日本版 小児麻酔マニュアル 改訂7版
改訂7版
聖路加国際大学 名誉教授 宮坂勝之 著
Jerrold Lerman 著
Charles J.Cote 著
David J.Steward 著
定価
11,000円(本体 10,000円 +税10%)
- A5判 718頁
- 2019年6月 発行
- ISBN 978-4-525-30921-3
翻訳版から日本版マニュアルへ!
小児麻酔マニュアルの初版が,トロント小児病院麻酔科マニュアルとして1979年に出版されてから約40年.著者らの確かな考え方と実績をもった臨床経験が共有できるように,理論だけに偏ることのない実践的な情報をまとめた.これまでの訳注や巻末資料を本文中に取り込むと同時に,最新の日本の実状に合わせ,翻訳版から日本版へ内容を更新させた.
- 序文
- 目次
序文
「日本版 小児麻酔マニュアル」改訂7版の序
小児麻酔マニュアルの初版が,David J. Stewardによりトロント小児病院麻酔科マニュアルとして出版されてから40年になる.以来7回の改訂が重ねられ,今では世界の小児麻酔臨床の標準とされている.第5版からJerrold Lermanが主著者となりCharles J. Coteが執筆者に加わったが,初版から第7版まで一貫してDavid Stewardが参画し,筆者宮坂勝之も翻訳・解説を担ってきた.
小児麻酔は,麻酔科学の歴史の中では主導的な役割を果たし進歩してきたが,いまだに臨床行為のすべての拠り所を,出版された論文やRCTに求めることはできない.特に臨床的な方法に関わる研究は,多国間の多施設共同研究であっても,医療制度や文化,社会の相違が数の中に埋没され,実際臨床に適合しない場合も多い.確かな考え方と実績を持った臨床経験の積み重ねの共有が重要な拠り所である.その点,本書の著者らは,初版以来お互いに時期を重ねて,多様性な社会の中で,患者中心の医療を掲げるトロント小児病院麻酔科で勤務し,それ以後も異なった文化や医療制度の中で「患者の安全最優先,麻酔の基本に忠実,医療資源の適正利用」の考えを共有して臨床に従事し,累積の経験年数は100年を超える.教科書ではない身軽さを最大限に生かし,理論だけに傾くことのない実際的な情報の提供とともに,小児麻酔のあるべき姿を発信する姿勢を貫いてきている.
これまでは日本語翻訳版として,山下正夫 先生と共同の作業であった.その間に,出版業界をとりまく社会的な情勢の影響を受け,原著書も翻訳版の出版社も変遷を繰り返してきた.特にこの10年は,北米と日本とで,用いられる薬剤や医療機材がほぼ北米製であることは同じものの,使い方は日本特有の診療報酬制度や麻酔事故への行政や国民の反応などを反映して異なり,その結果,臨床形態での乖離が特に大きくなった.そこで,改訂7版の日本語化を契機に筆者も著者の一員として参画し,「日本版 小児麻酔マニュアル」として,より日本の臨床に焦点をあてた編集とした.明らかに日本ではまれな病態の記述,使えない薬剤や方法を割愛した.また従来の訳注や巻末資料の多くは本文中に取り込んだ.その結果,背景の理解を助ける説明が増え,ページ数も増えることになったが,机上参照と同時に携行も可能とする従来の伝統を保つことができた.
日本版とする際の最大の課題は,4人の著者が共有する共通の譲れない価値観からみた,日本特有の医療の資源利用や麻酔の安全に対する医療者の感覚への対応であった.多様な考え方の存在を認める一方,上記した共通の価値観に基づき,現在の日本の一般的な麻酔科臨床に必ずしも合致しない考えや,今後普及してほしい注射時の疼痛緩和薬や服薬補助ゼリーの使用など,著者が実際に日本で行っている方法を記載することで実効性を示した.
