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カテゴリー: 医学教育学  |  衛生・公衆衛生学

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世界に飛びたて!命を救おう! グローバルヘルスを志す人 リーダーを目指す人のために

1版

グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund) CEO 國井 修 著

定価

3,300(本体 3,000円 +税10%)


  • A5判  199頁
  • 2023年4月 発行
  • ISBN 978-4-525-18471-1

グローバルヘルスの最新の潮流からキャリアの築き方まで,実体験を踏まえて解説します

新型コロナパンデミック,戦争,地球温暖化,大規模災害など,世界が抱える保健医療上の課題は尽きません.本書はNGO,JICA,外務省,大学,UNICEF,グローバルファンドなどを通じて,世界130カ国以上を廻り,4大陸で生活しながらグローバルヘルスに従事してきた著者が,この分野で最初の一歩を踏み出す方法から,世界で活躍するリーダーになるための方法までを解説します.医療専門家はもとより,医療以外の分野でどのような活躍の場があるのか,どんなコンピテンシーが必要なのか,それをどのように獲得すればよいのか,どのようなコンパスを持ってライフデザインを作り航路を進めばよいのかなど,多くの方々からいただいた質問や相談を踏まえて多くの情報やアドバイスが含まれています.世界では活躍しているのに,日本では知られていない国際機関やNGO,シンクタンクなどの紹介もあります.著者本人やこの分野で活躍する友人・知人たちの実体験や知識に基づくリアルで役立つ情報満載の一冊です.

