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カテゴリー: 耳鼻咽喉科学

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頭頸部外科診療に役立つ

頭頸部管腔構造の理解

1版

上尾中央総合病院頭頸部外科 顧問/
元埼玉県立がんセンター頭頸部外科 診療科長 西嶌 渡 著

定価

14,300(本体 13,000円 +税10%)


  • B5判  314頁
  • 2024年8月 発行
  • ISBN 978-4-525-37061-9

頭頸部管腔構造の理解が疾患の治療戦略につながる

本書は筆者の45年にわたる頭頸部腫瘍を中心とした頭頸部疾患の治療経験をもとに,頭頸部にある各臓器・組織の解剖学的知識・知見を集積.その経験で培った臨床的概念・外科的治療の中で気づいた解剖学的解釈を散りばめた珠玉の一冊.これらにより頭頸部領域の診療のための深度高い理解が可能となる.

  • 序文
  • 目次
序文
頭頸部領域の病態を理解するためには,従来の解剖学的な領域の定義に束縛されずに,全体を管腔構造として捉えることが重要である.その背景は,成書に述べられ広く認められている現行の頭頸部の解剖学的領域の定義を根拠に,頭頸部癌の病態生理を追求しても探求すればするほど,超えられない壁にぶつかってしまうことを筆者は経験し続けたからである.
たとえば嚥下機能にしても,口腔期➡咽頭期➡食道期のステージに分けて解釈される場合が多いが,各ステージの移行を解剖学的そして生理学的に詳細に追求すると,嚥下機能の概略は理解できたとしても,その細目を病態生理学的になだらかな整合性を持って追跡できず,生理学的な連続性が見出せないのである.
定義が確立されているため臨床現場では疑問を持たずに,口腔,喉頭,上咽頭,中咽頭,下咽頭の各領域について言及される場合が多いが,この領域区分が本当に解剖学的原点に基づいてなされているものであるのか? これらの領域を独立した領域として解釈してよいのであろうか? という疑問点が病態を追求すればするほど湧き上がってくる.

領域の定義において,たとえば下咽頭と頸部食道との境界は,筋肉の走向を起点とし,輪状筋である下咽頭収縮筋と最外表に縦走筋を持つ食道筋とでは,筋肉の構成に大きな違いが存在し,両者間には明確に領域分けが存在している.しかしながら,これと同様な厳格な境界の定義が,はたして,上と中および中と下の咽頭の境界設定でなされているかというと,否としか答えようがない.設定されている中咽頭は,みえる部位を指標に人為的に都合に合わせて設定されており,中咽頭を構成している粘膜下の諸々の解剖学的構造体の機能を無視して行われているため地勢を無視した境界線なのである.
頭頸部領域は管腔構造であり,気道と食道の両系が共存して存在しているため,観血的加療では常に気道と嚥下の機能の確保を配慮しなければならない難しい領域といえる.術者の加療経験が反映される領域でもある.とりわけ安全な社会生活や生存のためには,嚥下機能が重要となる.それを重視しすぎると再発率の高い縮小した手術となる.また,それを度外視すると人為的に障害者をつくることにもなりかねない.両者間の線引きが非常に難しく,まさに経験を拠り所とせざるを得ないところであり,短期間に頭頸部外科専門医が育ちにくい背景ともいえる.いずれにせよ,先人の知識を踏み台にして,自分自身の一つひとつの経験を基に病態を追求し,治療方法を開拓していく強い心掛けが求められる.