パルスオキシメータを筆頭に,モニター機器も麻酔機材も進歩し,麻酔は相当に安全になった.しかし,小児麻酔では,麻酔導入覚醒の不安定時に,生体モニター機器に頼れない事情に変わりはない.むしろ,電子麻酔記録の普及で,自動収集されたバイタルサインをリアルタイムで確認する習慣が損なわれてきている成人麻酔研修者の増加で,小児麻酔で特に重要な五感を研ぎ澄ます基本が忘れられていることは安全面で後退である.加えて,手術室の外では依然として「片手間の鎮静・鎮痛による検査処置」が続いている.原発事故で安全神話の崩壊を目の当たりにした日本であるからこそ,二重,三重と安全機構が充実するほどに,基本的な注意が疎かになることへの警鐘を世界に鳴らしたい.
片耳胸壁聴診器の使用,経口挿管を経ての経鼻気管挿管,抜管直後からのカプノメータ使用,筋弛緩モニターを用いた経済的な筋弛緩薬と拮抗薬の使用など,安全や国民医療費に配慮した薬剤や機器の使用などから,そうした著者の思いが感じられるだろう.AIが組み込まれた自動操縦の欠陥を,五感による人的判断で修正できなかったことが,2019年初頭の最新鋭の航空機(B-737 MAX)連続墜落の要因だとされている.技術的な進歩にだけ目を奪われず,小児麻酔で重視されてきた,基本に忠実な患者安全を軸とした考え方が根付いてほしいとの思いを本書に込めたつもりである.
本書利用者が医学生や研修医,麻酔科医だけでなく,小児科医,産科医,周麻酔期看護師などにまで及んでいることを考えて章立てした.また,2015年から小児麻酔認定医制度がスタートしたが,日本の小児麻酔症例は分散され小児医療専門施設に集約されていないため,成人の麻酔の傍らで小児症例も扱うという麻酔科医の比率は高い.加えて,日本では麻酔科医の活動が手術室内のみにとどまるという際だった特徴もあり,本来麻酔科医が受け持つべき手術室外の鎮静下処置・検査や無痛分娩などの情報は限られている.幸い周麻酔期看護師の導入もあり,麻酔科医がこの領域に関わる気運は高まっている.本書では,そうした領域の医療を受け持とうと考えている方々の参考になる内容を含めることも目指した.目まぐるしい進化の渦中にあるだけに,しっかり基本を見失わない糧としてほしい.
最後に,日本版化に際しては,いずれも本シリーズに慣れ親しんだ麻酔科医であり,小児麻酔全般・筋弛緩薬,歯科麻酔・気道確保,産科麻酔・無痛分娩のそれぞれの領域の第一人者でもある鈴木康之,田村高子(国立成育医療研究センター),朝比奈輝哉(順天堂大学),田中 基(名古屋市立大学)の諸先生方に,実際的な助言をいただけたことに心より感謝したい.また,本書が時期を失せず出版できたのは,南山堂編集部の大城梨絵子 氏の校正作業に加え,英語原著の旧版からの改訂事項,薬用量の変更を含め,膨大な確認作業でご協力いただいたからであることを申し添えたい.
2019年(令和元年)5月1日
聖路加国際大学 名誉教授
宮坂勝之
第7版の序(含 日本版発刊にあたっての追記)
これまでの第6版と同じく,第7版も簡潔ながら包括的な小児麻酔の小型本の形式を踏襲した.この最新版からSpringerグループの書籍になったことはとても喜ばしい.当初から,この本はポケット版あるいは机上でいつでも参照できる参考書を目指してきたが,本版からは,よりポケットサイズの参考書として電子版*も出版することになった.(*日本版の電子版はありません)
この版からの特色は,日本版が出版されることである.これまでの日本語版で,訳注あるいは解説として日本と北米の臨床の違いを説明してきた部分を本文中に取り入れ,日本で使われない薬剤,日本ではみられない疾患類は割愛した.代わりに日本の小児麻酔特有の事項に関しての記載が加えられたが,患者安全と資源の適正利用に関する価値観に変わりはない.日本版の編集責任を,これまでの6版すべての日本語翻訳を行い,日本の小児麻酔事情をよく知った宮坂教授に委ねることに,第7版の共著者一同は同意している.日本の小児麻酔の患者に役立つ情報が伝わりやすくなることは喜ばしい.