  • 序文
  • 目次
  • 書評
序文
 まずは,この本を手にとってくださって,ありがとうございます.
 皆さんは,どのような方で,どのような思いでこの本を開いてくださっているのでしょうか.
 医師や看護師,保健師,栄養士,理学療法士など,保健・医療・福祉にかかわる方で,グローバルヘルスに関心をもっていらっしゃるのでしょうか? 保健・医療・福祉の専門ではないけれども,グローバルヘルスに関心があり,働きたいと考えているのでしょうか? すでにグローバルヘルス分野で働き,今後のキャリアパスをどうしようかと考えているのでしょうか?
 本書は,グローバルヘルスを知らない方からすでに従事している方まで,幅広い読者を想定して「グローバルヘルスとは何か」という基本的なことから,その分野で「キャリアパスを作る,ライフデザインを描くにはどうすべきか」という具体的な話まで盛り込みました.
 「グローバル」は国際,世界,地球,「ヘルス」は健康,保健,命と訳されるので,グローバルヘルスを「世界の人々の健康や命を守り,救う」仕事と思われる方が多いかもしれません.
 2019 年12 月,アフガニスタンで中村哲医師が殺害され,彼の偉大な働きが広く伝えられました.「世界で苦しむ人々の命を救う」ことは「グローバルヘルス」の重要な目的の1 つです.彼のように自分を犠牲にしてでも,また,シュバイツアーやマザー・テレサのように,自分の一生をかけて恵まれない人のために尽くす.「グローバルヘルス」に貢献してきた人の中にはそんな偉人がいますし,それを目指して「グローバルヘルス」を志す人もいます.
 実は私も,高校時代にシュバイツアーに憧れ,「医者になって開発途上国,特にアフリカで子どもたちの命を救いたい」という単純な動機で医科大学に入りました.しかし,「どうやったらアフリカで働けるのか」「そのために何を学べばいいのか」がわからず,学生時代からその「答え探し」をしていました.
 アジア,アフリカ,中米を含め,世界中を旅し,1 年間大学を休学してインドで伝統医学やヨガを学び,ソマリアの難民キャンプでボランティアをしました.また,同じような志をもつアジアの医学生と「アジア医学生連絡協議会(AMSA)」を組織し,そのヒューマンネットワークを基に同志数人で「AMDA(アムダ)」という国際緊急医療NGO を立ち上げました.
 大学卒業後は,へき地や病院で患者を診ながら,AMDA を通じてアジア・アフリカの人道支援にかかわりました.そこで臨床医学の限界を感じて米国留学.病気の治療よりも予防,個人よりも多くの人々の健康を考える学問,パブリックヘルスを学びました.
 その後,国立国際医療センター(現在は,国立国際医療研究センターに改称)に就職し,本格的にパブリックヘルス,そしてグローバルヘルスに従事します.「どうしたらより多くの命を救えるのか」「そのために何をすればよいのか」といった疑問が募り,その答えを探すために大学(東京大学・長崎大学)で研究や教育をし,その答えを試すために日本政府(外務省)で政策や戦略にかかわり,そして国連(ユニセフ)に入りました.ユニセフのニューヨーク本部で自らかかわった政策や戦略を再び現場で実践するため,ミャンマーとソマリアに異動し,計6 年間,保健医療・栄養・水・衛生事業を指揮しました.
 しかし,一国連機関でやれることには限界があり,より多くの命を救うにはさまざまな組織との効果的な連携・協力が重要と感じ,「21 世紀型パートナーシップ」とよばれる世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称,グローバルファンド)に移りました.そこで9 年間働いた後,2022 年3 月には日本に帰国し,公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)とよばれる組織で執筆時点では働いています.
 このように,私は大学を卒業してから,アジア・南米・北米・アフリカ・欧州と世界4 大陸でそれぞれ1 年以上,長いところで9 年間生活し,へき地診療所,病院,大学,外務省,国連機関を含め15 回以上の就職・異動・転職,20 回以上の引っ越しをしながら,低中所得国130ヵ国以上を支援してきました.活動の場はNGO からバイ(二国間協力,政府援助機関)へ,そしてマルチ(多国間協力,国際機関)に変わり,所属も村(診療所)から国(厚生労働省,外務省,文部科学省),3 つの大学で助手から教授まで経験し,国連機関そして,官民連携の国際機関に移行しました.
 このような私のキャリアを友人は「ローラーコースター」とよびます.最近は言われなくなりましたが,若い頃はよく上司や先輩から「糸の切れた凧」「根なし草」と言われ,「出る杭は打たれる」とのアドバイスを受け,実際に多くのパワハラも受けました.しかし,今,振り返ってみると,「糸の切れた凧」は自由に空を飛べますし,「根なし草」はどこでも育ち,「出過ぎた杭」は「打たれない」か「抜かれる」ことがわかりました.抜かれることで,別の世界に足を踏み入れ,自分の好きな道や見知らぬ世界を歩むこともできました.
 グローバルに見ると,このような私の生き方は決して珍しくも奇異でもありません.世界にはさまざまな人が多様な生き方をしていて,NGO,大学,国際機関,民間企業などを転々としたり,行き来したりしています.むしろ,同じ職場で一生働く方が珍しいでしょう.さらに,グローバルヘルスの世界はとても広大で,課題やニーズが多く,アプローチや解決方法も多様です.医療以外にも,政治・経済・金融・教育・環境・コミュニケーション・物流などさまざまなアプローチを必要とし,社会学,人類学,国際法,知的所有権,情報管理,ロジスティクスなど,多様な知識・経験が求められることもあります.
 ですからこの本では,いわゆるヘルス(保健・医療・看護・薬事など)だけでなく,さまざまな専門がグローバルヘルスでは求められていることを示し,どんなアプローチがあるのか,どのような人材が求められているのか,などについて説明します.この分野で働きたいと思っている人には,具体的にどんな活躍の場があり,そこで働くにはどのような資格,経験が必要なのか,などについて解説します.すでにこの分野で働いている人には,今後のキャリアパス,ライフデザインをどのように描いていったらよいか,ワーク・ライフ・バランスをどのように考えていったらよいか,などについて述べます.
 グローバルヘルスのキャリアパスについて書かれた本はいくつかありますが,本書は日本国内やインターネットなどで容易に得られる情報は省略または参考程度に示し,私やグローバルに活躍する友人・知人の実体験や知識から,リアルで役立つ情報を集め,詰め込みました.

