培われてきた基盤技術が大きな役割を担っていることも忘れてはならない.たとえば,この7年間でiPS細胞の樹立方法は大幅に改善され,わが国で開発されたセンダイウイルスやエピゾーマルベクターの使用により,ゲノムに影響を与えることなくiPS細胞を樹立することが可能になっている.iPS細胞技術は日本で確立された技術であるが,その医療における重要性から欧米でも注目され,技術革新が急速に進んでいる.本書で紹介するRNAを用いたiPS細胞の樹立方法のように国内ではあまり知られていない技術もある.
再生医療の実現を支える基礎研究を中心に,今後の進展が期待される新規性の高い分野から実用化を視野に入れた成長分野まで幅広く紹介したいという考えのもと本書は企画された.これらの研究の最前線で活躍中の執筆陣により,本書を通して現在のわが国の幹細胞研究の状況を把握することが可能となった.貴重な時間を割いて原稿をご執筆いただいた先生方に感謝する次第である.幹細胞研究と再生医学の現状を客観的に把握するとともに,今後解決すべき課題を洗い出し,本書を手にする研究者と広く知見を共有することは有意義なことである.本書がわが国の健全な再生医療研究の発展に資することを願っている.
2013年11月
東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター センター長/教授
スタンフォード大学医学部 幹細胞・再生医学研究所 教授
中内啓光
幹細胞研究と再生医療 (中内啓光)
1 幹細胞の定義
1.ES細胞
2.ES細胞の樹立法
2 核移植技術の応用
1.体細胞核移植によるゲノムの初期化
2.クローン個体の作製
3.ヒトへの応用
3 iPS細胞の発見がもたらしたもの
1.iPS細胞の画期的な発見とその意義
2.iPS細胞,ES細胞,組織幹細胞
4 幹細胞研究を通して
1.ヒトとマウスのES/iPS細胞は異なる
2.ダイレクトリプログラミングによる機能細胞の誘導
3.遺伝子矯正療法
4.造血幹細胞
5.がん幹細胞を標的とした治療
6.ES/iPS細胞を利用した再生医療に向けて
第Ⅰ部 幹細胞の性質と制御
第1章 多能性幹細胞 ─分化する能力を閉じ込めた「玉手箱」─ (二木陽子 丹羽仁史)
1-1 多能性幹細胞とは
1-2 多能性幹細胞における転写因子制御機構
1.転写因子は未分化性を規定する
2.転写因子は相互に制御しあっている
3.転写因子の発現はゆらいでいる
1-3 多能性幹細胞におけるシグナル伝達機構
1.LIFシグナル
2.Wntシグナル
3.未分化性を損なわせるFGF-MAPKシグナル
1-4 多能性幹細胞のクロマチン構造
1.未分化細胞のクロマチンは開いている
2.遺伝子修飾による未分化性維持
3.使い終わった遺伝子はDNAメチル化される
1-5 多能性幹細胞における事実上の若返りシステム
1.Zscan4の発現
2.Zscan4cがES細胞で行っている驚くべき仕事
第2章 化学修飾mRNAを用いたヒト線維芽細胞のリプログラミング (原著:P.K.Mandal
D.J.Rossi / 翻訳:正木英樹)
2-1 必要な試薬,機器
2-2 リプログラミング因子のmodRNAの合成