このマニュアルでは,小児麻酔を施行する際の重要な考慮点,管理上の要点,そして実際の麻酔の流れを記載した.また各Chapterには参考文献を示し,学生,研修医にとっては,最新の小児麻酔を学ぶ手近な参考書となるように考慮してある.
第7版の3人の著者は,あらゆる領域,あらゆるタイプの小児麻酔を経験しており,合わせると一世紀を超える経験を有する.加えて近年の小児麻酔は,手術室の外の,さまざまな医学的な問題を持った患児の診断や処置,小外科手術,そして病院内全体の疼痛管理にも関わってきている.
本書作成でも,私たちはさまざまな臨床の問題に対し,文献的な根拠とわれわれ自身の経験を重ね合わせて最適な戦略を提示した.書かれた内容は,議論の余地が残されている幾多の領域に関しても,3人の著者が合議で方向付けをした.その際,自分たちの手ではこれが最適であるという考えに基づいたやり方を示した.しかし,実際の臨床では,おかれた診療環境で,さまざまに異なった考えや方法があることも承知しており,読者もそれを考慮して本マニュアルを使用してほしい.
本書の初版は,1979年(日本版としたのは2019年)であるが,この間に多くの変化があった.その変化には,小児外科の発展に伴う変化もあるが,麻酔科領域での新たな薬剤や技術の発展に伴う変化,そして小児麻酔管理の新たなあり方も関わってきている.そしてこれらの変化のほとんどが,小児麻酔領域の臨床研究の増加と同期して起きていることはありがたいことである.今では,多くの場合で科学的根拠に基づいた医療が行えるようになった.
ただ,未解決の問題もある.発達段階にある小児での全身麻酔の安全性に関する議論は,私たち麻酔科医に,乳幼児の麻酔の安全のためには常に新たな研究結果に耳を傾け,新たな概念を受け入れる準備が必要であることを示している.
将来を持った子どもたちの医療には大きな価値がある.生まれたばかりの新生児,自分では言葉で表現できない子どもたち,そして臨床で私たちが出会うすべての子どもたちに,麻酔を安全に行うことは大きな満足につながる.本書がその満足の一端につながることを願っている.
Buffalo, NY Jerrold Lerman
Quincy, MA Charles J. Cote
Blaine, WA David J. Steward
小児麻酔マニュアルの初版が,David J. Stewardによりトロント小児病院麻酔科マニュアルとして出版されてから40年になる.以来7回の改訂が重ねられ,今では世界の小児麻酔臨床の標準とされている.第5版からJerrold Lermanが主著者となりCharles J. Coteが執筆者に加わったが,初版から第7版まで一貫してDavid Stewardが参画し,筆者宮坂勝之も翻訳・解説を担ってきた.
小児麻酔は,麻酔科学の歴史の中では主導的な役割を果たし進歩してきたが,いまだに臨床行為のすべての拠り所を,出版された論文やRCTに求めることはできない.特に臨床的な方法に関わる研究は,多国間の多施設共同研究であっても,医療制度や文化,社会の相違が数の中に埋没され,実際臨床に適合しない場合も多い.確かな考え方と実績を持った臨床経験の積み重ねの共有が重要な拠り所である.その点,本書の著者らは,初版以来お互いに時期を重ねて,多様性な社会の中で,患者中心の医療を掲げるトロント小児病院麻酔科で勤務し,それ以後も異なった文化や医療制度の中で「患者の安全最優先,麻酔の基本に忠実,医療資源の適正利用」の考えを共有して臨床に従事し,累積の経験年数は100年を超える.教科書ではない身軽さを最大限に生かし,理論だけに傾くことのない実際的な情報の提供とともに,小児麻酔のあるべき姿を発信する姿勢を貫いてきている.
