高齢者のポリファーマシー
多剤併用を整理する「知恵」と「コツ」
1版
東京大学大学院医学系研究科 加齢医学講座 教授 秋下雅弘 編著
定価
2,640円(本体 2,400円 +税10%)
- A5判 230頁
- 2016年4月 発行
- ISBN 978-4-525-20391-7
処方整理の考え方・実践するためのコツとその限界がわかる!
世界的にも問題となっている高齢者のポリファーマシーをいかに解決するか.
これには「木」をみて「森」もみる多角的な視点が求められます.
本書は,多剤併用を整理するための考え方とコツを解説したこれまでにない一冊です.処方整理の考え方から在宅へのアプローチの仕方までを取り上げ,具体的な処方整理の方法について症例を挙げて解説しました.
- 序文
- 目次
序文
わが国は,国民の4人に1人が65歳以上,8人に1人が75歳以上という世界が経験したことのない超高齢社会を迎えています.さらに,2025年には団塊の世代700万人が75歳以上となり,その医療・介護負担への危機感から2025年問題と呼ばれています.このように,今後ますます高齢化が進むわが国において,高齢者医療の質を上げつつ,効率化を図るという一見相反する2つのことを成し遂げなければなりません.
その鍵になるのがポリファーマシー対策だと考えられます.高齢者に要する医療費,特に薬剤費の増加が医療財政を圧迫していることは周知の事実です.一方で,高齢者緊急入院の3〜6%は薬剤起因性であり,薬物有害事象は長期入院のリスクを倍増すると報告されており(Kojima T, et al:J Am Geriatr Soc, 2012),年間数百億円にも上るとされる残薬問題とともに,健康状態を改善して医療費を削減するはずの薬物療法が医療費高騰の主役となっているのが現実です.この状況は,高齢者に対する薬物療法の考え方と実践方法を変えることで改善しなければいけません.つまり,疾患単位に治療薬を使う“足し算医療”からの脱却であり,可能な限り無駄をなくす効率的な医療への転換です.適切な薬剤削減は,無駄な薬剤費を減らし,本当に必要な薬剤費へ回すという点で,過少医療対策にもなるのです.
ポリファーマシー(polypharmacy)は,多剤併用,多剤服用,多剤処方などと訳され,海外では5種類以上,わが国でも5〜6種類以上の薬を併用している状態とされることが多いのですが,明確な定義はありません.最近は,「複数の薬剤を併用することに伴う諸問題がある場合」をポリファーマシーという老年症候群として捉える考え方に変わってきているようです.つまり,10種類の薬を併用していても,それらが本当に必要で,きちんと服用でき,病態安定と本人の満足が得られているのであれば,ポリファーマシーではないのです.逆に,3種類の併用でも問題があればポリファーマシーです.数は目安であり,本質的にはその中身が大切です.
このようなことから,南山堂の月刊誌『薬局』で「高齢者の多剤併用」を特集したところ,読者からの評判がよかったため,今回その内容を発展させて書籍としてまとめました.本書では「高齢者のポリファーマシー」にスポットを当て,ポリファーマシーをどのように考えて対応していけばよいかが学べるように,基礎知識から処方適正化の実践例までを,わが国を代表するトップランナーの先生方に解説していただきました.ポリファーマシーのみを取り上げ,深く掘り下げた,おそらくわが国初の書籍をどうぞお楽しみください.
2016年3月 秋下雅弘
その鍵になるのがポリファーマシー対策だと考えられます.高齢者に要する医療費,特に薬剤費の増加が医療財政を圧迫していることは周知の事実です.一方で,高齢者緊急入院の3〜6%は薬剤起因性であり,薬物有害事象は長期入院のリスクを倍増すると報告されており(Kojima T, et al:J Am Geriatr Soc, 2012),年間数百億円にも上るとされる残薬問題とともに,健康状態を改善して医療費を削減するはずの薬物療法が医療費高騰の主役となっているのが現実です.この状況は,高齢者に対する薬物療法の考え方と実践方法を変えることで改善しなければいけません.つまり,疾患単位に治療薬を使う“足し算医療”からの脱却であり,可能な限り無駄をなくす効率的な医療への転換です.適切な薬剤削減は,無駄な薬剤費を減らし,本当に必要な薬剤費へ回すという点で,過少医療対策にもなるのです.
ポリファーマシー(polypharmacy)は,多剤併用,多剤服用,多剤処方などと訳され,海外では5種類以上,わが国でも5〜6種類以上の薬を併用している状態とされることが多いのですが,明確な定義はありません.最近は,「複数の薬剤を併用することに伴う諸問題がある場合」をポリファーマシーという老年症候群として捉える考え方に変わってきているようです.つまり,10種類の薬を併用していても,それらが本当に必要で,きちんと服用でき,病態安定と本人の満足が得られているのであれば,ポリファーマシーではないのです.逆に,3種類の併用でも問題があればポリファーマシーです.数は目安であり,本質的にはその中身が大切です.
