カテゴリー: 総合診療医学/プライマリ・ケア医学 | 衛生・公衆衛生学
プライマリ・ケア医のための働く世代のみかた
1版
日本プライマリ・ケア連合学会 監修
日本プライマリ・ケア連合学会
予防医療・健康増進・産業保健委員会産業保健チーム 安藤明美 編集
定価
4,950円(本体 4,500円 +税10%)
- B5判 299頁
- 2024年6月 発行
- ISBN 978-4-525-21001-4
プライマリ・ケアに産業医マインドを取り入れよう!
働く世代の人たちの多くは,産業医の選任義務がない労働者50人未満の事業場で働いています.産業医のいない職場で働く人たちの労働にかかわる健康問題のケアは,プライマリ・ケア医の活躍が期待されています.
本書では,仕事と治療の両立や休職・復職にあたっての職場との調整など,働く世代の診療ならではの悩みについて事例を挙げつつ,治療・支援の進め方をわかりやすく解説します.働く世代をみるすべての方に役立つ情報がぎゅっと詰まった一冊です!
- 序文
- 目次
- 書評
序文
プライマリ・ケアは,すべての世代の健康保持増進に責任をもって関わることが期待されており,若年から壮年期も私たちプライマリ・ケア従事者が対象とする大きな一群といえます.さらに総務省の集計によりますと2020年の65歳以上の就業率は男性34.2%(2.9人に1人)で女性18.0%(5.6人に1人)となっています. 定年後も働き続ける人々が増えていることにより働く世代には,60代,70代も含まれるようになってきました.
日本では働く世代の高年齢化が進んでおり“働く世代のかかりつけ医”は産業構造や働き方の変化,および職場環境が人体に与える影響を考慮して,労働者の年齢相応の体力や身体機能に応じた働き方を職場や産業医に提案していく必要があります. また,自営業や非正規労働者など,産業保健へのアクセスが困難な労働者に対しては,プライマリ・ケア医が日常診療において健康診断や両立支援などの産業保健の一部を提供していくことが大切です.
一般に若年~壮年期は,家庭医,臓器別専門医,産業医,健診業者など,非常に多くの関係者が絡むため,ワンストップで健康を守ってもらうことが難しく,プライマリ・ケア領域からも,産業保健からも,取り残される傾向があります.実際,既存の産業保健サービスで対応できているのは24.8%との報告もあり産業保健にアクセスが困難な労働者への産業保健サービスの提供は世界的にも課題となっています.ところが,そうした実情はあまり知られておらず,若年~壮年期の生活習慣や社会的要因が長期間放置されることで将来のさまざまな疾患発症リスクを上昇させることが知られています.
私病や介護と仕事の両立,ヤングケアラーなどの家族問題と仕事の両立など,この世代ならではの課題もあり,そうした課題を抱える“働く世代”の最初の相談先となり得るプライマリ・ケアには産業保健の視座,労働法の理解,職場をはじめとする多機関との連携など,特有の知識とスキルが求められるようになっています.
本書は,こうしたことを踏まえた事例検討会を提供してきた日本プライマリ・ケア連合学会 予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チームが中心となり,3年をかけて検討を重ね準備してきた書籍です.ぜひ,各執筆者からプライマリ・ケア医のみなさまに届ける熱い思いを受け取って,“働く世代の well-being”実現に伴走するための一助としていただければ幸いです.
本書の発行にご尽力いただきました日本プライマリ・ケア連合学会 予防医療・健康増進・産業保健委員会 鈴木富雄委員長を始め,ご執筆いただきました先生方,編集にご協力いただいた皆さま,書物を手にとってくださっている皆さま,いつも応援してくれている皆さまに心より感謝申し上げます.
2024年5月
日本プライマリ・ケア連合学会 予防医療・健康増進 産業保健委員会 産業保健チーム 安藤明美
日本では働く世代の高年齢化が進んでおり“働く世代のかかりつけ医”は産業構造や働き方の変化,および職場環境が人体に与える影響を考慮して,労働者の年齢相応の体力や身体機能に応じた働き方を職場や産業医に提案していく必要があります. また,自営業や非正規労働者など,産業保健へのアクセスが困難な労働者に対しては,プライマリ・ケア医が日常診療において健康診断や両立支援などの産業保健の一部を提供していくことが大切です.
一般に若年~壮年期は,家庭医,臓器別専門医,産業医,健診業者など,非常に多くの関係者が絡むため,ワンストップで健康を守ってもらうことが難しく,プライマリ・ケア領域からも,産業保健からも,取り残される傾向があります.実際,既存の産業保健サービスで対応できているのは24.8%との報告もあり産業保健にアクセスが困難な労働者への産業保健サービスの提供は世界的にも課題となっています.ところが,そうした実情はあまり知られておらず,若年~壮年期の生活習慣や社会的要因が長期間放置されることで将来のさまざまな疾患発症リスクを上昇させることが知られています.
