「はたらく」を支える!
女性のメンタルヘルス
1版
丸山総一郎 編著
定価
4,180円(本体 3,800円 +税10%)
- B5判 404頁
- 2017年11月 発行
- ISBN 978-4-525-18171-0
女性がよりよく働ける世の中にしたい、すべての方へ。
女性活躍推進法が注目される今,産業保健や一般診療の現場に必須の一冊!本書は女性のメンタルヘルスと関連疾患について,産業現場ですぐに役立つ実践的な内容を収載.働く女性のストレス対応法から,女性が罹患しやすい精神神経疾患と心身症まで,幅広くカバーする.各方面における第一線で活躍する執筆陣が最新知見をわかりやすく解説.
- 目次
- 序文
目次
第1章 女性のメンタルヘルス動向とトピック
1 女性のストレスとメンタルヘルス(丸山総一郎)
A.現代社会における女性のストレス問題
B.女性雇用の変容と現状
C.働く女性のストレスとメンタルヘルス指標の状況
D.働く女性のストレスとメンタルヘルス研究の動向
E.働く女性のメンタルヘルスケアのあり方
2 ストレスチェック制度導入のポイント(原谷隆史)
A.ストレスチェック制度の概要
B.ストレスチェック制度導入
C.ストレスチェックの実施とその後の対応
D.面接指導の実施方法
E.集団ごとの集計・分析と職場環境の改善
F.導入のポイント
3 ワーク・ライフ・バランスの現状と課題 ~育児不安,介護ストレス他~(島津美由紀)
A.ワーク・ライフ・バランスの現状
B.ワーク・ライフ・バランスとワーク・ファミリー・コンフリクト
C.働く女性とストレス,メンタルヘルス
D.働く女性のワーク・ライフ・バランスの今後の課題
4 職場におけるいじめ・暴力・ハラスメント対策 (吉川 徹)
A.職場におけるいじめ・暴力・ハラスメント対策の必要性
B.いじめ・暴力・ハラスメントの用語の定義
C.女性に目立ついじめ・暴力・ハラスメントの労災事例
D.いじめ・暴力・ハラスメントの原因,職場や個人に与える影響
E.いじめ・暴力・ハラスメント防止策
F.働く女性を支えるために
5 LGBTの理解と支援(大塚泰正)
A.LGBTとは?
B.LGBTの人々の一般的な心理とメンタルヘルス
C.職場におけるセクシュアルハラスメントとLGBT
事例紹介
D.LGBTの人々に対する産業保健スタッフの対応のヒント
6 少子高齢化社会における女性の死別ストレスとその対応(瀬藤乃理子)
A.少子高齢化と死別
B.高齢期における配偶者との死別
C.高齢者との死別による介護者の悲嘆
D.死別後の適応を促進する支援
7 ポジティブメンタルヘルスの動向 ~ワーク・エンゲイジメントに注目して~(島津明人)
A.なぜポジティブメンタルヘルスか?
B.ワーク・エンゲイジメントとは?
C.ワーク・エンゲイジメントを高めるには
8 ストレス機序における女性ホルモンの影響(六反一仁)
A.女性ホルモンの働きとは?
B.ストレスは女性ホルモンの分泌を乱す
C.HPA軸と女性ホルモン
D.交感神経-副腎髄質系と女性ホルモン
E.愛情ホルモン「オキシトシン」
F.エストロゲンのストレス緩和作用
G.サルの社会心理学的ストレスモデル
H.セロトニントランスポーター遺伝子(SERT)の影響
9 メンタルヘルス関連法制度の理解 (廣 尚典)
A.女性労働と法制度
B.メンタルヘルス指針とストレスチェック制度
C.精神障害の労災認定とハラスメント
D.非正規労働者への対応
E.女性の就業制限に関する方向性
F.母性保護と育児・介護支援
G.女性活躍推進法の周辺
第2章 女性診療の進め方
1 ライフサイクルからみた女性のメンタルヘルス(影山隆之)
A.女性のライフサイクルと心の発達
B.女性のライフサイクルと心の健康問題
2 女性のメンタルヘルス不調の診察(西川 隆)
A.メンタルヘルス診察における基本的観点
B.メンタルヘルス診察の手順
C.精神症候と精神疾患
D.メンタルヘルス診察における面接技法
E.女性に特有なメンタルヘルス不調の要因
F.女性または男性の治療者が女性を診るということ
3 精神神経疾患で行われる検査(質問紙評価)(數井裕光)
A.SDS
B.STAI
C.PF Study
D.認知症者の介護負担関連評価尺度
4 精神神経疾患で行われる検査(脳科学的評価)(小山文彦)
A.主な画像検査法の概要
B.精神神経疾患の脳科学的評価
C.女性のメンタルヘルス・健康配慮の視点から
5 保健・医療スタッフの連携 ~保健師・看護師の視点から~(巽 あさみ)
A.女性労働者診療時における産業保健スタッフとの連携
B.メンタルヘルスに関連する特有の症状と他科との連携
C.女性労働者診療時の職場環境,事業場上司などとの連携
D.医療機関における保健師・看護師の視点からみた連携
第3章 職場対応の実際
1 産業医による初期対応 (横田雅之)
A.初期対応に当たっての体制づくり
B.初期対応の実際
2 主治医と産業医の連携 (渡辺洋一郎)