これまでは日本語翻訳版として,山下正夫 先生と共同の作業であった.その間に,出版業界をとりまく社会的な情勢の影響を受け,原著書も翻訳版の出版社も変遷を繰り返してきた.特にこの10年は,北米と日本とで,用いられる薬剤や医療機材がほぼ北米製であることは同じものの,使い方は日本特有の診療報酬制度や麻酔事故への行政や国民の反応などを反映して異なり,その結果,臨床形態での乖離が特に大きくなった.そこで,改訂7版の日本語化を契機に筆者も著者の一員として参画し,「日本版 小児麻酔マニュアル」として,より日本の臨床に焦点をあてた編集とした.明らかに日本ではまれな病態の記述,使えない薬剤や方法を割愛した.また従来の訳注や巻末資料の多くは本文中に取り込んだ.その結果,背景の理解を助ける説明が増え,ページ数も増えることになったが,机上参照と同時に携行も可能とする従来の伝統を保つことができた.
日本版とする際の最大の課題は,4人の著者が共有する共通の譲れない価値観からみた,日本特有の医療の資源利用や麻酔の安全に対する医療者の感覚への対応であった.多様な考え方の存在を認める一方,上記した共通の価値観に基づき,現在の日本の一般的な麻酔科臨床に必ずしも合致しない考えや,今後普及してほしい注射時の疼痛緩和薬や服薬補助ゼリーの使用など,著者が実際に日本で行っている方法を記載することで実効性を示した.
パルスオキシメータを筆頭に,モニター機器も麻酔機材も進歩し,麻酔は相当に安全になった.しかし,小児麻酔では,麻酔導入覚醒の不安定時に,生体モニター機器に頼れない事情に変わりはない.むしろ,電子麻酔記録の普及で,自動収集されたバイタルサインをリアルタイムで確認する習慣が損なわれてきている成人麻酔研修者の増加で,小児麻酔で特に重要な五感を研ぎ澄ます基本が忘れられていることは安全面で後退である.加えて,手術室の外では依然として「片手間の鎮静・鎮痛による検査処置」が続いている.原発事故で安全神話の崩壊を目の当たりにした日本であるからこそ,二重,三重と安全機構が充実するほどに,基本的な注意が疎かになることへの警鐘を世界に鳴らしたい.
片耳胸壁聴診器の使用,経口挿管を経ての経鼻気管挿管,抜管直後からのカプノメータ使用,筋弛緩モニターを用いた経済的な筋弛緩薬と拮抗薬の使用など,安全や国民医療費に配慮した薬剤や機器の使用などから,そうした著者の思いが感じられるだろう.AIが組み込まれた自動操縦の欠陥を,五感による人的判断で修正できなかったことが,2019年初頭の最新鋭の航空機(B-737 MAX)連続墜落の要因だとされている.技術的な進歩にだけ目を奪われず,小児麻酔で重視されてきた,基本に忠実な患者安全を軸とした考え方が根付いてほしいとの思いを本書に込めたつもりである.
本書利用者が医学生や研修医,麻酔科医だけでなく,小児科医,産科医,周麻酔期看護師などにまで及んでいることを考えて章立てした.また,2015年から小児麻酔認定医制度がスタートしたが,日本の小児麻酔症例は分散され小児医療専門施設に集約されていないため,成人の麻酔の傍らで小児症例も扱うという麻酔科医の比率は高い.加えて,日本では麻酔科医の活動が手術室内のみにとどまるという際だった特徴もあり,本来麻酔科医が受け持つべき手術室外の鎮静下処置・検査や無痛分娩などの情報は限られている.幸い周麻酔期看護師の導入もあり,麻酔科医がこの領域に関わる気運は高まっている.本書では,そうした領域の医療を受け持とうと考えている方々の参考になる内容を含めることも目指した.目まぐるしい進化の渦中にあるだけに,しっかり基本を見失わない糧としてほしい.
最後に,日本版化に際しては,いずれも本シリーズに慣れ親しんだ麻酔科医であり,小児麻酔全般・筋弛緩薬,歯科麻酔・気道確保,産科麻酔・無痛分娩のそれぞれの領域の第一人者でもある鈴木康之,田村高子(国立成育医療研究センター),朝比奈輝哉(順天堂大学),田中 基(名古屋市立大学)の諸先生方に,実際的な助言をいただけたことに心より感謝したい.また,本書が時期を失せず出版できたのは,南山堂編集部の大城梨絵子 氏の校正作業に加え,英語原著の旧版からの改訂事項,薬用量の変更を含め,膨大な確認作業でご協力いただいたからであることを申し添えたい.