1.modRNA合成用テンプレートの作製
2.modRNAの合成
3.予想される結果
2-3 modRNAによるRiPS細胞の作製
1.modRNAカクテルの調製
2.ヒト線維芽細胞のリプログラミング
3.期待される結果
[解説コラム] RNA合成の品質管理ガイドライン
[解説コラム] トランスフェクションを成功させるための重要な考察
第3章 ES/iPS細胞の培養法 (阿久津英憲 川崎友之 梅澤明弘)
3-1 培養をシステムとしてとらえる
3-2 ヒト多能性幹細胞
3-3 ヒト多能性幹細胞培養系の構成要素
1.フィーダー細胞について
2.フィーダー細胞併用培養系
3.ヒト多能性幹細胞培養に適した細胞外基質素材
4.培養液
5.継代法
3-4 ヒト多能性幹細胞の使用目的から培養系を選択
第4章 ナイーブ型ES/iPS細胞 ─無垢なる生命のはじまりから再生医学─ (高島康弘)
4-1 ES細胞と細胞培地の歴史
1.マウスES細胞の樹立と細胞培地
2.霊長類ES細胞の樹立と細胞培地
4-2 新規の胚性多能性幹細胞(マウスエピブラスト幹細胞)の樹立
1.マウスエピブラスト幹細胞の樹立と細胞培地
2.異なる多能性─ナイーブ型多能性幹細胞とプライム型多能性幹細胞─
4-3 新規マウスES細胞培養法─2i培地─
1.2i培地とは
2.マウスES細胞維持における2i培地の有用性
3.ES細胞樹立とiPS細胞樹立における2i培地の有用性
4-4 霊長類ナイーブ型多能性幹細胞
1.ナイーブ型ヒト多能性幹細胞に関する現在までの報告
2.他動物種への応用
4-5 無垢なる生命のはじまりから再生医学
1.生命のはじまりへの挑戦
2.再生医学への応用
[解説コラム] 霊長類ES/iPS細胞
[解説コラム] ナイーブ型多能性幹細胞,基底状態とプライム型多能性幹細胞
[解説コラム] 2i培養
第5章 造血幹細胞ニッチ (木村隆治 山崎 聡)
5-1 骨内膜下ニッチ
1.細胞表面タンパク質
2.分泌タンパク質
3.環境因子
4.細胞外マトリックス
5-2 血管周囲ニッチ
5-3 その他のニッチ構成細胞
1.CAR細胞
2.ネスチン陽性間葉系幹細胞
3.非ミエリンシュワン細胞
4.SCF発現細胞
第6章 腸の再生機構 (南木康作 藤井正幸 佐藤俊朗)
6-1 腸管上皮幹細胞とその同定
6-2 真の腸管上皮幹細胞をめぐる最近の研究
6-3 腸管上皮幹細胞の自己複製
1.Wntシグナル
2.Notchシグナル
3.BMPシグナル
4.EGFシグナル
6-4 腸管上皮細胞培養法の開発
6-5 腸管上皮幹細胞ニッチ
6-6 腸管上皮幹細胞の再生医療への応用
第7章 色素幹細胞の維持制御機構 (松村寛行 西村栄美)
7-1 色素幹細胞システム研究からわかること
7-2 色素幹細胞および毛包幹細胞のニッチ
7-3 白毛化する変異マウスの解析から色素幹細胞の維持制御機構の解明へ
7-4 色素幹細胞のニッチ細胞
7-5 XVII型コラーゲンによる色素幹細胞および毛包幹細胞の維持制御
7-6 毛包幹細胞による色素幹細胞の維持制御の仕組み
第8章 精子幹細胞 (小川毅彦)
8-1 精子幹細胞研究の歴史
8-2 精原細胞移植
8-3 GS細胞
8-4 精子幹細胞にニッチはあるか?