私病や介護と仕事の両立,ヤングケアラーなどの家族問題と仕事の両立など,この世代ならではの課題もあり,そうした課題を抱える“働く世代”の最初の相談先となり得るプライマリ・ケアには産業保健の視座,労働法の理解,職場をはじめとする多機関との連携など,特有の知識とスキルが求められるようになっています.
本書は,こうしたことを踏まえた事例検討会を提供してきた日本プライマリ・ケア連合学会 予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チームが中心となり,3年をかけて検討を重ね準備してきた書籍です.ぜひ,各執筆者からプライマリ・ケア医のみなさまに届ける熱い思いを受け取って,“働く世代の well-being”実現に伴走するための一助としていただければ幸いです.
本書の発行にご尽力いただきました日本プライマリ・ケア連合学会 予防医療・健康増進・産業保健委員会 鈴木富雄委員長を始め,ご執筆いただきました先生方,編集にご協力いただいた皆さま,書物を手にとってくださっている皆さま,いつも応援してくれている皆さまに心より感謝申し上げます.
2024年5月
日本プライマリ・ケア連合学会 予防医療・健康増進 産業保健委員会 産業保健チーム 安藤明美
目次
■I 総論
1 働く世代を取り巻く環境
2 産業保健による働く人の健康管理という視点
■Ⅱ 各論
【1】働く世代の困難事例―プライマリ・ケア医だからこその関わり―
1 家族関係の困難さがあるケース
2 職場での困難さがあるケース
3 私病の治療と仕事の両立に困難さがあるケース
4 健康診断に関連した困難なケース
5 入院加療を行ったが職場復帰が困難なケース
【2】職業・就業状況を知る
1 職場の健康診断の制度を理解する
2 外来で自営業者やフリーランスの健康診断をすることになったら
3 長時間労働をしている人が外来に来たら
4 夜勤業務のある人が外来に来たら
5 有害業務に従事しているとわかったら
6 働く女性を理解する
7 働く男性を理解する
8 働く高齢者を理解する
9 性的指向,性自認に関わる職場での困難を理解する
10 働き方に応じた服薬指導
【3】働く世代のメンタルヘルス
1 主治医として関わる際に気をつけること
2 仕事との調整が必要と感じたら
3 仕事を休んでいる間の関わり
4 仕事復帰のタイミングと復帰への準備
5 仕事復帰後の関わりと継続支援
【4】働く世代の慢性疾患診療―生活習慣病と行動変容―
1 コントロール不良の糖尿病
2 高血圧で就業制限の考慮を要するケース
3 透析を必要とするほどの腎機能低下でも通院していないケース
4 若年で脂質異常と肥満がみられるケース
【5】職業関連疾患を見逃さないために気をつけること
1 作業関連疾患
2 化学物質関連疾患
【6】働く世代のさまざまな悩みに寄り添う
1 組織作り─働く世代をみるためのチーム―
2 働けない人・働いていない人をみる
3 オンライン診療で働く世代をみる
4 外国人労働者をみる
5 障害をもって働く人をみる
6 プライマリ・ケア医が知っておくとよい労務に関する法律
1 働く世代を取り巻く環境
2 産業保健による働く人の健康管理という視点
■Ⅱ 各論
【1】働く世代の困難事例―プライマリ・ケア医だからこその関わり―
1 家族関係の困難さがあるケース
2 職場での困難さがあるケース
3 私病の治療と仕事の両立に困難さがあるケース
4 健康診断に関連した困難なケース
5 入院加療を行ったが職場復帰が困難なケース
【2】職業・就業状況を知る
1 職場の健康診断の制度を理解する
2 外来で自営業者やフリーランスの健康診断をすることになったら
3 長時間労働をしている人が外来に来たら
4 夜勤業務のある人が外来に来たら
5 有害業務に従事しているとわかったら
6 働く女性を理解する
7 働く男性を理解する
8 働く高齢者を理解する
9 性的指向,性自認に関わる職場での困難を理解する
10 働き方に応じた服薬指導
【3】働く世代のメンタルヘルス
1 主治医として関わる際に気をつけること
2 仕事との調整が必要と感じたら
3 仕事を休んでいる間の関わり
4 仕事復帰のタイミングと復帰への準備
5 仕事復帰後の関わりと継続支援
【4】働く世代の慢性疾患診療―生活習慣病と行動変容―
1 コントロール不良の糖尿病
2 高血圧で就業制限の考慮を要するケース
3 透析を必要とするほどの腎機能低下でも通院していないケース
4 若年で脂質異常と肥満がみられるケース
【5】職業関連疾患を見逃さないために気をつけること
1 作業関連疾患
2 化学物質関連疾患
【6】働く世代のさまざまな悩みに寄り添う
1 組織作り─働く世代をみるためのチーム―
2 働けない人・働いていない人をみる
3 オンライン診療で働く世代をみる
4 外国人労働者をみる
5 障害をもって働く人をみる
6 プライマリ・ケア医が知っておくとよい労務に関する法律
書評
日本社会の課題としていつも語られる「少子高齢化」.少子化については子育て世代への減税,育休取得の推進などさまざまな政策が展開されている.また,高齢化については,後期高齢者医療制度と介護保険制度のもとで,地域包括ケアシステムを通じた住み慣れた生活環境での療養生活を支援する政策は着実に進んできている.いずれも課題はまだ多いが,政府も危機感を持って取り組んでいるのは確かだ.