2019年(令和元年)5月1日
聖路加国際大学 名誉教授
宮坂勝之
第7版の序(含 日本版発刊にあたっての追記)
これまでの第6版と同じく,第7版も簡潔ながら包括的な小児麻酔の小型本の形式を踏襲した.この最新版からSpringerグループの書籍になったことはとても喜ばしい.当初から,この本はポケット版あるいは机上でいつでも参照できる参考書を目指してきたが,本版からは,よりポケットサイズの参考書として電子版*も出版することになった.(*日本版の電子版はありません)
この版からの特色は,日本版が出版されることである.これまでの日本語版で,訳注あるいは解説として日本と北米の臨床の違いを説明してきた部分を本文中に取り入れ,日本で使われない薬剤,日本ではみられない疾患類は割愛した.代わりに日本の小児麻酔特有の事項に関しての記載が加えられたが,患者安全と資源の適正利用に関する価値観に変わりはない.日本版の編集責任を,これまでの6版すべての日本語翻訳を行い,日本の小児麻酔事情をよく知った宮坂教授に委ねることに,第7版の共著者一同は同意している.日本の小児麻酔の患者に役立つ情報が伝わりやすくなることは喜ばしい.
このマニュアルでは,小児麻酔を施行する際の重要な考慮点,管理上の要点,そして実際の麻酔の流れを記載した.また各Chapterには参考文献を示し,学生,研修医にとっては,最新の小児麻酔を学ぶ手近な参考書となるように考慮してある.
第7版の3人の著者は,あらゆる領域,あらゆるタイプの小児麻酔を経験しており,合わせると一世紀を超える経験を有する.加えて近年の小児麻酔は,手術室の外の,さまざまな医学的な問題を持った患児の診断や処置,小外科手術,そして病院内全体の疼痛管理にも関わってきている.
本書作成でも,私たちはさまざまな臨床の問題に対し,文献的な根拠とわれわれ自身の経験を重ね合わせて最適な戦略を提示した.書かれた内容は,議論の余地が残されている幾多の領域に関しても,3人の著者が合議で方向付けをした.その際,自分たちの手ではこれが最適であるという考えに基づいたやり方を示した.しかし,実際の臨床では,おかれた診療環境で,さまざまに異なった考えや方法があることも承知しており,読者もそれを考慮して本マニュアルを使用してほしい.
本書の初版は,1979年(日本版としたのは2019年)であるが,この間に多くの変化があった.その変化には,小児外科の発展に伴う変化もあるが,麻酔科領域での新たな薬剤や技術の発展に伴う変化,そして小児麻酔管理の新たなあり方も関わってきている.そしてこれらの変化のほとんどが,小児麻酔領域の臨床研究の増加と同期して起きていることはありがたいことである.今では,多くの場合で科学的根拠に基づいた医療が行えるようになった.
ただ,未解決の問題もある.発達段階にある小児での全身麻酔の安全性に関する議論は,私たち麻酔科医に,乳幼児の麻酔の安全のためには常に新たな研究結果に耳を傾け,新たな概念を受け入れる準備が必要であることを示している.
将来を持った子どもたちの医療には大きな価値がある.生まれたばかりの新生児,自分では言葉で表現できない子どもたち,そして臨床で私たちが出会うすべての子どもたちに,麻酔を安全に行うことは大きな満足につながる.本書がその満足の一端につながることを願っている.