A.主治医と産業医との連携の現実
B.産業医と精神科主治医との連携の前提
C.産業医と精神科主治医との連携の基本
D.連携の具体的方法
E.女性労働者における主治医と産業医との連携の重要性
3 復職支援(五十嵐良雄,飯島優子,大木洋子)
A.リワークプログラム参加女性の特徴
B.働く女性が休職に至るストレス要因
事例紹介①
事例紹介②
C.復職に向けての疾病の治療,心理教育
D.休職経験のある女性が働くということ
4 治療と仕事の両立支援(小山文彦)
A.治療と仕事の両立支援の重要性
B.主治医と事業場(産業医等)との連携に求められる情報とは
事例紹介①
事例紹介②
C.女性の勤務状況と両立支援・三次予防
D.「治療と仕事の両立支援ガイドライン」の概要
第4章 治療の最前線
1 薬物療法と女性への留意点(中村 純,富永裕崇)
A.働く女性が薬を服用する場合
B.向精神薬の特徴と薬物療法の原則
C.各種向精神薬の母子への影響
D.女性労働者に対する向精神薬の影響
E.女性労働者と薬物療法の実際
2 認知行動療法(仲本晴男)
A.集団認知行動療法確立の経緯と女性プロフィールの特徴
B.うつ病CBTの考え方と実践
事例紹介
C.11年間のデータからみた就労支援
D.職場における認知行動療法の課題
3 対人関係療法(IPT)(水島広子)
A.ストレスと対人関係
B.対人関係療法とは?
C.IPTの主要問題領域
D.IPTの技法,治療者の姿勢
E.女性が働くこととIPT
F.夫婦同席面接(IPT-CM)
G.子育てとIPT
4 自律訓練法(芦原 睦,古賀七菜)
A.働く女性のメンタルヘルスと自律訓練法
B.自律訓練法とは?
C.自律訓練法の実際
D.当科における自律訓練法の実際例
5 マインドフルネス(杉山風輝子,熊野宏昭)
A.マインドフルネスとは?
B.マインドフルネス実践方法
C.マインドフルネスの効果
D.女性のメンタルヘルスへの有用性
6 森田療法(大西 守)
A.森田療法とは?
B.職域におけるメンタルヘルス活動と森田療法
C.森田療法の言葉のヒント
D.働く女性のメンタルヘルスへの有用性
7 緩和ケアの留意点(原島沙季,吉内一浩)
A.がん患者の苦痛と緩和ケア
B.身体症状の緩和ケア
C.精神症状の緩和ケア
第5章 予防の最前線
1 健康診査と健康教育(野原理子)
A.健康診査
B.職場における安全と健康の保持増進のための健康診断
C.生活習慣病の予防と健康増進のための健康診査(特定健康診査)
D.がん検診など
E.健康教育
F.健康管理の具体策
2 乳がん,子宮がんの疫学と予防・早期発見(祖父江友孝,雑賀公美子)
A.罹患数・罹患率
B.死亡数・死亡率
C.臨床進行度割合
D.生存率
E.予 防
F.がん検診
G.女性に推奨するがん予防および早期発見
3 自殺予防(河西千秋)
A.わが国の自殺問題の実状
B.女性の自殺の実状
C.自殺の動機
D.メンタルヘルスからみた自殺
E.勤労者の自殺予防
F.働く女性の自殺予防
第6章 女性と精神神経疾患
1 うつ病(倉田知佳,大野 裕,中川敦夫)
A.うつ病概念の変遷
B.うつ病/大うつ病性障害
C.月経前不快気分障害(PMDD)
D.周産期発症のうつ病(産後うつ病[産褥期うつ病]を含む)
E.更年期うつ病
F.働く女性とうつ病~働く女性に向けて~
2 双極性障害(香月あすか,吉村玲児)
A.双極性障害の症状と性差
B.性差に配慮した治療
事例紹介
C.双極性障害を有する働く女性への留意点
3 統合失調症(篠崎和弘)
A.統合失調症とメンタルヘルス
B.概念と診断基準
C.近縁疾患
D.主要な症状
E.疫 学
F.治 療
G.働く統合失調症の女性のメンタルヘルスケアのあり方
4 ASR(ASD)・PTSD(黒木宣夫)
A.トラウマと精神疾患(心の病気)との関係
B.ASR(ASD)・PTSDの診断基準
事例紹介①
事例紹介②
C.働く女性の業務に起因した病態の特徴と留意点
5 適応障害(井上幸紀)
A.適応障害の概念
B.診 断
事例紹介
C.労働者のストレスとそれに関連する疾患
D.働く女性への留意点
6 社交不安症(清水栄司)
A.概念(歴史的背景)
B.診断(経過・予後)
C.治療(薬物療法と認知行動療法)
事例紹介①
事例紹介②
D.働く女性への留意点
7 パニック症/パニック障害(足立浩祥)
A.パニック障害の概念
B.症状と予後
C.治 療
事例紹介
D.働く女性への留意点
8 強迫症/強迫性障害(OCD)(松永寿人,清野仁美)
A.OCDの診断および鑑別診断
B.OCDの典型的臨床像と経過
C.女性OCD患者の特徴的臨床像
D.働く女性のOCDに関する留意点
9 解離性(転換性)障害(數川 悟)
A.解離性(転換性)障害の概念
B.要 因
C.病 態
D.診 断
E.治 療
F.働く女性への留意点
10 身体症状症および関連症群(身体表現性障害)(小山善子)
A.身体表現性障害とは?