癌治療においては,“一般的な概念”が広く認識され,多くの治療医が受け入れられる内容となっているが,実際の現場においては“個人の判断と利益に直結する癌治療”となり,多数の問題点が存在する.治療成績だけで加療を推し進められるものではない.患者の年齢,体力、職業,全身状態,経済力,家族構成などの個人的な背景に加えて,“病気に対する本人の思い込みや理解度”“担当する医師との相性”さらには“治療する側の医師の経験や受けた教育環境”などが相互に絡み合って,実際の治療方法が決められるのである.治療のエビデンスだけを“錦の御旗”に押し通せないのが癌治療であり,エビデンスはあくまでも判断のための参考である.
癌治療は実験ではない.机上の理論がいくら良い方法と判断されても,それを遂行する土俵が完璧でないと,強行すると必ずほころびは生じてくる.たとえば治療成績が良いからといって,喉頭癌患者や下咽頭癌患者の全例に喉頭の摘出をするなどはあり得ない.再発のリスクがあっても機能を優先する治療を選択せざるを得ないのである.人としての尊厳が重要であり,それを臨床現場において実践するのが癌治療であり,まさしく主治医と患者との相互の信頼関係の上に成り立っている.そして相互に信頼し合い,妥協点として治療方法が決定されるのである.
癌治療は蹉跌の繰り返しであるので,これらの癌治療から教えられた経験が,治療最前線に立たれる方,これから癌治療を志す方にも本書を通して何らかのヒントを与えてくれるのではないかと確信している.先人の知識を踏み台にして,自分自身で病気を追求し,治療方法を開拓していく心掛けが,癌治療に対する造詣を深め,癌治療をより身近なものとし,癌治療の成績の改善に寄与できると考える.

四十余年にわたる頭頸部癌治療の経験を基に本書をまとめた.一医師が癌治療の最前線において,どのような考えで頭頸部癌をみつめ,どのような判断基準で癌治療を取り扱ってきたのかをまとめたものである.臨床現場から生じる疑問点は読者にとって共感できるものが多く含まれていると思われる.なぜ筆者がそのような考えに行き着いたのかを,行間で垣間みていただければ,筆者にとって望外の喜びである.

2024年6月
上尾中央総合病院頭頸部外科顧問
元 埼玉県立がんセンター頭頸部外科診療科長
西嶌 渡
目次
第1章 管腔構造の概念 ─嚥下機能と管腔構造との関係
 1.嚥下機能との複雑な背景
 2.学会における嚥下機能の評価方法
 3.咽頭管腔構造における嚥下機能の評価
 4.嚥下機能を3期に分ける正当性
 5.上咽頭・中咽頭・下咽頭の境界
 6. 3種類の輪走筋である咽頭収縮筋の接合状態
 7.舌を可動部と舌根部とに分ける臨床的意義
 8.拡大咽頭腔の提唱
 9.学会における咽頭期の評価と筆者の考え方の相違点
 10.『喉頭ブランコ説』の提言
 11.嚥下機能からみた咽頭の管腔構造と喉頭との関係
 12.喉頭の挙上に関わる筋肉と神経の総括
 13.拡大咽頭腔の管腔構造の中心点は中咽頭である
 14.嚥下機能を理解するための筋肉の解剖
 15.咽頭神経叢の嚥下機能における役割
 16.頸神経叢の解剖
 17.深頸筋群の神経支配
 18.舌咽神経,迷走神経,舌下神経の嚥下における位置付け
 19.中咽頭収縮筋群の形態
 20.上・中・下の輪走筋と咽頭縫線との関係
 21.舌骨の上下に存在する喉頭運動に関わる筋肉のまとめ
 22.嚥下障害に対する治療
 23.総 括

第2章 管腔構造における上咽頭の考え方
 1.上咽頭の形態像
 2.上咽頭側面全体の管腔構造の模式図
 3.上咽頭の亜分類と口蓋腱膜
 4.上咽頭全体の内腔所見
 5.上咽頭側壁の微細構造
 6.管腔構造としての上咽頭の特徴(Waldeyer咽頭輪)
 7.咽頭頭底板と上咽頭癌との関係
 8.上咽頭癌の頭蓋内進展経路
 9.破裂孔の存在
 10.破裂孔と頸動脈管との位置関係
 11.頭蓋内における内頸動脈の走行
 12.海綿静脈洞
 13.上咽頭癌の臨床症状