Buffalo, NY Jerrold Lerman
Quincy, MA Charles J. Cote
Blaine, WA David J. Steward
目次
略語一覧
本書を利用するにあたって
Prologue 小児麻酔の心構え
Chapter 1 小児麻酔の基礎
1.麻酔が心理面,情緒面へ与える影響
2.手術に向けての患児の心の準備
3.術後管理
Chapter 2 小児麻酔に関連した解剖学,生理学
1.小児新生児医療での年齢区分など
2.中枢神経系
3.頭蓋と頭蓋内圧
4.脳血流と脳室内出血
5.脳脊髄液と水頭症
6.眼
7.呼吸器系
8.心血管系
9.代謝:水分電解質バランス
10.体液の構成と調節
11.体温保持の生理学
Chapter 3 小児麻酔の薬理学
1.投与経路
2.投与された薬剤の分布
3.薬物代謝と除去
4.麻酔で使われる薬剤
Chapter 4 小児麻酔での技術と手技
1.手術に向けてのルーチン準備
2.気道の管理
3.その他の管理
4.外来麻酔,手術(日帰り手術)の麻酔
Chapter 5 区域麻酔法
1.局所麻酔薬
2.疼痛管理で用いる区域麻酔法
3.乳児,小児での区域麻酔手技のアウトライン
Chapter 6 麻酔管理に影響する医学的状況
1.上気道感染症
2.喘 息
3.囊胞性線維症
4.ラテックスアレルギー
5.ダウン症候群
6.肥満児
7.悪性高熱症
8.筋ジストロフィー
9.ミトコンドリア筋症
10.脳性麻痺(痙攣を伴う・伴わない)
11.非定型的血漿コリンエステラーゼ
12.血液疾患
13.糖尿病
14.悪性疾患(がん)
15.移植を受けた患児
Chapter 7 術後管理と疼痛管理
1.術後回復室(PACU)
2.疼痛管理
3.手術後の痛み
Chapter 8 脳外科および侵襲的神経放射線検査時の麻酔
1.基本事項
2.麻酔管理
3.輸液と頭蓋内圧調節
4.水頭症
5.頭蓋骨癒合症
6.脊髄形成異常症:脊髄髄膜瘤(二分脊椎),脳瘤(脳ヘルニア)
7.アーノルド・キアリ奇形
8.脳腫瘍と血管性病変
9.頭蓋咽頭腫
10.Galen静脈瘤
11.皮質脳波検査,てんかんの手術
12.脊髄腫瘍と脊髄係留
13.痙性に対する選択的脊髄神経後根切断術
14.小児侵襲的神経放射線治療の麻酔
Chapter 9 眼科手術の麻酔
1.基本事項
2.斜視手術
3.眼球内手術,緑内障および腫瘍の麻酔下診察,検査
4.鼻涙管のブジー:霰粒腫切除
5.穿孔性眼外傷
6.未熟児網膜症に対するレーザー治療
7.放射線療法の麻酔
8.視覚誘発電位,網膜電図検査法の麻酔
Chapter 10 耳鼻咽喉科手術の麻酔
1.基本事項
2.後鼻孔閉鎖
3.鼻咽頭腫瘍
4.鼻の手術
5.機能的内視鏡下副鼻腔手術(FESS)
6.扁桃およびアデノイド摘出術(T&A)
7.耳の手術
8.内視鏡検査
9.気道感染症
10.声門下狭窄
Chapter 11 歯科の麻酔
1.基本事項
2.全身麻酔管理
3.深い鎮静下での管理
4.先天性心疾患症例
Chapter 12 形成外科手術の麻酔
1.基本事項
2.口唇裂・口蓋裂
3.下顎骨折
4.熱傷後の再建手術
5.広範頭蓋顔面再建手術
6.頸部腫瘤――囊胞性ヒグローマと頸部奇形腫
7.EXIT手術─―ex utero intrapartum treatment
Chapter 13 一般および胸・腹部手術の麻酔
1.基本事項
2.乳児,小児に対する低侵襲/内視鏡下手術
3.新生児期に手術を必要とする先天性奇形症例
4.その他の広範な胸・腹部病変と手術
5.一般に行われる小手術
Chapter 14 心臓外科手術および循環器内科領域の麻酔
1.先天性心疾患の小児