事例紹介
B.身体症状症および関連症群
C.身体症状症の治療
11 不眠症(横瀬宏美,内山 真)
A.女性の不眠症
B.月経に伴う睡眠障害
C.妊娠期の睡眠障害
D.産褥期の睡眠障害
E.更年期に伴う睡眠障害
F.睡眠衛生指導について
12 アルコール依存症・薬物依存症(松原良次)
A.アルコール依存症とは?
B.アルコール以外の薬物依存症
13 パーソナリティ障害(中尾和久)
A.パーソナリティ障害とは?
B.診 断
C.臨 床
D.職場におけるパーソナリティ障害
E.パーソナリティ障害への実際の対応
14 性同一性障害/性別違和(GID/GD)(山本和儀)
A.性差,性同一性障害の概念,GIDとは?
B.GIDの成因,疫学
C.わが国におけるGIDをめぐるできごと
D.GIDの診断と治療
E.GIDの社会的不利と支援の必要性,働く女性への留意点
F.GIDのこれから
15 自閉スペクトラム症(ASD)・ADHD(岩波 明,森井智美)
A.発達障害,ASDをとりまく現状
B.ASDの概念
事例紹介
C.ADHDの概念
事例紹介
D.就労と発達障害
E.働く女性と発達障害
16 アルツハイマー病(池田 学,小山明日香)
A.就労女性におけるアルツハイマー病
B.診 断
C.治療(薬物療法と非薬物療法)
事例紹介
D.アルツハイマー病と上手につきあうために
E.働く女性への留意点
17 血管性認知症(中川賀嗣)
A.血管性認知症の定義
B.大脳症状が出現する機序~血管障害に限定せずにみる~
C.分 類
D.鑑別すべき疾患や症状,認知症症状とそれが出現する機転
E.危険因子,経過,治療,予後
F.社会資源
第7章 女性の心身症
1 月経関連障害(月経困難症,月経前症候群)(後山尚久)
A.性成熟期の就業女性の職場ストレス
B.月経関連疾患と就業の相互関係からみた女性のメンタルヘルス
C.疾患概念
D.診 断
E.治 療
2 更年期障害~骨粗鬆症を含む~(佐貫一成,津久井 要)
A.更年期とは?
B.更年期症状,更年期障害とは?
C.診 断
D.薬物療法
E.更年期障害への心身医学的アプローチ
F.骨粗鬆症
G.産業保健に携わるスタッフへ
3 女性のがん(乳がん,子宮がん)(谷向 仁)
A.疫 学
B.女性のがんサバイバーが体験するさまざまな症状や苦悩
C.就労や復職と関連した心理的問題
D.働く女性への留意点~産業保健の現場で求められる支援~
4 摂食障害 (石川俊男)
A.摂食障害の概念~現状・要因・病態~
B.診断~経過・予後~
C.治 療
事例紹介
D.働く女性への留意点
5 消化器疾患(山根 朗,今泉澄人,福永幹彦)
A.心身症を発症させるストレス社会
B.心身症/消化器心身症とは?
C.機能性消化管障害(FGID)
D.過敏性腸症候群(IBS)
E.機能性ディスペプシア(FD)
F.その他のよく臨床で遭遇する消化器疾患/FGID
G.女性の消化器心身症の一面
H.もう一度,FGIDを俯瞰する
6 循環器疾患(高血圧,虚血性心疾患,脳血管疾患)(中尾睦宏)
A.循環器疾患の概念
B.診 断
事例紹介
C.治 療
D.働く女性への留意点
7 頭痛(片頭痛,緊張型頭痛)(小山敦子)
A.頭痛の分類と診断への基本的アプローチ
B.片頭痛
C.緊張型頭痛
事例紹介
D.働く女性への留意点
8 腰 痛(川又華代,松平 浩)
A.女性の身体的特徴と腰痛
B.腰痛の種類と原因
C.原因に応じた対応策
D.腰痛を訴える働く女性へ対応する際のポイント
9 線維筋痛症(三木健司,史 賢林,行岡正雄)
A.線維筋痛症とは?
B.疫 学
C.身体症状症(機能性疼痛・中枢機能障害性疼痛)という考え方
D.機能性不随意運動
E.薬物療法
F.運動療法
G.線維筋痛症における傷病手当,身体障害者等級,障害年金の診断書の発行についての基本的な考え方
10 甲状腺疾患(江副智子)
A.甲状腺疾患とは?