では,この中間にある働く世代についてはどうか.働き方改革を通じた時間外労働の削減,女性の社会進出の促進,障がい者の社会参画など,個々の事業は展開されているが,それをパッケージとしてわれわれが捉える機会は意外と少ない.とくに,医療者は働く世代がもつ社会背景や環境の変化を丁寧に振り返る機会に乏しく,10年前,20年前の感覚で疾患の治療にあたることも珍しくはない.
本書はまさにそうしたプライマリ・ケア医をターゲットにした「社会と日常診療をつなげる場」を用意してくれるテキストの決定版である.最初に,働く世代がもつ家族や職場内でのさまざまな問題がいかに診療に影響を与えるか,また疾患の発症につながるかについて,具体例を通じて大変わかりやすく解説していく.そして,フリーランス,自営業,長時間労働,夜勤業務,有害業務といった環境で働く方のもつ課題,さらには,女性・男性・LGBTQ などの性的属性など,患者のもつ多様性を意識して,われわれがどのように診療を提供すべきかについて,最新の政策やエビデンスを駆使しながら解説してくれる.最後に,働く世代のもつ健康問題としてのメンタルヘルスや慢性疾患,職業関連疾患を取り上げながら,産業医と異なるプライマリ・ケアならではのアプローチの概説もあり,日々の診療に直接役立てることもできるだろう.
本書はざっと通読するも良し,関心があるところや知識不足を感じる箇所から読み始めるも良し.はたまた,デスクに置いて働く世代への診療で困ったときの参考に使うも良し.多様な形で読者をサポートしてくれる心強いハンドブックである.
働く世代へのプライマリ・ケアに少しでも関心を持って頂いた方にはぜひ手に取って欲しい一冊である.
医療法人北海道家庭医療学センター 草場鉄周
では,この中間にある働く世代についてはどうか.働き方改革を通じた時間外労働の削減,女性の社会進出の促進,障がい者の社会参画など,個々の事業は展開されているが,それをパッケージとしてわれわれが捉える機会は意外と少ない.とくに,医療者は働く世代がもつ社会背景や環境の変化を丁寧に振り返る機会に乏しく,10年前,20年前の感覚で疾患の治療にあたることも珍しくはない.
本書はまさにそうしたプライマリ・ケア医をターゲットにした「社会と日常診療をつなげる場」を用意してくれるテキストの決定版である.最初に,働く世代がもつ家族や職場内でのさまざまな問題がいかに診療に影響を与えるか,また疾患の発症につながるかについて,具体例を通じて大変わかりやすく解説していく.そして,フリーランス,自営業,長時間労働,夜勤業務,有害業務といった環境で働く方のもつ課題,さらには,女性・男性・LGBTQ などの性的属性など,患者のもつ多様性を意識して,われわれがどのように診療を提供すべきかについて,最新の政策やエビデンスを駆使しながら解説してくれる.最後に,働く世代のもつ健康問題としてのメンタルヘルスや慢性疾患,職業関連疾患を取り上げながら,産業医と異なるプライマリ・ケアならではのアプローチの概説もあり,日々の診療に直接役立てることもできるだろう.
本書はざっと通読するも良し,関心があるところや知識不足を感じる箇所から読み始めるも良し.はたまた,デスクに置いて働く世代への診療で困ったときの参考に使うも良し.多様な形で読者をサポートしてくれる心強いハンドブックである.
働く世代へのプライマリ・ケアに少しでも関心を持って頂いた方にはぜひ手に取って欲しい一冊である.
医療法人北海道家庭医療学センター 草場鉄周