このようなことから,南山堂の月刊誌『薬局』で「高齢者の多剤併用」を特集したところ,読者からの評判がよかったため,今回その内容を発展させて書籍としてまとめました.本書では「高齢者のポリファーマシー」にスポットを当て,ポリファーマシーをどのように考えて対応していけばよいかが学べるように,基礎知識から処方適正化の実践例までを,わが国を代表するトップランナーの先生方に解説していただきました.ポリファーマシーのみを取り上げ,深く掘り下げた,おそらくわが国初の書籍をどうぞお楽しみください.
2016年3月 秋下雅弘
目次
■第1章 ポリファーマシーを考える上での基礎知識
1 ポリファーマシーの実態と問題点
2 加齢による生理変化と老年症候群
3 老年症候群と似た症状を呈する副作用
4 加齢による薬物動態学的変化と高齢者で注意すべき薬物相互作用
5 薬物相互作用情報と患者リスクの考え方
■第2章 ポリファーマシーの高齢者に対する処方整理の実践
1 処方整理のためのツール
2 処方整理の進め方
■第3章 個々の疾患に対する処方整理の考え方
1 虚血性心疾患
・症例 起立性低血圧により意識消失発作を来した,心筋梗塞治療後の76歳,男性
・症例 冠動脈内ステント留置術後早期の77歳,男性
・症例 狭心症治療薬を整理した86歳,女性
2 不整脈
・症例 動悸を訴えて来院された84歳,女性
3 高血圧症
・症例 発作性の血圧上昇を来す84歳,女性
4 慢性腎臓病
・症例 軽度の過降圧により急性腎障害を来した77歳,男性
・症例 骨粗鬆症治療中に急性腎障害を来した82歳,女性
5 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・症例 適切な薬剤に変更し,薬剤数が減少して効果が増した76歳,男性
・症例 LABA重複により低カリウム血症が生じた75歳,男性
6 糖尿病
・症例 治療を簡略化し,副作用のリスクを軽減できた83歳,女性
7 前立腺肥大症・過活動膀胱
・症例 前立腺肥大症および過活動膀胱の75歳,男性
8 便秘・GERD
・症例 処方整理により便通が改善した87歳,女性
・症例 GERDによる胸痛を訴えた82歳,女性
9 うつ病・認知症
・症例 薬剤減量に成功したうつ病の86歳,女性
・症例 薬剤減量に成功した認知症の75歳,女性
10 骨粗鬆症
・症例 高カルシウム血症,高カルシウム尿症を認めた65歳,女性
11 関節リウマチ
・症例 治療初期から多剤併用にて治療強化を行った75歳,女性
・症例 感染症を合併した高齢RA患者81歳,女性
12 慢性疼痛
・症例 高齢者のNSAIDsに抵抗性の変形性膝関節症82歳,女性
■第4章 ポリファーマシーの高齢者に対する服薬管理
1 服薬管理の考え方
2 地域連携の重要性
3 訪問薬剤管理のポイント
Column
4 ブラウンバッグ運動からの医薬品適正処方・適正使用へのアプローチ
1 ポリファーマシーの実態と問題点
2 加齢による生理変化と老年症候群
3 老年症候群と似た症状を呈する副作用
4 加齢による薬物動態学的変化と高齢者で注意すべき薬物相互作用
5 薬物相互作用情報と患者リスクの考え方
■第2章 ポリファーマシーの高齢者に対する処方整理の実践
1 処方整理のためのツール
2 処方整理の進め方
■第3章 個々の疾患に対する処方整理の考え方
1 虚血性心疾患
・症例 起立性低血圧により意識消失発作を来した,心筋梗塞治療後の76歳,男性
・症例 冠動脈内ステント留置術後早期の77歳,男性
・症例 狭心症治療薬を整理した86歳,女性
2 不整脈
・症例 動悸を訴えて来院された84歳,女性
3 高血圧症
・症例 発作性の血圧上昇を来す84歳,女性
4 慢性腎臓病
・症例 軽度の過降圧により急性腎障害を来した77歳,男性
・症例 骨粗鬆症治療中に急性腎障害を来した82歳,女性
5 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・症例 適切な薬剤に変更し,薬剤数が減少して効果が増した76歳,男性
・症例 LABA重複により低カリウム血症が生じた75歳,男性
6 糖尿病
・症例 治療を簡略化し,副作用のリスクを軽減できた83歳,女性
7 前立腺肥大症・過活動膀胱
・症例 前立腺肥大症および過活動膀胱の75歳,男性
8 便秘・GERD
・症例 処方整理により便通が改善した87歳,女性
・症例 GERDによる胸痛を訴えた82歳,女性
9 うつ病・認知症
・症例 薬剤減量に成功したうつ病の86歳,女性
・症例 薬剤減量に成功した認知症の75歳,女性
10 骨粗鬆症
・症例 高カルシウム血症,高カルシウム尿症を認めた65歳,女性
11 関節リウマチ
・症例 治療初期から多剤併用にて治療強化を行った75歳,女性
・症例 感染症を合併した高齢RA患者81歳,女性
12 慢性疼痛
・症例 高齢者のNSAIDsに抵抗性の変形性膝関節症82歳,女性
■第4章 ポリファーマシーの高齢者に対する服薬管理
1 服薬管理の考え方
2 地域連携の重要性
3 訪問薬剤管理のポイント
Column
4 ブラウンバッグ運動からの医薬品適正処方・適正使用へのアプローチ