B.甲状腺ホルモンの働きと分泌のコントロール
C.甲状腺疾患の分類
D.バセドウ病と橋本病の原因・診断・治療
E.甲状腺疾患と妊娠・出産
F.甲状腺疾患とストレス,メンタルヘルス
11 糖尿病(野崎剛弘,小牧 元)
A.糖尿病の概念
B.診 断
C.経過・予後
D.治 療
事例紹介
E.働く女性への留意点
12 肥満症・脂質異常症(久保千春,野崎剛弘)
A.肥満症とは?
B.脂質異常症とは?
事例紹介
C.働く女性への留意点
13 気管支喘息(永田頌史)
A.疾患概念と疫学
B.診 断
C.成人喘息の予防と患者教育
D.治 療
E.働く女性への留意点
14 皮膚疾患(羽白 誠)
A.女性と皮膚疾患
B.心身症としての皮膚疾患
15 歯科疾患(戸田雅裕)
A.歯科保健の現状
B.う蝕と歯周病
C.口腔乾燥症
D.顎関節症
E.睡眠時ブラキシズム
F.歯科心身症
G.働く女性への留意点
索 引
1 女性のストレスとメンタルヘルス(丸山総一郎)
A.現代社会における女性のストレス問題
B.女性雇用の変容と現状
C.働く女性のストレスとメンタルヘルス指標の状況
D.働く女性のストレスとメンタルヘルス研究の動向
E.働く女性のメンタルヘルスケアのあり方
2 ストレスチェック制度導入のポイント(原谷隆史)
A.ストレスチェック制度の概要
B.ストレスチェック制度導入
C.ストレスチェックの実施とその後の対応
D.面接指導の実施方法
E.集団ごとの集計・分析と職場環境の改善
F.導入のポイント
3 ワーク・ライフ・バランスの現状と課題 ~育児不安,介護ストレス他~(島津美由紀)
A.ワーク・ライフ・バランスの現状
B.ワーク・ライフ・バランスとワーク・ファミリー・コンフリクト
C.働く女性とストレス,メンタルヘルス
D.働く女性のワーク・ライフ・バランスの今後の課題
4 職場におけるいじめ・暴力・ハラスメント対策 (吉川 徹)
A.職場におけるいじめ・暴力・ハラスメント対策の必要性
B.いじめ・暴力・ハラスメントの用語の定義
C.女性に目立ついじめ・暴力・ハラスメントの労災事例
D.いじめ・暴力・ハラスメントの原因,職場や個人に与える影響
E.いじめ・暴力・ハラスメント防止策
F.働く女性を支えるために
5 LGBTの理解と支援(大塚泰正)
A.LGBTとは?
B.LGBTの人々の一般的な心理とメンタルヘルス
C.職場におけるセクシュアルハラスメントとLGBT
事例紹介
D.LGBTの人々に対する産業保健スタッフの対応のヒント
6 少子高齢化社会における女性の死別ストレスとその対応(瀬藤乃理子)
A.少子高齢化と死別
B.高齢期における配偶者との死別
C.高齢者との死別による介護者の悲嘆
D.死別後の適応を促進する支援
7 ポジティブメンタルヘルスの動向 ~ワーク・エンゲイジメントに注目して~(島津明人)
A.なぜポジティブメンタルヘルスか?
B.ワーク・エンゲイジメントとは?
C.ワーク・エンゲイジメントを高めるには
8 ストレス機序における女性ホルモンの影響(六反一仁)
A.女性ホルモンの働きとは?
B.ストレスは女性ホルモンの分泌を乱す
C.HPA軸と女性ホルモン
D.交感神経-副腎髄質系と女性ホルモン
E.愛情ホルモン「オキシトシン」
F.エストロゲンのストレス緩和作用
G.サルの社会心理学的ストレスモデル
H.セロトニントランスポーター遺伝子(SERT)の影響
9 メンタルヘルス関連法制度の理解 (廣 尚典)
A.女性労働と法制度
B.メンタルヘルス指針とストレスチェック制度
C.精神障害の労災認定とハラスメント
D.非正規労働者への対応
E.女性の就業制限に関する方向性
F.母性保護と育児・介護支援
G.女性活躍推進法の周辺
第2章 女性診療の進め方
1 ライフサイクルからみた女性のメンタルヘルス(影山隆之)
A.女性のライフサイクルと心の発達
B.女性のライフサイクルと心の健康問題
2 女性のメンタルヘルス不調の診察(西川 隆)
A.メンタルヘルス診察における基本的観点
B.メンタルヘルス診察の手順
C.精神症候と精神疾患
D.メンタルヘルス診察における面接技法
E.女性に特有なメンタルヘルス不調の要因
F.女性または男性の治療者が女性を診るということ
3 精神神経疾患で行われる検査(質問紙評価)(數井裕光)
A.SDS
B.STAI
C.PF Study
D.認知症者の介護負担関連評価尺度
4 精神神経疾患で行われる検査(脳科学的評価)(小山文彦)
A.主な画像検査法の概要
B.精神神経疾患の脳科学的評価
C.女性のメンタルヘルス・健康配慮の視点から
5 保健・医療スタッフの連携 ~保健師・看護師の視点から~(巽 あさみ)
A.女性労働者診療時における産業保健スタッフとの連携
B.メンタルヘルスに関連する特有の症状と他科との連携
C.女性労働者診療時の職場環境,事業場上司などとの連携
D.医療機関における保健師・看護師の視点からみた連携
第3章 職場対応の実際
1 産業医による初期対応 (横田雅之)
A.初期対応に当たっての体制づくり