第3章 管腔構造における頭蓋底の考え方
 1.脳実質を包んでいる構造体
 2.脳の発生
 3.理解しておくべき脳神経の知識
 4.三叉神経
 5.上行性伝導路(頭頸部以外を発信源とする)
 6.下行性伝導路(錐体路,錐体外路)
 7.頭部癌と関連する頭蓋底
 8.前頭蓋底と篩骨洞癌および上顎洞癌との関係
 9.中頭蓋底と上咽頭癌との関係
 10.中頭蓋底とトルコ鞍
 11.前床突起
 12.頭蓋底の裂隙
 13.聴器癌と頭蓋底
 14.頭蓋底の処理

第4章 管腔構造における中咽頭の考え方
 1.中咽頭機能の眼目
 2.中咽頭の解剖
 3.頸部からの中咽頭への観血的アプローチ
 4.茎状突起,翼突鈎に関与する筋肉と靱帯
 5.人為的に線引きされた中咽頭領域
 6.粘膜下の解剖学的構造を無視した現行の中咽頭領域
 7.中咽頭管腔構造の役割
 8.中咽頭の静的および動的状態の理解
 9.嚥下機能からみた中咽頭と喉頭との関係
 10.中咽頭の機能に関与する筋肉群
 11.軟口蓋の運動に関与する筋肉群
 12.嚥下時における喉頭挙上に関わる筋肉
 13.嚥下時に関わる神経支配
 14.頸部の脊髄神経
 15.頸神経叢と腕神経叢
 16.嚥下機能に関わる神経の損傷とその転帰

第5章 管腔構造における下咽頭の考え方
 1.ヒトと哺乳類の喉頭運動の違い
 2.喉頭と下咽頭の存在様式
 3.下咽頭癌における梨状陥凹原発癌と後輪状部原発癌の存在様式の違い
 4.下咽頭収縮筋の特徴
 5.咽頭筋の分類
 6.輪状咽頭筋の脆弱性
 7.下咽頭の3領域(梨状陥凹,後輪状部および後壁)の境界設定
 8.管腔構造からみた下咽頭・喉頭の特異性
【下咽頭癌の観血的治療の中心となる遊離空腸移植時の注意事項】
 1.遊離空腸再建時のひと工夫
 2.遊離空腸移植による頸部食道再建後のトラブル
 3.下咽頭癌に対する観血的加療の今後

第6章 管腔構造における口腔の考え方
 1.口唇の定義
 2.口腔領域の定義
 3.臼後三角と翼突下顎縫線
 4.口腔管腔構造の後方の密閉化
 5.口蓋咽頭筋
 6.口腔の観察~視診と触診の併用~
 7.口腔の粘膜
 8.翼突筋と三叉神経痛
 9.舌の作用
 10.頸動脈と嚥下に関わる神経群との位置関係

第7章 管腔構造における鼻・副鼻腔の考え方
 1.鼻腔の構造
 2.鼻腔の側壁
 3.鼻中隔を形成する軟骨と骨
 4.鼻腔底
 5.鼻腔の天蓋
 6.内視鏡下における鼻腔処理の外科的解剖指標
 7.副鼻腔の管腔構造の特徴
 8.手術操作に必要な副鼻腔の血管の走行
 9.手術操作に必要な副鼻腔の神経の走行
 10.上顎洞癌と篩骨洞癌の違い
 11.鼻腔・副鼻腔疾患と視力障害

第8章 管腔構造としての「間隙」
 1.間隙と窩の定義
 2.副咽頭間隙
 3.副咽頭間隙以外の間隙
 4.悪性度の高い間隙膿瘍
 5.頸椎前面の間隙
 6.頸部間隙と深頸筋膜との関係
 7.咽頭後リンパ中心(retropharyngeal lymph center)
 8.上縦隔と縦隔永久気管孔の造設