2.麻酔管理上の基本事項
3.麻酔管理
4.心臓手術後管理の原則
5.各種心臓手術の麻酔
6.開心術の麻酔各論
7.心臓移植
8.心肺移植,肺移植
9.循環器内科処置
10.電気生理学的検査
11.カルディオバージョン(Cardioversion)
12.心臓MRI時の麻酔
13.先天性心疾患症例での非心臓手術の麻酔
Chapter 15 整形外科手術
1.基本事項
2.種々の整形外科手術と麻酔上の注意点
3.四肢骨折
4.後側弯症
Chapter 16 泌尿器科検査および手術の麻酔
1.基本事項
2.腎機能が正常な小児
3.腎機能低下または腎不全の小児
4.腎移植
Chapter 17 外傷,火傷,熱傷患児の管理
1.広範外傷
2.軽度外傷
Chapter 18 手術室を離れての麻酔
1.手術室を離れての麻酔
2.手術室を離れての麻酔(遠隔麻酔)実施上の決まり
3.検査などの麻酔
4.放射線治療
5.侵襲的小児科的検査・治療(腫瘍科)
6.日本の小児の鎮静下検査処置と小児麻酔科医
Appendix A 特殊疾患・症候群の麻酔
Appendix B 心肺蘇生法,心肺停止防止(分娩時の新生児蘇生を含む)
1.呼吸停止の判断
2.心停止の予防
3.心肺蘇生法(小児)
4.二次救命処置
5.薬物治療
6.自動体外式除細動器(automated external defibrillator;AED)
7.新生児蘇生
Appendix C 麻酔関連薬剤通常使用量
1.術 前
2.術 中
3.術 後
4.乳児,小児の血管作動薬静脈内持続投与(希釈の仕方)
5.出血を減少させる薬物
Appendix D 気管切開,CTT,RSI,経鼻挿管/産科麻酔,無痛分娩,胎児麻酔
1.気管切開と麻酔
2.産科麻酔,無痛分娩,胎児麻酔
Appendix E 小児麻酔での筋弛緩薬と神経筋機能(筋弛緩)モニターの使い方
1.基本事項
2.実際の応用にあたって
日本語索引
外国語索引
本書を利用するにあたって
Prologue 小児麻酔の心構え
Chapter 1 小児麻酔の基礎
1.麻酔が心理面,情緒面へ与える影響
2.手術に向けての患児の心の準備
3.術後管理
Chapter 2 小児麻酔に関連した解剖学,生理学
1.小児新生児医療での年齢区分など
2.中枢神経系
3.頭蓋と頭蓋内圧
4.脳血流と脳室内出血
5.脳脊髄液と水頭症
6.眼
7.呼吸器系
8.心血管系
9.代謝:水分電解質バランス
10.体液の構成と調節
11.体温保持の生理学
Chapter 3 小児麻酔の薬理学
1.投与経路
2.投与された薬剤の分布
3.薬物代謝と除去
4.麻酔で使われる薬剤
Chapter 4 小児麻酔での技術と手技
1.手術に向けてのルーチン準備
2.気道の管理
3.その他の管理
4.外来麻酔,手術(日帰り手術)の麻酔
Chapter 5 区域麻酔法
1.局所麻酔薬
2.疼痛管理で用いる区域麻酔法
3.乳児,小児での区域麻酔手技のアウトライン
Chapter 6 麻酔管理に影響する医学的状況
1.上気道感染症
2.喘 息
3.囊胞性線維症
4.ラテックスアレルギー
5.ダウン症候群
6.肥満児
7.悪性高熱症
8.筋ジストロフィー
9.ミトコンドリア筋症
10.脳性麻痺(痙攣を伴う・伴わない)
11.非定型的血漿コリンエステラーゼ
12.血液疾患
13.糖尿病
14.悪性疾患(がん)
15.移植を受けた患児
Chapter 7 術後管理と疼痛管理
1.術後回復室(PACU)
2.疼痛管理
3.手術後の痛み
Chapter 8 脳外科および侵襲的神経放射線検査時の麻酔
1.基本事項
2.麻酔管理
3.輸液と頭蓋内圧調節
4.水頭症
5.頭蓋骨癒合症