B.初期対応の実際
2 主治医と産業医の連携 (渡辺洋一郎)
A.主治医と産業医との連携の現実
B.産業医と精神科主治医との連携の前提
C.産業医と精神科主治医との連携の基本
D.連携の具体的方法
E.女性労働者における主治医と産業医との連携の重要性
3 復職支援(五十嵐良雄,飯島優子,大木洋子)
A.リワークプログラム参加女性の特徴
B.働く女性が休職に至るストレス要因
事例紹介①
事例紹介②
C.復職に向けての疾病の治療,心理教育
D.休職経験のある女性が働くということ
4 治療と仕事の両立支援(小山文彦)
A.治療と仕事の両立支援の重要性
B.主治医と事業場(産業医等)との連携に求められる情報とは
事例紹介①
事例紹介②
C.女性の勤務状況と両立支援・三次予防
D.「治療と仕事の両立支援ガイドライン」の概要
第4章 治療の最前線
1 薬物療法と女性への留意点(中村 純,富永裕崇)
A.働く女性が薬を服用する場合
B.向精神薬の特徴と薬物療法の原則
C.各種向精神薬の母子への影響
D.女性労働者に対する向精神薬の影響
E.女性労働者と薬物療法の実際
2 認知行動療法(仲本晴男)
A.集団認知行動療法確立の経緯と女性プロフィールの特徴
B.うつ病CBTの考え方と実践
事例紹介
C.11年間のデータからみた就労支援
D.職場における認知行動療法の課題
3 対人関係療法(IPT)(水島広子)
A.ストレスと対人関係
B.対人関係療法とは?
C.IPTの主要問題領域
D.IPTの技法,治療者の姿勢
E.女性が働くこととIPT
F.夫婦同席面接(IPT-CM)
G.子育てとIPT
4 自律訓練法(芦原 睦,古賀七菜)
A.働く女性のメンタルヘルスと自律訓練法
B.自律訓練法とは?
C.自律訓練法の実際
D.当科における自律訓練法の実際例
5 マインドフルネス(杉山風輝子,熊野宏昭)
A.マインドフルネスとは?
B.マインドフルネス実践方法
C.マインドフルネスの効果
D.女性のメンタルヘルスへの有用性
6 森田療法(大西 守)
A.森田療法とは?
B.職域におけるメンタルヘルス活動と森田療法
C.森田療法の言葉のヒント
D.働く女性のメンタルヘルスへの有用性
7 緩和ケアの留意点(原島沙季,吉内一浩)
A.がん患者の苦痛と緩和ケア
B.身体症状の緩和ケア
C.精神症状の緩和ケア
第5章 予防の最前線
1 健康診査と健康教育(野原理子)
A.健康診査
B.職場における安全と健康の保持増進のための健康診断
C.生活習慣病の予防と健康増進のための健康診査(特定健康診査)
D.がん検診など
E.健康教育
F.健康管理の具体策
2 乳がん,子宮がんの疫学と予防・早期発見(祖父江友孝,雑賀公美子)
A.罹患数・罹患率
B.死亡数・死亡率
C.臨床進行度割合
D.生存率
E.予 防
F.がん検診
G.女性に推奨するがん予防および早期発見
3 自殺予防(河西千秋)
A.わが国の自殺問題の実状
B.女性の自殺の実状
C.自殺の動機
D.メンタルヘルスからみた自殺
E.勤労者の自殺予防
F.働く女性の自殺予防
第6章 女性と精神神経疾患
1 うつ病(倉田知佳,大野 裕,中川敦夫)
A.うつ病概念の変遷
B.うつ病/大うつ病性障害
C.月経前不快気分障害(PMDD)
D.周産期発症のうつ病(産後うつ病[産褥期うつ病]を含む)
E.更年期うつ病
F.働く女性とうつ病~働く女性に向けて~
2 双極性障害(香月あすか,吉村玲児)
A.双極性障害の症状と性差
B.性差に配慮した治療
事例紹介
C.双極性障害を有する働く女性への留意点
3 統合失調症(篠崎和弘)
A.統合失調症とメンタルヘルス
B.概念と診断基準
C.近縁疾患
D.主要な症状
E.疫 学
F.治 療
G.働く統合失調症の女性のメンタルヘルスケアのあり方
4 ASR(ASD)・PTSD(黒木宣夫)
A.トラウマと精神疾患(心の病気)との関係
B.ASR(ASD)・PTSDの診断基準
事例紹介①
事例紹介②
C.働く女性の業務に起因した病態の特徴と留意点
5 適応障害(井上幸紀)
A.適応障害の概念
B.診 断
事例紹介
C.労働者のストレスとそれに関連する疾患
D.働く女性への留意点
6 社交不安症(清水栄司)
A.概念(歴史的背景)
B.診断(経過・予後)
C.治療(薬物療法と認知行動療法)
事例紹介①
事例紹介②
D.働く女性への留意点
7 パニック症/パニック障害(足立浩祥)
A.パニック障害の概念
B.症状と予後
C.治 療
事例紹介
D.働く女性への留意点
8 強迫症/強迫性障害(OCD)(松永寿人,清野仁美)
A.OCDの診断および鑑別診断
B.OCDの典型的臨床像と経過
C.女性OCD患者の特徴的臨床像
D.働く女性のOCDに関する留意点
9 解離性(転換性)障害(數川 悟)
A.解離性(転換性)障害の概念
B.要 因
C.病 態
D.診 断
E.治 療
F.働く女性への留意点
10 身体症状症および関連症群(身体表現性障害)(小山善子)
A.身体表現性障害とは?