第9章 管腔構造としての「窩とトンネル」
 1.側頭窩
 2.側頭下窩
 3.翼口蓋窩
 4.ローゼンミュラー窩と副咽頭間隙の位置関係
 5.鎖骨上窩(大鎖骨上窩,小鎖骨上窩)
 6.鎖骨上窩の観血的加療
 7.茎突下顎トンネルとdumb-bell型腫瘍
 8.眼 窩
 9.咀嚼(開口・閉口)機能

第10章 頭頸部領域の自律神経支配
 1.自律神経系の特徴
 2.自律神経の存在部位
 3.自律神経の解剖
 4.副交感神経節からみた自律神経系の解剖

第11章 臨床症状と関連する皮膚と粘膜
 1.皮膚と粘膜の違
 2.粘膜上皮の形態
 3.口腔粘膜の特殊性
 4.表皮に存在する細胞
 5.表皮・真皮・皮下組織の特徴
 6.皮膚の知覚作用

第12章 粘膜と皮膚に関連する手術操作
【Ⅰ.粘膜を対象とする観血的処理】
 Ⅰ-1.粘膜の縫合
 Ⅰ-2.粘膜縫合の具体例
 Ⅰ-3.永久気管孔の作成
 Ⅰ-4.消化管の粘膜縫合の歴史
【Ⅱ.皮膚を対象とする観血的処理】
 Ⅱ-1.頸部皮膚の構造
 Ⅱ-2.皮膚切開術
 Ⅲ-3.皮膚縫合術
 Ⅱ-4.縫合材料である糸の選択

第13章 頭頸部癌の臨床における主な対処方法
【Ⅰ.頸部リンパ節生検】
 Ⅰ-1.診療報酬点数からみたリンパ節生検の位置づけ
 Ⅰ-2.理解しておくべき解剖学的知識
 Ⅰ-3.局所麻酔の方法
 Ⅰ-4.皮膚切開
 Ⅰ-5.皮膚切開後の処理
 Ⅰ-6.手術中のトラブル
 Ⅰ-7.扁平上皮癌と悪性リンパ腫のリンパ節生検の違い
 Ⅰ-8.術後の対応
【Ⅱ.瘻孔閉鎖術】
 Ⅱ-1.瘻孔発生の気配と初期対応
 Ⅱ-2.hinge flap
 Ⅱ-3.瘻孔処置の手順
 Ⅱ-4.瘻孔縫合部位の圧迫の是非
 Ⅱ-5.hinge flapを成功させるためには
 Ⅱ-6.組織の移植による瘻孔閉鎖
 Ⅱ-7.DP皮弁による瘻孔再建術の工夫
【Ⅲ.頸動脈損傷】
 Ⅲ-1.術前の準備
 Ⅲ-2.手術手順 1:剝離のための術野設定
 Ⅲ-3.手術手順 2:剝離のための(モスキート)鉗子の使い方
 Ⅲ-4.手術手順 3:破綻した動脈壁の修復方法
 Ⅲ-5.手術手順 4:縫合方法の選択
 Ⅲ-6.手術手順 5:縫合部位の補強
 Ⅲ-7.総頸動脈部分の摘出
【Ⅳ.気管切開術】
 Ⅳ-1.気管切開が行われる背景
 Ⅳ-2.局所麻酔下での気管切開の手術工程
 Ⅳ-3.気管切開術における安全性
 Ⅳ-4.局所麻酔下の気管切開術を安全に施行するための工夫
 Ⅳ-5.局所麻酔終了後の観血的気管切開術
 Ⅳ-6.気管切開術終了後の安全性
 Ⅳ-7.気管切開後に安全性が確保できない背景
 Ⅳ-8.気管切開予定患者の情報収集
 Ⅳ-9.気管切開時の気管軟骨切除部位
 Ⅳ-10.頸部の体型と気管切開口との関係
 Ⅳ-11.気管切開終了時に注意すべき点
 Ⅳ-12.カニューレ固定の意義

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