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カテゴリー: 小児科学

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子どもの心の診療医になるために

1版

国立成育医療センターこころの診療部 部長 奥山眞紀子 編著
北海道こども心療内科氏家医院 理事長 氏家 武 編著
井上小児科医院 院長 井上登生 編著

定価

3,850(本体 3,500円 +税10%)


  • A5判  280頁
  • 2009年6月 発行
  • ISBN 978-4-525-28221-9

心身の発達障害や心に問題を抱える子どもたちの診療に取り組みたいと考えている小児科医必携の一冊.海外での専門研修経験を積み,第一線で活躍中の筆者3人が,「子どもの心の診療医」をめざすために必要な基本的心構えと基礎理論を解説したうえで,実際の治療のアプローチ方法を日々の臨床経験の中から具体的事例をあげてわかりやすく伝授する.

  • 序文
  • 目次
序文
 私たち三人は「子どもの心の診療医」になることを目指し,若い頃,それぞれの思いを実現するために海外に留学した.そしてその時,期せずして三人がロンドンで偶然出会うことになったのである.お互い初めて出会ったのに,自分たちの熱い思いをいつまでも語り合ったのだった.自分と同じ志を持って海外に渡った日本人,しかも小児科医が他にも二人もいたことを知りお互いが勇気づけられ,同時にまた,心細く辛い思いをしながら海外での研修に努力しているのが一人ではないことに心強さを感じたものだった.言葉の壁や生活習慣の違いの中で研修を続けることには大きな困難があったが,私たちはお互いを支えに海外での研修をなんとか成し遂げることができた.そのことは,私たちにとって子どもの心の診療を実践する上で専門的な知識や技術の大きな基盤となっているのはもちろんのこと,私たち自身の今の診療の中で出会う困難を抱える親子を包む眼が豊かになったことにもつながっていると感じている.その数年後,井上は九州,奥山は東京,氏家は北海道に戻ったが,三人の出身地は遠くかけ離れているにもかかわらず現在に至るまでずっと親交を深め合ってきた.そしてそれぞれの思いを込めながら日々「子どもの心の診療」を実践している.
 平成17年度から厚生労働省は「子どもの心の診療に関する専門的研修を受け,専ら子どもの心の診療に携わる医師」を養成する準備を始めた.この「子どもの心の診療に専門的に携わる医師」は小児科医の中からも精神科医の中らもアプローチが可能で,どちらかの診療科を数年間研修した後,「子どもの心の診療を専門的に実施している医療機関」において数年の研修を受けるシステムが想定されている.三人は基本的にこの考え方に賛成の立場である.なぜなら私たち自身が歩んできた道,そして私たちが若手を教える時の考えと同じだからである.
また,私たちはこの分野の専門医あるいは認定医制度を作ることに賛成である.なぜなら,そのような制度があれば専門的な知識と技術(と気持ち)を若手に確実に公平に伝えることができるからである.そのためには公的な専門機関を設置し,卒後専門研修を最低でも数年間有料で(有給ではなく!)厳しく教えるシステムを作る必要がある.もちろん指導者も若手の教育に十分な時間を割けるような保障が必要である.しかし,実際にこのような制度がいつどのような形でできあがるのかまったく見当がつかない.もしかすると関連学会が綱引きをしている間に雲散霧消してしまうか,形骸化したものになってしまうのではないかと心配している.
 このような状況の中で一昨年の暮れに,自分たちが海外で得た貴重な経験を本という形にして,その思いを若手に伝えたいと話し合う機会を持った.実は,三人にはいくつか共通点がある.生まれ育った時代が同じなのは言うまでもないが,小児科の開業医の子どもとして育ち,小児科医・開業医とはどういうものかをよく知っていること,そして自身も小児科医になったこと,その中でも子どもの心を専門に診る分野を選んだこと,海外に留学したこと,情熱のある若手を育てたいと思っていることなどである.
 この本のはじめにはまず,私たちの専門医としての道程を記述するに留まらず,その事実の背後にある私たちに共通する「子どもの心の診療医」としての構えを述べた.次いで,子どもの心の診療医を目指すために必要な基礎理論を紹介した.そして最後に,実際に私たちが日々行っている臨床経験を,実証的な理論に基づいて具体的に記載した.必ずしも誰もが海外で研修を受けられるわけではない現実を認識し,これから子どもの心の診療医を目指そうとする熱意ある若い医師にとって,この本が進むべき道を照らす明るい一筋の光となることを願うものである.
 宮沢賢治は,最後まで花巻という辺地にいながら,幅広い科学知識と素晴らしい世界観を持って独自の文学世界を切り開き,日本文学界の中心となりえた.それは彼の勤勉さによってもたらされた想像力のなせる業である.詩人の高村光太郎は,このような宮沢賢治を「内にコスモスを持つ者は,世界のどこの辺遠にいても常に一地方の存在から脱する.内にコスモスを持たない者は,どんな文化の中心にいても常に一地方の存在として存在する」(高村光太郎『コスモスの所持者 宮沢賢治』)と評した.どの地にいても同じことを正しく学び,素晴らしいコスモスを持てるより多くの「子どもの心の診療医」が生まれ育つことに,少しでもこの本が役立つことを願ってやまない.