事例紹介
B.身体症状症および関連症群
C.身体症状症の治療
11 不眠症(横瀬宏美,内山 真)
A.女性の不眠症
B.月経に伴う睡眠障害
C.妊娠期の睡眠障害
D.産褥期の睡眠障害
E.更年期に伴う睡眠障害
F.睡眠衛生指導について
12 アルコール依存症・薬物依存症(松原良次)
A.アルコール依存症とは?
B.アルコール以外の薬物依存症
13 パーソナリティ障害(中尾和久)
A.パーソナリティ障害とは?
B.診 断
C.臨 床
D.職場におけるパーソナリティ障害
E.パーソナリティ障害への実際の対応
14 性同一性障害/性別違和(GID/GD)(山本和儀)
A.性差,性同一性障害の概念,GIDとは?
B.GIDの成因,疫学
C.わが国におけるGIDをめぐるできごと
D.GIDの診断と治療
E.GIDの社会的不利と支援の必要性,働く女性への留意点
F.GIDのこれから
15 自閉スペクトラム症(ASD)・ADHD(岩波 明,森井智美)
A.発達障害,ASDをとりまく現状
B.ASDの概念
事例紹介
C.ADHDの概念
事例紹介
D.就労と発達障害
E.働く女性と発達障害
16 アルツハイマー病(池田 学,小山明日香)
A.就労女性におけるアルツハイマー病
B.診 断
C.治療(薬物療法と非薬物療法)
事例紹介
D.アルツハイマー病と上手につきあうために
E.働く女性への留意点
17 血管性認知症(中川賀嗣)
A.血管性認知症の定義
B.大脳症状が出現する機序~血管障害に限定せずにみる~
C.分 類
D.鑑別すべき疾患や症状,認知症症状とそれが出現する機転
E.危険因子,経過,治療,予後
F.社会資源
第7章 女性の心身症
1 月経関連障害(月経困難症,月経前症候群)(後山尚久)
A.性成熟期の就業女性の職場ストレス
B.月経関連疾患と就業の相互関係からみた女性のメンタルヘルス
C.疾患概念
D.診 断
E.治 療
2 更年期障害~骨粗鬆症を含む~(佐貫一成,津久井 要)
A.更年期とは?
B.更年期症状,更年期障害とは?
C.診 断
D.薬物療法
E.更年期障害への心身医学的アプローチ
F.骨粗鬆症
G.産業保健に携わるスタッフへ
3 女性のがん(乳がん,子宮がん)(谷向 仁)
A.疫 学
B.女性のがんサバイバーが体験するさまざまな症状や苦悩
C.就労や復職と関連した心理的問題
D.働く女性への留意点~産業保健の現場で求められる支援~
4 摂食障害 (石川俊男)
A.摂食障害の概念~現状・要因・病態~
B.診断~経過・予後~
C.治 療
事例紹介
D.働く女性への留意点
5 消化器疾患(山根 朗,今泉澄人,福永幹彦)
A.心身症を発症させるストレス社会
B.心身症/消化器心身症とは?
C.機能性消化管障害(FGID)
D.過敏性腸症候群(IBS)
E.機能性ディスペプシア(FD)
F.その他のよく臨床で遭遇する消化器疾患/FGID
G.女性の消化器心身症の一面
H.もう一度,FGIDを俯瞰する
6 循環器疾患(高血圧,虚血性心疾患,脳血管疾患)(中尾睦宏)
A.循環器疾患の概念
B.診 断
事例紹介
C.治 療
D.働く女性への留意点
7 頭痛(片頭痛,緊張型頭痛)(小山敦子)
A.頭痛の分類と診断への基本的アプローチ
B.片頭痛
C.緊張型頭痛
事例紹介
D.働く女性への留意点
8 腰 痛(川又華代,松平 浩)
A.女性の身体的特徴と腰痛
B.腰痛の種類と原因
C.原因に応じた対応策
D.腰痛を訴える働く女性へ対応する際のポイント
9 線維筋痛症(三木健司,史 賢林,行岡正雄)
A.線維筋痛症とは?