8-5 GS細胞からの精子産生
8-6 多能性幹細胞からの精子幹細胞への分化
第Ⅱ部 がんと幹細胞
第9章 白血病幹細胞 (片岡圭亮 黒川峰夫)
9-1 がん幹細胞の概念
9-2 急性骨髄性白血病幹細胞の同定と表面形質の特徴
9-3 急性骨髄性白血病幹細胞の分子生物学的特徴
9-4 急性骨髄性白血病幹細胞の細胞起源
9-5 白血病幹細胞分画のクローン進化
9-6 白血病幹細胞を標的とした新規治療法の開発
第10章 神経系腫瘍におけるがん幹細胞 (柴尾俊輔 サンペトラ オルテア 佐谷秀行)
10-1 グリオーマ幹細胞の定義と特性
10-2 グリオーマ幹細胞とマーカー
10-3 グリオーマ幹細胞の特性とシグナル伝達経路
1.自己複製能
2.浸潤能
3.放射線抵抗性
4.薬剤抵抗性
10-4 グリオーマ幹細胞とニッチ
10-5 グリオーマ幹細胞における治療戦略
10-6 グリオーマ幹細胞研究の実際
1.グリオーマ幹細胞の培養・維持
2.誘導型脳腫瘍幹細胞モデル
10-7 グリオーマ幹細胞研究の課題・展望
第11章 がんとリプログラミング (蝉 克憲 山田泰広)
11-1 リプログラミングとがん
11-2 がん細胞のリプログラミング
11-3 リプログラミング技術のがん研究への応用
1.がん細胞の初期化によるがん細胞の性質解明への取り組み
2.がん細胞の起源細胞の同定
3.細胞初期化技術を用いた発がんモデルの作出
4.がん細胞のエピゲノム
第Ⅲ部 幹細胞研究の展開
第12章 細胞運命の直接転換 ─ダイレクトリプログラミング─ (鈴木淳史)
12-1 細胞運命の人為的制御
12-2 神経系細胞への直接転換
12-3 心筋細胞への直接転換
12-4 肝細胞への直接転換
12-5 同一系統内にある細胞間の直接転換
12-6 部分的初期化を利用した細胞運命転換の誘導
第13章 幹細胞のエピジェネティクス (岩間厚志)
13-1 エピゲノム修飾の制御
13-2 幹細胞におけるDNAメチル化制御
13-3 幹細胞制御におけるヒストン修飾
13-4 幹細胞制御におけるmiRNA
13-5 幹細胞制御におけるlincRNA
第14章 in vitroにおける眼杯構造と層構造をもつ網膜組織の自己組織化 (永樂元次)
14-1 マウス眼領域の発生
14-2 in vitroにおける多能性幹細胞からの神経誘導(SFEBq法)
14-3 in vitroにおける神経組織のパターニング
14-4 ES細胞からの眼領域神経上皮組織への分化
14-5 神経上皮組織自律的な眼杯形成の力学的原理の解明
14-6 ES細胞由来の眼杯から多層の神経網膜組織の三次元形成
14-7 ヒトES細胞からの眼組織の誘導
第15章 動物個体内での臓器再生 (松成ひとみ 長嶋比呂志)
15-1 胚盤胞補完法の利用
15-2 大型動物(ブタ)における胚盤胞補完
1.体細胞核移植技術の利用と臓器(膵臓)欠損ブタの作出
2.胚盤胞補完によって膵臓は作製できるのか?
15-3 ブタをプラットフォームとして用いる異種臓器再生の展望と課題
第16章 血液線維素溶解系を起点とした組織再生機構 (服部浩一 西田知恵美)
16-1 線溶系によるMMP活性制御と細胞外ドメイン分泌制御
16-2 線溶系活性調節による骨髄組織再生機構
16-3 線溶系活性調節による血管新生制御機構
16-4 線溶系活性と間葉系幹細胞動態
第Ⅳ部 再生医療の実用化に向けて
第17章 免疫の再生 (西村聡修)
17-1 免疫の再生はES細胞とではなくiPS細胞との相性が抜群!