 本書は以下のように,8 つの章で構成されています.
 1 章では,グローバルヘルスが生まれた背景や課題を含めて,グローバルヘルスとは何かについて記します.
 2 章では,グローバルヘルスの課題を解決する方法やアプローチについて,歴史的変遷も含めて解説しました.
 グローバルヘルスを学んだことのある方は,1 章と2 章は読み飛ばしてくださって結構です.
 3 章では,グローバルヘルスを動かしているアクター・担い手について,特に誰が資金を提供し,誰がその使い方や配分を決め,誰が現場で実施しているのかを示しました.
 4 章では,その具体的なアクターとして,国連機関,政府援助機関,民間セクター,NGO などから主要なものをご紹介します.日本ではあまり知られていなくとも,世界や現場では多大な貢献をしている組織をご紹介します.
 5 章では,グローバルヘルスで求められる人材とはどのようなものか,その資格や能力,コンピテンシーなどについて説明します.
 6 章では,キャリアパス,またはライフデザインの作り方について,基本的な考え方や重要なポイントをお伝えします.特に,人生の節目でどのようなコンパスを使って方向性を決めればよいか,きっと皆さんに役立つと思います.
 7 章では,実際にグローバルヘルスで働くために,初めの一歩をどう踏み出すか,中堅どころの自分の磨き方,管理職や幹部の目指し方などについて記します.
 8 章では,グローバルヘルスに従事する上で重要なワーク・ライフ・バランス,人生になくてはならない6 つの要素とそのバランスなどについて説明します.世界に貢献しながらも,自らの人生も豊かに楽しくするにはどうしたらよいか,お話ししたいと思います.
 本文に入る前に,アップル創業者のスティーブ・ジョブズが,生前に米スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの一部を記しておきます.

 仕事はあなたの人生の大きな部分を占めることになる.
 だから,あなたが心から満足するには,自分が素晴らしいと信じる仕事をするしかない.
 そして,素晴らしい仕事をするには自分の愛する仕事をするしかない.
 それがまだ見つかっていないならば,それを探し続けることだ.妥協してはいけない.
 ―スティーブ・ジョブズ
 
 著者 國井 修
目次
1.グローバルヘルスとは?
 グローバルヘルスが生まれた背景
 グローバルヘルスの課題
  A 死者数から見た重要課題
  B 疾病負荷から見た重要課題
  C グローバルヘルスにおける10 大脅威(2019 年)
  D 今後10 年間のグローバルヘルスにおける10 大脅威(2020 年)
  E 世界共通の開発目標で設定された課題
  F 各国・地域の課題,自分にとっての課題

2.グローバルヘルスの課題を解決する方法・アプローチ
 歴史的潮流
 解決に向けたアプローチ
  A 臨床(患者さんの治療・ケア)
  B 地域での治療・ケア・予防
  C 人材育成
  D サプライチェーン・ロジスティクス
  E データ情報
  F 資金調達
  G プロジェクト管理
  H 政策・戦略作り
  I アドボカシー
  J 保健外交
  K 研究・開発
  L そのほかの方法・アプローチ

3.誰がグローベルスを動かしているのか?
 主要なアクター
 誰が資金を提供しているのか?
 誰が予算の使途を決めているか? どこを経由しているか?
 誰が実施しているのか? 何に使われているのか?

4.グローバルヘルスにおける主要なアクター
 国連機関
 政府間国際組織・政府間連携
 国際開発金融機関
 官民連携・パートナーシップ
 民間財団・慈善団体
 ドナー国政府・二国間援助機関
  A 米 国
  B 英 国
  C ドイツ
  D フランス
  E 日 本
  F 中 国
  G 韓 国
  H ほかの新興国による援助
 非政府組織(NGO)
 シンクタンク
 コンサルタント会社
 ヘルスケア産業・民間セクター
 研究開発を促進するパートナーシップ組織
 教育・研究機関
  A 米国の大学・研究所
  B 英国の教育・研究機関
  C そのほかの欧州にある教育・研究機関
  D 日本にある教育・研究機関
  E アジアにある教育・研究機関
  F 中南米にある大学・研究所
 学会・フォーラム

5.グローバルヘルスで求められる人材とは
 学歴・職歴
 語学力
 コンピテンシー
  A コミュニケーション
  B 成果達成志向
  C 多様性の理解・尊重
  D チームワーク・協調性
  E マネジメント・管理
  F リーダーシップ
 グローバルヘルスリーダーの育成
 コンピテンシーの獲得方法
 才能よりもやり抜く力
 ライフ面で活躍するコンピテンシー
  A リスク管理
  B ポジティブ思考
  C 好奇心と探求心
  D コミュニケーション
  E 自分のウェルビーイングを維持すること

6.キャリアパス・ライフデザインの作り方
 キャリアパスとライフデザイン
 人生80 年計画
 ライフデザイン
  A 人生の節目とドリフト
  B 人生のコンパス
 自分のポジショニング
  A さまざまな座標軸
  B グローバルヘルスのディメンション
  C ポジションを変える

7.ライフデザイン実践編
 学生時代に学べること,学ぶべきこと
 インターンシップ・ボランティア
 はじめの一歩
 中堅どころのキャリアの磨き方
 管理職・幹部を目指す
 第二,第三の人生を送る

8.ワーク・ライフ・バランス
 ワーク・ライフ・バランスとは
 バランスを考える上での6 つのエレメント
  A Input(学び)
  B Output(仕事,生産物)
  C Belongings(金・物・財産)
  D Tool(健康)
  E Mother Earth(家族・人間関係)
  F New World(趣味・新たな挑戦)
  G バランス・ハーモニー

資 料
主要参考文献
略語一覧
おわりに
謝 辞
書評
グローバルヘルスのABCからキャリア形成のXYZまでこの一冊で!