B.疫 学
C.身体症状症(機能性疼痛・中枢機能障害性疼痛)という考え方
D.機能性不随意運動
E.薬物療法
F.運動療法
G.線維筋痛症における傷病手当,身体障害者等級,障害年金の診断書の発行についての基本的な考え方
10 甲状腺疾患(江副智子)
A.甲状腺疾患とは?
B.甲状腺ホルモンの働きと分泌のコントロール
C.甲状腺疾患の分類
D.バセドウ病と橋本病の原因・診断・治療
E.甲状腺疾患と妊娠・出産
F.甲状腺疾患とストレス,メンタルヘルス
11 糖尿病(野崎剛弘,小牧 元)
A.糖尿病の概念
B.診 断
C.経過・予後
D.治 療
事例紹介
E.働く女性への留意点
12 肥満症・脂質異常症(久保千春,野崎剛弘)
A.肥満症とは?
B.脂質異常症とは?
事例紹介
C.働く女性への留意点
13 気管支喘息(永田頌史)
A.疾患概念と疫学
B.診 断
C.成人喘息の予防と患者教育
D.治 療
E.働く女性への留意点
14 皮膚疾患(羽白 誠)
A.女性と皮膚疾患
B.心身症としての皮膚疾患
15 歯科疾患(戸田雅裕)
A.歯科保健の現状
B.う蝕と歯周病
C.口腔乾燥症
D.顎関節症
E.睡眠時ブラキシズム
F.歯科心身症
G.働く女性への留意点
索 引
序文
人口減少・少子高齢化が急激に進もうとしている現在,明るい未来への確かな道筋をつけるために何が可能だろうか.さまざまな戦略的縮小社会の構築が提唱され,いずれも,女性労働の進展と女性の活躍推進によって活力を保ち続けることをひとつの目標に挙げている.しかし,日本では欧米と異なり,女性労働者のhealthy worker effectがみられず,働くことが出生数の増加や出生率の向上につながっていない.
それゆえ,最近の女性労働者のメンタルヘルス関連の具体的な法政策動向として,「女性の活躍推進」,「働き方改革」,「ストレスチェック制度の導入」が注目される.女性労働者の活躍を,成長戦略のひとつと位置づけ,積極的に推進(ポジティブ・アクション)するため,2016年4月1日,「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下,女性活躍推進法)が施行された.働き方改革の実現に向けては,時間外労働の上限規制等に関する政労使提案が,2017年3月17日に公表され,合わせてパワーハラスメント防止対策,メンタルヘルス対策の目標設定の見直しが掲げられた.一方,ストレスチェック制度は,労働安全衛生法の改正により2015年12月1日に施行,2017年7月26日にはストレスチェック制度の実施状況が施行後はじめて公表された.それによると2017年6月末時点で実施義務事業場の82.9%が実施済み,努力義務の集団分析もストレスチェックを実施した事業場の78.3%が初年度から行っていたことがわかった.
このように,日本は,人口減少・少子高齢化に手をこまねくことなく,国を挙げて一億総活躍社会の実現に向かっている.少子高齢化による労働力の供給減という構造的な問題の解決には,生産性の向上や高齢者の活用に加え,さらなる女性の職場進出が欠かせない.そのため,まずは,雇用と待遇の改善,労働条件の是正,結婚・妊娠・出産・育児支援,介護サービスの充実化が急務の課題である.その上で,性別にかかわらず活躍できるよう女性のキャリア形成をめざしたライフデザインとキャリアデザインの調和が目標となる.そのため女性活躍推進法の具体的策定指針に示されているように,対象となる女性労働者の能力と意欲に相応した透明性の高い評価・登用や職場風土の改善が求められている.今なお日本で女性の活躍推進が遅れているのは,長時間労働や単身赴任を厭わない制度や慣行,固定的性別役割分担意識が根強いことにあった.ストレスチェック制度導入を機に,男女別の実情把握を行い,特に女性固有のストレス対策とwell-beingの向上,母性保護や職場環境の改善につながる分析は不可欠である.
そのほかに,女性労働者のストレス実態を示す指標として,2016年度の精神障害の労災認定における女性の内数の公表は参考になる.女性は「セクハラやパワハラを受けた」,「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」,「悲惨な事故や災害の体験,目撃をした」など特定の業務による出来事で精神障害を発病する割合が高かった.こうした生データの公表も,女性向けメンタルヘルス対策の一次予防戦略のヒントとなることから活用性が高まっている.
いずれにせよ,わが国において,男女平等と多様性(ダイバーシティ)を尊重する社会のあり方は次第に浸透し,女性労働者に対するストレス対策・メンタルヘルスケアの充実化が積極的に進められている.その一方で,女性の活躍を期待した法政策の新しい展開は,現実との狭間で新たなストレスや葛藤を生むことも予想される.もとより,女性は生物学的に女性ホルモンの影響を受けやすいので,男性よりもストレス脆弱性があり,その変化に応じて,精神神経疾患や心身症などの種々のメンタルヘルス不調を訴えやすい.そうした性差にもっときめ細かく着目していく必要がある.