17-2 T細胞の再生
1.がんや慢性感染症の患者の体内ではT細胞が疲弊している
2.同じ抗原特異性をもつT細胞を大量に,そして何度も作製できる
3.T細胞の若返りとT細胞免疫の再生
17-3 NKT細胞の再生
17-4 B細胞の再生
17-5 免疫システムの再生と免疫細胞療法
1.現行T細胞免疫療法の打開
2.T細胞免疫の再生
第18章 神経の再生 (村尾直哉 野口浩史 中島欽一)
18-1 パーキンソン病における再生医療の歴史と現状
1.パーキンソン病の病態と再生医療の歴史
2.多能性幹細胞を用いた再生医療
3.ダイレクトリプログラミングを用いたパーキンソン病治療
4.iPS細胞を用いたパーキンソン病の原因解明と再生医療のこれから
18-2 脊髄損傷における再生医療の歴史と現状
1.脊髄損傷の病態と治療アプローチ
2.脊髄損傷治療への神経幹細胞の応用
3.神経幹細胞の分化制御を用いた脊髄損傷治療
4.iPS細胞を用いた脊髄損傷治療
18-3 内在性の神経幹細胞の活性化による神経疾患治療
第19章 幹細胞を用いた網膜の再生 (鎌尾浩行 高橋政代)
19-1 iPS細胞の研究
19-2 iPS細胞由来RPE移植
1.iPSC-RPEの「質」
2.iPSC-RPEの「量」
3.iPSC-RPEの「安定性」
4.iPSC-RPEの「安全性」
19-3 iPS細胞由来視細胞移植
19-4 今後の展望
第20章 心筋の再生 (岸野喜一 福田恵一)
20-1 ES細胞とiPS細胞
20-2 心筋分化誘導
20-3 心筋細胞精製
20-4 動物を用いた移植実験
第21章 肝臓の再生医療に向けた幹細胞研究の進展 (紙谷聡英 近田裕美)
21-1 肝臓の再生
21-2 肝臓における幹細胞システム
1.胎生期の肝発生過程における肝幹/前駆細胞
2.成体肝臓における肝幹/前駆細胞
21-3 多能性幹細胞を用いた肝臓の再生
21-4 組織工学を用いた肝臓の再生
第22章 膵内分泌細胞の再生と医療応用 (渡邊亜美 宮島 篤)
22-1 膵臓の発生
22-2 内分泌細胞の細胞治療法
1.多能性幹細胞からの膵内分泌細胞再生
2.多能性幹細胞からの三次元的な膵島形成
3.多能性幹細胞由来膵臓細胞の問題と今後の展望
22-3 内分泌細胞(膵β細胞)を生体内で再生,新生させる方法
1.生体内における膵島細胞の増殖
2.生体内における膵島細胞の新生
3.膵島細胞の新生と増殖を応用した治療法の問題と今後の展望
第23章 腎臓再生の現状と展望 (西中村隆一)
23-1 腎臓発生のメカニズム
1.腎臓発生の概略
2.後腎間葉にはネフロン前駆細胞が存在する
3.第3のコンポーネントである間質には前駆細胞が存在する
23-2 腎臓再生に向けて
1.多能性幹細胞から中間中胚葉への誘導
2.中間中胚葉からネフロン前駆細胞の誘導
3.腎臓の再構築に向けての問題点
4.ノックアウト動物を利用した腎臓再生
第24章 骨・軟骨再生 (亀井直輔 越智光夫)
24-1 骨・軟骨組織
24-2 軟骨細胞
24-3 骨髄間葉系幹細胞
24-4 骨髄間葉系幹細胞の磁気ターゲティング
24-5 今後の展望
第25章 皮膚の幹細胞と再生医療 (藤原裕展)
25-1 皮膚の構造と機能
1.表皮
2.真皮
3.皮膚付属器
25-2 皮膚の発生
1.表皮の発生
2.真皮の発生
3.皮膚付属器の発生
25-3 皮膚の幹細胞
1.毛包ケラチノサイト幹細胞
2.毛包間表皮ケラチノサイト幹細胞
25-4 皮膚の再生医療
1.表皮幹細胞培養法の確立
2.ヒトへの移植
3.幹細胞を用いた遺伝子治療
4.皮膚再生の課題
5.真皮の再生
6.将来展望
第26章 歯・歯周組織の再生 (片桐 渉)
26-1 歯・歯周組織の構造
26-2 歯胚形成と歯・歯周組織の発生
26-3 歯胚再生への足がかり
26-4 歯の再生研究の実際
26-5 細胞を用いた歯周組織の再生
26-6 歯科領域における幹細胞移植
26-7 細胞を用いない再生医療─幹細胞由来液性因子による歯周組織再生─
日本語索引
外国語索引
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