2009年4月
たけし,まきこ,なりお
目次
Chapter 1 基礎を学ぶことの重要性 ─子どもの心の診療の特徴を踏まえて─
       1. 筆者3人が子どもの心の診療を実現するまでの道のり
       2. 基礎を学ぶことの重要性 ─子どもの心の診療の特徴を踏まえて─

Chapter 2 子どもの心の診療医の過去と現在
       A 子どもの心の診療の発展の歴史─海外の歴史,日本の歴史─
        1. アメリカにおける子どもの心の診療の発展の歴史─発達行動小児科学を中心に─
        2. イギリスにおける子どもの心の診療の発展の歴史─児童・青年期精神医学を中心に─
        3. わが国の歴史

Chapter 3 子どもの心の発達を的確に捉えるために ―子どもの精神心理発達行動理論―
       A 子どもの発達とその環境(親子,家族,学校,社会) ─社会化理論─
        1. 社会化の発達理論について
       B 子どもの精神発達に関する基礎理論 ─精神分析理論を中心に─
        1. フロイト(Freud, S.)の精神病理学理論
        2. マーラー(Mahler, M. S.)の分離個体化理論
        3. ウィニコット(Winnicott, D. W.)の早期人格発達論
        4. スターン(Stern, D. N.)の自己感と情動調律
        5. エリクソン(Erikson, E. N.)の思春期・青年期の発達理論

Chapter 4 子どもの心のあり様を的確に捉えるために
       A 評価・診断の考え方
        1. 評価・診断の原則
        2. 面 接
        3. 見立て formulation
        4. 診 断
        5. その後の情報収集
        6. フィードバック
       B 質問紙法・直接観察法・半構造化面接法,ICD/DSMの成り立ち
        1. 信頼性,妥当性
        2. 事例紹介
        3. 質問紙法
        4. 直接観察法
        5. 半構造化面接
        6. ICD/DSMの成り立ち
       C 子どもの心理発達評価 ─上手な発達検査,人格検査の使い方─
        1. 発達検査
        2. 人格検査
        3. 心理検査の上手な使い方

Chapter 5 子どもの心のより健やかな発達を促すために ─治療理論─
       A 子どもと家族への治療の基本的なあり方
        1. 子どもと家族への治療の特徴
        2. 治療者相談者(患者)関係
        3. 治療構造
        4. 治療者の反応の仕方
        5. 治療のプロセス
       B 遊戯療法(プレイセラピー)
        1. 遊戯療法とは
        2. 遊戯療法の実際
        3. 事例紹介:遊戯療法を受けて情緒行動障害が改善した被虐待児症候群の例
       C 家族全体への包括支援─家族療法を中心に─
        1. 家族療法の基本事項
        2. 家族療法の実際
       D 子どもの心の診療 ─基本は外来診療で─
        1. 子どもの入院治療
        2. 強化すべき外来診療体制
       E 子どもの薬物療法
        1. 薬物療法の原則
        2. 発達障害の薬物療法
        3. 心身症の薬物療法

Chapter 6 さあ、はじめよう!心の診療の実践
       A 乳幼児の精神的問題とその具体的な対処方法
        1. 乳幼児の精神的な問題
        2. 具体的な対処方法
        3. 乳幼児精神保健活動における連携
       B 関係性障害の捉え方と対処方法
        1. 事例紹介
       C 社会化を促すために
        1. 1歳未満 the first year of life
        2. 1歳〜2歳6か月
        3. 3歳前後
       D 愛着,喪失,トラウマ
        1. 愛着 attachment
        2. 愛着対象の喪失
        3. トラウマ
        4. 事例紹介
       E 自閉症
        1. 自閉症に特徴的な症状
        2. 自閉症の症候学的特徴
        3. 自閉症の病因
        4. 自閉症療育の基本的な考え方と予後
        5. 事例紹介:対人過敏性を背景に強迫症状の悪化と暴力的噴出をきたした自閉症児の例
        6. 事例紹介:社会性障害に対する早期療育によって自閉性が著明に改善した例
       F 不登校
        1. 不登校をめぐる概念の変遷
        2. 医学的観点からみた不登校とその対応
        3. 不登校の子どもと養育者への治療アプローチ
        4. 事例紹介:不登校を主訴に医療的支援を受けた例
        5. 児童思春期の不登校・引きこもり児童専門の精神科デイケア
       G 子どもの摂食障害
        1. 小児期にみられやすい摂食障害
        2. 幼児期および小児期早期の哺育障害
        3. 神経性無食欲症(神経性食欲不振症,拒食症,思春期やせ症)
       H 子どものうつ病
        1. 最近のうつ病の概念と診断基準
        2. 子どものうつ病の特徴
        3. 子どものうつ病の治療
        4. 事例紹介:薬物療法を行ったうつ病の例
       I 小児期におけるコンサルテーション・リエゾン精神医学のあり方
        1. コンサルテーション・リエゾン精神医学(C/L)とは
        2. 小児期におけるC/Lの特徴
        3. 小児期におけるC/Lの実際
        4. 事例紹介
       J 危機介入:災害時精神保健,虐待,自殺企図,せん妄
        1. 災害時精神保健
        2. 虐 待
        3. 自殺企図
        4. せん妄
       K 小児科と精神科 ─その間に架ける橋─
        1. それぞれが異なる問題を分担して住み分けをはかる
        2. 治療中に必要に応じてその診療を引き継ぐ
        3. 双方が連携して診療にあたる
        4. 双方がチームを組み協働して診療にあたる
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