そこで,本書は,女性労働者のメンタルヘルスとその関連疾患の対応について,産業医・看護師・保健師などの産業保健スタッフはいうまでもなく衛生管理者や人事労務担当者にとって,産業現場ですぐに役立つ実践的な内容をこの1冊にすべて盛り込むことを目標とした.そうした趣旨を踏まえ,各テーマの研究と臨床で著名な先生方一人一人が力を込めて,日常行っている診療のコツとスキル,サイエンスとアートの絶妙な統合をわかりやすく解説したのが本書である.
本書がこの方面の臨床実践に関心のある多くの人に読まれ,働く女性のストレス対策とメンタルヘルス不調への対応の原点となることを強く期待している.
最後に,本書の刊行にあたり,その企画に賛同しご執筆いただいた多くの先生方に深謝するとともに,編集作業にご尽力いただいた南山堂編集部の本山麻美子氏と制作スタッフの方々に心から御礼申し上げたい.
2017年9月
神戸親和女子大学大学院 教授・精神科医
丸山総一郎
それゆえ,最近の女性労働者のメンタルヘルス関連の具体的な法政策動向として,「女性の活躍推進」,「働き方改革」,「ストレスチェック制度の導入」が注目される.女性労働者の活躍を,成長戦略のひとつと位置づけ,積極的に推進(ポジティブ・アクション)するため,2016年4月1日,「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下,女性活躍推進法)が施行された.働き方改革の実現に向けては,時間外労働の上限規制等に関する政労使提案が,2017年3月17日に公表され,合わせてパワーハラスメント防止対策,メンタルヘルス対策の目標設定の見直しが掲げられた.一方,ストレスチェック制度は,労働安全衛生法の改正により2015年12月1日に施行,2017年7月26日にはストレスチェック制度の実施状況が施行後はじめて公表された.それによると2017年6月末時点で実施義務事業場の82.9%が実施済み,努力義務の集団分析もストレスチェックを実施した事業場の78.3%が初年度から行っていたことがわかった.
このように,日本は,人口減少・少子高齢化に手をこまねくことなく,国を挙げて一億総活躍社会の実現に向かっている.少子高齢化による労働力の供給減という構造的な問題の解決には,生産性の向上や高齢者の活用に加え,さらなる女性の職場進出が欠かせない.そのため,まずは,雇用と待遇の改善,労働条件の是正,結婚・妊娠・出産・育児支援,介護サービスの充実化が急務の課題である.その上で,性別にかかわらず活躍できるよう女性のキャリア形成をめざしたライフデザインとキャリアデザインの調和が目標となる.そのため女性活躍推進法の具体的策定指針に示されているように,対象となる女性労働者の能力と意欲に相応した透明性の高い評価・登用や職場風土の改善が求められている.今なお日本で女性の活躍推進が遅れているのは,長時間労働や単身赴任を厭わない制度や慣行,固定的性別役割分担意識が根強いことにあった.ストレスチェック制度導入を機に,男女別の実情把握を行い,特に女性固有のストレス対策とwell-beingの向上,母性保護や職場環境の改善につながる分析は不可欠である.
そのほかに,女性労働者のストレス実態を示す指標として,2016年度の精神障害の労災認定における女性の内数の公表は参考になる.女性は「セクハラやパワハラを受けた」,「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」,「悲惨な事故や災害の体験,目撃をした」など特定の業務による出来事で精神障害を発病する割合が高かった.こうした生データの公表も,女性向けメンタルヘルス対策の一次予防戦略のヒントとなることから活用性が高まっている.
いずれにせよ,わが国において,男女平等と多様性(ダイバーシティ)を尊重する社会のあり方は次第に浸透し,女性労働者に対するストレス対策・メンタルヘルスケアの充実化が積極的に進められている.その一方で,女性の活躍を期待した法政策の新しい展開は,現実との狭間で新たなストレスや葛藤を生むことも予想される.もとより,女性は生物学的に女性ホルモンの影響を受けやすいので,男性よりもストレス脆弱性があり,その変化に応じて,精神神経疾患や心身症などの種々のメンタルヘルス不調を訴えやすい.そうした性差にもっときめ細かく着目していく必要がある.
そこで,本書は,女性労働者のメンタルヘルスとその関連疾患の対応について,産業医・看護師・保健師などの産業保健スタッフはいうまでもなく衛生管理者や人事労務担当者にとって,産業現場ですぐに役立つ実践的な内容をこの1冊にすべて盛り込むことを目標とした.そうした趣旨を踏まえ,各テーマの研究と臨床で著名な先生方一人一人が力を込めて,日常行っている診療のコツとスキル,サイエンスとアートの絶妙な統合をわかりやすく解説したのが本書である.
本書がこの方面の臨床実践に関心のある多くの人に読まれ,働く女性のストレス対策とメンタルヘルス不調への対応の原点となることを強く期待している.
最後に,本書の刊行にあたり,その企画に賛同しご執筆いただいた多くの先生方に深謝するとともに,編集作業にご尽力いただいた南山堂編集部の本山麻美子氏と制作スタッフの方々に心から御礼申し上げたい.
2017年9月
神戸親和女子大学大学院 教授・精神科医
丸山総一郎