中谷比呂樹(グローバルヘルス人材戦略センター・ディレクター/元WHO事務局長補)

 「世界に飛び立て! 命を救おう!」が「グローバルヘルスを志す人 グローバルリーダーを目指す人のために」という副題を付して南山堂から刊行された.この本は,グローバルヘルス分野で働くためのキャリアパスをどう形成しようか考えている方を念頭に書かれたもので,日々進化を続けるグローバルヘルスの現場を生き生きと描いた前半4 章と,これからキャリアを形成していくためのステップが記された後半4章の全8章からなっている.
 この本のユニークなところは3 つある.まず第一に,往々にして別の本で取り扱われる前半部分のグローバルヘルス概論と後半部分のキャリア形成が1 つの本の中で見事に整合性をもって書かれていることである.第二に,この難事を國井 修博士という,勤務先は僻地診療所から国際機関の本部まで4 つの大陸に跨り,活動領域も医療活動から政策形成,大学教授まで15回以上の就職・異動・転職という“多様性”に富んだ経験をもち,なおも前進し続ける稀有な情熱家によって書かれていることである.通常は分担執筆を考える広大な領域を一人で書ききったこと自体,驚嘆に値する.そして最後に,一人の著者によって書かれたために,本書の意図とスタイルが終始一貫しており,非常に明確・明朗な印象を与える.さらに文体のトーンは一貫して温かく,また,同時にプラクティカルである.上から目線ではなく,兄貴から弟や妹に語りかけるような感じといえばよいだろう.結果,本書は啓発書としても,実用書としても,さらには教科書としても読者をひきつける魅力をもっている.それでは,どのような読者がこの本の価値を見出すのであろうか?
 まず,今後のキャリアをグローバルヘルス分野で築こうと思っている比較的若い方々にとっては素晴らしい「グローバルヘルスの歩き方」として啓発書兼実用書として歓迎されるであろう.ただ,ここでいう若い方は,必ずしも年齢で制約されるものではない.たとえば,ミッドキャリアからの方向転換についても言及されている.その部分では,国際機関の職員になるばかりが国際貢献ではなく,専門家として蓄積してきたアセットを使って国際的な基準(診断基準など)作りに参画することや,NGOなど身近な国際貢献からまず始めることなどプラクティカルな“目から鱗”的な示唆も含まれている.
 次に,本書のメリットを享受するのは,国際的視野をもたなければと願いながらわが国で活動する保健関係者ではなかろうか.COVID -19で経験したように,世界の医療と公衆衛生,そして医薬などの医療テクノロジーは密接につながりあっている.この本は前半部分が優れたグローバルヘルスの教科書となっているばかりか,そこで活動する人々への理解が深まる後半も大いに参考になろうグローバルヘルスに関する理解が深まり,その道に進まんとする若者へのサポーター層がもっと厚くなることを期待したい.ここに著者が想定していなかったかもしれない啓発書としての価値があると思われる.
 最後に,堅い出版社から出た本としては異例のコメントかもしれないが,読書の楽しみを与えてくれる本であることも指摘したい.昔読んだいくつかの本がフラッシュバックする念をもったからだ.まず,第一に想起したのは,インドの初代首相ネルー氏の『父が子に語る世界歴史』.歴史を含めて広い視野をもつように獄中から娘に送った書簡集.若い世代への信頼と愛情に満ちていた.ついで小澤征爾氏の『ボクの音楽武者修行』.貨物船で渡仏してから世界のオザワになるまでの彼の人生を伴走するような気分にさせる回想録.この本は,國井 修氏の若者へのパッション,そして多様性の世界で学びながら自らも前進する,そんな躍動感をもたせてくれる本ゆえに,多くの読者を得て,日本からグローバルヘルスのリーダーが続々と飛びたち,世界と日本に貢献する一助となることを確信している.
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