6.脊髄形成異常症:脊髄髄膜瘤(二分脊椎),脳瘤(脳ヘルニア)
7.アーノルド・キアリ奇形
8.脳腫瘍と血管性病変
9.頭蓋咽頭腫
10.Galen静脈瘤
11.皮質脳波検査,てんかんの手術
12.脊髄腫瘍と脊髄係留
13.痙性に対する選択的脊髄神経後根切断術
14.小児侵襲的神経放射線治療の麻酔
Chapter 9 眼科手術の麻酔
1.基本事項
2.斜視手術
3.眼球内手術,緑内障および腫瘍の麻酔下診察,検査
4.鼻涙管のブジー:霰粒腫切除
5.穿孔性眼外傷
6.未熟児網膜症に対するレーザー治療
7.放射線療法の麻酔
8.視覚誘発電位,網膜電図検査法の麻酔
Chapter 10 耳鼻咽喉科手術の麻酔
1.基本事項
2.後鼻孔閉鎖
3.鼻咽頭腫瘍
4.鼻の手術
5.機能的内視鏡下副鼻腔手術(FESS)
6.扁桃およびアデノイド摘出術(T&A)
7.耳の手術
8.内視鏡検査
9.気道感染症
10.声門下狭窄
Chapter 11 歯科の麻酔
1.基本事項
2.全身麻酔管理
3.深い鎮静下での管理
4.先天性心疾患症例
Chapter 12 形成外科手術の麻酔
1.基本事項
2.口唇裂・口蓋裂
3.下顎骨折
4.熱傷後の再建手術
5.広範頭蓋顔面再建手術
6.頸部腫瘤――囊胞性ヒグローマと頸部奇形腫
7.EXIT手術─―ex utero intrapartum treatment
Chapter 13 一般および胸・腹部手術の麻酔
1.基本事項
2.乳児,小児に対する低侵襲/内視鏡下手術
3.新生児期に手術を必要とする先天性奇形症例
4.その他の広範な胸・腹部病変と手術
5.一般に行われる小手術
Chapter 14 心臓外科手術および循環器内科領域の麻酔
1.先天性心疾患の小児
2.麻酔管理上の基本事項
3.麻酔管理
4.心臓手術後管理の原則
5.各種心臓手術の麻酔
6.開心術の麻酔各論
7.心臓移植
8.心肺移植,肺移植
9.循環器内科処置
10.電気生理学的検査
11.カルディオバージョン(Cardioversion)
12.心臓MRI時の麻酔
13.先天性心疾患症例での非心臓手術の麻酔
Chapter 15 整形外科手術
1.基本事項
2.種々の整形外科手術と麻酔上の注意点
3.四肢骨折
4.後側弯症
Chapter 16 泌尿器科検査および手術の麻酔
1.基本事項
2.腎機能が正常な小児
3.腎機能低下または腎不全の小児
4.腎移植
Chapter 17 外傷,火傷,熱傷患児の管理
1.広範外傷
2.軽度外傷
Chapter 18 手術室を離れての麻酔
1.手術室を離れての麻酔
2.手術室を離れての麻酔(遠隔麻酔)実施上の決まり
3.検査などの麻酔
4.放射線治療
5.侵襲的小児科的検査・治療(腫瘍科)
6.日本の小児の鎮静下検査処置と小児麻酔科医
Appendix A 特殊疾患・症候群の麻酔
Appendix B 心肺蘇生法,心肺停止防止(分娩時の新生児蘇生を含む)
1.呼吸停止の判断
2.心停止の予防
3.心肺蘇生法(小児)
4.二次救命処置
5.薬物治療
6.自動体外式除細動器(automated external defibrillator;AED)
7.新生児蘇生
Appendix C 麻酔関連薬剤通常使用量
1.術 前
2.術 中
3.術 後
4.乳児,小児の血管作動薬静脈内持続投与(希釈の仕方)
5.出血を減少させる薬物
Appendix D 気管切開,CTT,RSI,経鼻挿管/産科麻酔,無痛分娩,胎児麻酔
1.気管切開と麻酔
2.産科麻酔,無痛分娩,胎児麻酔
Appendix E 小児麻酔での筋弛緩薬と神経筋機能(筋弛緩)モニターの使い方
1.基本事項
2.実際の応用にあたって
日本語索引
外国語索引